自衛隊
自衛隊(じえいたい)とは、主に陸上・海上・航空自衛官で組織された専守防衛を基本戦略に置く日本の防衛組織で、各自衛隊は防衛省の「特別の機関」として設けられている。陸海空の実力組織を指す場合が多いが、防衛省の各機関を含めて自衛隊と呼ぶ場合もある。また個別組織の陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊を指す際に区別を無くして単に「自衛隊」と呼ぶ場合もある。各自衛隊は1954年7月1日に設立された事実上の軍事組織である。
日本国憲法第9条は"戦争の放棄"と"戦力不保持"、ならびに"交戦権の否認"を定めており、日本政府の政府見解では自衛隊について通常の観念で考えられる軍隊とは異なるとしており、憲法は自衛権を放棄しておらず、その自衛権の裏付けとなる自衛のための必要最小限度の実力は憲法第9条第2項にいう「戦力」には該当せず、我が国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することは当然に認められており、これは交戦権の行使とは別の観念であるという立場に立っている。
英訳で「Japan Self-Defense Force」と表記されるが、日本国外においては、一般に"軍隊"として認識されているため、公式なものや、一部を除いては、陸海空の各自衛隊を「Japanese Army(日本陸軍)」「Japanese Navy(日本海軍)」「Japanese Air Force(日本空軍)」と表記、呼称している場合がある。これは、「Self-Defense Force(自衛隊)」という呼称が、国際社会上一般的ではなく、自衛隊の実態組織を表している呼称とは言い難く、単に防衛省の武力面を表す表現に過ぎないためである。 日本国憲法の規定に関わらず、国際社会上、陸・海・空の各自衛隊は、日本国の実質的な国軍・正規軍として認知されているのが実態である。なお、他国の軍隊より招請される場合や航空無線や船舶無線などでも、個別組織を表す呼称が使われている。
任務
「我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たる」(自衛隊法第3条第1項)ことを任務とする。人命救助などの災害派遣は副次任務である。
内閣総理大臣が最高指揮監督権を有し、防衛大臣が隊務を統括する。陸、海、空の三自衛隊を一体的に運用するための統括組織として統合幕僚監部が置かれ、防衛大臣は統合幕僚長を通じて、陸海空自衛隊に命令を発する。専守防衛に基づき、国防の基本方針および防衛計画の大綱の定めるところにより、他国からの直接および間接侵略に対して、国民の生命と財産を守ることを基本理念とする。
自衛隊法による「自衛隊」とは、自衛隊員として含まれない「防衛大臣、防衛副大臣、防衛大臣政務官、防衛大臣補佐官及び防衛大臣秘書官」なども含めた防衛省の「事務次官並びに防衛省の内部部局、防衛大学校、防衛医科大学校、防衛会議、統合幕僚監部、情報本部、技術研究本部、装備施設本部、防衛監察本部、地方防衛局その他の機関並びに陸上自衛隊、海上自衛隊及び航空自衛隊を含むもの」(自衛隊法第2条第1項)とされている。 これは「防衛省」とほぼ同一の組織に相当することになるが、「自衛隊」の定義について規定する自衛隊法第2条第1項には「政令で定める合議制の機関並びに防衛省設置法(昭和二十九年法律第百六十四号)第四条第二十四号又は第二十五号に掲げる事務をつかさどる部局及び職で政令で定めるものを除く」との除外規定が含まれており、防衛省に属する機関のうち独立行政法人評価委員会、防衛人事審議会、自衛隊員倫理審査会、防衛調達審議会、防衛施設中央審議会、防衛施設地方審議会、捕虜資格認定等審査会、防衛省地方協力局労務管理課については「自衛隊」の範囲から除外されている(自衛隊法施行令第1条第1項・第2項)。従って、「自衛隊」と「防衛省」とでは組織の範囲が完全に一致するわけではない。 一般的には行政組織を指すときは「防衛省」、活動や人員など軍事面(武力)を指すときは「自衛隊」と区別され、「自衛隊」は実力部隊としての陸・海・空の三自衛隊の全体またはいずれかを指して用いられ、組織上も防衛省や各自衛隊が複合的に機能して日本の国防を担っている。
歴史
陸上自衛隊は1950年の朝鮮戦争勃発時、GHQの指令に基づくポツダム政令により警察予備隊が総理府の機関として組織されたのが始まりである。同時期、旧海軍の残存部隊は海上保安庁を経て海上警備隊となり、その後警備隊として再編。1952年8月1日にはその2つの機関を管理運営のための総理府外局として保安庁が設置された。同年10月15日、警察予備隊は保安隊に改組。そして1954年7月1日「自衛隊の任務、自衛隊の部隊の組織及び編成、自衛隊の行動及び権限、隊員の身分取扱等を定める」(自衛隊法第1条)自衛隊法(昭和29年6月9日法律第165号)が施行され、警備隊は海上自衛隊に、新たに領空警備を行う航空自衛隊も新設。陸海空の各自衛隊が成立した。また同日付で防衛庁設置法も施行されている。
また、各自衛隊統合運用のため統合幕僚会議も設置され統合幕僚会議議長がこれを統括したが、2006年にはより広範な権限を持つ統合幕僚監部に組織替えとなり統合幕僚長がこれを統括することとなった。
冷戦期は専守防衛の枠内で日米安全保障条約に従って在日米軍の日本防衛機能を補完する役割を担った。ポスト冷戦期の1990年代からは国連平和維持活動などのため、海外派遣が行われている。
構成
シビリアン・コントロール(文民統制)の原則の下、国会が定員、予算、組織などの重要事項を議決し、防衛出動に承認を与える。自衛隊を統括する内閣は憲法の規定により文民で構成されているため、最高指揮監督権をもつ内閣総理大臣と自衛隊の隊務を統括する防衛大臣は文民である。また、内閣に安全保障会議がおかれ、防衛に関する事項を審議する。
陸・海・空の各自衛隊を統合運用するための機関として、統合幕僚監部が置かれ、服務等監督、防衛大臣補佐、命令執行を行う。最高指揮監督権をもつ内閣総理大臣は統合幕僚長を通じて陸上幕僚長(陸上自衛隊)、海上幕僚長(海上自衛隊)及び航空幕僚長(航空自衛隊)に命令を発する。
なお、内閣総理大臣の立場について、自衛隊法第7条は「内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有する。」と表現し、また「自衛官の心がまえ」では「その最高指揮官は内閣の代表としての内閣総理大臣」と表現している。
2011年現在、特別裁判所が憲法で禁止されているため軍法会議(軍事裁判所・軍事法廷)は置かれていない(従って、軍事刑務所の類は無く、被疑者は一般同様検察庁に送られ、有罪確定の後除隊となる)。諸外国の憲兵に相当する部隊は陸・海・空の各自衛隊に警務隊として組織されている。
- 防衛大臣 - 国務大臣。自衛隊の隊務を統括
- 防衛副大臣
- 防衛大臣政務官(2人)
- 防衛大臣補佐官(3人以内)
- 防衛事務次官
- 内部部局 - 大臣官房、防衛政策局、運用企画局、人事教育局、経理装備局
- 防衛大学校 - 幹部自衛官を養成
- 防衛医科大学校
- 防衛研究所
- 統合幕僚監部 - 統合幕僚長……陸・海・空の各自衛隊を統合運用
- 陸上幕僚監部 - 陸上幕僚長
- 海上幕僚監部 - 海上幕僚長
- 航空幕僚監部 - 航空幕僚長
- 陸上自衛隊 - 統合幕僚長および陸上幕僚長が監督する部隊および機関
- 海上自衛隊 - 統合幕僚長および海上幕僚長が監督する部隊および機関
- 航空自衛隊 - 統合幕僚長および航空幕僚長が監督する部隊および機関
- 情報本部
- 技術研究本部
- 装備施設本部
- 防衛監察本部
- 外国軍用品審判所
陸上自衛隊
陸上自衛隊を参照
諸外国の陸軍にあたる組織であり、日本に対する海外勢力による上陸作戦を防止し、上陸された場合にはこれに対処することを主な任務とする。普通科いわゆる歩兵を機軸として、戦車、装甲車、榴弾砲、対戦車ロケット弾、対戦車ミサイル、地対空ミサイル、対艦ミサイル、ヘリコプターなどを保有する。英訳は、JGSDF: Japan Ground Self-Defense Force。
海上自衛隊
海上自衛隊を参照
諸外国の海軍に当たる組織であり、護衛艦、潜水艦、機雷戦艦艇、哨戒艦艇、輸送艦、対潜哨戒機、ヘリコプターなどを保有する。英訳は、JMSDF: Japan Maritime Self-Defense Force。
海上からの侵略を阻止し、また艦船、航空機、潜水艦等の脅威を排除して、海上交通の安全を確保することを主な任務とする。年間を通じて、日本周辺海域の哨戒任務を行っており、国籍不明潜水艦や他国の艦艇、不審船、遭難信号などを探知した場合は、哨戒機をスクランブル発進させ、護衛艦が緊急出港し、対象目標を継続追尾する体制に移行する。イージス艦は、弾道ミサイルの監視、迎撃任務も負っている。実質的には外洋海軍としての能力を有し、対潜水艦戦や対機雷戦では世界最高水準の能力を有するが、空母艦載機や各種艦艇から発射される対地ミサイルを保有していないため策源地攻撃能力は皆無である。
航空自衛隊
航空自衛隊を参照
諸外国の空軍に当たる組織である。平時においては日本周辺の空域を警戒監視し、領空内に不法に侵入しようとする航空機に対して、戦闘機をスクランブル発進させて、対領空侵犯措置をとる空の警察行動のほか、災害派遣、国際緊急援助隊業務等を行っている。また、有事においては、航空優勢の確保による防空、侵入してくる陸海戦力の航空阻止と近接航空支援を主な任務とする。戦闘機、支援戦闘機、偵察機、輸送機、早期警戒機、空中給油機、地対空誘導弾ペトリオットなどを保有している。英訳は、JASDF: Japan Air Self-Defense Force。
共同の部隊
また、陸上自衛隊、海上自衛隊及び航空自衛隊の「共同の部隊」も設置されている。隊員は、陸・海・空の各自衛隊の混成である。
規模と能力
順位 | 国名 | 軍事費[1]</br>(2009年)[2] | GDP比</br>(2008年) | |
---|---|---|---|---|
1 | テンプレート:アメリカ合衆国 | アメリカ合衆国 | 663,255,000,000 | 4.3% |
2 | テンプレート:中華人民共和国 | 中華人民共和国 | 98,800,000,000 | 2.0% |
3 | テンプレート:イギリス | イギリス | 69,271,000,000 | 2.5% |
4 | テンプレート:フランス | フランス | 67,316,000,000 | 2.3% |
5 | テンプレート:ロシア | ロシア | 61,000,000,000 | 3.5% |
6 | テンプレート:ドイツ | ドイツ | 48,022,000,000 | 1.3% |
7 | 日本 | 46,859,000,000 | 0.9% | |
8 | テンプレート:サウジアラビア | サウジアラビア | 39,257,000,000 | 8.2% |
9 | テンプレート:イタリア | イタリア | 37,427,000,000 | 1.7% |
10 | テンプレート:インド | インド | 36,600,000,000 | 2.6% |
11 | テンプレート:大韓民国 | 大韓民国 | 27,130,000,000 | 2.8% |
23 | テンプレート:中華民国 | 中華民国 | 9,866,000,000 | 2.1% |
高い練度と高度な装備を保有するが、総兵力は約24万人で対人口比で主要国中最低水準である。年間防衛予算も約4兆7千億円で世界的に見て上位に位置するが、対GDP比では1%未満であり世界最低水準である。予算は陸海空で概ね4:3:3の比率であり、予算総額の約44%は人件費で、装備品の調達費は武器輸出三原則の縛りもあり量産によるコスト削減ができず、比較的高額な水準となっている。近年、国家財政の悪化と少子高齢化のために防衛予算と兵力は減少傾向にあり、周辺諸国の軍備拡大に反比例している。憲法9条の解釈上、弾道ミサイル、巡航ミサイル、対地ミサイル、空母、爆撃機などの本格的な策源地(敵地)攻撃用の兵器を保有しておらず、同盟国アメリカの策源地攻撃能力なしでは国土防衛が事実上不可能であるという重大な問題を抱えている。また、正面装備や人件費に予算が優先配分されるため、情報戦や教育、補給といった後方支援に問題があるといわれており、情報漏洩問題や規律違反行為が繰り返し報道されている。戦力維持のために若年定年退職制度を導入しており、多くの自衛官の定年退職が53歳である。
- 陸上自衛隊の定数は約15万2千(即応予備自衛官を除く)であり、三自衛隊の中で最大だが、振り分けられる予算は約1兆7千億円と、海、空自衛隊に大差は無い。小銃をはじめ、戦闘車輌や一部の航空機は国産品を装備しているが、輸入やライセンス生産による装備品もある。遠隔操縦観測システム(FFOS)のような無人航空機の運用能力も持つが、指揮通信能力、統合作戦能力は整備途上にある。専守防衛の観点から、各方面隊が担当地域の防衛を前提に活動している。また、島国という地理上、離島への敵国占拠に備えた対ゲリラ部隊も配備されている。
- 海上自衛隊の定数は約4万5千であり、予算は約1兆5百億円。艦艇、潜水艦、航空機、各陸上基地を運用する。日本が海洋国家であり、通商貿易国家であることから、シーレーンの確保を重視し、太平洋戦争の戦訓から 対潜水艦戦能力と対機雷戦能力に重点を置いている。保有するイージス艦にはBMD能力が付与されており、弾道ミサイル防衛の中核を担う。大きな船体体積を持つひゅうが型護衛艦やおおすみ型輸送艦は離島防衛のための兵員輸送ができ、輸送や医療の面で大規模災害にも対応できる。憲法9条で禁止されているわけではないが、その理念に基づいて、策源地攻撃能力のある固定翼艦載機を搭載した空母や、巡航ミサイルを搭載した戦闘艦や、潜水艦発射弾道ミサイルを搭載した潜水艦を保有しておらず、大規模な戦力投射を担う海兵隊も保有していない。
- 航空自衛隊の定数は約4万7千人であり、予算は約1兆8百億円。アメリカ製の大型戦闘機F-15、F-16をベースとしたF-2戦闘機をはじめ、世界で唯一採用しているE-767早期警戒管制機や、KC-767J空中給油機、パトリオットミサイル、バッジシステムの導入により、世界的にも高水準の防空能力を維持する。ただし憲法9条の理念に基づいて、任務が防空に特化されており、対地ミサイルや対レーダーミサイルや戦略爆撃機等を保有しておらず、諸外国の空軍と比べると策源地攻撃能力は極めて低い(実効力のある策源地攻撃用の装備品はF-2で運用されるJDAMのみ)。高度な救助能力を持つ航空救難団は災害派遣でも活用されている。
各自衛隊の気質
- ↑ The SIPRI Military Expenditure Database
- ↑ 実質為替レート アメリカドル(2008年)