博士
この項目では、学位について説明しています。その他の用法については「博士 (曖昧さ回避)」をご覧ください。 |
博士(はくし)は学位の最高位(博士の学位参照)。ドクターのこと。俗に「はかせ」ということもあるが、「はくし」というのが正式である。博士課程に在籍して学位論文を合格、無事修了した者に授与される課程博士と、在学しないまま学位審査に及び合格した者に授与される論文博士がある。また、学位ではないが、名誉称号としての名誉博士なども存在する。外交儀礼上、各国政府要人等が博士号取得者である場合、官名の後に博士閣下と敬称する事例が見受けられる。
Ph.D.も参照のこと。
目次
概要
博士 (Doctor) の学位は、国によって多少の差異はあるものの基本的に最上位の学位として位置づけられている。通常は、大学など高等教育機関や学位授与機関における学士又は修士及びそれと同等の学力があると認められた者が、大学院の博士課程あるいは博士後期課程を修了することで取得できる。その他にも、それと同等の高度な研究能力があると認定された者にも授与されることがある。どちらの場合にも、一般的には独自性のある研究論文を提出し、審査に合格することが要件となっていることが多い。
博士の肩書き
英語、ドイツ語などでは、博士への敬称は、Dr.(ドクター)となる(フランス語では点をつけずDrとすることが多い)。ただし、MDを持つ医師も、イギリスの外科系(あくまでミスター)を除いて、Dr.(ドクター)と呼ばれる。医師がPh.D.を取るには、並修課程を修得する必要がある。
日本では過去においては医学博士号の所持者は肩書きにM.D.(歯学博士号の場合はDMD)と記していた。しかし、現在の日本では博士学位の有無に拘らず、医師免許、歯科医師免許、獣医師免許を持つ者をドクターと呼称するのが通例である。 また現在では医師免許を持つ人物をM.D.、歯科医師免許ではDMD、獣医師免許ではD.V.M.)と記し、大学院課程にて医学博士号、歯学博士号、獣医学博士号(臨床博士号を含め)を取得した人物をPh.D.を併記する(例、M.D., Ph.D. といったように間にカンマを打つのが慣例である)。
1991年7月以前に授与された博士号では、「博士」の前に専攻分野の名称を冠していたが(例えば文学博士、医学博士、理学博士)、1991年7月以降に授与された博士号では、「博士(学術)」のように「博士」に続けて括弧内に専攻分野を併記するようになった[1]。
博士号の日本語訳
つい最近までPh.D.所持者の肩書きの訳を「哲学博士」と訳すこともあったが、現在では「博士」で統一されている。
各種用語
博士号取得者のキャリア
最近は各国で、高等教育への関心が高まりつつある。そのため、社会人大学院や夜間大学院、通信制大学院といった形態で、働きながら研究して博士の学位を取得する人が増えている。またそうした社会経験の豊富な人口が大学の教員になることで、学問と社会の接点を拡大しているという面もある。
理系の博士は、企業からも一定の研究能力を持つ者として認知されることが多く、一部の産業では何人の博士を雇用しているかが信用の指標とされる場合がある。実際、日立製作所には博士号取得者から成る「へんじん会」が存在している。
しかし、基礎研究を重視しがちな大学・研究機関においては、社会適応力が第一義とされていないことが少なくなく、企業の求める人材との溝が指摘されることがあり、職域・活動に応じた知識や技能の向上は他の社会人と同様に重要である。
国際的な知識社会化、生涯教育の拡大、高度専門職の増加などが進行する中、社会において博士号取得者をいかに活かすことができるかが、日本を含む多くの国々で問われている。
しかしながら現実には、博士号取得者の新規雇用に積極的な企業や大学はそれほど多くはないのが実状である。
企業の立場では、人事体系に技術専門職種及び一部の経営幹部を除き博士号取得者を処遇する体制が整っていないこと、大学側では博士号取得者は研究者(学者)であり外部への就職は自力で行うものという思考があるためといえる。
なお、博士号取得者は国会議員政策担当秘書の資格を無試験で取得できる。
日本以外の各国の博士
博士号の学位制度は、国によって異なる。
アメリカの博士号
アメリカでは、学術による(専門博士でない)博士は、伝統的にDoctor of Philosophyの学位を授与される。このPhilosophyは一学問分野としての哲学ではなく、広く学術一般を意味し、Ph.D.と略される。また、大学によっては、Doctor of ScienceをPh.D.の替わりに選択することができたり、Doctor of Philosophyとは名称の異なる学位を授与することもある。
一般的に、Ph.D.の学位には専攻分野が添えられ、学位保持者の研究分野を明確にすることが多い。例えば、政治学の研究において授与された博士号であれば、Doctor of Philosophy in Political Scienceとなり得るし、環境科学の博士号であれば、Doctor of Philosophy in Environmental Scienceとされるであろう。
また、Ph.D.の学位ではなく、専攻ごとに細分された学位を授与する場合もある。例えば、工学における博士号で、Doctor of Engineeringという学位が授与されることもある。ここで、工学は、元来Liberal Artsに含まれておらず、基礎的な研究を重視する学術を追求する分野として考えられていない場合があることに注意しておきたい。さらに、Ph.D.の代わりに、Doctor of Scienceという学位を理科系の専攻に用いる大学もある。
このように、学術系の博士号の名称は、本邦に比べ複雑であり、学位の正式名称は大学によって異なり、一概に学位の名称を特定することはできないし、日本の博士号と一対一で比較することはできない。
また、純粋な基礎研究以外に、研究結果を実際に応用することを強調したプログラムでは、専門職学位を授与する場合が多い。その場合には、Ph.D.の学位を授与することは少なく、下記のような学位を授与することが多い。
- Doctor of Theology(略称:ThD)(日本の博士 (神学)に相当)
- Doctor of Psychology(略称:PsyD)(日本の博士 (心理学)に相当)
- Doctor of Education(略称:EdD)(日本の博士 (教育学)に相当)
- Doctor of Musical Arts(略称:D.M.A.)(日本の博士 (音楽)に相当)
- Legum Doctor(略称:LL.D.)(日本の法学博士に相当)
- Doctor of Social Science(略称:D.S.Sc.)(すでに社会科学系の博士号を持つものが2つ目に取得する社会科学系博士号)
これらの学位においても、名称の違いは大きい。
また、一部の専門職学位は、専門資格の取得の条件になっているが、日本のケースと異なることがある。例えば、PsyDは、アメリカでは5年間のフルタイム就学が必須であるが、日本では似たような学位や終了証が博士号に満たない能力で取得できる。例えば、臨床心理士は、修士号取得者が取得できるが、アメリカを含めた欧米では、これらの高度専門職技術者は往々に博士号が必須であり、心理学も例外ではない。一部の州では、博士号保持者以外が心理学者、または臨床心理士と自称することは違法ととらえられる可能性がある。
イギリスの博士号
イギリスの博士号は、PhD又はDPhil (Oxford) と略記される。イギリスには、博士号のさらに上位に上級博士の学位がある。修学期間は多くの場合、標準で学士取得後3年間であり、このうちの1~2年は修士課程の扱いとなっている場合がある。
ドイツの博士号
少なくとも、以下の学位が存在する。
- Doktor der Agrarwissenschaften(略称:Dr. agr. (agriculturae))(日本の博士 (農学)に相当)
- Doktor der Ingenieurwissenschaften(略称:Dr.-Ing. (Doktor-Ingenieur))(日本の博士 (工学)に相当)
- Doktor der Rechtswissenschaften(略称:Dr. iur. (iuris))(日本の博士 (法学)に相当)
- Doktor der Mathematik(略称:Dr. math. (mathematicae))(日本の博士 (数学)に相当)
- Doktor der Medizin(略称:Dr. med. (medicinae))(日本の博士 (医学)に相当)
- Doktor der Zahnmedizin(略称:Dr. med. dent. (medicinae dentariae))(日本の博士 (歯学)に相当)
- Doktor der Philosophie(略称:Dr. phil. (philosophiae))(日本の博士 (哲学)に相当)
- Doktor der Gartenbauwissenschaften(略称:Dr. rer. hort. (rerum horticulturarum)) (日本の博士 (林学)に相当)
- Doktor der Naturwissenschaften(略称:Dr. rer. nat. (rerum naturalium))(日本の博士 (理学)に相当)
- Doktor der Staatswissenschaften(略称:Dr. rer. pol. (rerum politicarum))(日本の 博士 (政治学)に相当)
- Doktor der Verwaltungswissenschaften(略称:Dr. rer. publ. (rerum publicarum))(日本の博士 (政治学)に相当)
- Doktor der Musikwissenschaften(略称:Dr. sc. mus. (scientiae musicae))(日本の博士 (音楽学)に相当)
- Doktor der Wirtschaftswissenschaften(略称:Dr. sc. oec. (scientiarum oeconomicarum))(日本の博士 (経済学)に相当)
- Doktor der Sozialwissenschaften(略称:Dr. sc. soc. (scientiae socialis))(日本の博士 (社会科学)に相当)
- Doktor der Theologie(略称:Dr. theol. (theologiae))(日本の博士 (神学)に相当)
フランスの博士号
フランスの博士号(仏 doctorat)は、国家による学位である(教育機関による学位ではない)。それを保証する国家免状(diplôme national)は、大学、その他の認められた高等教育機関によって国家の名のもと発行される。博士号の取得に関する詳細は法令により定められている。取得のための修学期間は、標準で修士(仏 master)取得後3年間である。その間に得られた研究成果をまとめた博士論文(仏 thèse de doctorat)を提出し、審査に合格することにより取得できる。
博士論文の審査は、報告者(仏 rapporteur)による論文の審査と、その後の審査会(仏 soutenance)からなる。報告者は、2名以上の博士論文指導資格(仏 habilitation à diriger des recherches)を持つ学外の当該専門領域の研究者であることが義務付けられている。そして、この報告者がそれぞれ別々に報告書を書き審査会に進めるかどうか決定する。1名でも反対があれば、審査会は開けない。また、審査会は、原則的に一般公開であり、3名から8名の審査員(仏 jury)もまた半数以上が学外の研究者でなければならない。この審査会を取り仕切るのは、プレジダンと呼ばれる博士論文指導資格を持つ大学教授もしくはそれに相当する研究者である。審査過程において、博士論文の指導教官は一人の審査員でしかなく、博士号授与の決定権は小さい。また、学外の研究者を多く取り入れることにより博士号の質を保つとともに、研究成果をその分野の著名な研究者に周知できる工夫がなされている。
ここで述べた博士号は学術的な研究に対するものだが、医学、歯学、薬学、獣医学における専門職の技能習得に対して授与される医師国家免状(diplôme d'État de docteur)にも「博士(docteur)」の語が用いられる。
日本の博士号
テンプレート:日本の学位
日本においては、1887年(明治20年)5月21日、学位令(明治20年勅令第13号)が公布せられ、同令第1条により、博士と大博士の二等の学位が定められ、第2条により法学博士、医学博士、工学博士、文学博士、理学博士の五種が定められた。さらに、第3条により、博士学位は大学院の定規試験を通過した者に、帝国大学評議会の許しを得て、授与された。後、1914年、勅令第200号として改正学位令が公布され、同令第1条により、学位は博士に統一され(結局、「大博士」は授与された者がいないまま廃止となった)、学位の種類は文部大臣の定めるところとなった。同令では、学位授与の規定がより具体的に規定されるとともに、第10条により、学位の栄誉を汚辱した者にはこれを剥奪する、懲罰規定が盛り込まれるなどより詳細な規定が整備された。
戦前においては原則として博士号授与機関は原則として帝国大学に限られ、その希少性から「末は博士か大臣か」と詠われほど市井において高く評価され、学位の保持者に対しては敬意が表されていた。
今日の学位制度における博士の学位は1947年の学校教育法の制定により整備されたものである。1953年、学位規則が制定され、新たな学位として修士の学位が加わり、学位は博士と修士の二等となった。1991年改正学校教育法により、学位は博士、修士に加え学士の三等とされ、それまで専攻分野を冠した学位名称だったものを、すべて博士、修士、学士に統一し、その代わりとして、博士 (医学)というように学位の後に専攻名を括弧付きで併記することとされた。同年には、今日の独立行政法人大学評価・学位授与機構の前身となる学位授与機構が発足し、省庁大学校で大学院博士課程の修了に相当する教育課程をへた者に対する博士の学位は、当該大学校及び学位授与機構の審査を経た者に授与されることとなった。2000年、学位授与機構は、大学評価・学位授与機構に改組され、それまでの学位事業は同機構に承継された。更に2005年改正学校教育法により、上記三等の学位に加え短期大学士を加えた四等となり、これによって今日の学位制度が整えられた。
現在、博士の学位については、学校教育法第67条、第68条の2において大学院を修了した者に博士または修士の学位が授与されることとされ、第68条2の2に前項の規定により博士の学位を授与された者と同等以上の学力があると認める者に対し、博士の学位を授与することができるとされている。さらに、学位規則第4条において、大学院博士課程を修了した者に博士の学位を授与することが規定されており、同条の2では大学院の行う博士論文の審査に合格し、かつ、大学院の博士課程を修了した者と同等以上の学力を有することを確認された者に対し博士の学位の授与を行うことができると規定されている。また、学校教育法第68条の2第4項第2号及び学位規則第6条の2において大学院(博士課程)に相当する教育を修了し、大学評価・学位授与機構の審査を合格した者に博士の学位を授与することとされている。
先述の博士と位置付けの異なるものに、法務博士がある。法曹養成制度の改革により、2003年以降、専門職大学院の1種である法科大学院において、法務博士の学位が新設された。司法試験の受験資格をこの学位取得者に限り、司法修習を大幅に簡素化したものである。従って、法学博士とは直接には関係しない。
これはアジアやアフリカなどでは通常の博士号とは区別された専門職学位であるとされるが、米国においては「職業博士」として、(医学博士、法務博士等)同列に扱われている。
なお、日本では、博士論文は国立国会図書館への寄贈が求められ(納本の対象ではなく義務ではない)、取得後一定期間内に公刊することが義務づけられている。国立国会図書館と国立情報学研究所が作成している「博士論文書誌データベース」で国内の大学で授与されている博士論文の検索ができる。
日本における博士号の種類
1887年-1898年
1887年(明治20年)制定の学位令により、博士の種類は次の5種類とされた。
その後の改正で、徐々に博士の種類は追加されていった。
1898年以降
1898年(明治31年)12月9日の学位令改正により、4種類が追加され、合計9種類とされた。
1991年改正以前
1956年(昭和31年)に学位規則で17種類の博士の種類が定められたが、その後、1964年(昭和44年)に保健学博士、1975年(昭和50年)に学術博士が新設された。そして、前述の通り、1991年(平成3年)6月の学位規則改正により博士の種類が廃止されたが、その際に列挙されていた博士の種類は以下の19種類である。
1991年改正以降
1991年以降は、括弧つきで博士(医学)のように示される専攻分野名称には規定がなく、大学により定められるとされているため、現在では様々な名称が用いられている。1991年以前からある学位の表記が変更されたもの(医学博士→博士 (医学)、文学博士→博士 (文学)、工学博士→博士 (工学)など)以外にも、以下のように、様々な専攻分野の博士学位が授与されている。
- 理工系
- 人文社会学系
- 博士 (日本文化)
- 博士 (日本文学)
- 博士 (文化史学)
- 博士 (国際関係)
- 博士 (総合政策)
- 博士 (政策研究)
- 博士 (政策科学)
- 博士 (社会科学)
- 博士 (地域研究)
- 博士 (流通科学)
- 博士 (国際文化)
- 博士 (中国研究)
- 博士 (人文科学)
- 博士 (国際文化)
- 博士 (日本史学)
- 博士 (不動産学)
- 博士 (ドイツ語学)
- 博士 (ドイツ文学)
- 博士 (公共政策学)
- 博士 (比較文明学)
- 博士 (国語国文学)
- 博士 (社会人類学)
- 博士 (国際協力学)
- 博士 (国際政治学)
- 博士 (国際関係論)
- 博士 (文化政策学)
- 博士 (地域政策学)
- 博士 (国際経営学)
- 博士 (言語文化学)
- 博士 (応用経済学)
- 博士 (臨床心理学)
- 博士 (応用言語学)
- 博士 (英語英文学)
- 博士 (教育心理学)
- 博士 (文化人類学)
- 博士 (社会心理学)
- 博士 (ファイナンス)
- 博士 (フランス語学)
- 博士 (フランス文学)
- 博士 (マネジメント)
- 博士 (総合社会文化)
- 博士 (イギリス文学)
- 博士 (国際公共政策)
- 博士 (国際開発研究)
- 博士 (国際経済法学)
- 博士 (比較社会文化)
- 博士 (社会環境科学)
- 博士 (アメリカ研究)
- 博士 (英語文化研究)
- 博士 (ドイツ文化研究)
- 博士 (歴史民俗資料学)
- 博士 (国際政治経済学)
- 博士 (政策・メディア)
- 博士 (日本語日本文化)
- 博士 (アジア地域研究)
- 博士 (日本語日本文学)
- 博士 (地域社会システム)
- 博士 (グローバルビジネス)
- 博士 (コミュニケーション学)
- 博士 (国際コミュニケーション)
- 博士 (アドミニストレーション)
- 博士 (アメリカ・ヨーロッパ文化学)
- その他
- 医歯薬学・保健体育・農学系
- 教育・家政・芸術・学術系
日本における博士号の取得
博士号の取得を志した場合、博士論文提出までに学会での発表を行い、博士課程在籍中に2編から3編の査読付き投稿論文を執筆するといった業績が博士の学位審査を受ける要件となっている場合もある。こうした要件は、大学・研究科・専攻・教室・研究室などによって異なる。
博士課程で学位を取得した場合は「修了」として認定されるが、就職などのために学位を取得する前に中途退学するケースも多い。所定の在学期間(3年間)以上在学し、修了に必要な単位を全て取得してはいるものの、学位論文だけが完成しないまま就職することも多く、こうした場合「満期退学」又は「単位取得退学」と称する[4]。在学年数を越えて大学院に留まる場合は研究生として在籍するケースもある。また、2005年の文部科学省中央教育審議会において文部科学大臣への答申の中で博士課程に社会人コースを設置し、社会経験にて実績のある人物の場合は1年間の在籍期間中に学位取得を志すことができるようにすべきだとされた。つまり、大学院の博士課程に社会人コースが設置された場合、1年間の修学期間で博士号を取得することが可能となる。
課程修了による博士号を課程博士、論文提出のみによる博士号を論文博士と呼び分ける。大学が博士号を授与した場合、授与大学ごとに通し番号が付けられて文部科学省に報告されるが、課程博士には甲1234XX号のように「甲」が、論文博士には乙1234XX号のように「乙」が付けられる。ただし、一部の大学においては学位記上ではこれらの区別がなされず、両者の通し番号が記載されていることもある。また、大学によっては、所定の期間在学し所定の単位を取得して退学した後、一定期間のうちに論文を提出することにより課程博士を与える制度を設けていることもあるが、同様の場合に論文博士として試験の扱いを変える(一部免除する)大学もある。
なお、中央教育審議会は2005年6月13日の総会で大学院改革に関する中間報告「新時代の大学院教育-国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて-」をまとめ、文部科学大臣に報告、その中で、「論文博士」について、「諸外国の制度と比べ日本独特の論文博士は、将来的には廃止する方向で検討すべきではないかという意見も出されている」と述べる一方、反対意見も紹介した上で、「論文博士については、学位に関する国際的な考え方や課程制大学院制度の趣旨などを念頭にその在り方を検討していくことが適当である」としている。 (資料第1章第2節3 課程制大学院の制度的定着の促進 を参照。)
日本における博士学位の意義と問題点
博士の学位は、明治・大正期において「末は博士か大臣(大将)か」と言われた程、信頼の高い称号であった。現在でも博士の学位は、日本の学術研究の指導的立場に立つ人材の育成、国際機関などに人材供給をしていく上で大きな意義を持つ。
かつての日本では理系の研究領域において博士号の授与例が多い一方、文系においては授与例が少ない傾向にあった。しかし近年では、博士号は研究者の最終目標ではなく始発点との考えが広まりつつあり、とくに2001年の学位規則改正後は、博士課程が拡充されるとともに若いうちに博士号を取得する方向に大学院指導も変化してきている。また博士号の取得が困難であると外国人留学生が日本の大学を敬遠することもあるため、文部科学省も各大学に対し博士号の授与を奨励している。
他方、博士号の取得者の増加は、博士号を有しながらも定職に就けない、余剰博士(オーバードクター)問題を発生させている。その問題は文系においてとくに顕著である。このような状況の下、文部科学省は2009年6月5日、第2期の中期目標素案作りが進む各国立大学に、大学院博士課程の定員削減を要請した[5]。
博士号には高い信用と専門性があるものの、現実の社会ではその効果が最大限に活かされていないと疑問の声もある。また、大学院教育が諸外国と比較して遅れている面が指摘される。また、博士の学位授与基準が厳格でその取得に時間と費用がかかるとの指摘もある。その一方博士号の乱発は、博士の価値の低下を招くことにもなり、学位授与機構も厳格な対応を堅持している。さらに、このようなマイナスの面ばかりを必要以上に強調した情報が広まったために、博士を積極的に活用しようとする動きが抑制されているとの見方もある。
ディプロマミル等による学位偽造
博士学位の問題に偽造学位の問題がある。主に海外の大学にて、学位を審査・授与するに足らないディプロマミル・ディグリーミルという機関が大学を称して、形式的な審査と料金を支払うことで、正式な博士の学位であるかのように学位を授与する組織が存在する。アメリカでは、ディプロマミルを用いた経歴詐称が深刻であり、日本においても2004 - 2006年度で全国4大学に4人、「ニセ学位」によって採用・昇進した教員がいたことを2007年末に文科省が発表した[6]。上述のようにこのような問題を回避するために学位の表記には取得大学名を併記するようになっている(例.『博士(文学)、京都大学』)。
欧米およびその影響の強い国々では称号として氏名に博士を付けて呼ぶ(英語圏の場合、博士号所持者はMr.○○ではなくDr.○○と呼ばれる)ことが通例であるが、日本社会においてはそうした慣例は殆どなかった[7]。しかしながら近年のNHKおよび民放の番組においては諸外国の例に倣い日本人であっても博士号所持の研究者に対し「○○博士」と呼称する傾向が見られる。
しかしながら欧米に比べると一般社会における学位取得利点は薄い。
関連項目
外部リンク
出典
脚注
- ↑ 「我が国の文教施策」(平成3年度)(文部科学省)
- ↑ 1974年(昭和49年)の学位規則改正により、1975年(昭和50年)に新設された。
- ↑ 1964年(昭和44年)に新設された。
- ↑ 過去においては慣習として経歴として満期退学で博士課程修了と記すことがまま見られたが、これは厳密には経歴の詐称になる。日本では履歴書には「博士課程(後期課程)中途退学」「博士課程(後期課程)単位取得退学」「博士課程(後期課程)満期退学」等と記すのが一般的である。なお、欧米では一般に満期退学はドロップアウトと見なされキャリアとは評価されない。このため、留学生は博士号を取得できない日本の文系の大学院を敬遠するようになっていった。これに対し、各大学は博士号を正規年限内に出すようになってきているが、今度は逆に学位のインフレーションが起こり、学位そのものの権威が下がる傾向がある。
- ↑ 『朝日新聞』2009年6月6日、東京版朝刊、37頁
- ↑ 朝日新聞、2008年1月6日朝刊、東京版、34面。
- ↑ 博士号取得者が帝国大学卒業生に限られていて、その威信が非常に高かった明治、大正時代には「博士号」は氏名に付記され敬称として一般に通用したが、昭和以降は学究の権威主義への批判の傾向と共に用いられることはあまりなくなった。
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