釣掛駆動方式

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2021年1月10日 (日) 22:37時点における新型電気式気動車 (トーク | 投稿記録)による版 (最新情報反映。)

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釣掛駆動方式(つりかけくどうほうしき)は、電車電気機関車等の電気車において、モーターから車輪に動力を伝達する(モーターを台車に装架する)方式の一種。手法としては単純で、すでに古典的な方式である。

釣り掛け吊掛吊り掛けとも表記するが、絶対的な統一表記はない。英語では nose-suspension drive 。

日本では、電車の駆動方式としてはカルダン駆動方式に取って代わられ、現存例は多くないが、電気機関車の駆動方式としては21世紀初頭現在でも広く使われている。

基本構成

ファイル:Turikake.PNG
釣掛駆動の構造(ノーズ・サスペンション方式)
ファイル:Eidan1800motor.jpg
ノーズ・サスペンション方式の釣掛モーターの例(営団1800形電車地下鉄博物館展示物))
ファイル:Chikutetsu2000motor.jpg
路面電車用バーサスペンション方式の釣掛モーターの例(筑豊電気鉄道2000形電車)。手前に軸受が見える。回転軸の右側にある棒状の部分を台車枠に取り付ける

モーターは車軸と平行に配置され、モーター軸から平ギアで車軸を駆動する。モーターの車軸側には軸受が設けられており、この軸受部分を車軸に乗せる。車軸と軸受の間にはアクスルメタルを挟む。

車軸と反対側の部分は台車枠に取り付ける。この取り付け部分の支持方式はノーズ・サスペンション方式バー・サスペンション方式の2種類がある。

ノーズ・サスペンション方式とは図のようにモーターの片端に設けられたノーズを台車枠に固定する方式である。台車枠とノーズの間にはバネを挟む。大形の鉄道車両に多く用いられている。

バー・サスペンション方式はモーターの片端に棒状の部品(バー)を付け、このバーを台車枠に固定する方式である。台車枠とバーの間にはバネを挟む。軸距の短い台車の場合に有利である。主に路面電車軽便鉄道で多く用いられたほか、江ノ島電鉄箱根登山鉄道など比較的小型な車両を使う鉄道で使用されたが、大型電車では少数派である。[1]

どちらの方式でも、モーターは車軸と台車枠の間に橋渡しされた状態、すなわち車軸と台車枠に釣掛られた形になる。「釣掛」の呼称は、ここから来ている。車軸とモーターの位置関係がアクスルメタルで固定されるので、相対的な偏位は起こらない。

長所・欠点

長所

  • 構造が非常に簡単である。
  • 大型モーターにも使用しやすい。
  • 最小限の構成であるため、スペースに制限のある狭軌鉄道でも使用しやすい。

欠点

  • モーター重量の50%が車軸に直接かかり、バネ下重量が大きい。このため線路・台車・モーター自体への衝撃が極めて激しい。従って高速運転には本質的に不向きである。乗客にとっては乗り心地も悪くなる。発車の際には猛烈な騒音と激しい振動がおこる。
    • 釣掛駆動用モーターは、衝撃に耐えるため、頑丈に作らざるを得ない。結果として重量は増え、バネ下重量も増加してますます衝撃が強まる。悪循環である。
  • 高回転化は困難である。このため低回転・大トルク型のモーターを用いることになるが、このようなモーターとの組み合わせでは、山・谷の大きな、歯の粗い頑丈な歯車と組み合わされるため、歯面同士の打音は大きくなりがちで、走行時には釣掛式特有の激しい騒音を発する。
  • アクスルメタルや歯車などが、大トルクによる負荷や、大きな重量による衝撃のために消耗しやすく、又、ギアボックスを密閉できないため、メンテナンス上の配慮を要する。メンテナンスサイクルもカルダン駆動方式に比して短い。ただしトータルランニングコストに関しては、軌間や軌道の状態によっては必ずしもカルダン方式が優位とはいえない場合もある。
これらの問題点は近年改善が進んでいる。車軸架装ベアリングにおいてはプレーンメタルに代わってローラーベアリングが導入されるようになり、アクスルメタルやノーズがゴム緩衝されたり、歯車においても材質、焼入れ、歯の形や角度、バックラッシの最適化等が為されている。この結果、摩耗・消耗・騒音の抑制が図られるようになっているが、バネ下重量が大きくなる構造という根本的な制約を克服するまでには至っていない。

歴史

エジソン研究所出身のアメリカ人スプレーグ Frank Julian Sprague(1857年~1934年)が、1887年架空電車線方式と共に考案、ヴァージニア州リッチモンドに路面電車を運転開始したのが最初。このため「スプレーグ方式」と呼ばれることもある。

簡潔なシステムで当時においては信頼性が高かったことから、世界各国に早期に普及した。

発祥国であるアメリカでは、世界の先陣を切って1930年代にPCCカー等の高性能電車が開発されたことに加え、1940~50年代にニューヨーク等の地下鉄電車を別にして高速電車そのものが衰退したこともあって、路面電車の一部や動態保存車を除けば殆ど存在しない。

だが21世紀初頭においても、ヨーロッパを中心に電車の駆動方式の主流を、釣掛駆動方式が占める国は多く存在する。代表例としてはイギリスオランダベルギーデンマークオーストリア等といった諸国において、主に都市近郊電車を中心として存在している。このほか、日本同様の1067mm軌間で、規格も近似する台湾でも、特急“自強号”用電車を中心に釣掛駆動方式電車が多数在籍する。

ドイツでは電気機関車、電車ともに中空軸可撓釣掛駆動方式が主流である。

但し1980~90年代前半位まで釣掛駆動方式を採用したケースもあるこれらの諸国でも、新車はVVVFインバータ制御へのシフトと共に駆動方式も改められており、同方式が過去のものになりつつあることに変わりは無い。中には台湾鉄路管理局EMU500型電車イギリス国鉄クラス323電車のように釣掛駆動とVVVFインバータ制御を併用した車両も存在する。ただし前者は更新工事とともにWN駆動化が進められている。

日本での歴史

1890年には早くも釣掛駆動のスプレーグ式路面電車が日本に持ち込まれ、東京・上野公園で行われた第2回内国勧業博覧会に出品されている。1895年に登場した日本初の電車(京都電気鉄道、のちの京都市電)もこの方式であり、以後電車・電気機関車におけるほとんど唯一の駆動方式として広く普及する。

釣掛式モーターは、当初はアメリカ、イギリスからの輸入に頼っていたが、第一次世界大戦による輸入途絶を機に、1917年以降国産化が進められ、1920年代中期にはライセンス生産ではあるがほぼ国産化に成功していた。1927年には電車用150kW形、1928年には電気機関車用225kW形を国産開発するに至る。

しかし、釣掛駆動方式は前述のような欠点から、電車の性能向上の制約にもなった。

電車

1930年代以降、ばね下重量の低減に早くから積極的であった欧米の電気車ではカルダン駆動方式が実用化され、1950年代以降は日本の電車にも導入されるようになった。

特に、輸送力増強を迫られた大手私鉄が、その対策として即効性のある「電車の性能向上」に取り組んだことが日本でのカルダン駆動方式の普及につながっている。1951年頃からカルダン駆動方式の試験が開始され、1953年にまず京阪電気鉄道帝都高速度交通営団(現・東京地下鉄)がカルダン駆動方式の新車を製造、続いてその他の大手私鉄各社も順次カルダン駆動を採用していった。また国鉄も、長距離優等列車に電車を利用する見地から、1958年以降は高速走行性能や乗り心地、騒音を改善できるカルダン駆動方式にシフトした。

1960年代後半以降、釣掛駆動の電車は一部の特殊例を除いて新規製造されなくなる。その後も遠州鉄道江ノ島電鉄近鉄特殊狭軌線下津井電鉄や各地の路面電車など、一部私鉄が構造の簡便さや特殊な規格に起因する架装スペースの都合から採用を続けた例はあるが、これらも1980年代にはカルダン駆動に移行し、現在では釣掛式を新規採用する鉄道会社は皆無となった。

ただし、釣掛駆動の旧型車から走行装置を流用した「車体更新車」はその後も一部の私鉄が製造を続けており、1980年代以降に至っても東武鉄道名古屋鉄道等で製造された例がある。

しかし1980年代以降、VVVFインバータ制御が実用化され、常時給油や職人芸的調整を要するプレーンメタルはおろか、刷子も持たない交流誘導電動機を使用することが可能になったことで、カルダン駆動方式の導入だけでは成しえなかった保守点検の簡便化が実現し、性能面でも飛躍的な改善がなされた。

この結果、大手私鉄の釣掛駆動更新車は性能・メンテナンス性ともに完全な新車に比べて大きく見劣りするようになり、運用の場を狭められ、廃車が進んでいる。また地方私鉄でも他社のカルダン駆動方式中古車・中古部品を譲り受け、釣掛駆動方式をすべて廃車とした事業者が多くなっている。

路面電車では高速走行を必要とせず、構造簡便で、かつ台車外側に釣掛ることでホイルベースを極限まで短縮できることから、後年まで釣掛式が多く採用されたが、VVVFインバータ制御の実用化に加え、現在では各地で超低床路面電車の導入が少しずつ進められ、引き替えに釣掛車の廃車も進められている。路面電車型の低床車を使用する事業者では、現在なお釣掛車が主流である事業者もいくつかあるが、そのような事業者でも釣掛車の新規製造は行っていない。

  • 1067mm軌間の普通鉄道最後の完全新造の釣掛電車は1983年製造の江ノ電1200形であり、バー・サスペンション方式である。
  • 普通鉄道最後の完全新造の釣掛電車は1990年製造の三岐鉄道北勢線277形(762mm軌間)である。
  • 日本における狭軌鉄道速度記録・175km/hを1960年に樹立した国鉄の試験電車クモヤ93形000号も、釣掛駆動車であった。
  • 2021年現在、JR各社、大手私鉄における釣掛式電車は、事業用を含めて全て運用を終了している。大手私鉄においては最後まで残った名鉄瀬戸線で使用されていた6750系が2011年に全廃。特殊狭軌線の近鉄内部線・八王子線についても2015年に四日市あすなろう鉄道に経営移管。これに伴い大手私鉄で最後まで残った同線の釣掛車260系が譲渡されている。

電気機関車

一方、日本の電気機関車では、21世紀初頭の現在に至るまで釣掛式が主流の駆動方式である。

一部の特殊な機関車では中空軸可撓釣掛駆動方式(EF66形)、カルダン駆動(EF80形等)や、それに近い「クイル式」や「リンク式」と呼ばれる方式を採用した少数例もあるものの、狭軌鉄道において大出力モーターを使用する場合には、信頼性において単純な構造の釣掛式に一日の長があり、現在でも広く用いられている。JR貨物における最新型の電気機関車では、一基で500kWを越える大出力釣掛モーターが使用されている。特に試作車のみで終わったEF500(2002年廃車)では1000kWの釣掛モーターが採用されていた。

脚注

  1. 電車にバー・サスペンションの主電動機を採用した青梅電気鉄道(現・JR青梅線)は、1944年の国有化に際し電動車全車の電装が解除されたが、これはノーズ式が標準の国有鉄道とは規格が相違して、部品供給やメンテナンスに難があったためである。

関連項目

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