街宣車
街宣車(がいせんしゃ)とは、主義主張・思想の宣伝や商品・サービスの宣伝、商業イベントの告知等のために、大音量で音楽・演説・キャッチフレーズの連呼等を流すために利用する自動車のこと。「街頭宣伝車」の略。街宣カーとも。税制上優遇され、ほとんど課税されない特種用途自動車(いわゆる8ナンバー、放送宣伝車)として登録を受けていることが多い。
石焼き芋販売、ちり紙交換等の直接的な営業活動を行う自動車が宣伝活動を同時に行う場合は、街宣車とは呼ばれず移動販売車となる。
相違点は、移動販売車が単なるトラック―貨物車であるのに対し(例外として改造してある場合も)、街宣車には団体名やキャッチフレーズなどもペイントされ、道路運送車両法上の特種車両として扱われ、宣伝以外の目的に使用する事が困難な事である。
種類[編集]
右翼街宣車[編集]
右翼団体が自己の主張を一般大衆に知らしめるために使用する。赤尾敏が大日本愛国党で使ったのが最初と言われているが、一方で防共挺身隊が、自分達がそのはじまりであるとも主張している。黒色や艶消しオリーブドラブ(国防色、深緑色、自衛隊色)で塗装し、天皇崇拝を表す為に山吹色の菊紋をマーキング、巨大な日章旗や旭日旗を掲げる等の外観が好んで採用されることが多く、赤色警光灯(パトライト)を装備している物も存在する。
見た目もバリケードを突破するために装甲車のような見た目を持つものから、選挙カーそのものまでと幅広い。また大声で主張を訴えたり、大音量で音楽を流すのが特徴である。主な曲としては、かつては「軍艦行進曲」、「同期の桜」、「月月火水木金金」「出征兵士を送る歌」などの軍歌が主流であったが、近年に至り「機動戦士ガンダム」や「宇宙戦艦ヤマト」、「巨人の星」と言ったアニメの主題歌(アニソン)など、力強い曲調、歌詞の音楽を流す場合もある。最近では演歌を流す車が多い。
多くの車両は中古の観光バスなどを改造して使用されていたが、2002年に関東地方南部1都3県でディーゼル車規制条例に基づいて実施されたディーゼルエンジンの自動車排出ガス規制に適合できず都心部で見かける車両が減少した。こうした乗り入れ規制を回避するため、RV(主にトヨタ・ハイエースや日産・キャラバンなどのワンボックス車、トヨタ・ランドクルーザーや三菱・パジェロなどの4WD車)を改造する傾向も見られ、以前と比べて小型化が進んでいる。また、価格が比較的安価なマイクロバスを新車で購入して街宣車に改造する例も見られる。
なお、右翼団体のみならず左翼団体もしばしば街宣車活動をすることがあるが、「団結する市民」を標榜する傾向があるのでむしろ道路を多人数で占拠して徒歩するというデモ活動という形式をとることが多い。こちらの車種は威圧感は比較的少なく、概して団体名を大書しただけの白やアイボリーのワンボックス車で、スピーカーはルーフラックにボルト留めにした程度の物が殆どである。
選挙運動車[編集]
公職選挙の選挙運動期間にのみ活動する。選挙カーとも呼ばれる。ワンボックス車やバスを改造したものが多く、屋根の上や後部に候補者が立ち、駅前などの繁華街に駐車して演説などの選挙運動を行う。公職選挙法の規制を受けるため、活動時間・内容には制限がある。また、走りながら流す内容は、キャッチフレーズ(政策)と候補者名・所属政党名の連呼に留まる[1]。
多くの政党や労働組合、市民団体などでは、規制を受けない通常型の宣伝車も保有する事が多い。当然、流す内容も街頭演説の告知や機関紙の宣伝など多岐に渡る。
道路交通法により、選挙運動車は運転者以外のシートベルト着用義務が免除されている。また、乗車定員10人以下の車に乗車人員6人以下と規制されている。
宣伝車[編集]
商品はもちろんのこと、パチンコ店・風俗店のようなサービス業、サーカス・プロレス・コンサート・ミュージカル・映画等の興行の宣伝にも街宣車は使用される(このように行なわれる広告活動を「トレーラー広告」と呼ぶ)。ワンボックス車やバスの側面や後部を広告のラッピングフィルムで覆ったもの、トラックの荷台に商品の形状をした張り子や単に看板を載せただけのものもあり、宣伝内容や音楽を流して繁華街を走る。専門の業者も存在する。なお大都市の路線バスでラッピング広告が始まった当時、観光バスの稼働率を上げるべく車体いっぱいにラッピングフィルムを貼って空車のまま走らせたことがあり、賛否両論だったという。2008年現在、宣伝車の市場も広がり宣伝媒体として他社企業PRを請け負う業者も増えている。 広告宣伝車 も参照
構造要件[編集]
1990年代から保険料や自動車税を少しでも免れる手段として、特種用途自動車として登録した後、日常の使用では必要な機材や設備を取り外す、いわゆる「違法8ナンバー車(不正8ナンバー車)」が横行した。
中でも、通常乗用車として登録されるべきスポーツカーでさえ放送宣伝車や事務室といった8ナンバーを取得するための手口として悪用され、国土交通省が公表した登録台数を見ても
- 放送宣伝車:1991年は約4600台→2000年には約6万5500台(約14倍)
- 事務室車:1991年は200台弱→2000年には20000台超(約111倍)
に激増し、その多くが非課税を目的とした違法8ナンバーが目的と思われ、8ナンバー車でも増税されない限り、このような違法改造車はなくならない。
そこで2001年にキャンピングカー・放送宣伝車・事務室車の構造要件が強化され、街宣車に適用される放送宣伝車の要件は次のように規定された。
音声による放送・宣伝を行う車[編集]
- 音声・音量等調整装置(ミキサーやアンプなど)、マイクロホンを車室内に設置し、操作できるようにしてあること
- 放送する者のための座席を備え、その部分の床面からの高さは1.2m以上を確保すること
- 車外に拡声器(スピーカー)を装着すること
- 演説用のステージ(舞台)、または放送宣伝活動に必要な資材、機材など(パンフレットや幟、横断幕など)を収容するスペースを確保すること
映像による放送・宣伝を行う車[編集]
- 運転席より後ろの側面または後方に映像表示設備(ディスプレイ)を設けるもの(映像表示装置の面積は2平方メートル以上。展開するものでも可、但し走行時には表示しないこと)
- 車室内に再生装置(ビデオデッキやDVDプレイヤーなど)または外部からの映像信号を中継する装置や調整装置、これらを作動させるために必要な電源または給電設備を搭載していること
脚注[編集]
- ↑ 第141条の3 何人も、第141条 (自動車、船舶及び拡声機の使用) の規定により選挙運動のために使用される自動車の上においては、選挙運動をすることができない。ただし、停止した自動車の上において選挙運動のための演説をすること及び第140条の2第1項 (連呼行為の禁止) ただし書の規定により自動車の上において選挙運動のための連呼行為をすることは、この限りでない。