マーフィーの法則

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マーフィーの法則(-ほうそく、Murphy's law)とは、「失敗する可能性のあるものは、失敗する」をはじめとする、先達の経験から生じた数々のユーモラスでしかもペーソスに富む経験則をまとめたものである。

概略[編集]

"Everything that can possibly go wrong will go wrong."「うまく行かなくなりうるものは何でも、うまく行かなくなる。」という種類の「経験則」で、アメリカ合衆国空軍が起こりとされる。日本でも1980年頃から計算機科学者を中心に知られ、1990年代前半に広く流行した。最悪の状態を常に想定すべしという面からはシステム開発をはじめ、労働災害予防、フェイルセーフの観点からも重要である(→ハインリッヒの法則)。また、「高価なもの程よく落ちる」といった一種の諦観を表す面もある。

「マーフィーの法則」の様々な表現[編集]

英語版によると、

"If it can happen, it will happen."
「起こる可能性のあることは、いつか実際に起こる。」

が基本精神であって、その基本的表現は

"Anything that can go wrong will go wrong."
"Everything that can possibly go wrong will go wrong."
「うまく行かなくなりうるものは何でも、うまく行かなくなる。」

である。歴史的には後述のように、

"If that guy has any way of making a mistake, he will."
「何か失敗に至る方法があれば、あいつはそれをやっちまう。」

があり、更にパワーアップした

"If there's more than one way to do a job, and one of those ways will result in disaster, then somebody will do it that way."
「作業の手順が複数個あって、その内破局に至るものがあるなら、誰かがそれを実行する。」

が知られている。日常生活でも

"It will start raining as soon as I start washing my car, except when I wash the car for the purpose of causing rain."
「洗車しはじめると雨が降る。雨が降って欲しくて洗車する場合を除いて。」

という経験則は揺るぎ難いであろう。

O'Tooleのコメントは大変ふるっている。"Murphy was an optimist!"「マーフィーは楽天家だった!」

「マーフィーの法則」の由来[編集]

「マーフィーの法則」という名は、一般には、オハイオ州デイトンのライトフィールド基地内のライト航空研究所に勤務していたエンジニアエドワード・アロイシャス・マーフィーJr.(Edward Aloysius Murphy Jr.)大尉の名前を採ったとされる。その逸話は以下のようなものである。

線形減速に対する人間の耐性I(後ろ向きに座った姿勢の予備調査)」(プロジェクトMX681、結果は『米空軍技術報告第5915号』としてまとめられた)のため、1949年5月、カリフォルニア州のミューロック空軍基地(現・エドワーズ空軍基地)に来ていたマーフィーは、トラブルを起こした装置を調べて誰かが間違ったセッティングをしていた事を発見した(6~16個の加減速測定センサーの位置が逆だったという説と、応力検出用ブリッジの誤配線だったという説とがある。なお、マーフィー自身が製作に関与し部下が設置したことが示唆されている)。ここで彼の言った台詞 "If there is any way to do it wrong, he will." 「失敗する方法があれば、奴はその方法でする」がこの「法則」の土台となった。
ノースロップ航空機プロジェクトマネージャー(その後、NASAのジェット推進研究所に異動)のJorge E.Nicolsがこれを「マーフィーの法則」と命名し、数週間後、前述のプロジェクトで実験台を勤めていたJohn Paul Stapp少佐(当時)が記者会見でこれについて話した。その結果、この「法則」は軍部内に広まり、各種技術雑誌から一般雑誌・新聞の話題へと広がって行った。そして1977年には、Arthur BlochのMurphy's Law and Other Reasons Why Things Go Wrongが出版され、これは全米のベストセラーにまでなり、未だにサイト単行本シンクタンクなどで話題を賑わしている、というものである。

日本のマーフィーブーム[編集]

1981年の時点で『生きるにも技術がいる: 人生工学の発想』(尤も、「ハガの法則」(グループ・ダイナミックス)の方に頁数を割いていた)にて紹介されていた例があり、1988年にも『コンピュータ辞林』で、又、『アスキー』誌上でも、ホーテンスS.エンドウによるエッセイ「マーフィーの法則の起源をめぐって」が1990年に掲載されていた。

このように、既に日本でも「マーフィーの法則」は技術者の間で良く知られていたが、大きな話題をさらったのはMurphy's Law and Other Reasons Why Things Go Wrongが『マーフィーの法則-現代アメリカの知性』として出版されて以降である。この原典となる書籍の邦訳によって「法則」は一般に広く知られるようになり、1993年後半から1994年前半の間、家庭学校や職場や地域でも「・・の法則」遊びが流行した。

「マーフィーの法則」がアメリカと日本でブームになった時は東海大学文明研究所教授謝世輝も指摘しているように各々未曾有の政治的・経済的危機に見舞われていて、そこからの脱出方策も不透明な情況であった。だからといって、「ネガティヴ」で「マイナス」思考を助長していたかというと、そうとばかりは言えまい。昨今の『サラリーマン川柳』のように客観視し笑い飛ばしている面やマーフィー・ダイアグラム東大名誉教授畑村洋太郎の提唱・リードする失敗知識データベース・失敗学会のように逆手に取って活用している側面も見逃してはなるまい。

同様な観点からの批判として編集者兼ライターの桔梗清『「悲惨な法則」の危険なワナ: 逆マーフィーの法則のすすめ』において紹介している「力動精神医学としての誘導自己暗示(療法)」(『無意識の発見: 力動精神医学発達史』『自己暗示』より)につなげるものがある。

さらに、深層心理学の世界では、千葉大名誉教授多湖輝も指摘するように「法則11=挨拶をトチリそうだと思っている人は本当にトチる=」ように自己暗示により体が硬くなったり相反する気持ちを起こさせたりして思わぬ行動に出てしまうことはよく知られていることで、臨床心理士で又松大学校教授の青木智子カール・グスタフ・ユングの「トリックスター(「固定して動かなくなってしまった意識に、失敗や笑いをもたらしたり、思い上がりや自惚れを翻弄して新たな発展や変化への刺激を与えてくれるもの」で、ユング自身は神話学者等との共同研究でアメリカ原住民の神話ヘルメス神話等から抽象化した概念)」理論から分析を試みている。

更にエリック・バーンゴールドウィン夫妻の交流分析(特に脚本分析に見る「成功してはいけない」という禁止令)やC.ブラックウェイン・クリッツバーグ等のアダルト・チルドレン(AC)の役割類型の「クラウン(道化師)」「マスコット(なだめ役)」「ファミリーペット(甘えっ子)」等の観点から解釈している福岡県立大学杉田峰康のグループもある。

最後に確率論認知科学(ヒューリスティックス発見的方法や共変関係認知論、ランダム性の誤認知論)から「マーフィーの法則」を説明している慶應義塾大学増田真也等の業績も明解である。

「マーフィーの法則」に類するもの[編集]

「マーフィーの法則」という名が生まれたのは以上のような経緯によると言われるが、「法則」の内容自体は古くから世界中で様々な形で言われてきたものであった。

  • イギリスでは、'Sod's Law'(「こんちきしょうの法則」)と言われ建物解体業者の常套句として使われ始めた。尚、Sodの語源はSodomite、つまり『旧約聖書』に登場する退廃の街ソドムの住民であるという。
  • "The unexpected happens, and you'd better prepare (be ready) for it."「いかに準備万端でも想定外の事は起こる」は、サッチャーの法則(Thatcher's Law)として、有名である。(→元英国首相マーガレット・サッチャー
  • フランスでは"La loi d'emmerdement maximum"(「糞ったれの法則」)と呼ばれる。注意を促す表現。
  • "The bread never falls but on its butteredside."「食パンを落とすと必ずバターが付いているほうが下。」はマーフィーの法則の中の「選択的重力の法則」の一種であって、1871年発祥のイギリス北西部ランカシャー地方の諺。(→バター猫のパラドックス
  • 日本の諺でも「転べばの上」のように似たものがある。

その他[編集]

  • アメリカでは、前述の逸話が事実として広く認められており、1990年代初めには定評ある百科事典にも語源の説明として記載された。しかし、イギリスでは1990年代末になっても、著名な辞典編纂者で語源学者であるジョン・エイトなどは米軍技術者起源説に慎重な態度を崩しておらず「この呼称の起源に関する説明は典拠が疑わしい。」とし、日本の代表的な大型英和辞典の最新版(2002年)の語源欄でも「Ed Murphy(米空軍大尉)にちなむとする説もあるが不詳」としている。
  • 中村則之や130数年の歴史を誇るイギリスの格言・慣用句辞典の編纂者により、マーフィーの法則と『キャッチ=22』(ジョーゼフ・ヘラーの小説の題名)との共通点の多さが指摘されている。
  • 「オーグ(ガ)スチンの法則」は、様々な失敗例から学ぶ方式でビジネススクールの教材にも活用されている。
「10以下の若い製造番号の飛行機には絶対乗るな」(オーグスチンの航空学の基本法則)
「西暦2015年以降は航空機墜落事故はなくなる。また離陸することもなくなる。なぜならばエレクトロニクス(部品)が全重量の100%を占めるからである。」(オーグスチンの容赦のないエレクトロニクス化の法則)等々。
  • 「フィネグル(フィナグルとも)(Finagle)の法則」は、主に数学や情報科学等の広義の自然科学全般にあてはまる「マーフィーの法則」のことを言う。『アスタウンディング・サイエンスフィクション(Astounding Science Fiction Magazine)』誌1957年11月号が法則例を公募してから2年以上も投稿が殺到した。(1924年:FAINAIGUE: 「トランプカードをごまかして配る」「だます」後者の意味では「Murphy」にもほぼ同時期(1811年)ほぼ同義の語彙(信用詐欺(をする))がある。<ジョージⅣ世摂政時代(1811-20)」の催眠術師でトランプゲームのブリッジの前身ホイストの名人として知られたドイツ人の名ファインナーゲル(FEINAGEL)から)
"If an experiment works, something has gone wrong"
「もし実験自体が成功したのであれば、それは過程で何か失敗したからだ。」
"No matter what result is anticipated, there will always be someone eager to misinterpret it."
「どういう結果が予想されても、誰かが結果を曲解しようとする。」等々。
  • 「マーフィーの法則」物理学版に次のものがある。むかつく力学(物の振る舞い)についての(ジェロルドの)法則(英語版Gerrold's Laws of Infernal Dynamics)によると、
    1. 運動している物体は、誤った方向に動いている。
    2. 静止している物体は、誤った位置にある。
    3. ある物体を正しい方向に動かす時に、またはある物体を正しい位置におく時に要求されるエネルギーは、貴方が期待するより多く、しかし遂行をさまたげる程ではない。
  • "Murphy's Law"という慣用句で「押しボタン式(自動制御)」に対する「目の子勘定(指折り計算)」という意味での使用例もある。
  • 'This may sound like touch-tone utopia, but in reality Murphy's Law prevails.(これは押しボタン式ユートピアみたいに思われるかもしれないが、現実には目の子勘定が一般に行われているものである。『Time』誌1979年5月5日号)
  • スリーマイル島原子力発電所事故に触発されたこともあり、BBNテクノロジーズ社主任研究員の人間工学者リチャードW.ピューらは、マーフィーの法則の「未知の知識領域」論とJ.ラスムッセンの認知心理学的アプローチ(ステップ・梯子モデルや致命的アクション・決定に結びつく決定要素論等)とを融合した「マーフィー図(Murphy diagram)」(1981)を開発し、大小様々なプラント等の安全設計及び事故原因解析の代表的支援ツ-ルの1つになっている。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

ISBN 4-7819-0527-7