アバンダンウェア
アバンダンウェア(Abandonware)とは、著作権保持者が既に販売をやめたりサポートしていないソフトウェア。ある期間を経過したソフトウェアを包括的に指す場合もある(通常5年)。
この用語は法的な意味を持たない。すなわち「アバンダンウェア」と呼ばれているソフトウェアを料金を支払わずに使ったりコピーしたりすることが法的に許されているわけではない。著者がそれをパブリックドメインにしない限り、全てのアバンダンウェアは(期限が切れるまで)著作権法で保護されている。
一方、この用語は利用可能だがサポートや開発が何らかの理由で停止されているソフトウェアを指すこともある。この項目では前者の意味について解説する。
目次
アバンダンウェアの歴史[編集]
アバンダンウェアはインターネット時代が到来するまで全く目立たなかった。インターネットによって多くの人々がそれにアクセスできるようになったのである。初期のアバンダンウェアサイトとして、Classic Trash や Home of the Underdogs がある。
1997年、ESA(当時の名称はIDSA)が加盟業者のゲームがダウンロード可能となっているサイトに対して訴訟を起こす動きがあった。このため多くのサイトが閉鎖された。
アバンダンウェアと法律[編集]
いかなる国の著作権法でもアバンダンウェアに関する規定は存在しない。商標法では「放棄 abandonment」の概念があるが、これは商標保護期間が無限であることから出てくるものである(訳注:アメリカの商標法は使用主義を採用しており、使われていないと判断されればabandonmentと見なされる。日本では10年毎の更新制)。現状では著作権をリリースしてパブリックドメインとするには文書による明確な手続きが必要である(訳注:日本では著作者人格権を放棄・譲渡できない)。ただしこれは「放棄」というよりも「解放 releasing」である。非著作権者が著作権が「放棄」されていると主張して著作権者の許可なく使用することは不可能であり、法的制裁の対象となりうる。
アメリカ合衆国[編集]
米国では、一定期間著作者に独占的に著作権を与えるという著作権法の理念とアバンダンウェアの考え方は矛盾している。著作権法の下では、著作権者がその著作物から利益を得るか得ないかを選択する権利を有する。著作権を商売に利用するに際して、著作権者に何らの条件も課せられない。米国でのこの権利は合衆国憲法に規定されている。
- 著作者および発明者に、一定期間それぞれの著作および発明に対し独占的権利を保障することによって、学術および技芸の進歩を促進すること。
アバンダンウェアは(利益とは無関係に)「独占権」を与えると述べた条文に矛盾すると考えられるため、米国では現在アバンダンウェアは法的に認められない。2003年、アメリカ合衆国最高裁判所は「エルドレッド対アシュクロフト裁判」(537 U.S. 186)においてこれについて明確化した。この裁判では著作権期間の延長(通常認められる期間をさらに20年延長する規定)の正当性について判断を下したものである。判決によれば、著作権期間が有限である限り憲法には違反しないとされた。従って、米国においては期限切れとなるまで著作権は保護され、著作者に独占的権利が与えられるのである(期間は70年から120年)。
有名なアバンダンウェア[編集]
最も一般的なアバンダンウェアは古いコンピュータゲームであり、エミュレータ上で利用されることが多い。
古いゲームの方が新しいゲームよりも面白いと感じる人もいる。その原因として古いゲームの設計者はグラフィックスよりもゲームそのものに注力せざるを得なかったことが挙げられる。そういったゲームはインターネット上で配布されることでセカンドライフを与えられる。そのような守旧派ゲーマーがエミュレータの人気を支えている。アバンダンウェアのファンとは、市場に既に存在しなくなったゲームを楽しむ人々を指す。何らかの懐古がそういったアバンダンウェアの人気を支えている場合もある。
著作権の施行[編集]
アバンダンウェアの著作権は積極的には防御されないことが多い。これは著作権者である企業が著作権を他に移すことなく廃業状態となった場合もあるし、著作権所有者がそのソフトウェアが古くなったことから意図的に防御しない場合もある。なお、故人の著作物の著作権はその人の遺産となる。ただし、一部の企業は利益を生み出さなくなった古いゲームなどの権利を強烈に主張している。
アバンダンウェアの支持者は、新しいソフトウェアをコピーするよりもそのような古いソフトウェアのコピーを作る方が罪は軽いと主張する。著作権法を知らない人がこの意味を取り違えてアバンダンウェアを合法的に配布可能と信じてしまうことがあるが、著作権が期限切れになるほど古いソフトウェアは存在しないし、開発した企業が既に存在していないとしても著作権は誰かが受け継いでいるのである。
著作権がまだ有効なので、このソフトウェアの転送(ダウンロード)は不法行為である。著作権を行使するためにかかる金と時間が、そのソフトウェアを販売して得られるものよりも大きいと推定されるアバンダンウェアが配布されている。インターネット上のアバンダンウェアの存在は、その著作権を著作権所有者が防御しようとしているかどうかに依存している。例えば、en:Colecovision のゲームは en:Intellivision のゲームよりも見つけ易い。前者のゲームを販売している会社は既に存在しないが、後者のゲームを販売している会社は今も存在しているからである。
企業はソフトウェアの著作権をリリースしてパブリックドメインにしたり、フリーウェアやオープンソースにライセンス形態を変更したりすることがある。id Softwareはいち早くそのような方針を採用した企業であり、古いゲームをオープンソースライセンスでリリースしている。別の例としてAmstradがある。AmstradはZX SpectrumのハードウェアROMのエミュレーションのサポートとソフトウェアの無料配布を行っている。パブリックドメイン化やフリーソフトウェア化は完全に合法であり、アバンダンウェアとは区別して考える必要がある。ソフトウェア企業がソフトウェアをフリーに配布することは珍しい。しかし、ノベルやサン・マイクロシステムズなど多くの企業は実験的に最新ソフトウェアをオープンソースのフリーソフトウェアとしてリリースしている。その場合、ユーザーはソフトウェアを再配布可能であるだけでなく、オリジナルと同じライセンスでリリースするという条件で販売したり改造したりすることができる。 最近ではマイクロソフト等も限定的では有るがそれらに追随する動きがある。 国内ではこういった動きに対して反応する企業は非常に少ないが、アリスソフト等、ごく一部にこのような動きに追随し古いソフトウェアを特定ライセンスの元で開放する場合もある。
古い著作権がまだ有効な場合[編集]
アバンダンウェアと oldwarez(通常5年以上経った古いソフトウェア)は同義であると誤解されている。これは必ずしも正しくない。というのも、いくつかのソフトウェア企業(例えば Apogee)は古いタイトルを数多く販売しており、それを無料配布する人々を追跡している。Atari 2600のゲームは、誰もアタリの本来のゲームを買わないだろうという推定に基づいてインターネット上で配布されている。しかし、携帯電話製造業者はそれらのゲームを使う権利を購入しており、携帯電話への移植をすることが可能となっている。
ゲーム販売業者は、そのゲームが現に販売されているかどうかに関わらず、全てのアバンダンウェア配布が有害であると主張している。その理由は任天堂やアクティビジョンのような企業が古いゲームを新しいプラットフォーム(ニンテンドーゲームキューブ、ゲームボーイアドバンス、プレイステーション2)に移植してリリースしているからである。そのためアバンダンウェアにも潜在的な価値があり、それをインターネット上で無料配布されることによって得られたかもしれない利益が減少すると考えられるからである。しかし、反対の主張もされている。すなわち、アバンダンウェアの配布によってそのゲームの人気が高まり、新たに移植した製品の売り上げに貢献しているというものである。また、そのような移植版のリリースに際しては、多くのアバンダンウェアサイトで同タイトルのコピーが削除されている。古典的タイトルの移植版はオリジナル版ほど良いものではないとも言われることがある。これらの主張はゲーム機のゲームに関するもので、PC用の古いゲームが移植されて再リリースされることは珍しい。
Xbox、プレイステーション2、ゲームキューブでは古典的ゲームのコンピレーションが人気となっている。カプコンなど多くの企業がコンピレーションディスクをリリースしている。また、古いゲームを続編に同梱する企業も多い。 任天堂ゲームボーイアドバンスなどの携帯ゲーム機では、古典的なゲームが再リリースされたり移植されたりしている。
利用可能な主なソフトウェア[編集]
ゲーム[編集]
以下は従来、有料のゲームであったが、著作権保持者が様々な理由で無料でダウンロード可能としているもの。多くは続編の宣伝目的だったり、コンピレーションだったりする。
他のソフトウェア[編集]
アバンダンウェアはゲームだけではない。以下は著作権保持者がリリースしたソフトウェアである。
- Turbo Pascal (1989年), MS-DOS向け16ビットPascal統合開発環境。(こちらにある)。
- Turbo C (1989年), MS-DOS向け16ビットCコンパイラとIDE。(こちらにある)。
- Version 7 Unix (別名:"V7 UNIX") (1979年)、UNIXオペレーティングシステムの重要かつ初期のバージョン。PDP-11ミニコンピュータ上で動作。2002年にカルデラ社がフリーソフトウェアとしてリリースした。[1] 現在ではエミュレーションで動作可能。V7 UNIX には世界初のCコンパイラが含まれている。
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
アバンダンウェアサイト[編集]
いずれも英文
- Liberated Games — 何らかの形で著作権保持者がフリー化したソフトウェアを集めたサイト
- Remain In Play — 著作権保持者が公式にリリースしたアバンダンウェアだけを集めたサイト
- Home of the Underdogs — ゲームのアーカイブ
- World of Spectrum — 合法な ZX Spectrum 向けアーカイブ。Spectrum の権利保持者であるAmstradからの許可を得ている。
- Mac Hut — 古い68000系Macintosh用ソフトウェアのアーカイブ。スクリーンショットと詳細情報が豊富。
アバンダンウェアの法的問題を扱っているサイト[編集]
いずれも英文
- Nintendo's Intellectual Property FAQ
- Abandonwarez: the pros and the cons
- Copyright FAQ: 25 Common Myths and Misconceptions
- 10 Big Myths about copyright explained
- OldGamesItalia ビデオゲームの歴史
このページはウィキペディア日本語版のコンテンツ・アバンダンウェアを利用して作成されています。変更履歴はこちらです。 |