黄金比

提供: Yourpedia
移動: 案内検索
黄金長方形(縦横の長さの比が黄金比( 1: 1.618…)である長方形)から最大正方形を切り落とすと、元の長方形と相似になる。赤線は黄金螺旋、緑線は正方形内の四分円を接続したものである。黄色は重なっている部分を表す。

黄金比(おうごんひ、golden ratio)とは、次の値で表されるのことである

1 : <math>\frac{1+\sqrt{5}}{2}</math>

以下で述べるような数理的な性質は、有理数にならないこの値のみが持つ性質であり、有理近似等には基本的には意味が無い。「デザインを美しくする」などといった巷間よく見られる説については#用途の節を参照。小数に展開すると 1 : テンプレート:val あるいは テンプレート:val : 1 といった値となる。 黄金比は貴金属比の一つである(第1貴金属比)。

幾何的には、a : b が黄金比ならば、

a : b = b : (a + b)

という等式が成り立つことから、縦横比が黄金比の矩形から最大正方形を切り落とした残りの矩形は、やはり黄金比の矩形となり、もとの矩形の相似になるという性質がある。正五角形の1辺と対角線との比は黄金比に等しい。数列 テンプレート:math2 は、等比数列をなす。そのため、(中項 b と末項 a + b の比という意味で)中末比(ちゅうまつひ)とも呼ばれる。

線分を2つに分け、短い部分と長い部分の長さの比が、長い部分と全体の長さの比に等しくなるようにしたときの比であるため、外中比(がいちゅうひ、extreme and mean ratio)とも呼ばれる。黄金比で長さなどを分けることを黄金比分割または黄金分割golden section または golden cut)という。

黄金比における

<math>\frac{1 + \sqrt{5}}{2}</math>

黄金数(おうごんすう、golden number)という。しばしばギリシア文字φ(ファイ)で表されるが、τ(タウ)を用いる場合もある。黄金数は、二次方程式 x2x − 1 = 0 の正のである:

<math>\varphi = \frac{1+\sqrt{5}}{2} = 1.6180339887\cdots</math>

黄金数の性質

既約多項式

  • <math>\varphi^2 = \varphi + 1</math>
<math>\varphi = \frac{1 + \sqrt{5}}{2} = 1.6180339887\cdots</math>
  • <math>\varphi^{-1} = \varphi -1 = \frac{-1+\sqrt{5}}{2} = 0.6180339887 \cdots</math>

連分数表示

  • 黄金数は次のような連分数表示をもつ:
<math>\varphi = 1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{\ddots}}}} = [1;1,1,1,1,\cdots]</math>
  • 次のような表示ももつ:
  • <math>\varphi^{-1} = [0; 1, 1, 1, \cdots] = 0 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \ddots}}}</math>
  • <math>\varphi = \sqrt{1 + \sqrt{1 + \sqrt{1 + \sqrt{1 + \sqrt{\cdots}}}}}</math>

級数表示

  • <math>\varphi = \frac{13}{8} + \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^{n+1} \, (2n+1)!}{(n+2)! \, n! \, 4^{2n+3}}</math>

三角関数による表示

三角関数を使うと次のように表すことができる:

  • <math>\varphi = 2\cos \frac{\pi}{5} =2\cos 36^\circ</math>
  • <math>\varphi = 2\sin \frac{3 \pi}{10} = 2\sin 54^\circ</math>
  • <math>\varphi = -2\sin 666^\circ</math>
  • <math>\varphi = 1+2\sin \frac{\pi}{10} = 1+2\sin 18^\circ</math>
  • <math>\varphi = 1+2\cos \frac{2\pi}{5} = 1+2\cos 72^\circ</math>
  • <math>\varphi = \frac{1}{2} \csc \frac{\pi}{10} = \frac{1}{2} \csc 18^\circ</math>
  • <math>\varphi^{-1} = 2\sin \frac{\pi}{10} = 2\sin 18^\circ</math>
  • <math>\varphi^{-1} = 2\cos \frac{2\pi}{5} = 2\cos 72^\circ</math>

指数関数による表示

指数関数を使うと次のように表すことができる。

  • <math>\varphi = e^{\,i\frac{\pi}{5}} + e^{\,i\frac{-\pi}{5}}</math>

黄金比に関する極限

  • <math> \sum_{n=1}^{\infty} \frac{n}{\varphi^{2n}}=1</math>

フィボナッチ数列との関連

等比数列 テンプレート:math2 は、第3項以降がそれぞれ直前の2項の和に等しい性質を幾何学的に表した図。青, 緑, 黄, 赤の線分は階差を表し、同色同士は長さが等しくなる。
φn + φn+1 = φn+2n は自然数)

が成り立つ。

φ2 = φ + 1,
φ3 = 2φ + 1,
φ4 = 3φ + 2,
φ5 = 5φ + 3,
φ6 = 8φ + 5,
...

となり、係数にフィボナッチ数列が出現する。n番目のフィボナッチ数を Fテンプレート:sub とすると、φn は次のようになる。

φn = Fテンプレート:sub φ + Fテンプレート:sub

幾何学的性質

半径の比が

<math>( \varphi - \sqrt{\varphi} ) : 1 : ( \varphi + \sqrt \varphi )</math>

である3つの円が互いに外接する時、その3つの円の全てと外接する大小2つの円を描くことができ、それらを合わせた5つの円の半径の比は

<math>({\varphi - \sqrt \varphi })^2 : ( \varphi - \sqrt{\varphi} ) : 1 : ( \varphi + \sqrt \varphi ) : ( \varphi + \sqrt \varphi )^2</math>

である。

ここで

<math>\varphi - \sqrt{\varphi} = \frac{1}{\varphi + \sqrt \varphi}</math>

であり、隣接する円との半径の比が同じで、互いに密に接する円の列を螺旋状に無限に配置することができる。

(→デカルトの円定理

作図

黄金比.png

最も簡単な作図方法は下記の通り。

  1. 正方形 abcd を描く。
  2. 辺 bc の中点 o を取る。
  3. 中心を o とし、d (a) を通る円を描き、辺 bc の延長との交点を e とする。
  4. 長方形 abef を描く。
  5. ab : be は黄金比となる(長方形 abef は黄金長方形)。

五角形五芒星(星形:☆)(何れも作図可能)から容易に作図することができる。正五角形の一辺と対角線の比、五芒星の辺と隣接2頂点の距離の比は、黄金比に等しい。

応用

五次方程式 x5 − 1 = 0 を解く過程で黄金数が出現する。

(x − 1)(x4 + x3 + x2 + x + 1) = 0
(x − 1)(x2 + φx + 1)(x2 + (1 − φ)x + 1) = 0

この後は テンプレート:math2 と2つの2次方程式から5つの解を求めることができる。

歴史

  • 伝承では、古代ギリシアの彫刻家ペイディアス (Φειδίας) が初めて使ったと言われる。黄金比の記号φは彼の頭文字であるが、使われ始めたのは20世紀である。なお、τはギリシア語の「分割」に由来し、やはり20世紀に使われ始めた。
  • 「黄金比」という用語が文献上に初めて登場したのは1835年刊行のドイツの数学者マルティン・オーム(オームの法則で有名なゲオルク・ジーモン・オームの弟)の著書『初等純粋数学』。また、1826年刊行の初版にはこの記載がないことから、1830年頃に誕生したと考えられる。
  • ユークリッド原論』では第6巻の定義3で外中比の定義が記されている。
  • 『ユークリッド原論』の第6巻の命題30で「与えられた線分を外中比に分ける作図法」が記されている。

用途

長方形は縦と横の長さの比が黄金比になるとき、安定した美感を与えるという説がある。これはグスタフ・フェヒナー1867年の実験を論拠としている。しかし、フェヒナーの実験の解釈については否定的な様々な見解がある。1997年に国際経験美学会誌の黄金分割特集では、この実験結果を「永遠に葬るもの」とする見解が掲載された。また類似の(すなわち、同様に根拠が極めてあやしい)安定した比とされるものに白銀比がある [1]

黄金比は、長方形の形状の物の縦横比に利用されることが多い。例えば、名刺をはじめとする様々なカード類などである[2][3]

ディスプレイアスペクト比には、WQXGA(解像度2560x1600)、WUXGA1920x1200)など、黄金比に近い8:5 (16:10) のものもある。

黄金比はパルテノン神殿ピラミッドといった歴史的建造物美術品の中に見出すとされてきたが、これらは後付けの都市伝説であるものが含まれる。一方で、意図的に黄金比を意識して創作した芸術家も数多い[4]

自然界に存在する植物の葉脈や巻貝の断面図など対数螺旋ではないが黄金比に近い例として度々挙げられる。工学分野では、自動車ではスポーツカーオフロードセミトレーラー用トラクタ軽トラックトレッド(輪距)とホイールベース(軸距)の関係が黄金比に近い。具体的には 普通乗用車であれば1500 mm 程度のトレッドに対し、ホイールベースが2400 mm 前後とやや短い値となる。これは、いずれの車種においても旋回性能が重要視されるためである。

黄金比は、容姿の美しさの指標として美容業界でもよく用いられ、身体において足底から臍(へそ)までの長さと臍から頭頂までの長さの比が黄金比であれば美しい、また、顔面の構成要素である目、鼻、口などの長さや間隔、細かな形態も黄金比に合致すれば美しいとされている。そして、その黄金比は横1:縦1.618となっている顔である[5]。 なお、黄金比に近い容貌コーカソイド(白人)に多く[6]、日本人を含むアジア人は黄金比とはかけ離れてることが多いため[7]、日本においてはアジア人に近い「白銀比」(別名「大和比」)という比率で美しさを論じる審美観が存在する[8][9][10]

黄金比の近似値

1.

6180339887 4989484820 4586834365 6381177203 0917980576 2862135448 6227052604 6281890244 9707207204 1893911374
8475408807 5386891752 1266338622 2353693179 3180060766 7263544333 8908659593 9582905638 3226613199 2829026788
0675208766 8925017116 9620703222 1043216269 5486262963 1361443814 9758701220 3408058879 5445474924 6185695364
8644492410 4432077134 4947049565 8467885098 7433944221 2544877066 4780915884 6074998871 2400765217 0575179788
3416625624 9407589069 7040002812 1042762177 1117778053 1531714101 1704666599 1466979873 1761356006 7087480710
1317952368 9427521948 4353056783 0022878569 9782977834 7845878228 9110976250 0302696156 1700250464 3382437764
8610283831 2683303724 2926752631 1653392473 1671112115 8818638513 3162038400 5222165791 2866752946 5490681131
7159934323 5973494985 0904094762 1322298101 7261070596 1164562990 9816290555 2085247903 5240602017 2799747175
3427775927 7862561943 2082750513 1218156285 5122248093 9471234145 1702237358 0577278616 0086883829 5230459264
7878017889 9219902707 7690389532 1968198615 1437803149 9741106926 0886742962 2675756052 3172777520 3536139362
1076738937 6455606060 5921658946 6759551900 4005559089 ・・・・・・

その他

また類似の安定した比として白銀比がある。

関連項目

参考文献

  • ハンス・ヴァルサー『黄金分割』日本評論社 ISBN 4535783470
  • R.A.ダンラップ『黄金比とフィボナッチ数』日本評論社 ISBN 4535783705
  • 中村 滋『フィボナッチ数の小宇宙(ミクロコスモス)―フィボナッチ数、リュカ数、黄金分割』日本評論社 ISBN 4535782814
  • 佐藤 修一『自然にひそむ数学―自然と数学の不思議な関係』講談社ブルーバックス ISBN 406257201X
  • アルプレヒト・ボイテルスパッヒャー、ベルンハルト・ペトリ『黄金分割―自然と数理と芸術と』共立出版 ISBN 4320017811
  • 高木 貞治『数学小景』岩波現代文庫 ISBN 4006000812
  • ユークリッド原論(縮刷版)』共立出版 ISBN 4320015134
  • マリオ・リヴィオ『黄金比はすべてを美しくするか?』共立出版 ISBN 4152086912

外部リンク

注釈・脚注