ステーキのくいしんぼ
ステーキのくいしんぼとは、株式会社サン・チャレンジが経営する飲食チェーン店である。他にグリム原宿店、豆腐と酒肴 壱丁、おにぎりのさんかく山なども経営している。
目次
不祥事
2010年11月、当時24才の男性社員が、飲食店「ステーキのくいしんぼ渋谷センター街店」が入るビルで自殺。 渋谷労働基準監督署は、男性の死を上司の暴力が原因とする労災と認めた。
自殺した社員に過労死認定--休日、残業代、ボーナスなし。社長は看過(2013年6月)
渋谷センター街にある飲食店「ステーキのくいしんぼ」(運営元:サン・チャレンジ)の店長だった和孝さん(24歳)は、毎月200時間ほどの残業の末に過労自殺した。死亡したのは、連続勤務90日目が終わったばかりの2010年11月8日午前1時ごろ。この日、夜が明けて月曜日が始まると、東京地方は最高気温20度の快晴になった。
和孝さんがどのような働き方をしていたのか。
和孝さんは、剣道で特待生入学した高校を卒業すると、都内の高級レストランに入社。しかし、長時間労働や希望する調理の仕事になかなか就けなかったことから2年で退社した。
退社後は、父・政幸さんが当時店長をしていた「くいしんぼ」入谷店でアルバイトが不足しており、和孝さんが「調理の仕事がしたい」と話していたこともあり、「自分のところで働いてみないか」と声を掛けた。これがきっかけとなり、和孝さんは2007年5月から入谷店でアルバイトを始めた。
その3カ月後の2007年8月、和孝さんが正社員として採用された。親子一緒では教育にならないという社長の方針で、和孝さんは高円寺北口店に異動。渋谷センター街店に配属されたのは、半年後の2008年2月ごろのことだ。このとき同店を仕切っていたのが、和孝さんより1歳年上の店長代理・A氏(仮名/後に店長、エリアマネージャーと昇格)だった。
休日にも呼び出し、役員も問題を認識
配属当初こそ週1日程度は休むことができ、8月ごろからは同店のアルバイト女性との交際も始まった。しかし、やがて休みは月に1度取れるかどうかという程度になり、その休日の時もA氏に呼び出されることがたびたびで、デート中に「ソースが足りないから買って来い」と命じられて店に届けたこともあった。
その彼女は、遺族が損害賠償を求め会社やA氏らを訴えた裁判で、和孝さんの休みについて、「丸々1日を休むことは、ほとんどありませんでした」「ひどい時は、3カ月に1回しか休みがありませんでした」と述べている。
家に帰らず、店舗に寝泊まりすることも多くなった。
心配した父・政幸さんはあるとき、店舗巡回で入谷店に来た執行役員に「店舗に寝泊まりしているようだ」と漏らした。気になった執行役員が本部の書類を注意深く見ていくと、確かに和孝さんは休みをほとんど取っていなかった。
「なぜ和孝君に休日を与えずに働かせているのか」。執行役員から問われたA氏は、「こいつは休みがあると無駄遣いするし、俺が鍛えてやっているんですよ」と答えたという。
A氏にセンター街店を任せていたエリアマネージャーも、売上報告書に目を通しているうちに、和孝さんがほぼ毎日出勤していることに気づいた。
心配になり、「くいしんぼ」の運営元であるサン・チャレンジの上田英貴社長に、「なぜ和孝君には休みが全然ないのですか」と尋ねると、社長は「休みをあげるとすぐにパチンコに行ってしまうので、その癖を抜くために毎日仕事をさせている」と答えた。
労基署も過労死を認定
和孝さんの労働時間はどうなっていたか。
訴状などによれば、「くいしんぼ」の営業時間は午前11時から午後11時の12時間だが、店長や従業員は仕込みや掃除などのために午前10時に出勤し、閉店後の片付けやレジ締めなどを済ませ、午後11時半から午前0時ごろに退勤するのが一般的という。フルに働けば、休憩1時間を取れた場合でも、1日の労働時間は12.5時間から13時間だ。
和孝さんの死亡を労災と認めた渋谷労働基準監督署は、会社の売上報告書をもとに死亡前の8カ月の労働時間を計算。これによれば、所定労働時間を週40時間とし、1日1時間の休憩を取得していた場合、残業時間は最も少ない月で162時間30分、最も多い月で227時間30分に達した。死亡した11月を除く平均は月194時間、8カ月の合計は1355時間にもなる。
また、4月1日から11月7日までの間に和孝さんが取得できた休みは、たった2日しかなかった。加えて残業代はまったく払われておらず、ボーナスについても渋谷労基署は「支給規定はなく、支給されていない」としている。
和孝さんが死亡する1年半前の2009年3月、父・政幸さんはサン・チャレンジを退社した。その際、「お前はどうする」と和孝さんに聞いたが、和孝さんは「もうしばらく続ける」と答えた。
店長過労自殺で5700万円賠償命令。過失相殺認めず、ステーキ店敗訴(2014年11月 東京地裁)
首都圏を中心にステーキ店をチェーン展開する「サン・チャレンジ」(東京都渋谷区)の店長だった男性=当時(24)=が自殺したのは、過酷な長時間労働と上司によるパワーハラスメントが原因だったとして、両親が会社側に計約7300万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が4日、東京地裁であった。
山田明裁判長は「恒常的な長時間労働や暴言、暴行などのパワハラ以外に自殺を引き起こす要因は認められない」として、計約5790万円の支払いを命じた。
山田裁判長はさらに、「自殺した本人に過失はなかった」と指摘し、過失相殺による賠償額の減額を認めなかった。原告側代理人は「自殺をめぐる訴訟で過失相殺を認めないのは異例」としている。
判決では「遅くとも平成20年2月ごろから恒常的に長時間労働を行い、(上司にあたる)エリアマネジャーから暴行などのパワハラを受け、心理的負荷により精神障害を発症させた」と認定。
会社側についても「業績向上を目指す余り、社員の長時間労働や上司によるパワハラなどを防止する適切な労務管理体制を執ってこなかった」と責任を認めた。
判決によると、男性は平成19年に入社、平成21年に同社が経営する「ステーキのくいしんぼ」の都内店舗の店長になった。男性は平成22年11月、首をつって自殺。渋谷労働基準監督署が平成24年に自殺を労災認定している。
会社側は「判決の詳細を把握していないのでコメントできない」としている
ステーキ店長過労自殺。パワハラ、半年で休日2日だけ
「ばかだな」「使えねえ」。
24歳で自ら命を絶った男性は、上司による職場での暴言に加え、しゃもじで殴られるなどの暴行も受けていた。また、自殺直近の半年間での休日はわずか2日だけ。裁判所は、度を越した労働環境が、男性を追い込んだと認定した。
さらに社長が出席する本部での朝礼でも、この上司はパワハラを行ったことがあり、裁判所は「会社側はパワハラや長時間労働を認識できた」との立場だ。
いじめは時間外にも及んだ。貴重な休日には上司から、「ソースを買ってこい」などと命じられることもしばしばあった。裁判所も判決で「日常的使い走り」と指摘している。さらに、仕事後には渋る本人を釣りやカラオケに付き合わせるなど、上司は日常的に負荷をかけ続けた。こうした悪質性が、過失相殺の判断に影響を与えたとみられる。
「ブラック企業」という言葉が世間で認知される中、民事裁判で過労自殺に対する賠償が認められる判決は「年々増えている」と、ある弁護士は指摘する。
今回の裁判では、労基署による労災認定が先行したが、この弁護士は「労災認定されなくても、賠償が認められるケースも出ている」としており、過労自殺への行政、裁判での認定基準はそろいつつあるという。