猫ひっかき病
テンプレート:medical 猫ひっかき病(ねこひっかきびょう)は、リケッチアの一種Bartonella henselaeによって引き起こされる、リンパ節炎を主体とした感染症。人獣共通感染症の一つである。
原因[編集]
原因菌は、リケッチアに属するBartonella henselaeである。猫に対しては全く病原性はないが、長い間、保菌状態になっており、18ヶ月以上も感染が続くこともある。猫から猫への菌の伝搬にはネコノミが関与している。猫の血を吸って感染したネコノミは、体内で菌を増殖させ糞便として排泄するが、それが猫の歯あるいは爪に付着する。そしてその猫に咬まれたり引っかかれたりすることによって人間の傷に感染すると考えられる。日本では猫の9~15%が菌を保有している。喧嘩したり他の猫と接触の多い雄や野良猫に多い傾向がある。また、1~3歳の若い猫の保菌率が高いという報告もある。犬からも抗体が検出され、犬からの感染報告がある。
その他、頻度は少ないが、感染猫の血液を吸ったネコノミが人間を刺して感染するという場合もある。
症状[編集]
猫にひっかかれた傷が10日後に赤く腫れる。典型的には、手の傷であれば腋窩リンパ節が、足の傷なら鼠径リンパ節が腫脹する。しかしながら、顔に傷がなくとも、頚部リンパ節の腫脹がみられることも稀ではない。
腫脹したリンパ節は多くの場合痛みを伴い、体表に近いリンパ節腫張では皮膚の発赤や熱感を伴うこともある。ほとんどの人で発熱が長く続き、全身倦怠、関節痛、嘔気等も出現する。特に治療を行わなくても、自然に治癒することも多い。しかし治癒するまでに数週間、場合によっては数ヶ月もかかることがある。
肝膿瘍を合併することがあり、免疫不全の人や、免疫能力の落ちた高齢者では、重症化して麻痺や脊髄障害に至るものもある。
疫学[編集]
子供に多い。また、初夏から秋にかけての夏季が多い。
診断のための検査[編集]
猫をはじめとした動物との接触歴のある患者で、リンパ節の腫脹に圧痛や熱感を伴う場合には、本症を疑う。ただし、動物の飼育歴が明らかでない患者も少なからずいるため、βラクタム系抗菌薬が無効であるリンパ節炎では、本症も視野に入れて検査・治療を進める必要がある。
- 血液検査
- 白血球増加、CRP上昇などの炎症反応がみられることがあるが、必須ではない。AST、ALT、LDHなどの肝逸脱酵素の上昇がみられることもある。
- 画像検査
- 超音波検査、CT、MRIなどの画像検査で、腫脹しているのがリンパ節であることを確認できる。また、リンパ節膿瘍の形成も画像検査により検出できる。
- 血清診断
- 抗B.henselae IgGおよびIgM抗体価を測定する。IgM抗体陽性、またはペア血清(原則としては2週間隔で、2回血清を採取して抗体価を測定する)でIgGの4倍以上の上昇、あるいはIgGがワンポイントで256倍または512倍以上のときに、本症と診断できる。ただし、抗B.henselae抗体価の測定は国内では(商業ベースでは)行われていないため、結果が出るまでに2週間ほどかかる。
鑑別診断[編集]
特に小児において、発熱とリンパ節の腫脹・疼痛が見られる疾患を鑑別しなければならない。
- 化膿性リンパ節炎
- 一般細菌による感染症。起炎菌としては化膿レンサ球菌や黄色ブドウ球菌が多い。多くの場合、βラクタム系抗生物質が有効。
- 亜急性組織球性リンパ節炎
- 原因は不明。抗菌薬は有効ではない。猫ひっかき病と比べると一つ一つのリンパ節の腫れは小さく、腫れるリンパ節の数が多い傾向がある。また、白血球数は通常増加せず、むしろ減少することもある。自然軽快することが多いが、確定診断のためには生検が必要。
- 川崎病
- 年長児の川崎病は、発症当初は発熱と頚部リンパ節の腫脹のみであることがある。抗菌薬は有効ではなく、経過中に他の症状が出現して診断がつく。
- 伝染性単核球症
- ほとんどはEBウイルスの初感染による疾患。稀にサイトメガロウイルスやHIVによるものもある。抗菌薬は有効でないが、自然軽快することが多い。
- 悪性リンパ腫
- 悪性リンパ腫で腫脹したリンパ節の痛みを伴うものは極めて稀である。抗菌薬は有効でない。
治療[編集]
マクロライド系抗生物質が一般的に用いられる。テトラサイクリン系抗生剤であるミノサイクリンも有効であるが、永久歯が生えていない年齢の小児には慎重に用いなければならない(副作用として、歯牙の着色を来たす可能性がある)。
膿瘍を形成している場合には、膿瘍を穿刺または切開して排膿させる必要がある場合もある。また、血液検査などで診断が困難であった場合にも、膿瘍から採取された膿からB.henselaeが検出されて診断が確定することもある。
その他[編集]
- 1950年にフランスのデブレがこの疾患について初めて報告したが、具体的な原因菌は不明だった。1992年、エイズ患者の皮膚病変から Bartonella henselae を検出し、猫ひっかき病患者のリンパ節からも同じ菌が発見されたことにより原因菌が特定された。
- 猫から人にうつる感染症としては、その他にパスツレラ症、トキソプラズマ症などがある。
関連項目[編集]