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また、このような労働環境が知れ渡るにつれ、[[秒速5センチメートル]]で組み込みプログラマとしての生活が過去の華やかな青春との対比に使われるなど、過去の先進的なイメージからは遠ざかっている。 | また、このような労働環境が知れ渡るにつれ、[[秒速5センチメートル]]で組み込みプログラマとしての生活が過去の華やかな青春との対比に使われるなど、過去の先進的なイメージからは遠ざかっている。 | ||
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+ | == 女性SE、過酷勤務で死亡(2007年) == | ||
+ | 情報処理システム会社の福岡事業所に勤務していた福岡市のシステムエンジニアの女性(当時31歳)が急死したのは過酷な労働が原因として、両親が同社合併後にできた「[[アドバンストラフィックシステムズ]]」(本社・東京)に対し、慰謝料など計約8200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が[[2012年]][[10月11日]]、福岡地裁であった。 | ||
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+ | 府内覚裁判官は「死亡と会社の業務との間には因果関係がある」として、同社に計約6800万円の支払いを命じた。 | ||
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+ | 判決によると、女性はシステム移行などを担当し、2007年2月の時間外労働が約127時間に上った。3月に仕事上のミスなどが原因で自殺未遂し、約1か月間休養した。その後復職したが、深夜残業など過酷な勤務が続き、5日後、東京出張中に致死性不整脈で死亡。福岡中央労基署は2009年、労災認定した。 | ||
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+ | 同社側は「亡くなる直前に約1か月の連続休暇を取得しており、死亡と業務に因果関係はない」などと主張した。しかし、府内裁判官は「特に自殺未遂前の時間外労働時間は長く、脳・心疾患の発症をもたらす過重なもので、会社は休暇を取らせるなど具体的な措置をとっていなかった」と述べた。 | ||
== 関連 == | == 関連 == |
2012年10月21日 (日) 19:21時点における版
IT土方(アイティどかた)とは、システムエンジニアやプログラマなど情報技術産業で働く労働者の俗称。コンピュータ土木作業員(コンピュータどぼくさぎょういん)、システム屋(システムや)とも呼ばれる。
概要
パソコンや各種情報端末を駆使するIT産業は、現代の花形産業というマスコミが作り出した華やかなイメージやその求められる専門技術の高さとは裏腹に、実際の労働は地味で単調で長時間に及ぶため厳しい労働環境となるケースが多い。また、元請企業であるゼネコンが下請企業を支配し仕事を丸投げするという、建設・土木業界によく似た多層式の産業構造になっており、実際の現場における末端の従業員に対しては専門職の技術者という意識は乏しく、単なる作業要員という扱いがされているほか、多重派遣や偽装請負が頻繁に行われており、この様な構造によりIT業界そのものが維持され、その利益が上へ上へと吸い上げられ、収入増やキャリアアップの機会も無い末端の従業員は次々と使い捨て同然に消費され、人材の入れ替わりが激しいのが実態である。
このことから、IT業界のヒエラルキーの最下層で働く労働者が、割に合わない低賃金の上に不安定な雇用環境の労働現場で厳しい労働実態を強いられている自らを卑下して表現する形で、やはり建設・土木業界の最下層で厳しく不安定な労働条件の下に働かされている土方(土木作業員)にたとえ、デジタル土方、IT土方あるいはコンピュータ土木作業員などという表現がなされるようになった。
また、人月計算と呼ばれる日数と必要人数の掛け算という単純な計算によるシステム発注の金額の設定方法も土木作業員と同様の待遇といわれるゆえんである。
IT系人材派遣会社・関連メーカーの存在
IT産業の元請企業が下請企業に仕事を丸投げしたり、元請け自身が非正規雇用を雇用するにしても過酷な労働条件で末端の従業員を消耗品同然に使い潰して行く搾取型のビジネスモデルの構造はたびたび批判されるが、現代日本においてそういったいびつな産業構造はIT産業が唯一の例外というわけではない。たとえばIT産業にとっても不可欠なツールであるパーソナルコンピュータの通信販売やショップブランドパソコンへのOEM供給を主業とする“直販メーカー”でも同様の状況はいくらでも見られる。これら業界では製品組立ライン従事以外にもサポート業務のとりわけ特にクレーム処理は非正規雇用や派遣社員に依存しているが、一般的にこのような業務に従事する者に対しては長期間雇用を前提としない低水準の従業員教育が行われ、スキルアップやキャリアアップの機会も事実上ない。また、そのような実情を知らずに劣悪な環境に飛び込んだ者は「非正規労働者が短期間で次々に使い潰されても会社は何事もなく回る」「消えた者の替わりがいくらでも入ってくる」という現実を目の当たりにしながら、結局のところ短期間での使い捨てを前提とした会社組織の最下層で低賃金と過酷な労働に苦しめられる。この様な業界で従業員が置かれている搾取型の使役環境の過酷さは、IT業界のそれとさしたる違いがない。
しかし、とりわけIT産業が厳しい批判に晒され続けている理由は、ITバブル(過剰なIT投資ブーム)の時期から台頭してきたIT系人材派遣会社の実態にある。IT系人材派遣会社の多くは表向きは上流のSI企業を自称しているが、実態は未経験者歓迎を謳い文句に多くの人材を安価に調達し、さらに上流のSI企業に提供する人材派遣業者に過ぎない。IT系人材派遣会社に入る者の大半はSI企業で働くことによるスキルアップとキャリアアップの機会を期待するが、実際任される仕事の大半は専門性を必要としない長時間のテスト作業であったり、トラブル対応・クレーム処理など、誰もが嫌がる忍耐が必要な仕事で、24時間サービスなどを請け負っている企業の場合には勤務シフトが夜勤中心ということになる場合もある。またSE未経験者の多くは研修という名目でサービス残業を強要されるケースも多く、労働者派遣としての適正な管理がなされていない偽装請負であるケースも後を絶たない。このような人材派遣会社が乱立跋扈してきたIT業界は現代の搾取型のビジネスモデルによって成り立っている業種の象徴的存在とされ、ITバブルの時代から数多くの批判に晒されてきた。
より高い信用力と技術力が求められるため一定の企業規模を必要とする上流SIに比べ、小規模組織でも参入が容易でリスクが低く確実なリターンが得られたIT系人材派遣会社は全国各地で乱立し、営業拠点が作られていった。現在のIT系人材派遣会社の多くは、有効求人倍率が低く就職氷河期の渦中であった1998年から2000年に起こったITバブルの波に乗り急成長を遂げたものや、それらからスピンアウトして立ち上げられたものである。また、請け負う仕事の量に応じて事業者間で人材を融通しあうことから、元請企業へ人材が届くまでに5つ以上の会社を経由することは今でも珍しくない。ITバブル崩壊以後は業績悪化を理由に上場企業を中心にM&Aがさかんに行われるも、IT系人材派遣会社の多くは中小のワンマン企業で、乱立した企業群が人材を安価で提供し大量消費財の如く浪費するだけの搾取型ビジネスは今でも根強く残っている。
独立系システムインテグレータ
デジタル土方という言葉の流行は独立系システムインテグレータに起因する。独立系システムインテグレーターの労働環境は下層になるほど劣悪であり、従業員は奴隷のごとく働かされる。独立系以外にはメーカー系、ユーザー系などがある。
- メーカー系 電機メーカーなどの子会社を指す、福利は親会社に準ずることが多く、本社のソフトウェア関連の仕事を受け持つことが多い。
- ユーザー系 金融、流通、インフラストラクチャー、総合商社などのITと関係のない子会社か資本関係をもつ会社、親会社の仕事が多く福利も親会社に準ずることが多く、親会社のシステム部門が独立したものが多い。
- 独立系 親会社を持たない企業を指す。「一定の知名度と信頼があり顧客から直接業務を受注できる」「独自の人気コンテンツやソフトウェアがある」「組込みソフトウェアや回路設計など高度な技術を持っている」などで、安定した収入源を持っている企業もあるが、これらがない場合は他の企業からのIT関連業務を格安で請け負う下請業者や人材派遣会社でしかない。このことが収益の悪化と社員への待遇の悪化へ繋がっている。
新3K職場
労働環境の劣悪さ揶揄する言葉として、従来のブルーカラーの労働環境を表す「きつい、汚い、危険」の3Kになぞらえ、新3Kあるいはニュー3Kというものがある。2007年には、NTTデータの代表取締役である浜口友一が決算発表でこの言葉を例えに挙げて業界を憂えたと報道された。
新3Kの中身は諸説あるが2007年に開かれた情報処理推進機構によるITフォーラムでは、学生がIT業界に対して持つイメージとして「きつい、帰れない、給料が安い、休暇取れない、結婚できない、子供作れない」などの他に、多くのネガティブイメージの存在が明らかにされた。
一方、情報処理推進機構理事として2000年代に日本のIT国家戦略の支援に携わってきた藤原武平太は、企業新卒採用の課題を複数回答でまとめた表(第一位は、46.5%、業界の仕事のイメージが良くない)を踏まえて、「3K、5K、7K、10Kなど私自身は根拠がないと思っていることが、面白おかしく伝わっている。――略――。私は由々しき事態と思っている」と述べている。
また、このような労働環境が知れ渡るにつれ、秒速5センチメートルで組み込みプログラマとしての生活が過去の華やかな青春との対比に使われるなど、過去の先進的なイメージからは遠ざかっている。
女性SE、過酷勤務で死亡(2007年)
情報処理システム会社の福岡事業所に勤務していた福岡市のシステムエンジニアの女性(当時31歳)が急死したのは過酷な労働が原因として、両親が同社合併後にできた「アドバンストラフィックシステムズ」(本社・東京)に対し、慰謝料など計約8200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が2012年10月11日、福岡地裁であった。
府内覚裁判官は「死亡と会社の業務との間には因果関係がある」として、同社に計約6800万円の支払いを命じた。
判決によると、女性はシステム移行などを担当し、2007年2月の時間外労働が約127時間に上った。3月に仕事上のミスなどが原因で自殺未遂し、約1か月間休養した。その後復職したが、深夜残業など過酷な勤務が続き、5日後、東京出張中に致死性不整脈で死亡。福岡中央労基署は2009年、労災認定した。
同社側は「亡くなる直前に約1か月の連続休暇を取得しており、死亡と業務に因果関係はない」などと主張した。しかし、府内裁判官は「特に自殺未遂前の時間外労働時間は長く、脳・心疾患の発症をもたらす過重なもので、会社は休暇を取らせるなど具体的な措置をとっていなかった」と述べた。