即成犯・状態犯・継続犯

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即成犯・状態犯・継続犯(そくせいはん・じょうたいはん・けいぞくはん)とは刑法学上の概念であり、犯罪の既遂時期と終了時期に対応して区別される。

1 定義[編集]

 (1) 即成犯とは、既遂に達すると同時に犯罪が終了し、その後に違法状態が残らない犯罪をいう。
殺人 (刑法199条)がその例である。
 (2) 状態犯とは、既遂に達すると同時に犯罪も終了するが、その後に違法状態が残る犯罪をいう。
窃盗(同235条)がその例である。
 (3) 継続犯とは、既遂に至っても犯罪は終了せず、その後も犯罪事実が継続する犯罪をいう。
監禁罪(同220条)がその例である。
 (4)区別の実益
犯罪が既遂に達したかどうか、既遂に達したとしてそれで終了するのかどうかをなぜ区別するのか。
それは、一般には犯罪の終了時期によって、①公訴時効・告訴期間の起算点、②処罰規定の新設・刑の変更の際の適用法令、③故意・責任能力の存在時期、④承継的共犯の成立範囲、⑤罪数・犯罪の競合関係、⑥正当防衛による対抗の可否などが、変わってくる、とされるためである。
 (5)問題の所在
 学説上は、状態犯と継続犯の区別について議論がある。

2 状態犯について[編集]

 (1)問題の所在
 状態犯の例としては、窃盗・傷害・重婚等が挙げられる。
 いずれも法益侵害・危殆化によって構成要件該当事実が完成し(構成要件を充足し)、その後も法益侵害・危殆化状況が継続している。
 しかし、窃盗では、被害者の財物は移転したままであるし、傷害も怪我が残ったままままである。
難しくいうと、被害者の財物利用可能性は阻害されたまま、生理的機能不全も残存したまま(治癒/完治しない場合もある)である。
ここでは、違法状態=結果=法益侵害・危殆化状況が残存している。
つまり、結果が継続していることに着目すると、継続犯と区別できるのかどうか、問題となる。
(2)区別の方法
1つの説明は、状態犯は、法益の変化・転化のみを構成要件的結果として要求しており、その後に同一の事実状態が時間的に延長されていくことは構成要件的結果に含まれていないので、これが構成要件として要求される継続犯と区別される、とする(松原芳博、刑法の争点P28)
別の説明は、ともに、結果=法益侵害・危殆化状況が継続していることは同じだが、あえて区別すると、結果発生が構成要件の内容として要求されていることは同じでも、発生した法益侵害・危殆化状況の継続が要件となっていない点で区別される、という(井田良、法学教室336号)
要は、いずれにしても結果=違法状態=法益侵害・危殆化状況が、構成要件として要求されているかどうか、で区別される。 すると、構成要件は、刑罰法規から解釈によって導かれるので(条文の文言どおりではない。書かれざる/記述されざる/不文の構成要件要素等を考えよ)、結果の継続が構成要件として要求されているかどうかは、実体法上の解釈問題となる。
(3)既遂犯の成立時に、必ず犯罪は終了するといえるか
 通常は、事実状態の変化(財物の占有移転、健康状態の悪化)が構成要件的結果であるから、この時点で)既遂犯が成立する。従って犯罪も終了するはずである。
しかし、例外的に、この構成要件として要求される結果が複数回生じたり、連続して生じた場合はどうか。
一言でいうと、タイムラグの問題である
Case1:アパートで、無断で隣の部屋のコンセントにケーブルを挿して、電気を引いていた。
→この電気窃盗の事例では、その電気を使用した時点で電気窃盗は既遂に達するが、その後も電気の利用が続けば、犯罪は終了しない。言い換えれば、被害者の電気は失われ続けている。
Case2:深夜、ガードの頑丈な最新のセキュリティのビルに忍び込み、見つけた財布をポケットに入れた。単独犯の予定だったが、帰りに扉が閉まって出れなくなったので、知り合いに連絡し、開錠してもらった。
→では、通常の窃盗ではどうか。一般には「窃取」は占有移転と説明されているが、そこには①被害者からの占有奪取と、②占有確保の2段階がある。つまり幅があるので、実行着手後、一応の占有を取得して窃盗が既遂とされても、②占有確保までの間には、犯罪は終了しないことから、たとえば共犯が成立するといった問題が生じる。
Case3:工場が、有毒物質入りの汚染水をそのまま流していた。下流の漁民が魚を採って食べていた。
Case4:奥さんが、だんなさんに毎日少量の毒を飲ませていた。
→人に有毒物質を摂取させた場合、最初に病変が生じた時点で健康状態は不良になるから,傷害罪は既遂となる。
 しかし、その後も有毒物質の摂取によってさらに悪化したなら、構成要件的結果の新たな発生ないし、連続的反省と評価できる。つまり犯罪は終了していない。
Case5:三棟立ての大きな屋敷に火をつけた。東棟が燃え、さらに中央棟、西棟へと燃え広がった。
→放火罪は分類される。独立燃焼に至った時点で既遂となるが、その後も燃え広がり、公共の危険が拡大する限り、犯罪は終了しない。

3 継続犯について[編集]

 (1)継続犯の例
 一般には、監禁罪、薬物所持罪、銃砲刀剣類所持罪、無許可営業罪、無免許運転罪が挙げられる。
 争いのあるのは、略取・誘拐罪、犯人蔵匿罪、盗品保管罪、わいせつ物陳列罪、不法入国罪であり、継続犯か状態犯か、即ち違法状態の継続が構成要件として要求されているかどうか議論ある。
 (2)継続犯の本質
  ア 通説・判例は、行為継続説に立ち、実行行為の継続が継続犯の特徴という。  なお、行為ではなく意思に特徴を見出し、行為者の持続的意思によって法益侵害を維持させる犯罪が継続犯とする説明もある。
  イ 批判
 これには結果継続説からの批判がある。
 監禁罪を例にとると、被害者を閉じ込めたまま立ち去れば、行為者の実行行為が継続しているというのはフィクションに過ぎない、という。①壁を利用して閉じ込めている、②解放しないという不作為を継続している、というが、①は当初に閉じ込めた行為の効果にすぎず、②は、行為者が何らかの事情で解放する作為可能性を失えば、不作為も観念できない。
  ウ 結果継続説の論拠
 継続犯とは、犯罪終了時期を画する概念である。つまり、結果発生までは犯罪は終了しないから、結果を無視して実行行為のみに着目して継続犯かどうか判断するのにそもそも無理がある。
 継続犯を全て挙動犯(結果は要求されない)と理解すればともかく、監禁罪は、移動の自由の侵害・制約が保護法益であり、構成要件として要求されるのが通説であるし、各所持罪についても、留守中・睡眠中も所持が継続していると解される理由は、行為者の意思ではなく、物に対する支配状態こそがキーであり、だからこそ構成要件として要求される。 行為継続説においても、実は各論レベルでは実行行為ではなく、法益の性質によって継続犯と状態犯を区別しているのではないか。

4 効果について[編集]

 (1)犯罪継続中の処罰規定の新設・刑の変更
 行為継続説からは、単純に新法を適用できる。憲法39条は、遡及処罰を禁止するが、それは「実行の時」に適法であった行為については、刑事上の責任を問われないというのだから、実行時に違法であれば、責任を問われてもしょうがない。  刑法6条「犯罪後の法律」との関係でも、刑の変更は、実行行為が基準となる。
 結果継続説からは、実行行為の継続はフィクションだから、犯罪継続中の法の新設・変更は、その施行後に新たな作為・不作為が認められる場合に限って適用されるべきという。  たとえば入手時には適法であった違法薬物等の法禁物の所持について、旅行中に禁止薬物と指定された場合、作為可能性がないわけであるから、これを所持罪で処罰するのは遡及処罰の禁止に当たる。  (2)犯罪継続中に故意を生じた場合について
盗品保管罪・薬物等所持罪について、その行為途中で故意を生じた場合、判例・通説は故意犯の成立を認める。
 (3)公訴時効・告訴期間について
公訴時効の起算点は結果発生時とするのが判例である(最決昭和63・2・29)。
告訴期間も、犯人を知っている場合は、結果発生時点から起算される。 よって、いずれも結果が継続する限り、公訴時効・告訴期間は進行しない。 状態犯においても、構成要件的結果が継続的に、あるいは連続して発生していれば公訴時効・告訴期間は進行しない。  (4)承継的共犯の成立範囲について
  共犯の因果性の理解によって変わる。
   ア 共犯を他人の行為を介して結果を生じさせる場合に限定するなら、実行行為が終了すれば、たとえ犯罪が継続中であっても共犯は成立しない
   イ しかし、他人の行為を介さずとも、直接結果惹起に因果的に寄与したなら共犯が成立する、との理解に立てば、実行行為が終了しても、結果が完了するまで共犯は成立しうる。
 (5)正当防衛による対抗の可否について
侵害があった場合、正当防衛が可能なのか、緊急避難にとどまるのか(要件が厳しい)が問題となる。
 一般には、急迫「不正」の侵害は違法であることを要するが、犯罪構成要件に該当することまでは要求されていないから、犯罪が終了していようがいまいが、「不正」の侵害があれば正当防衛は認められる。

従って、犯罪終了時期についての継続犯と状態犯の区別は、直接には関わりを持たない。