日本航空の組合問題
テンプレート:子記事 本項では日本航空の組合問題(日本航空=JAL=およびJALグループの間で発生している問題)について述べる。
目次
概要[編集]
2009年8月現在、日本航空インターナショナルには、地上職や整備職、パイロットや客室乗務員などの職種別に、会社側1組合、反会社側7組合の合計8もの労働組合がある。
会社側組合[編集]
日本航空インターナショナル(旧日本航空)の労働組合である「JAL労働組合」(JALFIO、全日航)」は日本航空インターナショナル最大の労働組合である。連合系の「航空連合」にも加盟している。基本的に労使協調路線を採用しており、経営状況に反した過度な要求や特定の政党との関係構築、ストライキといった行動は取らないとしているが、「民主党を支持する航空連合に加盟をし、選挙時期には労組の掲示板への民主党候補者への支援を呼びかけるポスターの掲示等も行い民主党一党支持が実情である」という意見もある。そうした姿勢を嫌う少数組合からは「御用組合」と呼ばれている。
2005年2月には、それまで経営と労働組合が一定の距離を置いていた日本航空ジャパン(旧日本エアシステム)内に、労使協調路線を採る「オールJALジャパン労働組合(AJLU)」が新設された。なお、同組合はその後日本航空への合併が進んだことを受け、「JAL労働組合」に吸収された。
2007年2月、「JAL労働組合」が管理職や一部社員から提供されたものを含む客室乗務員のプライバシーに関する情報(住所や生年月日のほか、思想、病歴、家庭環境、性格、容姿など約150項目を収集・管理していたこと[1]が判明、「JAL労働組合」と日本航空がそれぞれ謝罪した。反会社側組合である「日本航空キャビンクルーユニオン(客室乗務員労働組合)」は「勤務の個人評価など会社しか知り得ない情報が記載されている」として、「JAL労働組合」と日本航空に対し損害賠償を求めて11月、東京地方裁判所に提訴した。被告のうち日本航空は2008年2月、請求内容を認諾したため現在は「JAL労働組合」のみが被告。
会社側組合は、経営サイドと良好な労使関係を保つことを第一義としている。そのため、悪い面では経営サイドの指示に沿った機関決定をするケースが多く、組合員の利益を第一義にしないという評価があり、良い面としては、組合員の利益のみを重視せず、会社全体の経営状況や経済的合理性に即した現実的な対応をするという評価がある。
反会社側組合(いわゆる「7労組/ 旧「5労組」)[編集]
乗員組合や客室乗務員組合、機長組合などは共同歩調を取り、いわゆる「日航5労組」として活動してきた。これらの組合は、過去に過度な給与・待遇を求め大々的なストを行ったことや、特定の政党や、左翼活動家と関係を持つなどの活動を行った事を理由として、「アカ」組合と呼ばれる。経営側により5労組を切り崩し、「JAL労働組合」への加入を促すため様々な労務対策が採られてきたといわれている。
日本航空が経営再建を進めている中で、「5労組」が、『安全のために十分に休息を取る必要性』を理由として、業務移動時のグリーン車やファーストクラスの使用や通常出勤時のハイヤーの使用(なおこれらは同社内では管理職社員のみならず、役員でも行われていない)を要求してきたことに対して、「会社の経営状況を省みない非常識ともいえる要求をしている」として、乗客や株主の中からも「特権意識丸出しの労働貴族そのものの非常識な要求だ」との批判がある。実際に、個人筆頭株主の糸山英太郎は「元々高賃金の日本航空が存続をかけてリストラをしている最中に、一切の賃下げを認めない労組が八つとはお客様の理解が得られない」と発言している[2]。
また、契約社員や派遣社員のみならず、子会社社員や外国採用社員の存在を事実上無視していることや、社内情報の意図的なマスコミへのリークなど、経営状況を鑑みない組合闘争を行うことや、上記の様に社内弱者に対する存在を無視し、既存利益の死守に固執する組合の存在を嫌う若手社員に敬遠されたことなどから、ここ数年組合員数が減少している。
日本エアシステムの吸収合併にあたり、「日本航空ジャパン労組(旧JAS労組)」などが加わり、旧「5労組」は「8労組」となった。なお、8労組を纏める組織として「JJ労組連絡会議」がある。また、これらの労組は「航空労組連絡会」に加盟している。2006年9月に「日本航空客室乗員組合」と「日本航空ジャパンキャビンクルーユニオン」が組織統一を行い、現在では「7労組」となった。
反会社側組合は、組合員の賃金・労働条件の向上を第一義としている。これは悪い面では、経営状況を考慮せずに自分たちの(職種の)要求だけを一方的に要求しているとの評価がある。また、同じ職種同士ですらその地位により組合が分裂、対立しており、同じ方向を向いていないという評価もある。いい面では、経営側の要求に対して労働者側の権利を主張し続けていると評価する見方もある。
- 日本航空労働組合
- 日本航空インターナショナル
- 構成員:地上職、整備
- 組合員数:約110人(2007年8月現在)
- 日本航空機長組合(注:機長は日本航空規則で「管理職」扱いである)
- 日本航空インターナショナル
- 構成員:機長
- 組合員数:約1,200人(2006年2月現在)
- 日本航空先任航空機関士組合
- 日本航空インターナショナル
- 構成員:管理職航空機関士
- 組合員数:約100人(2006年2月現在)
- 日本航空乗員組合
- 日本航空インターナショナル
- 構成員:副操縦士、航空機関士
- 組合員数:約1,200人(2006年2月現在)
- 日本航空ジャパン労働組合
- 日本航空インターナショナル(旧・日本航空ジャパン)
- 構成員:地上職、整備、航空機関士
- 組合員数:約1,300人(2006年2月現在)
- 日本航空ジャパン乗員組合
- 日本航空インターナショナル(旧・日本航空ジャパン)
- 構成員:機長、副操縦士
- 組合員数:約660人(2006年2月現在)
- 日本航空キャビンクルーユニオン(CCU)(日本航空客室乗員組合と日本航空ジャパンキャビンクルーユニオンが組織統一)
- 日本航空インターナショナル(旧・日本航空インターナショナル、日本航空ジャパン)
- 構成員:客室乗務員
- 組合員数:約2.000人(2007年2月現在)
弱者への無視[編集]
契約社員への無視[編集]
1990年代以降はパイロットや総合職社員を除く多くの職種において、有期限雇用や、契約社員経由で正社員になるケース(社内では「新正社員」と呼ばれ陰に差別されている)が増えてきており、最初から正社員として採用される人数は減少している。しかし、特に反会社側組合が正社員の組合員のみの権利を守ることに注力していることもあり、これらの契約社員は、総じて賃金や労働条件が低く抑えられ不安定な雇用形態であるにもかかわらず、反会社側組合、会社側組合を問わず、企業内組合からは半ば無視されている状況である。
実際に、日本航空社内で契約制客室乗務員とパイロットが関係する不祥事が発生した際に、組合員でない契約制客室乗務員はすぐに契約が切られ(=退社を余儀なくされ)、それに対して反会社側組合も会社側組合も特に行動を起こさなかったものの、不祥事に対する責任がより大きかったにもかかわらず、反会社側組合員であるパイロットは反会社側組合が守ったために訓戒で終わったという実例が報告されている。
外国人社員への無視[編集]
また、海外採用の外国人客室乗務員などの殆どは有期限雇用でしかも労働組合が存在しないため、これらの海外採用の社員や契約社員の労働組合結成の必要性が外国人社員のみならず、非組合員の多くから叫ばれている。
しかし、反会社側組合、会社側組合、会社の3者ともに、海外採用の外国人社員のための労働組合結成に対して全くと言っていいほど積極的な態度を見せていないばかりか、反会社側組合と会社側組合はその活動において、これらの海外採用の社員や契約社員の存在とその権利を事実上無視している。
性差別への無視[編集]
日本航空では、同業他社の全日空と同じく、現在契約制客室乗務員としての募集は事実上女性のみを対象としており、男性にはいわゆる総合職(客室系総合職)としての採用しか行っていない。この様に採用時における男性差別は、男女雇用機会均等法の改正時(1999年4月1日)に、主に男性の就職希望者から「男女雇用機会均等法違反ではないか」として問題提起がなされた。
しかしこの様な声に対して、反会社側組合、会社側組合ともに、会社によるこのような完全な法律違反、そして完全な性差別行為に対して完全無視を決め込んだ。その結果、日本航空をはじめとした大手、もしくはその傘下の日本の航空会社では、その後も契約制客室乗務員の採用時の男性志望者に対する性差別が当然のこととばかりに続けられている。
無関心層の増加[編集]
これらの、経営状況を考慮せずに、反会社側組合の組合員のみの要求や安全対策を主張し続ける反会社側組合の過激な組合活動と、それに対する経営サイドによる分断工作などの過剰な対応は、どちらにも与しない大多数の社員や、安定しない雇用体系と安い賃金の下で冷遇されている契約社員、そして株主、顧客など社外の人々の冷笑の的になっており、反会社側組合には経営状況などの内外の状況に即した現実的な対応を、経営サイドには反会社側組合への柔軟な対応を求める声が多い。
特にバブル景気崩壊後の「平成不況」時代に入社した社員や、契約制客室乗務員をはじめとする契約社員の間に、反会社、会社側側を問わず組合活動自体を嫌う傾向が強いことから、近年は組合活動自体が下火になってきている。
弊害・利点[編集]
契約社員や派遣社員などの本当の弱者や、苦しい経営状況を無視したまま行われる反会社側組合の過激な闘争や、経営状況の悪化を楯に現場の状況を無視した労務対策を押し付ける経営サイドと、それに対する会社側組合の弱腰な対応は、結果として社員に会社・組合不信や士気低下を蔓延させることにつながっている。また、職務別や会社別の組合の間での水面下での対立が深刻化し、正常な経営活動の障害となっているとの指摘も多い。
しかし、運航上のトラブルとそれがもたらした乗客離れによる経営不振という状況に対し、会社側、反会社側双方の労働組合には、組合員の労働条件改善だけでなく、組合員・非組合員を問わない全ての社員の安全性を確保できる職場環境の改善と、公共交通機関の運営に関わるものとしての責任を経営サイドに働きかけることなど等、期待されている点も少なくない。
国際的な弊害[編集]
かつてのベトナム戦争における邦人脱出作戦やイラン・イラク戦争における邦人脱出の為のチャーター機の派遣が、労働組合による「安全が確保できない」、「戦争に加担するに等しい」などの理由で実現しなかった[3](ドイツやフランス、トルコやアメリカの航空会社は定期便やチャーター便を運航し、日本人はこれらを利用し脱出した)。この為国内からは「殿様身分の日航」、フラッグキャリアがチャーター機を派遣した世界各国からは「日本にフラッグキャリアはないのか」と非難されたといわれている。