女らしさ
女らしさ(おんならしさ)とは、これが女性の特性(あるいは特徴・要件等)である、と特定の話者や特定の集団が想定している観念群のことである。「男らしさ」に対置される観念。
概説
「女らしさ」は、文化圏、地域、宗教の教派、歴史、時代、世代、家庭環境、個人の嗜好などの影響を受けつつ形成され、多様である。同一地域、同一文化圏であっても、時代とともに変化してゆくことは多く、ある人が思い描く「女らしさ」も、年齢や経験とともに変化してゆくことは多い。
例えば、日本では「男は度胸、女は愛嬌」というが、これは女性は愛嬌があるほうが女らしくて魅力的だ、つまり、女性というのは、愛想が良くあるべきだ、とか、笑顔を見せてひとに感じ良く振る舞うほうが女性としての魅力がある(そうあるべきだ)、という考え方である。
一概には言えないが、要素ごとに、文化的に醸成されたものである、とする見解や、生物学的差異に由来するもの、とする見解がある。例としては、前者を指摘する場合は、躾(しつけ)や社会環境(前述の文化・地域・宗教・歴史・家庭環境 等)による人格形成への影響などを指摘する見解がある。後者を指摘する場合は、ホルモンの違い、(その結果として生じる)脳の性差などで性格・性向が規定されている可能性を指摘する見解がある。文化人類学者などは文化的な面に比重を置いて言及し、生物学者などは生物学的な面に焦点を当てて他の面を見落としてしまうことが多い。いずれにせよ、全ての要素を一般化して説明することは困難である。
なお、コミュニケーションのしかたについては、Deborah TannenやJulia T. Woodらによって、男女差(「男らしさ」(「男のやりかた」)「女らしさ」(「女のやりかた」)があることが指摘されている。それが相互不理解、相互誤解のもとにもなっているという。詳しくは 記事「コミュニケーション#コミュニケーションの男女差」を参照のこと。
日本
もともと日本人の大半を占めていた農家では、「よく働くこと」「働き者」が、良き女性、魅力的な女性の要件であった。
明治以降の「女らしさ」
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明治時代から「女らしさ」は女性の自然の発露であると述べる人もいた。あまりに人工的なものは疎んじられていた、と指摘する人もいる。
例えば次のようなものが「女らしさ」と考えられた
- 否定的には
- 「感情的」[注 1]「ヒステリック」[注 2]
- 「すぐに泣く、涙を流す」[注 3]「泣いて誤魔化す」「ウソ泣きで(周囲の)人を操ろうとする」
- 「ずるい」[注 4]
- 「嫉妬深い」「すぐにねたむ」[注 5]
- 「欲深い」「自分のことばかり考えている」[注 6]
- 「不平・不満ばかりを言う」[注 7] 「愚痴が多い」
- (男性と比べて)(自分のやること、やるべきことに注意を向けておらず)「自分の外見のことばかり気にしている」「ひとからの評価ばかり気にしている」[注 8]
フェミニズム
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フェミニズムにおいては、「女らしさ」は強制、ととらえられる。
現代の若者の意識調査
文部科学省の外郭団体である財団法人「一ツ橋文芸教育振興会」と「日本青少年研究所」は、2003年秋に日本・米国・韓国・中華人民共和国の高校生各千人を対象にアンケート調査を行い、2004年2月にその結果を発表した。この結果にもとづき、読売新聞は、日本では「女は女らしくすべきだ」を肯定した生徒が28.4%であり、他国(米58.0%、中71.6%、韓47.7%)よりも「突出して低い」と報じた。また、「男は男らしく」を肯定した人も43.4%と、4カ国で唯一半数以下であると指摘した[1]
なお、上記の新聞記事が引用し、日本青少年研究所が公開している調査報告書には、単純集計結果と男女別集計結果が記されている。この報告書における男女別集計結果によれば、調査対象者と各項目を肯定した者の男女比は下記の通りである[2]。
テンプレート:flagicon3日本 | テンプレート:flagicon3米国 | テンプレート:flagicon3中国(大陸) | テンプレート:flagicon3韓国 | |
---|---|---|---|---|
調査対象 (男子:女子) | 35.0:64.8 | 47.6:52.1 | 45.7:54.0 | 52.9:47.1 |
女は女らしくすべきだ 肯定 (男子:女子) | 38.9:22.5 | 61.0:55.5 | 75.4:68.0 | 61.3:32.3 |
男は男らしくすべきだ 肯定 (男子:女子) | 49.2:40.4 | 65.1:62.4 | 83.0:79.7 | 67.4:40.9 |
読売新聞2月20日朝刊の社説は、「日本青少年研究所」が公開した4カ国対象の意識調査において、「女は女らしくすべきだ」を肯定した日本の生徒が少なかった事などにもとづき、「教育界で流行している『ジェンダーフリー』思想の影響を見て取ることができる。」とし、その社説の最後で「調査結果は、倒錯した論理が広がったときの恐ろしさを示している。」と結論づけた[3]。
脚注
- 注
- ↑ 「男らしさ」を「感情の表現を抑える」とした場合の、裏表の関係にある観念。比較によって自然に生まれる評価。
- ↑ 医学的にも、16世紀以来、ヒステリーは女性に典型的な病気だと考えられてきた。「ヒステリー」の記事も熟読のこと。
- ↑ 「男らしさ」が「感情をおもてに出さないこと」とする観念との対比・比較によって生まれる観念。
- ↑ 「男性らしさ」を「潔い(いさぎよい)」とした時の、裏表の関係の観念。比較によって自然に生まれる評価。
- ↑ 男性
- ↑ 「男性らしさ」を「天下国家のことを考える」「自分(個人)を超えた人類社会全体のことを大切にする」とした時の、裏表の関係の観念。比較によって自然に生まれる評価。
- ↑ 「男性らしさ」は「我慢強いこと」「よく耐えること」、という観念によって、比較・対比によって自然に生まれる評価。
- ↑ 「男性らしさ」が「良い仕事をしようとする(意欲・覚悟・気骨がある)」「天下・国家という価値観で自分の仕事を判断し、周囲の人間からの評価は気にしない、あてにしない」という観念との比較・対比によって自然に生まれる評価。
- 出典
- ↑ 2004年2月17日読売新聞朝刊
- ↑ 高校生の生活と意識に関する調査 (日本青少年研究所 2004.2)
- ↑ 読売新聞2004年2月20日朝刊:社説
関連文献
- 宮本百合子著『「女らしさ」とは』(初出、「アカハタ」1946年(昭和21年)11月12日号)(宮本百合子全集 第十五巻、 新日本出版社、1980年)
- 羽仁説子『新しい女らしさをもとめて』知性社、1958、ASIN B000JAU4BG
- 村中兼松『性度心理学―男らしさ・女らしさの心理』帝国地方行政学会、1974、ASIN B000J9X20W
- 村中兼松『男らしさ・女らしさからみた職業・結婚・人間関係』ぎょうせい、1977.03、ASIN B000J8Z2JW
- イソノ え-たろ『愛される女らしさ』ミリオン出版社、1979.05、ASIN B000J8D5E6
- 秋山達子『いい女への旅立ち―聡明な女らしさを求めて』祥伝社、1978.10、ISBN 4396101384、 1987.10 ISBN 4396310137
- 川上源太郎『こころのおしゃれ―聡明な女らしさを育てる本』芳文社、1981.01、ISBN 4832200054
- 鈴木健二『女らしさ物語―美しく生きる45章』小学館、1982.12、ISBN 4093960313、 集英社 1985 ISBN 4087490238
- 鈴木丈織『女らしさを生かす職場学―相手を知り、自分を伸ばす』早稲田教育出版、1984.01、ISBN 4898262198
- 秋山さと子 『ほんとうの女らしさを求めて―女の魅力を育てる本』海竜社、1986.10、ISBN 4759301615
- 鈴木健二『女らしさ愛らしさ―美しく生きるための心得』大和出版、1986.10、ISBN 4804770488、 1992.10 ISBN 4804701397
- 佐佐木綱『女らしさ・男らしさ―計画の視点より』淡交社、1989.05、ISBN 4473010953
- 森隆夫『豊かな個性―男らしさ・女らしさ・人間らしさ』ぎょうせい、1991.12、ISBN 4324030219
- 青木やよひ、磯田 三雄 『ちょっと変じゃない?―「女らしさ」「男らしさ」ってなんだろう』小峰書店、1992.10、ISBN 4338104015
- 浦里はる美『女らしさを磨く―女優浦里はる美の宝箱』生有会、1994.06、ISBN 4795236089
- 渡部昇一著『人間らしさの構造』講談社学術文庫、1977.05、ISBN 4061581430
- スーザン・ブラウンミラー『女らしさ』 勁草書房、1998.07、ISBN 4326652101
- 小倉孝誠『「女らしさ」はどう作られたのか』法藏館、1999.04、ISBN 4831872466
- 伊藤緋紗子『「女らしさ」という名の幸せ』講談社、1999.09、ISBN 4062641119
- 星島恵美子『女性のスピーチ実例集―女らしさを生かし自信をもって話せる』講談社、1999.09、ISBN 4062641119
- 蔦森樹『男でもなく女でもなく―本当の私らしさを求めて』朝日新聞社、2001.02、ISBN 4022613238
- 高橋裕子『「女らしさ」の社会学―ゴフマンの視角を通して』学文社、2002.09、ISBN 4762011649
- 森永康子『女らしさ・男らしさ―ジェンダーを考える』 (心理学ジュニアライブラリ) 北大路書房、2002.11、ISBN 4762822841
- 『男らしさ・女らしさって何? (こんのひとみ心の言葉)』ポプラ社、2003.03、ISBN 4591076237
- 渡部昇一著『男は男らしく 女は女らしく』ワック・マガジンズ(ワック文庫)、2004.12、ISBN 4898315275
- 新井えり『「女らしさ」の磨きかた―本当の美しさが宿る心くばり、マナー、言葉遣い、愛情』グラフ社、2005.10、ISBN 4766209230
- 小倉孝誠『“女らしさ”の文化史―性・モード・風俗』中央公論新社、2006.08、ISBN 4122047250
- 小倉千加子『オンナらしさ入門(笑)』理論社、2007.04、ISBN 4652078277
- ケイト・ボーンスタイン『隠されたジェンダー』新水社、2007 ISBN 488385101X