お菊の皿
お菊の皿(おきくのさら)は古典落語の演目の一つ。古典的な怪談である皿屋敷を下敷きとした噺で、別名『皿屋敷』。上方では2代目桂枝雀や3代目桂春団治が口演。
あらすじ[編集]
まくら[編集]
落語家が寄席で怪談噺を披露。ところが、10日間同じ噺ばかりをしているものだから、常連の中には覚えてしまう奴がいる。
噺家が終わりに『さて恐ろしき、執念かな……』と言おうとすると、それを奪って客が『執念かい?』。シャクだから『妄念かな……』と切り抜ける。
この常連もさる者、翌日の同じネタで『執念かい、それとも妄念かい?』。噺家『ウーン、残念だ……』[1]
こんな噺の幽霊だから、何が出てきても怖いわけが無い。怪談噺以外は……
本筋[編集]
かつて麹町の番町に、『青山鉄山』なる旗本の屋敷があり、お菊と言う美貌の女中が勤めていた。鉄山、お菊に岡惚れし、何とか自分のものにしようとするがお菊はなびかない。逆恨みした鉄山、お菊の留守中に家宝の『十枚組の皿』のうち一枚を隠し、帰宅したお菊に盗みの罪を着せた揚句、井戸に吊るしてなで斬りで惨殺……遺体を井戸の中へ放り込んだ……
やがてお菊は幽霊となって立ち戻り、鉄山はお菊に取り殺された。かくして屋敷は荒れ果ててしまった……
……という有名な怪談話を聴いた物好き(で馬鹿)な江戸っ子、仲間数人を誘い、幽霊見物の為麹町に乗り込んだ。荒れ果てた屋敷の中、井戸の前で陣取っている。
すると果たしてお菊が現れ、始まったるは『一枚……二枚……』の皿数え。これを九枚まで聞くと狂い死にする、という噂を知っていたので、野次馬どもは六枚まで聞いて逃げてきた。
しかしスリルがあって面白かったのか、はたまたお菊に惚れたのか、翌日も見に行こうということになる。ここらは物見高くて馬鹿な江戸っ子ならでは……
毎晩お菊の皿数えが聞けると、噂が噂を呼び、やがて皿屋敷のあたりは大勢の人でごった返すようになってしまった。
こうなるとお菊もすっかり乗せられてしまい、やってくる客に愛想を振りまきだす。この女も幽霊の分際でたいがいな奴である。
さてある夜、黒山の人だかりが出来ている中でお菊の皿数え独演会が始まった。
『一枚……二枚……』
いよいよ六枚、野次馬連は逃げようとするが、凄まじい混雑のせいで動けない。
『七枚……八枚……九枚……』
ギャー!!と逃げ遅れた連中の悲鳴が響く。間に合わない!
『……十枚……十一枚……』
皿数えがなぜか止まらない。だいたい皿は十枚組を一枚割られて九枚しか残っていなかった筈だが……お菊、とうとう十八枚までやってしまった。
それで一席終えて帰ろうとするお菊さんに、あ然とした客「なぜ十八枚まで数えちゃったんだい?」
お菊いわく『明日はお盆でございます。休みますのでその代わり……』
「しかしお菊には“三平”という男が…」[編集]
お菊が鉄山になびかなかった理由として男の存在が出て来る事があるが、この場合、男の名前は大抵「三平」であり、そこから初代林家三平をネタに持ってくる演者もいる。奇想天外な漫談系の三枚目噺家として有名であった初代・三平が、美貌のお菊の情夫、というのも珍妙な話で、ウケを取るには絶好のネタであったろう。
何枚目で逃げるか[編集]
「九枚目まで聞けば狂い死に、八枚目で熱病」という設定がオーソドックスな為、六枚目で逃げ出す形を取る演者が多い。聞こえなくなる距離にいくまでに次の皿を数える声が聞こえるかも知れないし、お菊を見に行く事前のやりとりで「途中から数え方が早くなる嫌な幽霊かもしれない」と変な心配をする設定の例もあるからである。しかし演者の中には、七枚目で逃げ出す形とする者もいる。
演者が工夫をこらす興行[編集]
お菊の皿数えをショーとして興行にする際、スポンサー、祝い花や祝い酒の提供元、出店の名前、マイクパフォーマンス、ショーを彩る演出などは、演者が独自に脚色できる腕の見せ所となる箇所である。祝い花や祝い酒の提供元として一番多いのは、その演者が「お菊の皿」を演っている場所(寄席・会場)である。
サゲの種類[編集]
お菊がすっかりアイドル化してしまい、自分で勝手に休みを作って二日分数えるという形もある。また、「明日お休みなの」とだけ答える場合もある。
その他、割れたというのを逆手にとって「八枚…九枚…一枚多い」という物もある。
上方の『皿屋敷』[編集]
舞台を姫路に設定、若い衆が伊勢参りの帰りにお菊の皿屋敷のことを聞かれ、知らないで恥をかいたことから、おやっさんに「何じゃ。お前ら知らんのかい」とお菊の怪談と屋敷の場所を教えられる。あとは東京と同じ設定である。
終わりはお菊の亡霊が「十枚、十一、十二・・・」と数えるので、客が怒り出し、
「こら!」ええかげんにせえ!おのれは、皿が九枚しかないのを咎められ、青山鉄山に斬られたのを恨みに思い幽霊になったンやろ。それがいま聞いてみたら、九枚どころか十枚、十一、十八枚まで数えやがって、あまり客を馬鹿にすな。アホめが!」
「そないに、ポンポン言いなはんな。そんなこと言われんでもわかってます。」
と客と幽霊とが口論となる。
「なに!えらいど憎たらしいこと言いやがって、ほんなら何でこんなに多く数えるねん。」
「風邪引いてまっしゃろ。二日分読んで、・・へへ・・明日休みますのン。」 でサゲとなる。
なお、姫路城には「お菊井戸」が残れされている。
以上で作品の核心的な内容についての記述は終わりです。
- ↑ このやりとりを、8代目林家正蔵(のちの彦六)と子供時代の7代目立川談志の逸話としてネタにする噺家もいるが(三遊亭圓歌(三代目)など)、真偽は定かでない。怪談噺の名手として知られた8代目正蔵と、若い頃から生意気な言動で名を馳せた談志となら、もしや実話では……と思わせてしまうところが、ことに談志の業の深さではある。