特殊清掃

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特殊清掃とは、清掃業の一形態である。 事件事故自殺等の変死現場や独居死、孤立死孤独死により遺体の発見が遅れ、遺体の腐敗や腐乱によりダメージを受けた室内の原状回復や原状復旧業務を指す。

概要

特殊清掃業者の実態

事件や孤立死では、かなりの時間が経過してから遺体が見つかるケースがある。遺体は傷み、手つかずの部屋は朽ちるように荒れ果てる。そんな室内を清掃・消毒して原状回復し、遺品整理も請け負う仕事が「特殊清掃」だ。

大阪では2013年5月、「おなかいっぱい食べさせてあげられなくてごめんね」とのメモとともに母子が衰弱死しているのが発見され、同11月には餓死とみられる30代女性の遺体も見つかった。いずれも死後数カ月が経過していた。誰もその「死」には気づかなかったが、時間の経過とともに漂う異臭が“現場”を教えた。都会の喧噪の中にもかかわらず、誰にも気づかれずに息絶え、長期にわたって発見されることもない孤独な死者。

2013年11月下旬の早朝。「SCS特殊清掃・ケアサービス」(大阪市天王寺区)のスタッフは社内にある神棚に手を合わせ、静かに目を閉じた。作業に向かう際にいつも行っている「作法」という。現場は大阪府内のある賃貸マンション。この1室で数日前、身寄りのない高齢女性が死亡しているのが見つかり、オーナーの依頼で室内の原状回復を図るのだ。

マンションに到着し、女性の部屋のあるフロアに足を踏み入れると、まだ廊下なのに強い臭いが鼻をついた。スタッフたちは玄関前に立ち、手を合わせて深々と一礼した。ドアを開けて入室すると手早く手袋、ゴーグル、マスクを装着し、フード付の白い防護服に身を包んだ。亡くなった人が生前、どんな病気にかかっていたか分からない。感染症予防の対策だった。

遺体が見つかったのは浴室。室内に殺菌・消毒薬や殺虫剤を散布してから浴槽の清掃にとりかかる。遺体はすでに運び出されているが、浸かっていた風呂の水はそのままだった。

スタッフらが電動ポンプで水をバケツにくみ上げていく。そのまま排水すればいいのにと思ったが、水回りの配管にまで臭いが残ってしまうのだという。

浴槽が空になると、特殊な薬剤を使って洗浄し、丹念に磨き上げていく。黒ずんでいた浴槽は見違えるような白さを取り戻したが、さらにその上から薬剤を散布するなど、入念な作業が続いた。

リビングは古新聞が散乱し、カレンダーは10年前のものがそのまま張り付けてあった。ブラウン管型のテレビはほこりをかぶったまま放置され、置き時計の針は動いていなかった。この部屋だけ、時間が止まってしまったかのようだ。

テーブルは女性が使っていたとみられる大量の塗り薬や綿棒、つまようじで乱雑に埋め尽くされていた。傍らに手紙の束もある。ずっと読み続け、昔を懐かしんでいたのだろうか。赤茶色に変色してしまっている。

特殊清掃では遺品の整理も行うが、今回は女性の遺族らを探している最中ということもあり、スタッフらはこうした品々には手を触れず、部屋を後にした。

「故人が浮かばれない」

同社は、大阪を中心に近畿各地で特殊清掃を手がける。約15年前、社長の川上哲司さん(43)が中心となって立ち上げた。大阪市生野区の葬儀会社が実家で、家業を手伝っていた20代のころ、遭遇した1人の男性の孤立死が特殊清掃を始めたきっかけだったという。

「父親が死んだのですぐに納棺を済ませてほしい」

ある真冬の夜、実家にこんな電話がかかってきた。切迫した様子だったため、すぐに駆けつけた。目の当たりにしたのは腐敗し切った男性の遺体だった。

アパートの1室には強烈な異臭が立ち込め、大量のハエが飛び回っていた。通常、冬は気温が低いため遺体の腐敗速度は遅い。しかし、男性の遺体はこたつに入っていたため激しく傷んでいた。骨まで露出した状態だったが、遺体を洗い清め、死に装束を着せて納棺を済ませたという。

男性は生前、この部屋に一人で暮らしていた。別居していた親族とは、ほとんど交流がなかったという。男性の死亡に気づいたのはアパートの隣人が異臭について苦情を申し立てたからだった。

「これでは、あまりにも亡くなった方が浮かばれない」。痛切に感じ、特殊清掃の道を選んだという。

希薄なコミュニケーション

死後数カ月が経過してミイラ化した遺体が見つかった部屋、天井までごみで埋まるいわゆる「ごみ屋敷」…。清掃に赴く現場はどこも極限状態にある。過酷さに耐えられず、すぐに辞めてしまう社員も少なくないという。

だが、30代の男性スタッフは「現場に行けば行くほど、命のありがたみを感じる」と話す。以前はトラック運転手をしていたが、東日本大震災で救援物資の搬送に携わり、「人の役に立つ仕事をしたい」と転職したのだという。

孤立死といっても、死者は高齢者ばかりではない。自分と同世代が亡くなった部屋を担当したこともあり、そのたびにいたたまれない気持ちでいっぱいになったという。最期の別れができなかった家族の嘆きを聞くのも数知れない。

男性スタッフは「長い時間が経過した遺体は変わり果て、別れすら十分にできなくなる。手遅れになる前に、親族や友人らは存在に気付いてあげてほしい」と語る。

川上さんは何度となく現場に足を踏み入れた経験から、孤立死が後を絶たない現状に、現代社会の「コミュニケーションの希薄さ」を感じているのだという。

「隣人であっても、どんな人が住んでいるかすら知らない。社会全体が『自分は一人で生きている』と思い込んでしまっている。地域コミュニティーを復活させていかなければ悲惨な孤立死はなくならない」

きょうもどこかで、命の灯がひっそりと消えているかもしれない。やがて臭いを放つまで誰にも気づかれることもなく…。

関連項目

外部リンク