ユキちゃん

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ユキちゃんとは、稲川淳二怪談の1つ。

学校を出て、ちょうど社会人になろうかという娘さんが
「親の元から通うんじゃつまらない。将来はお嫁に行っちゃうんだから、しばらく一人で住みたい」
と言い出し、お父さんと一緒に部屋を捜した。
見つかったアパートは、高台にありオートロックもついており、「まあ、ここなら、外から入ってくる奴もいないだろう」と、決まりました。

引越しも済んで、まず、顔出しにに参加しました。
これは、会社なんかに入る場合に、「まあ、頑張りなさいよ」と、新しい者達を激励するような催しです。
そこで盛り上がって、帰ってきた。慣れてないですから、やっぱり、疲れて帰ってきた。
まだ春先で、寒い時もあるからと出してあった『こたつ』に潜り込んだ。
そのうち、疲れと酔いとでウッツラウッツラし始めた。これが気持ちいい。
そのまま、布団も敷かず、ゴローンと横になった。そうしたら

ユキちゃん、ユキちゃん

って声がする。その声に目を覚まして、(あれ、なんだろうなこんな夜中に・・・)と、娘さんは思った。
最近では犬にも、そういう、人間みたいな名前をつけたりするから、(ああ、犬なんか捜しているのか)と、思っていた。
さほど気にはしていなかったけど『ユキちゃん、ユキちゃん』って、言いながら自分の住んでるそのアパートの周りを歩いているから、(なんか、おかしいなあ)とは、 思った。
でも、飲みつけないお酒と緊張で疲れており、また、寝てしまった。

次の日は、ちゃんと会社に顔を出して、色々な人間と会った。
ところがこの日も、「じゃあ歓迎会、パーッとやろうよ」と言う事になって、また盛り上がってお酒を飲んだ。
帰ってきて、身体を伸ばして、(やっぱり、一人暮らしっていいなあ)って思った。
この日もやっぱり酔っていたから、『こたつ』に潜り込んで、「いいや、これで」と、寝てしまった。

そして、夜中になったら、また、『ユキちゃん』って、聞こえる。
(そういえば、昨日も確か、ユキちゃんって聞いたなあ)と思ったら、『ユキちゃん、ユキちゃん』って、言ってる。
なんだか、自分の部屋の窓の下辺りで聞こえるから、娘さんは(あん?)って、思った。

(嫌だなあ、誰かと勘違いしてるのかなあ)

女の人の声でした。そのうちに、窓のすぐそこで『ねえユキちゃん』と、言ってる。

娘さんは驚いた。なんか、窓にひっついて、こっちを見てる。影もある。
気持ち悪いから、(いないふりしちゃおう)と思って、『こたつ』の中に潜り込み顔だけ出して、寝たふりをしていた。

ところが、相手は全然去っていかないどころか、窓の縁にひっついて、『ユキちゃん、ユキちゃん』って、繰り返してる。
そのうち段々と、(これ、普通じゃないな)と思った。
だいたい考えてみると、いくら1階だと言っても、このアパートは高台にあるから、窓は地面よりかなり高い所にある。
要するに、窓に顔をひっつけるなんて事は有り得ない。でも、酔いもあったからか、
(とにかく、寝たふりしちゃえ)って、そのまま布団に潜り込んで、寝たふりをした。

そのままじっとしていたら、声がしなくなった。(ああ、これで帰ったかな)と思ったら、

『ねえ、ユキちゃん』

って、自分の部屋の中で声がした。

(わっ!部屋の中に入ってる!)

しかも、『ねえユキちゃん』って言いながら、だんだん、自分の方に近づいてくる。

(うわあっ!違うぞ、これ絶対違う。こんなの人間なわけない!どうしよう!)

で、しばらくしたら、ズズッと音がして、布団のところに、膝が二つ来た。そして、女が、グーッと顔近づけて

ねえ、ユキちゃん、あした何にしようかねえユキちゃん

って言った。やっぱり、酔いのせいか、さほど恐怖はないけど、気持ちは悪いから、

(南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・)

って、心の中で呟いて、寝たふりに専念した。
そうしたら、グーッと布団が押されて、布団が自分の耳にひっついた。そして、耳元で聞こえた。

『そんなことしたって、帰らないよ』