雛の宿
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『雛の宿』(ひなのやど)は、三島由紀夫の短編小説。1953年(昭和28年)、雑誌「オール讀物」4月号に掲載。怪奇小説とみなされることもある。現行版はちくま文庫と、新潮文庫『女神』に収録されている。
あらすじ
大学2年の学年試験を3月2日に終え、僕は3日の夕方4時ごろ銀座の町を歩いていた。ふと入った数寄屋橋近くのパチンコ屋の隣りの台におさげ髪の女学生がいた。僕は、去年死んだ妹と同年齢の少女に興味を持ち、おぼつかない手つきの彼女に声をかけた。一緒に店を出ると、少女は無邪気に寄りそってきた。神田キヨ子と名乗った少女は、自分の家に僕を招いた。
武蔵小金井駅で下りて暗い野道ゆき、彼女の家についた。家にはキヨ子の母という初老の女がいて、大きな雛壇が飾られていた。もてなされた膳は灰皿くらいの小さなもので、ピンセットで作ったような料理がミニチュアの椀や皿に並んでいた。白酒に酔ったキヨ子は眠くなり退室した。帰ろうとする僕は母親に強く引きとめられ泊まるように勧められた。案内された部屋には、キヨ子が裸で蒲団に横たわって待っていた。
その後、秋にその家を見に行った時、近所の雑貨屋のおやじから、二人が色きちがい母子だという噂を僕は聞いた。神田家の中を覗いて見ると二人は前と同じまま、雛壇の前に微動もしないで座っていた。僕はそこを急いで立ち去った。
登場人物
- 僕
- 大学を卒業し就職口も決まった青年。前年の不思議な出来事を語る。世田谷区に家がある。
- 神田キヨ子
- おさげ髪の女学生。可愛らしい鼻に大きな目。無邪気な娼婦のよう。
- キヨ子の母
- 小さな初老の女。
- 雑貨店のおやじ
- 薬屋兼雑貨屋。ふきげんな顔つきに似合わない屈託のない鼻声。
作品評価・解説
本作について東雅夫は、一見すると心霊モチーフとは無縁に思われる怪作だが、「ひとたび視点を変えて眺めるとき、にわかに異界の霊気を放ちはじめる」[1]と述べ、「謎めいた母娘が暮らす家に招じ入れられる『雛の宿』の語り手は、待ち受ける女たちの側からすれば、節日の夜に去来する一種のマレビトめく存在であろう」[1]と解説している。
おもな刊行本
脚注
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参考文献
- 『文豪怪談傑作選 三島由紀夫集 雛の宿』(付録・解説 東雅夫)(ちくま文庫、2007年)
- 『決定版 三島由紀夫全集第42巻・年譜・書誌』(新潮社、2005年)
- 『決定版 三島由紀夫全集第18巻・短編4』(新潮社、2002年)