滋賀銀行9億円横領事件

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滋賀銀行9億円横領事件とは、京都府京都市山科区1973年10月21日に発生した横領事件である。

事件概要[編集]

1973年10月21日、滋賀銀行山科支店のベテラン行員・奥村彰子(当時42歳)が横領の容疑で逮捕された。奥村は同年2月までの6年間で、およそ1300回にわたって勤務先から偽造伝票を操作して史上空前の9億円の金を着服、ほとんどを10歳年下の元タクシー運転手・山県元次(当時32歳)に貢いでいた。

9億円の恋[編集]

奥村が山県と出会ったのは昭和40年頃。山県はギャンブル好きで特に競艇にはまり込んでいた。毎日のように競艇に出かける山県を「金回りのよい男」と思い込んだ奥村は預金の勧誘をした。この些細なきっかけが転落の始まりだった。

山県は奥村に「元金を倍にしてやる」と競艇の掛け金を要求。それに応じた奥村は自分の貯蓄を引き出して山県に渡した。だが、儲けはおろか元金さえ戻ってこなかった。だが、奥村は惚れた弱みで山県の要求を拒否できず、ついに銀行の金を偽造伝票で引き出しすようになった。

昭和45年になって、山県の要求は益々エスカレートしていき毎日のように支店に電話をかけては金を催促した。奥村が要求に躊躇すると、結婚話や心中話、時には脅して金を巻き上げた。一方の奥村は、山県に対する愛と脅されている恐怖心との相反する複雑な心境の中、横領した金を渡し続けた。その横領した金額は約9億円にのぼり、一女性行員が横領した金額としては史上最高額であった。

昭和48年2月頃、奥村はこの不始末を詫びるため2人で心中しようと、下関にある山県の実家に電話をかけた。電話にでた山県は、「明日会うから睡眠薬を用意しておけ」と言った。翌日、奥村宅を訪ねてきた山県は、心中どころか、更に金を要求。奥村が現金300万円を渡すと山県はさっさと帰ってしまった。

数日後、銀行側が内部監査をはじめると、発覚を恐れた奥村は失踪。大阪空港近くで山県と合流した奥村は、「どうにもならない。助けて欲しい」と哀願。すると山県は、「住み込みでもして働け」と言って、奥村がはめていた指輪など貴金属類も取り上げてしまった。この段階で、奥村は山県に騙されたと気づくのである。

その後、奥村は飲食店の皿洗いをしながら偽名でアパートを借りて潜伏した(月給は6万円で、逮捕された時には所持金が4万円だったという)。

銀行は、巨額横領の実態をこの段階で把握し大津署に被害届けをだした。受理した大津署は、捜査を開始し同年10月15日に山県を逮捕。自供から潜伏先を割りだし奥村を逮捕した。

逮捕後の事実[編集]

奥村は、山県が独身と信じ込んでいた。だが、逮捕後に捜査員から「山県は妻子持ち」と教えられ愕然とした。また山県は、奥村が貢いだ9円の内、競艇に3億円、遊興費に7000万円、実兄の金融会社に5000万円、自宅の購入費に6500万円、その他で約5億2000万円の使い道を自供した。

大津地裁の公判で奥村は、「山県に脅され騙された」としながら犯行を全面的に認めた。一方、山県は「全て、奥村さんがくれたもの」として共犯を否認した。

裁判[編集]

昭和5年6月29日大津地裁は、「奥村は山県にせがまれるままに犯行を続けた。だが、十分反省している。一方、山県は改悛の情がない」として奥村に懲役8年、山県に懲役10年を言い渡し確定した。

奥村は和歌山女子刑務所に服役していたが、入所時からすでに有名人で、好奇の目で見られたりした。所内ではおとなしく、おどおどした雰囲気で、いじめられるようなこともあったという。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • 「ドキュメント女たちの殺意」 丸川賀世子 旺文社
  • 河出書房新社 「人生読本 犯罪時代」 旺文社
  • 警察文化協会 「戦後事件史 警察時事年間特集号」 旺文社
  • 「実録戦後女性犯罪史 日本毒女たちの凶状録」コアマガジン
  • 「女囚52号の告白 実録!塀の中の女たち2」崎村ゆき子 恒友出版
  • 「犯罪の昭和史 3」 作品社・編 作品社
  • 「犯罪風土記」 朝倉喬司 秀英書房
  • 「悪女と呼ばれた女たち 阿部定から永田洋子・伊藤素子まで」小池真理子 主婦と生活社
  • 「<恋愛>事件 500メートルの女たち PART1」 山崎哲 芹沢俊介 春秋社
  • 「別冊歴史読本 戦後事件史データファイル」新人物往来社
  • 「昭和史の闇<1960-80年代>現場検証 戦後事件ファイル22」合田一道 新風舎
  • 「明治・大正・昭和・平成 事件犯罪大事典」事件・犯罪研究会・編 東京法経学院出版
  • 「戦後女性犯罪史」 玉川しんめい 東京法経学院出版 
  • 「シリーズ20世紀の記憶 連合赤軍”狼”たちの時代 1969-1975 なごり雪の季節」毎日新聞社
  • 「犯罪の向う側へ 80年代を代表する事件を読む」 朝倉喬司VS山崎哲 洋泉社