オートチューン
オートチューン (Auto-Tune) は、アメリカ合衆国のアンタレス・オーディオ・テクノロジーズ(Antares Audio Technologies)社が製造・販売する、音程補正用プラグインソフトウェアである。使用の際は、「iLOKキー」と呼ばれるUSBロックを必要とするプロプライエタリ・ソフトウェアである[1]。
オートチューンの機能は、音程の不安定な歌声や楽器のトーンをデジタルに信号処理することにより、半音ずつ最も近い完全な音高に機械的に補正するものであり、その設定を極端にすると「ケロケロボイス」、「ケロールサウンド」などと称される著しく平坦な音程や特有の音程変化といったエフェクトが得られる。そのため、2005年のT-ペインのヒットなどを皮切りに、音程補正ソフトというよりも一種のエフェクターとして脚光をあびるようになった。なお、オートチューンのエフェクトは、ヴォコーダーやトーキング・モジュレーター(トークボックス)のエフェクトにも似ているが、それぞれ原理が異なる。詳細は各項を参照のこと。
2010年現在ではCelemony社のMelodyne、ヤマハのPitch Fixなど、様々な音程補正ソフトが発売されているが、オートチューンが一番早く発売された事と、T-ペインの発言などで幅広く名前が知られるようになった事から、「オートチューン」は音程補正ソフトの代名詞ともなっている。
歴史
1996年、技師として石油会社のエクソンモービルで働いていたアンディ・ヒルデブランド(Andy Hildebrand)は地震データ解析用ソフトが音程の補正にも使えることを偶然発見した[2]。翌1997年アンタレス社はこの技術を製品化し、「オートチューン」と命名し発売した。1998年、アメリカの歌手シェールは楽曲「Believe」において本来の音程補正目的ではなく、ロボットボイスを生むエフェクターとしてこのソフトを使用した。同楽曲がヒットしたことによってオートチューンは一躍有名になった[3]。
2000年になると、フランスのテクノユニット、ダフトパンクのヒット曲「ワン・モア・タイム」のボーカルにも使用され、エレクトロニカ界隈での利用が活発化される。(ジャンルはフィルターハウスと呼ばれる様になる)
2005年にデビューしたT-ペインが、自身のほとんど全ての楽曲にオートチューンを使用し、「I'm Sprung」などのヒット曲を生み出していったことをきっかけに、オートチューンは再度注目されるようになった[4]。
T-ペインのヒットを受け、ヒップホップ音楽やダンスホールレゲエにおいてオートチューンの使用が流行し、ヒップホップではカニエ・ウェスト、リル・ウェイン、エイコンらが、ダンスホールレゲエにおいてはデマルコ、セラーニ、ムンガらがオートチューンを取り入れた曲を次々と発表した。中でも2009年にアメリカのヒップホップグループブラック・アイド・ピーズが発表した『The End』はシングルカットされた2曲で、同一アーティストによる26週連続No.1というBillboard Hot 100新記録となる大ヒットとなった。
2007年には、中田ヤスタカがサウンド・プロデュースしているテクノポップユニットPerfumeが、全編にわたってオートチューンを使用した「ポリリズム」をヒットさせた事で、オートチューンは日本でも広く注目を浴びることとなった。
2008年には、アメリカのコミックバンドであるグレゴリー・ブラザーズが、ニュース番組に出演している政治家やニュースキャスターの発言にオートチューンを掛け、彼らが歌やラップを歌っているように加工を施した楽曲「Auto-Tune The News」シリーズを発表したり[5]、メタルコアのアタック・アタック!がオートチューンを導入した「サムデイ・ケイム・サドンリー」をヒットさせるなど、より幅広いジャンルでオートチューンが用いられるようになった。
2009年にも、アメリカの歌手ケシャがオートチューンを使用した楽曲「Tik Tok」でビルボードチャート10週連続1位を記録するなど、オートチューンは比較的ポピュラーなエフェクターとして使用され続けている。
使用例
合成音声やVOCALOIDの歌声をより自然に聞こえさせる目的で用いられることもある。
批判
簡単に音程を補正して完璧な音高を作り出し、画一的なサウンドを生み出すオートチューンなどの音声補正ソフトの使用には批判的な意見も存在する。日本の音楽家菊地成孔は音程補正の流行を批判して「現代に於ける『音痴』は『生声で音程をちゃんと取れない』という原義よりも抽象化され、『音程修正を施しているのが解ってしまう』こと。の方に移っています」と証言している[6]。また、カントリー歌手のロレッタ・リンやガース・ブルックス、レゲエ・ディージェイのニンジャマン、MCの般若らはオートチューンに否定的な見解を表明し使用を拒否している[7][8][9]。さらにロックバンドのデス・キャブ・フォー・キューティーは第51回グラミー賞授賞式においてオートチューン使用に抗議するスピーチをし[10]、ジェイ・Zは2009年に「オートチューンの死」という意味の楽曲「D.O.A. (Death of Autotune)」をシングルとして発表し、アルバムblueprint3に収録予定だったオートチューンを使用した楽曲を収録しない決定とするなど、より明確にアンチ・オートチューンの姿勢を見せるミュージシャンもいる[11]。
脚注
- ↑ テンプレート:Ref patent
- ↑ Frere Jones, Sasha. "The Gerbil's Revenge", The New Yorker, June 9, 2008
- ↑ Why pop music sounds perfect - TIME.com
- ↑ Singers do better with T-Pain relief - NY Daily News.com
- ↑ Suddath,ClaireAuto-Tune the News - Time.com
- ↑ 菊地成孔『CDは株券ではない』ぴあ株式会社、2005年、p111、ISBN 4-8356-1563-8。
- ↑ Pro Tools - Nashvillescene.com
- ↑ () Is that your real voice? The Jamaica Star [ arch. ] 2009年5月5日
- ↑ 『The Source Japan』2009年7月号、リイド社
- ↑ Death cab for cutie protests Auto-Tune - idiomag.com
- ↑ MTV.com Kanye West Promises Jay-Z's 'Anti-Auto-Tune' Blueprint 3 Will Be 'Amazing'