隔世遺伝
隔世遺伝(かくせいいでん)とは、個体の持つ遺伝形質が、その親の世代では発現しておらず、祖父母やそれ以上前の世代から世代を飛ばして遺伝しているように見える遺伝現象のこと。間歇遺伝(かんけついでん)や先祖がえり(せんぞがえり)の一部も、この隔世遺伝によるものである。
隔世遺伝の仕組み[編集]
最も簡単な例として、メンデルの法則が成り立つような遺伝形質、すなわち一対の対立遺伝子のみがかかわる形質で、優性・劣性の別がはっきりしている場合を考える。このようなケースで、隔世遺伝が現れるのは、劣性遺伝子による形質についてである。
両親が、ともに劣性遺伝子を一つしか持っていない場合、両親には優性の遺伝形質が発現しており、劣性の遺伝形質は現れない。しかし、その子は1/4の確率で劣性遺伝子を二つ持つこととなり、その場合劣性の遺伝形質が発現することとなる。このとき、もし祖父母の世代に劣性遺伝子を二つもつものが居たならば、表面上は祖父母の世代の形質が父母の世代を飛び越して遺伝してきたように見えることになる。これが、隔世遺伝の最も簡単な場合のメカニズムである。
実際には、上記のように遺伝形質の発現が一組の対立遺伝子のみで決定される場合ばかりではなく、むしろ複数の遺伝子がかかわる遺伝が多いため、隔世遺伝のすべてをこのような簡単な仕組みで理解できるわけではない。ただし、親の世代でその形質が失われたように見えても、子供の世代でその形質が発現するからには、何らかの形で親の世代の染色体の中に遺伝子が保存されていたといえるのは、すべての隔世遺伝において共通する事実である。
また特別な遺伝のように見えるがその親の世代での遺伝と同様に知的障害等の障害が遺伝することもある。
隔世遺伝の例[編集]
- 初版から引き継いだ記述で、確かめたわけではない。
- 男性型脱毛症:母方の祖父からの遺伝であり祖父が脱毛症の場合は自分も男性型脱毛症の疑いがある。
- ABO式血液型:両親、あるいは祖父母などにO型がいなくても、両親がO型の劣性遺伝子を持っていれば(すなわち両親がAO型あるいはBO型であれば)、1/4の確率で子にO型が発現する。
通字[編集]
厳密には隔世遺伝[1]ではないが、通字という現象も存在する。 日本では、「ある人物の諱に用いられているものと同一の漢字を用いることそのものがその人物の霊的人格に対する侵害だ」とする観念が、中国や朝鮮ほど激しくはなかった。
そのため、平安時代中期、漢字二字からなる名が一般的になってから後の日本では、「通字(とおりじ)」、あるいは「系字(けいじ)」といい家に代々継承され、先祖代々、特定の文字を諱に入れる習慣があった。平安後期以降の皇室において、歴代天皇の大半が諱に「仁」の文字を入れたのはその典型である。
その他代表的な例(※特に武家)として、
- 伊勢平氏-「盛」
- 房総平氏(上総氏・千葉氏・相馬氏)-「常」、「胤」
- 秩父平氏(畠山氏・河越氏・江戸氏)-「重」
- 三浦氏・和田氏-「義」
- 鎌倉氏(大庭氏・梶原氏・長尾氏)-「景」
- 鎌倉北条氏-「時」
- 伊勢氏- [貞」
- 河内源氏-「義」、「頼」
- 足利氏(吉良氏・斯波氏)-「義」、「氏」
- 畠山氏 (源姓)-「政」、「国」
- 庶流の能登畠山氏は「義」を使用した。
- 細川氏-「元」、「之」、「護」
- 宗家である京兆家が「元」、「之」を使用した。「護」は幕末期以降の肥後細川家が使用している。
- 一色氏-「範」、「義」
- 今川氏-「範」、「氏」
- 山名氏-「豊」
- 新田氏-「義」、「氏」
- 佐竹氏-「義」
- 武田氏-「信」
- 小笠原氏・三好氏-「長」
- 小笠原氏でも小倉藩主家は「忠」を使用した。
- 仁科氏-「盛」
- 摂津源氏(多田氏・土岐氏・明智氏)-「頼」、「光」、「綱」
- 浅野氏-「長」
- 佐々木氏(六角氏・京極氏・尼子氏・朽木氏)-「綱」、「高」、「頼」、「久」
- 黒田氏-「長」
- 榊原氏-「政」
- 大江氏(越後北条氏・毛利氏)-「広」、「元」
- 小田原北条氏-「氏」
- 安東氏(秋田氏・下国氏)-「季」
- 藤姓足利氏・佐野氏-「綱」
- 小山氏-「政」
- 結城氏-「朝」
- 奥州藤原氏-「衡」
- 上杉氏-「憲」
- 織田氏(津田氏)-「広」、「定」、「信」、「長」
- 伊達氏-「宗」、「村」
- 井伊氏-「直」
- 徳川氏(松平氏)-「忠」、「康」、「家」
- 石川氏-「総」
- 酒井氏-「忠」
- 本多氏-「忠」、「正」、「重」、「康」
- 河野氏-「通」
- 大内氏-「弘」
- 少弐氏-「頼」、「資」
- 鍋島氏-「直」、「茂」
- 菊池氏-「武」
- 大友氏-「親」
- 島津氏-「久」、「忠」
- 赤松氏-「則」
- 楠木氏-「正」
- 朝倉氏-「景」
- 豊臣氏-「秀」
- 浅井氏-「政」
など、類例は枚挙にいとまがないほどである。このような「通字」・「系字」の文化は、先祖の名を避ける中国の避諱とは全く対照的な、日本独特の風習である。
ちなみに、日本では活躍した祖先の事績にあやかり、通字を用いるだけではなく祖先とまったく同じ諱を称する場合もあり、これを先祖返りといった。例として、朝倉孝景、伊達政宗、毛利元春などが挙げられる。
なお、現代の北朝鮮の国家指導者の名においては、金日成、金正日、金正恩と、通字の使用が見られる。この朝鮮の伝統に反する命名についての理由は、識者から種々の憶測はなされているが、明らかではない。
脚注[編集]
- ↑ 親と同一の漢字を使用する例もある