解雇
解雇(かいこ)とは、使用者の一方的な意思表示による労働契約の解除である。解除に当たり労働者の合意がないものをいう。
目次
日本の法制
- 本項で労働基準法について、以下では条数のみを挙げる。
解雇に類似した概念
「解雇」の語は民間の事業所または事業者の被雇用者が失職させられることに用いる。正社員のみならず、契約社員やアルバイト・パートタイマーなどの非正規雇用の場合も含む。労働契約期間中の中途解約のみならず、労働契約が成立していれば、その際に行う期間開始前の解除も解雇である。
- 公務員が職を解かれることは「免職」という。
- 派遣先企業による派遣契約(派遣会社から派遣社員を派遣する契約)の解約は、派遣労働者と派遣元との契約が残るため、通常は解雇とは呼ばない。
- 期間の定めのある雇用契約の期間満了は、解除を行わないため、通常は解雇にはあたらない。
- 使用者からの退職勧奨に労働者が応じたことに伴う離職は、使用者の一方的な意思表示によるものではないため、解雇ではない。
- 芸能人や外交員、プロスポーツ選手によく見られる、委任・請負契約や業務委託契約に基づく専属契約の解消も、契約自体が実態として雇用契約に該当するとみなされない場合には、解雇とはならない。ただし、マスコミでは芸能人やプロスポーツ選手の専属契約の解除を「解雇」と表現して報じることがままある。
労働基準法の経緯
雇用の解除については、労働基準法の制定以前より民法で規定されていたが、民法における雇用契約は当事者の交渉力や社会的地位が対等であることを前提としており、例えば期間の定めの無い雇用契約(定年まで働くような契約のこと)では、当事者のどちらからでも一方的に解除を申し入れることができる(民法627条)。しかし使用者の方が労働者よりも強い立場にあるのが通常であるから、労働者が解雇されるに当たっては、民法による保護では十分ではない。そこで、1947年(昭和22年)、労働基準法により、解雇する場合の最低基準が制定され、さらに現在では労働契約法など各種の労働法や判例法理によって、民法の原則が全面的に修正されている。
「解雇の自由」から「解雇の制限」へ
労働基準法には、解雇手続きの要件(30日以上前に予告する、または同日数分以上の平均賃金(12条)を払う)が「労働者の責に帰すべき事由」があれば免除されるとある(20条)。これを解釈すると「30日分の平均賃金を払えば、特に理由が無くても解雇できる」となる。これは当初は解雇について一般的な見解であった。これに従って、「解雇の自由」を支持する判例[1]が出されている。 しかし、1950年代に下級裁判所において判例を積み重ねた法体系ができあがっていく中で、裁判所は労働者に対し様々な法的保護を与えていき、この結果、「解雇の自由」は「解雇の制限」へと変わっていった[2]。
「正当事由説」と「権利濫用説」
20条の解釈を巡って、裁判官の間にあった2つの説[2]。
- 正当事由説
- 20条の明文の要件とは別に、「解雇には正当な事由がなければならない」とする不文の要件があるとして、正当な事由のない解雇は無効とする説。
- 権利濫用説
- 企業の解雇権は20条によって認められているが、権利を濫用した場合(民法1条3項)には解雇を無効とする説。濫用については、第二次世界大戦前にはすでに法体系として確立していたが、解雇に関しては適用外とされていた。戦後に入り、解雇も適用されるという考えが出てくる。
- 1950年代前半に東京地裁労働部がこの考えをリードし、後の判例の蓄積により裁判所は基本的にこの立場が優位となっていく(日本食塩事件、最判昭50.4.25や、高知放送事件、最判昭52.1.31など)。
解雇の制限
解雇は、使用者の一方的意思表示で行うものであるが、解雇は労働者の生活の糧を得る手段を失わせるものであるから、不意打ちのような形で行われることがないよう、各種の法制で規制が設けられている。
- 期間の定めの無い雇用契約(無期雇用)では、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となる(労働契約法16条)[3]。
- 期間の定めのある雇用契約(有期雇用)では、使用者は、やむを得ない事由がある場合でなければ、その労働期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない(労働契約法17条)[4]。
事業場ごとに定める就業規則には退職に関する事項を定めなければならず(89条以下)、通常これに解雇の原因となる行為、すなわち解雇事由が定められている。しかし裁判所は、たとえ労働者に就業規則違反などの落ち度があった場合であっても具体的な事情から考えて「解雇権の濫用」であるといえるならばその解雇は無効として、使用者による解雇権の行使を制限してきた。これが解雇権濫用の法理と呼ばれるものである。つまり、紛争になっている解雇について具体的事情に照らして考えると、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができないという場合には解雇権の濫用として解雇の意思表示は無効になる。この法理は、その後の改正によって労働基準法18条の2に明記され、さらに現在は労働契約法16条に移行した。就業規則には「その他前各号に準ずるやむを得ない事情があったとき」というような規定が設けられていることが多く、解雇制限としては不十分だからである。
さらに、解雇が具体的に制限されている主な場合として、次のものがある。労働者の責めに帰す事由があっても、この解雇制限は解除されない。
- 業務上災害により療養のため休業する期間とその後の30日間の解雇(19条1項)
- 天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合には、行政官庁(所轄労働基準監督署長)の認定を受けた上で解雇制限が解除される(19条第1項但書、2項)。この「やむを得ない理由」に景気変動・不況・経営失敗によるものは入らない。
- 業務上の傷病により使用者から補償を受ける労働者が、療養を開始して3年を経過してもその傷病が治らない場合、平均賃金の1200日分の打切補償(81条)を支払えば解雇の制限は解除される(19条1項但書)。この場合は行政官庁の認定は不要である。ただし実際には労災保険の傷病補償年金が3年経過後も支給されていれば、使用者は打切補償を支払ったものとみなされて解雇制限が解除されるので、打切補償を支払って解雇制限を解除することは極めてまれなケースに限られる。
- 産前産後の休業期間とその後の30日間の解雇(19条1項、65条)
- 天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合には、行政官庁(所轄労働基準監督署長)の認定を受けた上で解雇制限が解除される(19条第1項但書、2項)。
- 年次有給休暇を取得したことを理由とする解雇(136条)
- ただし、136条違反に対する直接的な罰則は定められておらず、強制力がないと解される。
- 労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、もしくはこれを結成しようとしたこと、もしくは労働組合の正当な行為をしたこと等を理由とする解雇(労働組合法7条)
- 事業場の法令違反を労働基準監督署等に申告したことを理由とする解雇(104条2項、労働安全衛生法97条、最低賃金法34条)
- 労働者の性別を理由とする解雇(男女雇用機会均等法6条)
- 女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことを理由とする解雇(男女雇用機会均等法9条)
- 対象となる労働者が育児・介護休業を申し出たこと、又は育児・介護休業をしたことを理由とする解雇(育児・介護休業法10条、16条)
- 対象となる労働者が看護・介護休暇を申し出たこと、又は看護・介護休暇をしたことを理由とする解雇(育児・介護休業法16条の4、16条の7)
- 対象となる労働者が所定外労働の制限・時間外労働の制限・深夜業の制限を申し出たこと、又は所定外労働の制限・時間外労働の制限・深夜業の制限をしたことを理由とする解雇(育児・介護休業法16条の9、18条の2、20条の2)
- 公益通報をしたことを理由とする解雇(公益通報者保護法3条)
- 労働者が雇用保険法における被保険者となったこと又は被保険者でなくなったことの確認を行ったことを理由とする解雇(雇用保険法8条、73条)
解雇の予告
使用者が労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前に予告をしなければならない(20条1項)。解雇予告は、解雇日について何年何月何日というように特定しておかなければならない。
30日間は暦日で計算し、その間に休日や休業日があっても延長しない。月給・年俸制等においては民法における解除予告期間が30日より長くなる場合であっても特別法である労働基準法の規定により、解雇予告義務は30日間に短縮されるという見解もあるが、労働基準法による規定はあくまで刑事罰を伴う責任であり、民事上は就業規則等で取り決めが無い場合は30日を超える予告義務が別に存在すると解することができる。予告自体は口頭で行っても差支えないが、実際には後日の紛争を防ぐために書面を交付する場合がほとんどである。予告を郵送によって行う場合は、投函した日ではなく相手方に郵便が到着した日が予告日となる(民法97条)ため、解雇日の設定は郵便事情をも考慮して設定しなければならない。
解雇予告は原則として取消すことはできないが、労働者が具体的事情の下に自由な判断によって同意を与えた場合には取消すことができる。同意がない場合は予告期間の満了をもって解雇されることになるため、自己退職の問題は生じない。
解雇予告がなされても、その予告期間が満了するまでの間は、労働関係は有効に存続する。したがって、労働者は労務提供義務があり、使用者は賃金支払義務がある。解雇予告と同時に休業を命じ、解雇予告期間中は平均賃金の60%である休業手当(26条)しか支払わなかった場合でも、30日前に予告がなされている限り、その労働契約は予告期間の満了によって終了する。
解雇予告の規定は以下の労働者には適用されない(21条)。ただし以下の適用除外は解雇予告義務違反による刑事責任を免除されるだけであり、民事上の責任(民法627条、628条、労働契約法による中途解雇制限)をも免除されるわけではない(日雇いは除く)。それぞれの期間を超えて引き続き使用されるに至った場合は、解雇予告の規定が適用される。
- 日々雇い入れられる者。(1箇月を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く。民事上の予告義務もない)
- 2ヶ月以内の期間を定め使用される者。(所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く。民法628条及び労働契約法17条による中途解約の民事責任は残る)
- 季節業務に4ヶ月以内の期間を定め使用される者。(同上、民法628条)
- 試の使用期間中の者。(使用期間にかかわらず、14日を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く。期間の定めのない雇用契約であれば民事上、使用者は2週間前に予告をしなければならない)
解雇の予告をしたにもかかわらず、解雇予定日を過ぎても引き続き労働者を使用した場合は、同一条件で労働契約がなされたものと取り扱われるので、その解雇予告は無効となり、その後解雇しようとする場合には改めて解雇の予告が必要となる(昭和24年基発1926号)。
定年に到達したことで自動的に退職する「定年退職」の場合は解雇予告の問題は生じないが、定年に達したときに解雇の意思表示を行い、それによって労働契約を終了させる「定年解雇」の場合は20条による解雇予告の規制を受ける(秋北バス事件、最判昭43.12.25)。
解雇予告手当
30日以上前に解雇を予告できない場合には、30日に不足する日数分の平均賃金を支払わなければならない(10日前に予告した場合は、20日分以上の平均賃金を支払う)。この不足する日数分の平均賃金の支払いを解雇予告手当という。解雇予告手当は労働基準法上の「賃金」ではないが、解雇の申渡しと同時に、賃金と同様通貨で直接支払わなければならない(昭和23.3.17基発464号)。よって後日請求することはできず、時効の問題も生じない。また健康保険法における「報酬」にも該当しないため、解雇予告手当を受け取っても標準報酬月額は変化しない。なお、解雇予告手当は税制上では「退職所得」となるため、退職金が存在する場合は合算して退職所得とする。
解雇の予告及び解雇予告手当の趣旨は、失職に伴う労働者の損害を緩和することを目的としたものである。なお、3月31日付けでの退職届けを出していたが、それ以前、たとえば3月15日に即日解雇された場合は、解雇予告手当として30日分の平均賃金の支払いをしなければならないため、15日以降の出勤日を休業させ平均賃金の6割である休業手当を払うほうが合理的である。予告期間満了前に労働者が業務上の疾病のため休業した場合、制限期間中の解雇はできないが、休業期間が長期にわたるものでない限り、解雇予告の効力発生が中止されたにすぎないので、休業明けに改めて解雇予告をする必要はない(昭和26.6.25基収2609号)。
即時解雇
解雇予告手当を支払わず、労働者を即時に解雇できるのは、次の事由により所轄労働基準監督署長の認定を受けた場合である(20条1項但書、3項)。認定を受ければ、解雇の効力は認定を受けた日ではなく解雇の意思表示をした日に発生する。ただし、労働基準監督署長の認定を受けなくても、認定申請を行わなかった20条違反による刑事上の問題はあるものの、民事的には認定を受けるだけの事由があれば即時解雇は有効で解雇予告手当の支払いは不要というのが判例の傾向である(東京高判昭47.6.29ほか)。
- 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合(この場合は、上記の解雇制限期間中の労働者であっても解雇できる)。
- 労働者の責に帰すべき事由(この場合は、上記の解雇制限期間中の労働者は解雇できない)。
- 除外認定は、次の場合に受けることができると例示されているが、具体的には個別に判断される(昭23.11.11基発1637号、昭31.3.1基発111号)。就業規則で定める懲戒解雇事由とは別に判断されるので、認定を受けられなかったからといって懲戒解雇できないわけではない。
しかしながら、上記の事由を満たさないのに、解雇の予告も、解雇予告手当の支払いもないまま即時解雇を通告することがままみられる。このような解雇通告は、即時解雇としては当然無効であるが、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、解雇の通知後30日の経過後又は解雇の通知後予告手当の支払いのあったときから解雇の効力が生ずる。つまり、解雇する旨の予告として効力を有する(昭和24.5.13基収483号、最判昭35.3.11)。また裁判所は、解雇予告手当を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、未払金と同一額の付加金を支払うよう命ずることができる(114条)。なお下級審の判例によれば、解雇の意思表示そのものをどのように受け取るか(解雇の意思表示を無効と主張するか、あるいは解雇が有効であるとの前提で解雇予告手当の支払いを求めるか)は労働者の選択に任されていると解される(東京地判昭41.4.23他)。
実際にはシフト・出勤日数の調整による事実上の解雇や、労働者側の法的知識が無い事、訴訟費用が十分に無い事を理由に、会社側は不当解雇と分かりながら違法な即日解雇を行う事がある。また会社側から損害賠償等で社員を告訴する、家族を人質に取る旨を仄めかす等、リストラ工作のために脅迫し自主退職に追い込むケースも多々見られるが、これらのケースでは、多くは労働者が告発した場合に企業が名誉毀損による告訴を盾に元社員の口封じを行う事が日常的に行われている。労働者側は不当解雇にあわないよう、記録を日常的に取る習慣をつける事が肝要である。
年次有給休暇との関係
解雇予告が行われると、最長で30日後に解雇となるため、それまでの所定勤務日数に相当する年次有給休暇を保持している場合は、解雇期日まで取得が可能となり、それを超過する分は法定最低付与分である場合は無効となり、法定以上の付与の分は買取が可能となる。ただし、解雇予告手当が支払われる場合は、解雇期日を短縮されるため、年次有給休暇は無効となる日数が増える。解雇は退職と違い労働者の予期せぬことなのでよく、トラブルとなり法律での保護など、議論を呼んでいる。
解雇証明
労働者が、退職の場合において、退職時の証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない(22条1項)。法定の記載事項は以下のとおりであるが、労働者からの請求があればこれら以外の事項を記載しても差し支えない。一方これらの事項であっても、証明書には、労働者が請求しない事項を記入してはならない(22条3項)。
- 使用期間
- 業務の種類
- その事業における地位
- 賃金
- 退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)
解雇予告された労働者は、退職の日までに使用者に解雇の理由を記した証明書を請求することができ、請求を受けた使用者は遅滞無く交付しなければならない。ただし、解雇予告を受けた労働者が、解雇以外の事由で退職した場合は、退職の日以降、使用者は交付する責を負わない(22条2項)。懲戒解雇の場合であっても同様である。なお、労使の間で退職事由について見解の相違がある場合、使用者は自らの見解を証明書に記載して遅滞なく交付すれば、それが虚偽である場合を除き、22条違反とはならない。なお、雇用保険法における離職票を交付することで退職時の証明書に代えることはできない(平11.3.31基発169号)。なお、請求の回数に制限はない。請求の時効は2年となる(115条)。
また使用者は、あらかじめ第三者と謀って労働者の就業を妨げることを目的として労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、または証明書に秘密の記号を記入してはならない(22条4項)。いわゆるブラックリストを禁止する趣旨である。「通信」については22条4項に挙げられた項目についてのみ禁止されるが(限定列挙)、「秘密の記号」についてはいかなる項目についても禁止される。なお使用者が第三者からの照会に回答することは禁止されていない。
金品の返還
使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者(通常は労働者本人。当該労働者の死亡後はその相続人)の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。これらの賃金又は金品に関して争がある場合においては、使用者は、異議のない部分を、7日以内に支払い、又は返還しなければならない(23条)。なお、所定の賃金支払日が7日よりも前に到来する場合は、その賃金支払日までに支払わなければならないことは言うまでもない。
なお、退職手当については、7日を超えても、あらかじめ就業規則で定められた支払期日に支払えば足りる。
年少者の帰郷旅費
満18才に満たない者が解雇の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。ただし、満18才に満たない者がその責めに帰すべき事由に基づいて解雇され、使用者がその事由について所轄労働基準監督署長の認定を受けたときは、この限りでない(64条)。解雇された年少者が、帰郷旅費を持たないために身を持ち崩すことを防ぐ趣旨である。
「帰郷」とは、本人の住所地に限らず、父母その他の親族の保護を受ける場合はその者の住所に行く場合を含む。また「旅費」には就業のために移転した家族の旅費も含まれる。
雇用保険の給付
雇用保険法における基本手当の受給に当たり、解雇により離職した労働者は、「特定受給資格者」(倒産・解雇等により離職した者)として扱われ、自己都合退職等による場合に比べ、所定給付日数が多くなる(雇用保険法23条)。また以下のような場合も解雇等による離職として同様の扱いとなる(雇用保険法施行規則36条2号~11号)。
- 労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と著しく相違したことにより離職した者
- 賃金(退職手当を除く)の額の3分の1を超える額が支払期日までに支払われなかった月が引き続き2ヶ月以上となったこと等により離職した者
- 賃金が、当該労働者に支払われていた賃金に比べて85%未満に低下した(又は低下することとなった)ため離職した者(当該労働者が低下の事実について予見し得なかった場合に限る。)
- 離職の直前3ヶ月間に連続して労働基準法・三六協定に基づき定める基準に規定する時間 (各月45時間) を超える時間外労働が行われたため離職した者
- 事業主が危険若しくは健康障害の生ずるおそれがある旨を行政機関から指摘されたにもかかわらず、事業所において当該危険若しくは健康障害を防止するために必要な措置を講じなかったため離職した者
- 事業主が労働者の職種転換等に際して、当該労働者の職業生活の継続のために必要な配慮を行っていないことによる離職
- 期間の定めのある労働契約の更新により3年以上引き続き雇用されるに至った場合において当該労働契約が更新されないこととなったことによる離職
- 期間の定めのある労働契約の締結に際し当該労働契約が更新されることが明示された場合において当該労働契約が更新されないこととなったことによる離職
- 事業主又は当該事業主に雇用される労働者から就業環境が著しく害されるような言動(セクシャルハラスメント・パワーハラスメント等)を受けたことによる離職
- 事業主から退職するよう勧奨を受けたことによる離職(従来から恒常的に設けられている「早期退職優遇制度」等に応募して離職した場合は、該当しない)
- 事業所において使用者の責めに帰すべき事由により行われた休業が引き続き3ヶ月以上となったことによる離職
- 事業所の業務が法令に違反したことによる離職
ただし重責解雇(労働者の責に帰すべき事由に基づく解雇)の場合を除く。また労働者が、使用者に解雇してほしいと依頼した結果、解雇となった場合は自己都合退職に準じて取り扱われる。
高齢者・障害者である労働者の解雇
事業主は、その雇用する高年齢者等(常時雇用する45歳以上65歳未満の者に限る。以下同じ)が解雇(自己の責めに帰すべき理由によるものを除く。)その他これに類するものとして厚生労働省令で定める理由により離職する場合において、当該高年齢者等が再就職を希望するときは、求人の開拓その他当該高年齢者等の再就職の援助に関し必要な措置(再就職援助措置)を講ずるように努めなければならない。公共職業安定所は、この規定により事業主が講ずべき再就職援助措置について、当該事業主の求めに応じて、必要な助言その他の援助を行うものとする(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律15条)。
事業主は、その雇用する高年齢者等のうち5人以上の者が解雇等により離職する場合には、原則として当該届出に係る離職の1ヶ月前までに、その旨を公共職業安定所長に届け出なければならない(多数離職届、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律16条)。事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、解雇等により離職することとなっている高年齢者等が希望するときは、その円滑な再就職を促進するため、当該高年齢者等の職務の経歴、職業能力その他の当該高年齢者等の再就職に資する事項(解雇等の理由を除く。)として厚生労働省令で定める事項及び事業主が講ずる再就職援助措置を明らかにする書面(求職活動支援書)を作成し、当該高年齢者等に交付しなければならない(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律17条)。
事業主は、障害者である労働者を解雇する場合(労働者の責めに帰すべき理由により解雇する場合又は天災事変その他やむを得ない理由のために事業の継続が不可能となったことにより解雇する場合を除く)には、速やかにその旨を公共職業安定所長に届け出なければならない。この届出があったときは、公共職業安定所は、この届出に係る障害者である労働者について、速やかに求人の開拓、職業紹介等の措置を講ずるように努めるものとする(障害者の雇用の促進等に関する法律81条)。
解雇の種類
解雇という呼び名は単に普通解雇を指す場合と解雇全般を指す場合もあるが、労働基準法では特に解雇の種類を区別はしていない。以下の区別は判例や慣習で確立されたものである。
- 普通解雇
- 単に解雇と呼ぶ場合もあり、労働能力の低下等、労働者の個別的事由に基づいて行なわれる解雇。個別的解雇ともいう。
- 整理解雇
- 懲戒解雇
- 「労働者の責に帰すべき事由」(20条)に該当する場合の中でも、労働者を保護するに値しないほどに重大または悪質なもの(例:犯罪行為(極めて軽微なものを除く)、職場規律違反、経歴詐称、背信行為(競業避止義務・職務専念義務違反)、正当な理由のない長期欠勤等)に対する懲戒処分として行なわれる解雇。解雇事由は就業規則に列記されたものであって、就業規則規定の手続きをとらなければならない。またほかの懲戒事例との釣り合い(平等取り扱いの原則)、社会通念上の相当性、事前弁明の機会の付与が適正手続きとして要求される。さらに、上記のような刑事犯罪等に該当しない場合には、事前の指導や注意、警告、段階的懲戒も必要となる。
- 諭旨解雇(ゆしかいこ)
- 懲戒解雇に相当するが、労働者本人が懲戒の前提となる事実関係について深く反省しているので、これを承諾するという意味であり、その上で使用者の懲戒解雇を実施するに当たってのデメリットや労働者の不利益の被り方を低くする処置として行なう解雇である。しかし解雇が自己都合退職より労働者にとって経済面で処遇がよくなることがあり(上記、「雇用保険の給付」等)、制裁の意味をなさないため、実際には労働者本人に退職願の提出を要求し、(形式上)自発的に行なう諭旨退職とすることが多い。なお、多くの企業においては諭旨解雇処分にした場合、指定された期間内に本人が退職の申出を行わない場合、懲戒解雇にすることを就業規則で定めている。
- 一時解雇
- 再雇用を前提として、使用者が会社都合で労働者を一時的に解雇すること。景気変動、合併、工場閉鎖などの場合に、多くは労働組合との協定を結んで行われる。アメリカではレイオフと呼ばれ、一般的な制度である。
俗称
- 解雇を頭部・頚部を切断されて処刑されることに喩えて、「馘首(かくしゅ)する/される」と言い、俗に「首を切る/切られる」「首にする/なる」「首が飛ぶ」、又「クビ」または「くび」とかな書きにされることも多い。
- バブル経済崩壊以降、人員整理のための解雇を婉曲的に「リストラ」と呼ぶことが多い。なお、1980年代には同様のケースを「合理化」と呼んでいた。
各国の法制
ほとんどの先進諸国で不公正解雇は法律で禁止されている[5]。
イタリア
イタリアでは労働者憲章の18条で15人以上の従業員を抱える企業が正当な理由なく解雇した場合、従業員を再雇用する義務の規定があった。2012年6月27日、マリオ・モンティ首相が企業が従業員を解雇する際の条件を緩和するなど一連の労働改革法案を可決させた[6]。
スペイン
スペインでは法律により労働者の解雇に厳しい制約がかかっている。そのため、外国企業の投資敬遠、外国人労働者の流入といった事態を招いている、という指摘がある[7]。
アメリカ
不況による雇用量の過剰に対してレイオフによって迅速に人員削減をするのがアメリカ企業の手法であり、解雇の立法規制や判例法理の発達は限定的である。法制は州により異なる。例えば、カリフォルニア州では雇用契約は「at will」すなわち相互の自由意志に基づくものとされ、期間の定めのない雇用契約では使用者の判断で特段の理由なしにいつでも労働者を解雇できる[8]。ただし解雇予告手当に相当するものの支払いは必要。また機会の平等が強い社会的規範であり差別禁止の法制は発達していて、40歳以上の労働者について年齢を理由にしたり、人種、宗教などの理由による差別を、解雇を含む雇用関係のあらゆる過程において禁止している。
なお、Fire(クビ)とLayoff(レイオフ)は別物である。レイオフは会社が仕事を用意できなくなった際に召し放つ行為であるのに対し、Fire(クビ)は個人の働きがミスマッチである際に個別解雇するものである。
ドイツ
ドイツ企業の雇用調整は、日本企業(解雇規制が極めて強い)とアメリカ企業(解雇自由の建前)の中間にあるとされてきた。ドイツでは整理解雇について日本の「整理解雇の四要件」と同様の要件が課されているが、人員整理の前提となる企業縮小や合理化措置などについては、憲法上保障された企業主としての決定の自由が強調され、それに対する司法審査は、明白な非合理性のない限りなじまないとされてきた[9]。事実上解雇ができなかった雇用制度を改革するため、ゲアハルト・シュレーダー首相の政策「アジェンダ2010」の下、法律を改め、解雇をしやすくしたところ、ドイツ企業は競争力を取り戻すために相次いで大幅な解雇を実施した。短期的には失業者が500万人を超えたが、長期的には、雇用の流動性が高まり、逆に労働市場が拡大して失業者は減った。もっともシュレーダー首相は国民の不満を一身に浴びて退陣を余儀なくされた。
脚注
- ↑ 例えば、松山地裁判決昭和26年2月8日
- ↑ 2.0 2.1 『裁判と社会―司法の「常識」再考』ダニエル・H・フット 溜箭将之訳 NTT出版 2006年10月 ISBN:9784757140950』
- ↑ ただし、労働契約法には罰則がないので、違反したとしても刑に処されることはない。
- ↑ 民法626条では、「雇用の期間が5年を超え、又は雇用が当事者の一方若しくは第三者の終身の間継続すべきときは、当事者の一方は、5年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる」と定めるが、そもそも労働基準法14条により3年(特別の場合は5年)を超える契約はできず、民法626条が適用されるのは、家事使用人のような労働基準法の適用除外者に限られる。もっとも家事使用人であっても労働契約法は適用されるので、実際に家事使用人に対しいつでも契約の解除を出来ると考えるのは妥当ではない。
- ↑ 米英独仏の例について労働政策研究・研修機構 2012
- ↑ (2012-06-28) イタリア 解雇条件緩和 労働法成立 構造改革アピール [ arch. ] 2012-07-01
- ↑ 「スペイン:不動産バブルの崩壊と排他主義」『日経ビジネスオンライン』日経BP社、2008年4月3日付配信
- ↑ http://www.mayitpleasethecourt.com/journal.asp?blogid=1261
- ↑ 西谷敏「ゆとり社会の条件」労働旬報社p189