アイスクリーム
アイスクリーム(ice cream)は、牛乳などを原料にして、冷やしながら空気を含むようにかき混ぜてクリーム状とし、これを凍らせた菓子である。
目次
アイスクリームの分類[編集]
日本[編集]
日本におけるアイスクリーム類は「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」によって分類されている。小売店に並ぶ氷菓はこの表記に従って記載されている。
アイスクリーム - 乳固形分15%以上(うち乳脂肪分8%以上)
- 名の通りクリームのみで作ると脂肪分が半分近くを占めるので、ホームメイドでは、牛乳に、生クリームを混合させる形が取られる。メーカーは、濃縮乳を使用したり、生乳をベースに生クリームを混合させたり、さまざまな工夫で「アイスクリーム」を冠するべくして乳脂肪を調節する場合もある。
アイスミルク - 乳固形分10%以上(うち乳脂肪分3%以上)
- 名の通り、ミルク(生乳)のみで本来の方法でアイスをつくると、牛乳の成分にもよるが、乳脂肪3~4%になる。
ラクトアイス - 乳固形分3%以上
※ここまでが乳製品の一種とされている。
氷菓 - 上記の分類に含まれない冷凍菓子。かき氷。シャーベットなど。
アメリカ[編集]
アメリカのFDAによる規則ではアイスクリームは乳固形分20%以上、乳脂肪分10%以上を含むものとされている。乳脂肪6%以上、タンパク質2.7%以上のものはメロリン(Mellorine)と称される。以前はアイスクリームよりも乳固形分、乳脂肪分が少ない分類としてアイスミルクがあったが、現在は廃止されている。
原材料[編集]
アイスクリームの原材料としては、乳製品、糖分、油脂、乳化安定剤、乳化剤、香料が使用される。
乳製品[編集]
乳製品は大きく分けて、乳脂肪源となるもの、脂肪以外の乳固形分源となるもの、両方を含むものに分類される。乳脂肪源となるものとしては生クリームや無塩バターがある。無塩バターの方が安価であるが、発酵臭が欠点となりうる。脂肪以外の乳固形分源となるものとしては脱脂粉乳や脱脂練乳がある。これらも特有の臭いが欠点となりうる。両方を含むものとしては乳や濃縮乳、全脂粉乳や全脂練乳がある。また、脂肪分操作のために脱脂粉乳を造る際に分離した乳脂肪を添加する場合もある。
通常は「乳」は牛乳を意味するが、まれにヤギは羊の乳のものもあるので、一概に牛乳と解釈するのは誤解といえる。
乳脂肪分と脂肪以外の乳固形分の量比はそれぞれ出来上がったアイスクリームの性質に大きな影響を及ぼす。乳脂肪分が多いと舌触りが滑らかになるが、多すぎると空気を含みにくくなるので硬くなる。脂肪以外の乳固形分は乳タンパク質や乳糖、ミネラルなどからなる。味にコクを与え、空気を含みやすくするが、多すぎると乳糖が結晶化してザラザラした食感になってしまう。
糖分[編集]
アイスクリームに甘味を与えるために糖分を添加する。アイスクリームは冷えた状態で味わうため甘味を感じにくくなる。そこでアイスクリームミックスに対してショ糖なら15%前後とかなりの高い割合で添加する。ショ糖以外にブドウ糖や異性化糖、水飴などが使用される。それぞれの甘味や物性によりアイスクリームの食感に影響する。例えばブドウ糖は清涼感をもたらす効果がある。水飴以外の糖は凝固点降下により、アイスクリームミックスを凍結しにくくする。これはミルクの味わいを強くする効果があるが、アイスクリームが融けやすくなるので加減が重要である。
油脂[編集]
アイスミルクやラクトアイスに脂肪分を補う目的で使用される。また動物性油脂よりも植物性油脂の方が健康に良いという観点からも使用される場合もある。乳脂肪分と同じように室温付近で固体となり、体温程度の温度では液体となる性質の油脂が使用される。また、油脂自身が特有の臭いを持っていないことが必要である。この条件に適うのはヤシ硬化油やパーム油、綿実油などである。風味の面だけではなく、コストパフォーマンスを第一に考えても、また同じ結果であるといえる。
安定剤[編集]
乳固形分の乳タンパク質には凍結時にアイスクリームをゲル化させ、空気を保持して氷の結晶を細かく保つ働きがある。しかし、乳固形分の少ないアイスミルクやラクトアイスではその働きが期待できない。また、アイスクリームの輸送や貯蔵などの途中で温度が変動すると一部の氷の結晶が融解して再凍結することで氷の結晶が成長していき硬い食感になってしまう(ヒートショック)。これを防ぐために安定剤が使用される。昔はデンプンやゼラチンが使用されていたが、現在はペクチン、アルギン酸ナトリウム、アラビアガムなども使用される。
乳化剤[編集]
乳固形分にはある程度乳化剤としての効果があるため、その量の多いアイスクリームでは特に乳化剤を添加しなくとも均一なアイスクリームを作ることができる。しかし、乳固形分の少ないアイスミルクやラクトアイスでは不十分なため乳化剤を添加する必要がある。
しかし、アイスクリームにも乳化剤を添加する場合がある。このアイスクリーム中の乳化剤の働きは通常期待される界面活性効果とは異なり、逆に凍結時に乳化を適度に破壊して乳脂肪の油滴を大きく成長させることにあるとされている。これによってアイスクリームの食感が水っぽくなくなる。グリセリン脂肪酸エステルやショ糖脂肪酸エステル、レシチンなどが使用される。
時代の風潮から、これらの添加物も食物由来である場合が多くなった。
フレーバー[編集]
アイスクリームには乳の味に合うフレーバー(香料)が付与される。バニラ、チョコレート、ストロベリーの3種のフレーバーが主であったが、現在ではそのほかの果実や、抹茶、コーヒーなどの嗜好飲料のフレーバーを添加したものも多くなっている。アイスミルクやラクトアイスでは乳の味を補うためにミルクフレーバーも用いられる。
フレーバーは、アルコールを精製したもので、非常に多くの臭い香りを表現でき、それらをかぎ分けるマイスターも存在する。フレーバーは「香り」を意味し、「香料」と表記される。類語の香辛料とは全く異なる。
コーン[編集]
食べられる円錐形の受け皿は、その名をコーン(cone)という。日本語ではカタカナ表記が同じなので勘違いされることが多いが、コーンという呼び名は形状から来ており、原料はトウモロコシ(コーン:corn)ではなく小麦粉である。現在では、形が円錐形でないものも含めて、小麦粉を焼いて作られた容器は、すべてコーンと呼ばれる。
コーンの発明者は不明である。これに関する最初の文献記述は、Mrs. A. B. Marshall's Cookery Book(1888年)である。Marshallはアイスクリーム製法にさまざまな工夫をした人物として知られ、彼女自身による発明の可能性もある。このカップは、1904年のセントルイス万国博覧会のアイスクリーム売りが使用し、一気に全世界に広まった。
製法[編集]
アイスクリームの製造は原料の混合、乳化、殺菌、冷却、エージング、凍結、硬化からなる。
- 原料の混合
- 原料を混合し完全に溶解しアイスクリームミックスとする。60℃前後に加温して行なわれる。
- 乳化
- アイスクリームミックス中の油滴を細かく粉砕して均一な状態にする。通常2回乳化は行なわれる。1回目の乳化は高圧で行ない、油滴の直径を2μm以下まで細かくする。この時点ではいくつかの油滴がくっつきあっている。2回目の乳化は低圧で行ない、この油滴をバラバラにして分散させる。
- 殺菌
- アイスクリームミックス中の菌を殺菌するほか、乳原料中に含まれる酵素を失活させる働きもある。酵素の活性が残存していると油脂が分解されて臭いが出てくるためである。工業的にはタンクで行なうバッチ式の殺菌では冷却に時間がかかり品質の劣化が起こりやすいため、連続流通式の高温瞬間殺菌法が使用されている。
- 冷却・エージング
- 殺菌後ただちにアイスクリームミックスは冷蔵され、そのまましばらく貯蔵される。貯蔵中に乳化剤が油滴の表面に充分に吸着したり、油滴中の脂肪が固化したりする。これは凍結時の空気の保持などに影響する。
- 凍結
- アイスクリームミックスと空気をフリーザーに導入し-2~-9℃程度の温度まで急速に冷却し凍結させる。激しく撹拌しながら急速に凍結することによって空気がアイスクリーム中に気泡として取り込まれたまま凍結し、アイスクリーム特有の食感が得られる。この取り込まれた空気の体積のアイスクリームミックスの体積に対する比率をオーバーランという。適当なオーバーランはアイスクリームミックスの組成により変わるが、低すぎると硬く冷たすぎる食感となり、多すぎるとパサパサした食感となる。凍結速度が速いほど、氷の結晶が細かくなり滑らかな食感のアイスクリームができる。この凍結でアイスクリーム中の水分の50~80%程度が凍結した状態になる。なお、ソフトクリームはこの時点でアイスクリームを取り出し盛り付けたものである。
- 硬化
- フリーザーから出てきたアイスクリームを容器に充填して、そのまま-20℃以下まで冷却して、残っている水分の大部分も凍結させる。これはフリーザーの凍結温度そのままでは氷の結晶の融解と成長によって徐々に氷の結晶が合体してザラザラした食感になったり、気泡が合体して不均一になったりしてしまうためである。
販売、消費形態[編集]
アイスクリームは様々な形で販売、消費される。
日本での販売[編集]
現代日本では、次のような販売形態が認められる。
- 個別にパッケージされての販売
- コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどでは、包装済みの一食分のアイスクリームが販売されている。これらは通常、紙製のカップに入っているか、木などの棒にアイスクリームがついたアイスキャンディーの形をとる。クッキーサンド系のアイスクリームは、袋入りのタイプもある。
- バルクによる販売
- スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどでは、紙製の大型パックに入ったアイスクリームが販売されている。代表的なブランドに、雪印、レディーボーデンなどがある。また、複数個入りのワンパックでも販売されている。これらは一食分の分量ではなく、家庭の冷凍庫に保存し、複数回に渡って食べることを前提とした販売形態になっている。これをファミリーパックという。
- 外食産業での販売
- 喫茶店、レストラン、ファースト・フード店などではデザートとしてアイスクリームを提供している場合も多い。喫茶店などではバニラアイスクリームだけを置いてある場合もあるが、レストランによってはアイスクリームの盛り合わせやフルーツなど他の食品との組み合わせからなるデザートも提供される。これらの飲食店では何らかの皿や器にアイスクリームを盛って提供する点が共通している。喫茶店のアイスクリームは、典型的には、銀色の専用の皿と、独特の形をした小ぶりのスプーン、ウエハースやチェリーなどと一緒に提供される。しかしこの形態での提供は近年見られなくなってきている。
- 専門店での販売
- アイスクリームを専門に売る店舗があり、そうした店舗は全国的、国際的または広域的なチェーン店であることも多い。代表的なものにバスキン・ロビンス(日本でのブランドは「サーティワンアイスクリーム」)、ハーゲンダッツ、ホブソンズ、ブルーシールなどがある。これらの店舗では多種多様なフレーバーのアイスクリームを提供し、コーン、ワッフル、紙製のカップなどを用いる。これらのアイスクリームは、店内で食べることもできるが、店外へ持ち出し、移動しながら、あるいはどこか別の場所で食べることもできるような形で提供されている。
- 自動販売機での販売
- 江崎グリコが「セブンティーン」ブランドで駅構内やゲームセンターなどに設置している。また森永製菓もショッピングセンターやサービスエリアに展開している。
- 屋台での販売
- この場合、一食分を取り分ける場合(アイスクリーム・シャーベット)、個別にパッケージされた場合(アイスキャンディー)、その場で一食分を作る場合(かき氷)、など複数の商品形態がある。
日本での販売額[編集]
アイスクリームの、2004年度一年分の、国産品および輸入品の国内販売額は3550億円とされている(日本アイスクリーム協会集計)。内、江崎グリコ 約12%、ハーゲンダッツジャパン 約12%、 ロッテ 約11%、森永乳業 約11%、 明治乳業 約11%、その他 約43%(日本経済新聞社推計)。
歴史[編集]
起源[編集]
乳製品を天然の氷や雪で冷やして食べる習慣は紀元前より見られた。ユリウス・カエサルやアレキサンダー大王が乳や蜜に氷や雪を加えて飲んだという話が伝わっている。また、マルコ・ポーロは中国で乳を凍らせたものを食べ、その製法をイタリアに伝えたという話もある。
16世紀初頭にパドヴァ大学のマルク・アントニウス・ジマラが常温の水に多量の硝石を溶かすと溶解熱により吸熱し、冷却することを発見した。また16世紀中ごろにはベルナルド・ボンタレンティが氷に硝石を加えることで-20℃程度まで温度が下がることを発見した。この原理を利用して人工的に食品を凍結させるという技術が可能となった。もちろんその水溶液から硝石は何度でも回収できる。
アイスクリームは1550年頃にイタリアで考案された。要出典1533年にイタリアのメディチ家のカトリーヌがフランスのオルレアン侯アンリ(後のアンリ2世)と結婚した際、菓子職人も引き連れて嫁入りしたときに、フランスにこの菓子が導入された。1686年にはフランチェスコ・プロコピオ・ディ・コルテッリというシチリア人がパリで有名なカフェ、ル・プロコープ(仏語)を開店し、最初のアイスクリーム商業提供を始めた。
イギリスには1624年、カトリーヌの孫アンリエット・マリーがチャールズ1世(1625年 - 1649年)の元に嫁いだときに、アイスクリーム職人を連れて行ったために伝わった。チャールズ1世の宴会でフランスの料理人ド・ミレオによって作られ、大いに賞揚された。チャールズ1世は、アイスクリームに感動し、アイスクリームの製法を秘密にし、王にだけアイスクリームを提供する見返りに、アイスクリーム職人に一生年金を与えた、という伝説がある。しかし、この逸話は19世紀以前の文献には現れず、アイスクリーム売りによる創作とされている。なお、このころまでのアイスクリームにはまだ乳製品をほとんど使用しておらず、代わりにメレンゲを使用したシャーベットに近いものであった。
現在のアイスクリームの直接の原型となるのは、1720年にシチリア島からパリに出てきてカフェを開いていたフランソワ・プロコープが作ったグラス・ア・ラ・シャンティであるとされている。これはホイップクリームを凍らせたものであった。
世界での普及[編集]
初期のアイスクリームは、冷たいボウルの中で手を使い造られた。このため、製造は大変に困難であった。これを改良する発明は主に18世紀に移民によってアイスクリームが伝わったアメリカでなされた。1846年、アメリカのナンシー・ジョンソンという主婦によって手回しのクランク式の攪拌機が発明された。1851年にはメリーランド州ボルチモア市の牛乳屋ヤコブ・フッセルが余った生クリームを処理するために世界初のアイスクリーム製造工場を造った。この後、アイスクリームは量産品と、生洋菓子にはっきり分かれるようになる。量産品のアイスクリーム製造は、アメリカ合衆国がさかんである。一方1867年ドイツで製氷機が発明されると、この冷凍技術と酪農の発達に伴い、アイスクリームの工場生産時代を現出した。
アイスクリームサンデー(Sundae)は、1881年にウィスコンシン州のエド・バーナー(Ed Berners)によって発明された。バーナーは日曜日に、5セントでデザートを提供した。このためにこの名がついた。
日本での普及[編集]
日本人で初めてアイスクリームを食べたのは1860年に咸臨丸で渡米した遣米使節団であるとされている。
日本初のアイスクリームは、1869年(明治2年)6月(旧暦、新暦では7月)、町田房蔵が横浜の馬車道通りに開いた「氷水屋」で製造・販売したものである。「あいすくりん」という名称で、一人前の値段は2分、現在のお金で約8000円と大変高価な物であった為、民衆に敬遠され、なかなか浸透しなかった。原料は、生乳、砂糖、卵黄といたってシンプルなもので、これはいまは「カスタードアイス」とも呼ばれている。なおアイスクリームの日である5月9日が日本で初めてアイスクリームを製造・販売した日と一般的に言われているが、横浜沿革誌にはそのような記述はない。
後に1899年7月、東京銀座の資生堂主人、福原有信が売り出して世に広まった。
アイスクリームパーラー[編集]
- ハーゲンダッツ
- サーティワンアイスクリーム
- レディーボーデン
- コールド・ストーン・クリーマリー
- ビックディップ(ブルーシールアイスクリーム)
- ホブソンズ
- レインボーハット
- ディッピン・ドッツ
- アイスクリン
関連項目[編集]
- ジェラート
- シャーベット
- パフェ
- ムース
- かき氷
- アイスまんじゅう
- ドンドゥルマ
- アイスキャンディー
- クレープ
- ソフトクリーム
- ババヘラ
- アイスクリン
- アフォガート
- ナムコ・ナンジャタウン - 同パーク内にアイスクリーム専門のフードテーマパーク「アイスクリームシティ」が存在する。