アベノミクス
アベノミクス(またはアベノミックス、安倍ノミクス)は、自由民主党の政治家・安倍晋三が第2次安倍内閣において掲げた一連の経済政策に対して与えられた通称。安倍とエコノミックスを合わせた造語。呼称は中川秀直がつけた。ドイツ語、英語、フランス語では Abenomicsと表記される。
目次
概要
デフレ経済を克服するためにインフレターゲットを設定し、これが達成されるまで日本銀行法改正も視野に、大胆な金融緩和措置を講ずるという金融政策。ロナルド・レーガンの経済政策であるレーガノミクスにちなんで、アベノミクスと呼ばれるようになった。ただし、主に使用しているのは経済学者やマスメディアで、安倍晋三の秘書(飯塚洋を含む5人のうち誰かと見られる)は「首相が自ら口にしたことは一度もない」と証言している。
内容
アベノミクスは、下記の3つを基本方針としており、安倍はそれを「3本の矢」と表現している。
- 大胆な金融政策
- 機動的な財政政策
- 民間投資を喚起する成長戦略
個別の政策としては、下記などが挙げられる。
経済政策を進めるために、甘利明経済財政政策担当相の下に日本経済再生本部を設け、さらにその下に経済財政諮問会議、産業競争力会議を設置している。
背景
アベノミクスに類する経済議論は既に1990年代後半から始まっていた。日本経済は1990年代初頭にバブル崩壊を経験して以来、その後の消費税率3%から5%への増税など緊縮財政の結果として名目GDPの成長不全に陥っていた。1990年代後半には、ノーベル経済学賞受賞者であるポール・クルーグマンは日本が流動性の罠に陥っている可能性を指摘しつつも、日本経済を回復軌道にのせるための手段として、極めて初歩的ではあるが、お金を大量に刷ること(Print lots of money)で民間需要増加に努めるべきと論じた。具体的には日本銀行が長期国債を買うことであるが、日本銀行が多額の日本国債を買い取ることに起因するインフレーションについては「人々の消費がその経済の生産能力(供給力)を超える状態のときに限り、紙幣増刷由来のインフレが発生する」と述べる。というのも流動性の罠に陥っている状況では、IS-LM分析でLM曲線がY-r平面でフラットになっているためにマネタリーベースの増加が実質金利上昇を喚起しないからである。ここでクルーグマンは、そのような中央銀行のインフレ期待政策は長期にわたって続けねばならないとも述べていた。
さらにはノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・E・スティグリッツコロンビア大学教授が、日本がバブル崩壊後に長期のデフレーションに陥り10年以上も不況が続いていることを指摘し、日本経済を好転させるために日本政府が財政赤字を紙幣増刷によってファイナンスするように提言していた。新規に発行されたコイン・紙幣を人々が持てば、それらの人々のいくらかが財やサービスの消費にお金を使おうとし、また銀行など金融機関が民間企業向けの貸し出しを増やし景気を刺激するからである。これはいわば政府が発行する紙幣、すなわち政府紙幣のことである。これは無利子国債を中央銀行が買い取ることと実質等しい。
展開
2012年(平成24年)11月14日、2日後の11月16日に衆議院解散をして12月に総選挙を行うことが決まったため、自民党の政権復帰が視野に入ると共に円安・株高現象が起こった。それまで日本のマーケットは、米国の株価に左右される動きではあるが、米国の大企業が好決算を出していたものの、日本のGDPが上がらず、主力株である銀行や鉄鋼などが低迷したままの状態であった。特に輸出関連のメーカーなどは30年前の株価まで下落する状況であった。
民主党政権において数回、円売りドル買い介入をしたものの円高や株安は改善されず、貿易赤字は毎月膨れ上がり、10月においては過去最高の5490億円を記録した。だが安倍晋三が11月15日、デフレ脱却・無制限の量的緩和策を打ち出したことで、日経平均株価と円安の動きが連動した。そして選挙戦に事実上突入して以降は株高・円安がさらに加速したことで「アベノミックス」「安倍トレード」「安倍バブル」「安倍相場」という言葉をマスメディア等が使い始めた。
円安になると円換算の売上が増えて輸出競争力が付き、為替差益が生ずるため、実際に増収増益となる。そのため、マーケットは思惑買いから先取りした相場展開となり、第2次安倍内閣の発足以前から市場が動いて経済的にプラス効果が出た。
2013年(平成25年)2月1日には、日経平均は2012年11月-2013年2月にかけて12週連続で上昇し、「岩戸景気」の1958年12月-1959年4月にかけての17週連続に次ぐ54年ぶりの記録となった。
同年2月の日本百貨店協会による全国百貨店売上高は、前年同月比0.3%増(店舗数調整後)の約4317億円と、高級ブランド品やバレンタイン関連の需要が牽引して1月に続くプラスとなった。2カ月連続の売上増は、 東日本大震災の反動増が寄与した昨年3~4月以来となる。
同年3月1日、公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2012年10-12月期の運用実績が2012年11月末からの円安・株高の影響で5兆1352億円の利益を計上したことを発表した。
同年3月8日には日経平均株価がリーマンショック前の水準に戻った。
東京証券取引所1部上場で時価総額が1兆円を突破している企業の数が、 2012年11月14日に当時の野田佳彦首相が衆院解散を表明してから、約4カ月で約1.5倍に急増。東証1部全体の時価総額は3月26日時点で約362兆円となり、解散表明時に比べ約111兆円増加した。
アベノミクスが困る人
②韓国経済界、或いは韓国経済界と強い結びつきを持っている者
③中国経済界、或いは中国と強い結びつきを持っている者
④景気が回復してしまうと、これまでの主張が嘘だったと攻められる立場の人たち
⑤在日韓国人・中国人など本国に送金を目的で日本に不法滞在している者
⑥朝日・毎日・中日新聞・NHK・ゲンダイ・ポストセブンなどの反日マスゴミ
⑦日本・日本人の国益に反する商売をしている者
アベノミクスで喜んでいる人
①まともな日本企業
②日本に対して投資している人達
③ふつうの生活をしている日本人全般 (※帰化朝鮮・韓国人などを除く)
④日本の景気に連動しやすい主要先進国
アベノミクス支持派
- ウォール街
- 伊モンティ首相
- ノーベル経済学賞受賞者・クルーグマン教授
- ノーベル経済学賞受賞者・スティグリッツ教授
- イギリスBBC
- ゴーンCEO
- エール大 浜田教授 (東京大学教授;白川の恩師)
- 米財務相
- FRB
- IMF
- OECD
- カナダ銀行
- 国内主要総研
- 独メルケル首相
アベノミクス失敗を願う派
- 池田信夫 (上武大大学院教授、元NHK職員)
- 丹羽宇一郎元在中大使
- 小林よしのり(漫画家)
- 大前研一
- 丑原慎太郎
- 浜矩子( 同志社ビジネス研究科長・教授)
- 日銀白川総裁
- 民主党
- 日本共産党
- 社民党
- 韓国
- 中国
- 野田佳彦
- 福島瑞穂
- 辻本清美
- 日刊ゲンダイ
- 朝日新聞・毎日新聞・中日新聞・東京新聞・北海道新聞
野党の反応
民主党
2012年(平成24年)12月24日、海江田万里民主党代表は安倍が掲げる金融緩和について「学者の中にもいろんな考え方がある。国民生活を学説の実験台にしてはいけない」と述べ、対決姿勢を示した。同年12月25日、民主党新代表に選出された海江田はアベノミクスに潜む危険性を予算委員会で指摘した。記者会見では「公共事業の大盤振る舞いは古い考え方」と批判し、金融政策について「日銀の独立性が損なわれるような政策は中銀や円の信任にかかわり、様々な副作用が予想される」と語った。
野田佳彦元首相は「何でも日銀に責任をかぶせるやり方だ。国際社会では通用しない」と述べアベノミクスを批判した。首相時代に野田は安倍の金融政策に関する発言について「安倍さんのおっしゃっていることは極めて危険です。インフレで喜ぶのは株・土地を持っている人。一般庶民には関係ありません。借金を作ってそんなことをやってはいけない」「金融政策の具体的な方法まで言うのは、中央銀行の独立性を損なう」と批判していた。
2013年(平成25年)1月30日、衆院本会議で海江田民主党代表は、財政政策について「公共事業に偏重した旧来型経済政策は効果に乏しく、財政赤字を膨らませてきた」と批判。物価上昇2%を目標とする金融緩和策に関しても「国民生活への副作用も無視できない」と懸念を示し、「景気回復が一過性なら、雇用や給与はほとんど増えない可能性がある」と指摘し、実質賃金の引き下げなどにつながりかねないと疑問を呈した。
2013年(平成25年)2月7日、民主党の前原誠司は衆院予算委員会において、デフレの背景として、日本の人口減少が影響していると指摘、これに対し安倍は「人口減少とデフレを結びつける考え方を私はとらない。デフレは貨幣現象であり、金融政策で変えられる。人口が減少している国は他にもあるが、デフレに陥った国ない」と答えた。これに対して前原誠司はさらに「日本を他の国と比べることは出来ない。他の国との大きな違いとして、日本には莫大な財政赤字ある。人口が減っていくという事は国民一人当たりの負担が増えていくという事ではないか」と応じた。
2013年(平成25年)2月12日、民主党の後藤祐一は衆院予算委員会において「3本の矢は我々民主党が言い出し、3本を一体でやっていこうと主張しているが、安倍は『1本目の矢の金融緩和は勝手に日銀がやってくれ。我々政府は知らない』と言っている。3本の矢で行こうというのが日銀と民主党の考え方、1本の矢で行こうというのが安倍首相の考え方であり、食い違いがある」、「人口減少と、デフレギャップおよびデフレは密接に関係している」、「2%の物価安定目標の達成に向けて安倍首相は政府は全く責任を取らないと主張している。本音は(2013年7月の)参院選が気になっているだけだ。安倍首相のマクロ経済に対する考え方は私は大変疑問だ」と発言した。
これに対し、安倍は「そもそも3本の矢と言い始めたのはあなた(後藤祐一)でも日銀でもなく私であり、総裁選を通じて申し上げてきたもの。単に金融緩和をやるのではなく、それと共に有効需要を作っていき実質経済を成長させ、そして地域が活性化し雇用や賃金に反映させる時差を短くし、景気回復の実感を持って頂く。そのために2本目の矢の財政政策が必要であると主張している。しかしこれは何度も打てないので3本目の矢の成長戦略をしっかり打つ。これを同時に打ち込み、以前から言ってきた経済3団体への賃上げ協力要請も本日行う。私が全く言っていない事について、言った事として批判されても本当に困る」、「山本幸三議員が先程のヤジで指摘した通り、アメリカは日本より遥かにデフレギャップが大きいのにデフレに陥っていない。人口が減少している国の中でデフレ脱却していない国は日本だけ」と反論した。
みんなの党
2013年(平成25年)2月5日、山内康一みんなの党国対委員長は、衆議院本会議において、安倍が掲げる公共事業について「特定の産業を育成するのは社会主義計画経済的な発想だ。経済政策は保守主義の王道から外れるのではないか」と述べた。
日本共産党
2013年(平成25年)2月5日、日本共産党の佐々木憲昭は衆院本会議で2012年度補正予算案に関し「庶民の懐を温める政策に転換すべきだ。家計消費が増えれば、内需が拡大しデフレ克服への道が開かれる」と代表質問を行なった。これに対し安倍は「成長期待の低下やデフレ予想の固定化」が不況の原因であると答えた。佐々木は「いま必要なのは、消費税増税の中止など国民の所得を奪う政策をただちにとりやめること」と述べている。
日本維新の会
2013年(平成25年)2月12日、日本維新の会の石原慎太郎共同代表は衆議院予算委員会において「何としてもアベノミクスを成功させて欲しい」と応援を行い、「日本の国家の会計制度に懸念を持っている。これを合理化して企業並みにしないと、アベノミクスのバリアになる。この国には健全なバランスシート、財務諸表がない。国は何で外部監査を入れないのか。アベノミクスを成功させるためにも会計制度を一新させる必要がある。会計制度を変えると税金の使途がハッキリ分かる」と提言を行った。
政財界の見解
元大蔵官僚でアジア開発銀行(ADB)の黒田東彦総裁はアベノミクスについて「適切だ」と評価し、支持する姿勢を示している。
黒田は「デフレを克服する一方、中期的な財政再建を堅持し、成長力を高めていくのは適切な政策だ。日本経済の問題にたいして適切に対応するものだ」「日本経済にとって最大の課題はデフレからの脱却だ。15年もデフレが続いているのは異常である。日本経済にマイナスの影響を与え、その結果として世界経済にもマイナスの影響与えている。それを直そうということは日本にとって正しいだけでなく、世界経済にとっても正しい」と評価している。
また「日本がデフレから脱却することがアジアにも世界経済にもプラスになる」とし、アジア各国も支持するとの認識を示している。また、政府と日銀が2%の物価上昇率目標を設定する共同声明を結んだことについて「画期的なことであって、非常に正しいことだ」と高く評価する考えを示している。
トヨタ自動車で社長や会長を務めた奥田碩日本経済団体連合会名誉会長は、1ドル90円から100円が適正な為替レートで、そうなれば自動車や電機の輸出も増え、貿易赤字が解消されるだろうとの見解を示した。
元大蔵官僚で国際通貨研究所理事長の行天豊雄はアベノミクスを小手先の金融政策や景気刺激策に終始するようであれば市場に足をすくわれるのがオチと批判。アベノミクスにより財政悪化が進めば最終的に日本は悪性インフレに陥るとまとめた。
新聞論説
中日新聞は、2013年1月29日夕刊の夕歩道(夕刊コラム)において「調子に乗りすぎるなよアベノミクス」と述べている。一方、2013年2月10日の社説においては「金融緩和と拡張的財政政策の組み合わせは景気を刺激する。これは経済学の教科書に必ず書いてある基本の話で、実は議論の余地はない」「本紙はこの十年ほど、一貫して金融緩和の重要性を指摘している」と述べている。
日本政府の見解
麻生太郎財務大臣は「(2009年4月のG20加盟20カ国の首脳会談で)通貨安競争はやらないという約束をしたが、約束を守った国は何カ国あるのか。米国はもっとドル高にすべきだ。ユーロはいくらになったのか」と言及。1ドル=100円前後で推移していた当時に比べても円高水準にあると指摘した。その上で、約束を守ったのは日本だけだとし、「外国に言われる筋合いはない。通貨安に急激にしているわけではない」と述べた。
浜田宏一内閣官房参与は「麻生副総理も言っておられたように、今まで日本だけが我慢して他国にいいことを続けてきたのに、今自国のために金融緩和しようとするときに、他国に文句をつけられる筋合いはない。日本の金融政策は日本のためであり、ブラジルや他国のためではない」と述べている。
また浜田は「日本はこの3年間、世界中からいいように食い物にされてきた。今回は、それをようやく正常な形に戻すことに決めたということである。それを海外が非難すること自体、おかしなことで、日本はそうした非難を恐れる必要はない」と述べている。
2013年1月22日、閣議後の会見で、麻生財務大臣は「円高がだいぶ修正されつつある」との認識を示した。
2013年1月28日の臨時閣議後の記者会見で、甘利明経済財政・再生相は、円安誘導との批判がある安倍政権の経済政策について「(ダボス会議で)説明後に、この政策に対して危惧を持っているという発言は無かった」と述べ、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)ではおおむね理解を得られたとの認識を示した。甘利経済財政・再生相はIMF、OECDなど国際機関の責任者や民間の識者から日本の政策を支持する声が「相次いだ」と説明している。
同年1月28日の臨時閣議後の記者会見で、麻生財務大臣は各国で日本が通貨安政策をとっているとの批判が起きていることに「ドルやユーロが下がった時には(日本は)一言も文句を言っていない」と述べ、「戻したらぐちゃぐちゃ言ってくるのは筋としておかしい」と反論した。円相場については、安倍政権がとった施策を受けて「結果として安くなったもの」と分析。過度な円高の修正局面だとの認識を示した。また「日本は(金融危機だった)欧州の救済のために融資するなど、やるべきことをやっている」と付け加えた。
同年2月9日、麻生財務大臣は円安について、進みすぎだと発言している。
同年2月14日、日銀の白川方明総裁は、金融政策決定会合後の記者会見で「(金融緩和)は国内経済の安定が目的で、為替相場への影響を目的にしているわけではない」と述べ、先進国の一部や新興国による「円安誘導」との指摘を否定した。
同年2月15日、浜田内閣官房参与はピーターソン国際経済研究所で講演で、日本の金融政策は国内の物価目標の達成のみを目指したもので、円相場を操作していると解釈されるべきではないとの見解を示した。またリーマン・ブラザーズ破綻後の金融危機時に、日本はイングランド銀行やFRBが行った拡張的な金融政策を批判しなかったとし、日本の積極的な金融政策も非難されるべきではないというのが日本当局者の見解と述べた。また、「変動相場制の下では『通貨安戦争』という概念はない」と述べ、「ブラジルのように不満のある国は、自らの国で適切な金融政策を採用すべきだ」と指摘した。
同年2月22日、安倍はバラク・オバマ米大統領との首脳会談後の記者会見で、「アベノミクス」について、オバマ大統領が「歓迎した」と明らかにし、「日本経済の再生が日米両国、さらに世界に有意義であるとの認識を共有した」との認識を示した。安倍はオバマ大統領が「安倍政権がとった大胆な政策が日本国民に評価されていると認識している」と応じたと述べている。
関連人物
- 高橋洋一 - ブレーンの一人。第1次安倍内閣では経済政策のブレーンを務めた。
- 浜田宏一 - 経済政策・金融分野のブレーンの一人。第2次安倍内閣の内閣官房参与。安倍は「私の主張を正しいと言ってくれている経済学の大家」と評している。
- 本田悦朗 - ブレーンの一人。第2次安倍内閣の内閣官房参与。
- 岩田規久男 - 経済ブレーンの一人。
- 中原伸之 - 金融政策のブレーンの一人。
- 山本幸三 - アベノミクスの仕掛け人。自民党の経済再生本部事務局長。
- 藤井聡 - 第2次安倍内閣での内閣官房参与(防災・減災ニューディール政策担当)。国土強靭化計画の提唱者。