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ティラノサウルス・レックス (Tyrannosaurus rex)[1]は、白亜紀末・マーストリヒト期(6800 - 6500万年前)に生存した肉食恐竜で、獣脚類の一種。漢字表記は「暴君竜」。ギガノトサウルス、スピノサウルス、カルカロドントサウルス、エパンテリアスなどと並ぶ地球上に存在した最大級の肉食恐竜のひとつである。肉食恐竜のみならず、恐竜全体の代名詞ともいえる存在であり、ジュラシック・パークなどの、恐竜をテーマにした各種作品において、最大の脅威として描かれる事が多い。
略称でよくT. Rex(ティー・レックス)と呼ばれる。本項では学名の略記の習慣に従い、T. Rexと略記する。
概要
名前は、この種の学名をカタカナ表記したもの。ティランノサウルスと表記されることもある。属名Tyrannosaurusの意味は "暴君のトカゲ"、種の名前rexは、"王"の意味である。恐竜類一般にいえることだが、現存のトカゲ類とは進化上の子孫関係にはない。
体長は約11~13m、重量は5~6トンと推測されている。
他の獣脚竜と同様に上下の顎には鋭い歯がびっしりと並んでおり、生きた動物を襲って、獲物の肉を自由に食いちぎることができたと想像されている。その噛む力は少なくとも3トン、最大8トンに達したと推定される。T.rexの歯は他の肉食恐竜より大きい上に分厚く、最大で18cm以上にも達する。また、全ての食物の骨が噛み砕かれていたことから驚異的な顎の力を持っていたと考えられる。ヴェロキラプトルなどが爪を武器として用いていたのとは対照的に、T. rex は強大な顎と歯のみを武器として使用していた。
体重と比べて前足は異常に小さく指が2本あるのみで、何に使っていたのかはよくわかっていない。但しかなり重いものも持ち上げられることがわかってきている。逆に頭部は非常に大きい。学者の中には、進化の過程で骨格の前方部分が重くなったので前足を短くして軽くしたと考える者もいる。
ティラノサウルス類の原始的な種に羽毛の痕跡が発見されていることから、最近では(少なくとも)幼体には羽毛が生えていたのではないかと考えられている。また、かつては単独行動しているように考えられたが、近年では家族または同属種間での、さまざまな世代で構成されたT.rexたちが団体生活していたのではないかと言われるようになった。これは、とても歩けないような骨折と治癒のあとがある個体が観察され、狩りができない期間、仲間がエサを運んでいた可能性があることから類推されている。
発見
T. Rexの化石は非常に貴重で、2001年の時点では20しか発見されておらず、そのうち完全なものは3体のみである。
1892年、エドワード・ドリンカー・コープは脊椎の一部を発見しマノスポンディルス・ギガス(Manospondylus gigas)と名付けた。
二つ目の化石は1900年ワイオミング州でアメリカ自然史博物館学芸員のバーナム・ブラウンによって発見された。
この標本はコープに師事していたヘンリー・フェアフィールド・オズボーンによって1905年にディナモサウルス・インペリオスス(Dynamosaurus imperiosus)と名付けられた。
三つ目の化石もブラウンによって1902年にモンタナ州で発見され、同じくオズボーンによって、ここで初めてティラノサウルス・レックスとして記載された。
ディナモサウルスとティラノサウルスはオズボーンによる1905年の同じ論文の中で記載・命名されている。
1906年にオズボーンが両者は同じ属であるとして統一したが、その際ディナモサウルスではなくティラノサウルスが有効名とされたのは、たまたま論文中で先に書かれていたのがティラノサウルスだったためである。
1900年に発見された元ディナモサウルスはイギリスのロンドン自然史博物館に、1902年に発見された模式標本は現在ペンシルバニア州ピッツバーグにあるカーネギー自然科学博物館に保管されている。
1990年代に発見された T. Rexの非常に保存状態のよい全身骨格化石は、発見者のスーザン・ヘンドリクソンにちなんでスーと名付けられた。
スーはオークションで10億円で落札され、イリノイ州シカゴ市にあるフィールド自然史博物館に展示されている。
1996年、日本で初めてティラノサウルス科の歯の化石が発見された(福井県)。白亜紀前期の地層からであり、ティラノサウルス科のアジア起源説がある。
2000年6月にはサウスダコタ州にてマノスポンディルス・ギガスと思われる化石が発掘された事から、コープのつけたマノスポンディルス・ギガスという名前の方が優先権があるのではないかと言う論争もあったが、2000年1月1日に発効した国際動物命名規約第4版に定められた規定により、動物命名法国際審議会が強権を発動してTyrannosaurusを「保全名」としたため、T. Rexという名称が失われることはなかった。
2007年4月、ノースカロライナ州立大学などの研究チームがティラノサウルスの骨のタンパク質を分析した結果、遺伝的に末裔がニワトリである証拠を得たとした。
系統関係図
ティラノサウルス属
ティラノサウルス科の中で、ティラノサウルス属 (Tyrannosaurus) として
現時点で広く認められているのは本種のみである。
ただし、タルボサウルスをティラノサウルス・バタール(T.bataar)として、またダスプレトサウルスをティラノサウルス・トロスス(T. torosus)としてティラノサウルス属とする説もある。
特に、モンゴルで発見されたタルボサウルスはその大きさと形態がティラノサウルス・レックスによく似ているため、亜種かティラノサウルスそのものではないかとも言われるが、実際にはタルボサウルスのほうが前肢の比率が小さい。
古生物学のジャーナルActa Palaeontologica Polonicaの記事(外部リンク参照)によれば、Philip J. Currieと Jřrn H. Hurum、Karol Sabathは系統解析をもとにタルボサウルスとティラノサウルスは別属と考えるべきであるとしている。但し、この差異は生息していた環境の違いによるものであり両者は同属である、という説も根強いことは事実である。
ティラノサウルス・レックス
本種。
- 発見 : オズボーン、1905年
- 頭部 : 1.53 m
- 全長 : 11~13 m
- 重量 : 5~6トン
生態に関する議論
姿勢
ティラノサウルスの姿勢は、当初はいわゆるゴジラ形(カンガルーが2足で立ち上がったときの形)と考えられていたが、力学的研究の結果、冒頭の図のようなものであると修正された。
温血動物説
温血か冷血かについては決定的な結論はでていないが、ティラノサウルスは羽毛恐竜で知られるコエルロサウルス類の一種で、鳥類とも比較的近縁である事から恒温動物であるとの見方が有力である。
恐竜#恒温動物説も参照。
羽毛恐竜説
詳細は羽毛恐竜を参照。
1990年代中頃から議論の的となっている。
- 成長するとその大きさで体温を保てるともされるため、羽毛があったのは子供だけともいわれる。
捕食か腐肉食かその両方か
非常に強力な捕食生物(プレデター)だと思われていたが、歴史上何度か異説が提唱されている。
最近では、ジャック・ホーナーのスカベンジャー説が有名である。
なお、この説は大衆向けの出版物や娯楽番組などでよく取り上げられるが、ホーナー博士の主要な研究焦点になったことは一度もない。
このため、情報を受け取る側はこの説を有力な説であると誤解する事が多い。
実際には、ティラノサウルスが狩猟能力のないスカベンジャーであると言う説は、研究者にはほとんど受け入れられていない。
狩猟もするだろうし、腐肉食もしたという意見が圧倒的多勢である。
以下に、腐肉食及び狩猟能力がないとする根拠と、狩猟者であったとする根拠を列挙する。
腐肉食生物説
- 極度に退化した前肢は、草食恐竜を捕食するには明らかに不利である(しかし現代でも前肢に頼らずに捕食する動物は存在するため、捕食が不可能というわけではない)。
- わずかな数ではあるが、化石を分析すると、高速で疾走する方向から長距離を歩く方向に進化する傾向があるといわれている(脛骨がやや短く、大腿骨が長くなる方に進化したようだという。しかし単なるアロメトリーだという意見もあるし、実際には下脚部の相対的長さは相当長く、現代のいくつかの足の速い捕食動物を上回る。また、歩く適応は見られないともする学者もいる)。
- 脳の嗅球が非常に発達しており、嗅覚が非常に優れていたと考えられることも腐肉食生物の特徴と見ることができる(しかし、嗅覚が鋭いということは捕食生物としても有利であるため、腐肉食生物であると決定づけることはできない)。
- 大型の躯体も、他の腐肉食生物を獲物から追い払うときに有効だったのではないか、と推理する学者もいる。
- 歯の形状が、ハイエナのように骨を噛み砕くのに適している(しかし、ハイエナは優秀なハンターである)。
- 当時の環境は、今とは比べるまでもなく草食動物に快適で数が多くティラノサウルスは腐肉に困らなかった。(しかし、肉食動物と草食動物の比率は現代と比べて大差がない)。
- 古くは、ローレンス・ランベが提唱し(アルバートサウルスであるが、いずれにせよ大型獣脚類がプレデターとする説には否定的)、アメリカ人古生物学者ジャック・ホーナーが提唱。
捕食生物説
- ティラノサウルスは恐竜の中で数少ない立体視ができ、対象までの距離を正確に判断できる種である。この能力は生きた生物を襲う際に有利に働く一方、視野が狭い為に(広範囲から食料を探さなければいけない)スカベンジャーには向いていない。また、視神経はとても太いと予測される。
- エドモントサウルスやトリケラトプスの化石には、ティラノサウルスに噛み付かれた後も治癒・生存していたことを示すものがある。これは生きた獲物を襲撃して失敗する事が度々あった事を示す。現代の肉食獣も狩の成功率は低く、ティラノサウルスが生きた獲物を襲っていた証拠となる。
- 当時の生態系において、1t以上の体重を持ち、トリケラトプスを殺すことのできる恐竜は、現状ティラノサウルスのみしか発見されていない。アメリカ合衆国のトリケラトプスの割合は8割を占めていたようで(トロサウルスの化石が混入されている可能性もある)、彼らを殺すことのできる恐竜が存在しないかぎり、腐肉のみで生きていくのは相当厳しいとみられている。
- 非常に発達した三半規管を持つ。これは、頭や目を追いかける獲物に固定するためだったとされている。
- ティラノサウルスは成長期の時期に非常に速いスピードで成長し、高代謝であったとされる。腐肉のみでその高代謝を維持できるとは考えにくい。
- そもそも、大型化が腐肉食に有利な点が少ない。むしろ総合的にはマイナスである。これは、現代の生態系でも腐肉食の傾向を示す捕食動物がどちらかと言えば、小型種が多いという事で証明される。(現代の動物ではライオンが巨体を生かして他の肉食獣の獲物を強奪する事が頻繁にあり、ティラノサウルスは巨体を生かした強奪専門のスカベンジャーであったとの説もある。ただし、ライオンは狩りもするし、強奪だけでは生活できないのも事実である)
- 主に腐肉を食べるとされるハゲワシには飛翔能力がある。腐肉食動物は広範囲を移動できる手段がなければならない。ティラノサウルスにそのような移動手段はないだろう。
- 現代でスカベンジャーとされる陸上動物は大抵、優秀なハンターである。ハイエナやジャッカルの狩りの成功率は非常に高い。また、ハゲワシなども狩りをすることはあると言う。
- 同時代を生きた草食種の中には、トリケラトプスやアンキロサウルスなど異常なまでの防御武装を纏ったものが見られる。これらは大型であるにも関わらず、身を護らなければならない“脅威”があった事に他ならない。
ただ、これらは化石から得られる証拠を推理したに過ぎず、真実はよくわからない。
両方であったという説
現在、この説が最も受け入れられている。
この項目はプレデター説と別項目であるが、実質プレデター説支持者の研究者で腐肉食を否定する者は皆無に近い。
そもそも、大型獣脚類がスカベンジャーでしかないと言う説は繰り返し立てられていて、今に始まった事ではなく、新説でもなんでもない。
こうした説は、立てられるそのたびに生態系への理解がないと批判されている。
なぜなら、現代の生態系では完全な腐肉食者も捕食者も存在せず、ハゲワシの類でもたまには狩りをすると言われている。
現在、この手の議論(どっちかでなくてはならないというような)は、無意味なものと考える古生物学者は多い。
走行速度の議論
ティラノサウルスの足の速さは未だに論争中である。下に、現在ある代表的な説を挙げる。
時速30km説
マンチェスター大学のビル・セラースはティラノサウルスの骨格から筋骨格モデルを作成し、コンピュータシミュレーションをした。
その結果、体重6tのティラノサウルスは時速29kmというかなりの速度で走れるという結果を得た。
また、ティラノサウルス以外にも3種類の現生種とアロサウルス、ディロフォサウルス、ベロキラプトル、コンプソグナテュスも最高速度が算定され、現生種の算定速度は実際のものと一致した。
また、アロサウルスのモデルも実際に発見される足跡化石に一致する歩幅と速度が算定されている。
現在、もっとも中立的な説のひとつであり、筋肉量、速筋遅筋の割り合い、筋力などのパラメータの数値はどれも推測される数値の中間値を使っている。
また、今回は2002年に発表された鈍足説と違い、筋肉の弾性要素や収縮速度及び速筋や遅筋などが考慮に入っている。
今回の結論は時速29kmであるが、前述のようにパラメータが中間的な値であるため、これより速い可能性も遅い可能性もありえる。
論文中には、速筋の割り合いや筋肉量によって、どのように最高速度が変化するかのグラフが記載されており、それによると最低値で20km/h、最高値で50km/hである。
- WEB公開されているコンピュータシミュレーション
- 2005年、ビル・セラースは2007年の論文発表前に自分のWEBサイトで先行的に簡単なティラノサウルスの筋骨格モデルを作成して公開している。6,000kgのティラノサウルスは最高時速25~54kmで走れると書かれている。WEB公開されているモデルは時速38.5km(10.7m/s)である。
走れないとする説
2002年、ハッチソンはティラノサウルスの限界速度は時速18~40kmで、走るのは極めて困難であり、妥当な最高速度をフルード数からもとめられる歩行速度限界である時速18km前後とした。また、1,000kgが二足歩行恐竜の走れる限界の体重と発表した。親子による狩り説はこの推計速度を元にした説である。
後に足跡化石から、体重1t~2tの獣脚類が時速30-40km程のスピードを出せたことが解ってきたため、走れる限界の重さは1,000-2,000kgと訂正した。
この説の重要なところは速度よりも、走れないことを示した事である。走る運動は空中動作がある関係上、垂直方向に強い負荷がかかり、人間の場合は垂直方向に体重の2.5倍ほどの荷重が立脚相中期にかかるとされている。
もし、ティラノサウルス(6,000kg)に体重の2.5倍の荷重が足にかかるとすると、それに耐えうるには体重の86%ほどの足の筋肉が必要だと論文中には述べられている。
筋肉量は各関節にかかるトルクと関節から推定されるモーメントアームから計算された。それぞれ、股関節伸展筋が体重の15%、膝関節伸展筋で4%、足首関節伸展筋で15%、屈指筋が9%、片足につき計43%必要であると算定されている。そんな筋肉量はありえないので、ティラノサウルスは走れるほどの筋肉は持ってないないだろう。
ただし、次のような疑問があり指摘もされている。
筋肉の弾性要素と腱の連動性の未考慮についてであるが、ハッチソン側は、これについては不確定要素が多く、今回は無視したと述べた。
ただし、現生の大型陸鳥は腱などの連動性が下肢の筋肉量を節約するのに大きく買っていることは注目すべきである。
この研究ではMOR-555の体重を6,000kgとしているが、もっと軽いのではないかと言う意見もある。従来の体重算定は鳥類に見られる気嚢を考慮に入れていないためである。ちなみに、研究者によっては、ほぼ同大のBHI-3033(通称STAN)を4,900kgと算定している。あるいはもっと軽く4,000kg程度しかないという意見もある。
実のところ、現在の測定技術では、運動中の筋張力は測定不可能である。このため、運動科学のいくつかの研究は仮説の域を出ない。一連の大型恐竜の運動性の限界説(ティラノサウルスの他に、竜脚類は計算上歩く事も立つ事もできないと発表された)は単に、生物の運動力学における解明力がまだ浅いために生まれたものである可能性がある。ちなみにマーチン・ロックレイ博士はこの論文がBBCニュースを飾ったその日のうちに生体シミュレーションの不完全さを指摘している。
2005年に3Dモデリングされた走るティラノサウルスのモデルを作成、BBCの恐竜番組でハッチソンは「ティラノサウルス の最高速度は30-40km」と述べている。2005年に作成されたモデルは2002年の物と異なり、動くモデルである。
- 親子による狩り説
- 最近の研究によるとティラノサウルスは群れで狩りを行っていた可能性がでてきた。その際、足の速い子供が強力な顎をもつ親の近くに誘導させていたという説がある。この説では、成体のティラノサウルスの速さは時速10km強と考えられている。ただし、あごの力は3tと非常に強力で、現在生息するワニの500kg-1tをしのぎ、トラックや鉄格子も砕いてしまう。そこで比較的体重が軽く、時速30km位で走ることのできる子と、速くは走れないが強力なあごをもつ親が協力して狩りをしていたのではないかというものである。
- ただしティラノサウルスの成長期前の成長が遅く、10年で300kg程度にしかならないこと、また、身軽さももっている(体重約1t)と考えられる成長期には急速に大きくなってしまうことにより、子供が狩りに役立つ時期は非常に短いと考えられ、一部で疑問視する声もある。走行時の足跡化石が発見される日を待つしかない。
時速18kmが限界説
ドナルド・ヘンダーソンはアロサウルスとティラノサウルウスの3D骨格モデルを作成。シミュレーションの結果、ティラノサウルスは歩幅がそれほど広くなく、時速18km程度が限界なのだと言う。
2002年、ハッチソンらがティラノサウルスは生体工学的に走る事はできないと発表した事で、この説はさらに補強された。
長距離歩行説
四肢骨の比率から、ティラノサウルスの足は高速で疾走する方向から、長距離を歩く方向に進化する傾向があり、あまり速くはなかったという説がある。その推定速度は、時速15~34kmである。その速さでもトリケラトプスやトロサウルス等の角竜を追いかけるのには十分であった。
四肢骨の比率は、歩幅と回転性を追及した疾走型の生物の場合、大腿部に対する下腿部の長さの比率が大きい。ティラノサウルスはティラノサウルス科の中で相対的に下腿部が大腿部より短く、大型化すると共に下退部が短くなっていったようだ。この事から、ティラノサウルスは疾走型から長距離歩行型に移行していったと言う。
なお、趾行性もしくは蹄行性の動物の場合、比率の評価において中足骨の長さも重要である(実際、馬の場合は脛骨の長さはそれほどでもないが、中足骨が長い)。
なお、ティラノサウルスは大型恐竜の中では、下退部の比率が大きい恐竜の一種でもある(アロサウルスなどを含むカルノサウルス類と比べると明らかに比率は上回っている)。
これは、ティラノサウルスの中足骨が他の大型肉食恐竜よりずっと長いからである。また、いくつかの現在の足の速い捕食動物より下退部の長さが比率的に大きい(ライオンを上回り、馬よりやや劣る)。ちなみに、コペンハーゲン大学のPer Christiansen は四肢骨の長さの比率からティラノサウルスは時速47kmで走れたと推定していて、あまりにも人によって見解が様々であり結論は出ない。なお、Per Christiansen は現在はティラノサウルスは走れないが、サイが走るのと同等のスピードで歩けると主張している。
なお、生物は大型化するにつれ、異形生長(アロメトリックグロウ)するため、必ずしも四肢骨の比率変化が、疾走型から長距離歩行型への移行と結びつくとは限らない。
アークトメタターサル
ティラノサウルス類は、脚の速い恐竜類オルニトミモサウルス類と共通の特徴であるアークトメタターサルを持っていた。これは第三中足骨が、第二、第四中足骨によって挟み込まれ、上端が押しつぶされる形態のことを言う。
近年の研究によると、可動性もあり第三指骨および中足骨に負荷が加わると、靭帯の働きにより第二、第四中足骨が真ん中に纏められ、負荷を一直線に纏め、俊敏性を増すのに役立ったと考えられる。また、靭帯の損傷も、かなり防げるようになると推測される。
従来この形態は共通先祖から受け継いだ物と思われていたが、現在ではアークトメタターサルでない祖先の発見により収斂進化による物とわかっている。
なお、この論文の執筆者Eric Snively , Anthony P. Russellは、「アークトメタタルサルのない大型獣脚類よりはるかに機敏な動作であった事を立証はしないがほのめかしている。」とやや曖昧な態度ではある。
時速40~50kmとする説
ティラノサウルスは含気骨化した恐竜であり、気嚢を持っていたと考えられる。研究者によっては現在考えられているより軽量で3~4tであると主張している。
もし、ティラノサウルスが3~4tであれば、時速40~50kmが妥当だと言う。ただし、ティラノサウルスは気嚢を持っていることはほぼ確実であるが、現在のところ6tという意見が圧倒的であり、支持を得ていない。
論争について
ティラノサウルスの速さが未だに論争中である最大の原因は、ティラノサウルスの速さを示す足跡化石が見つかっていないためである(足跡そのものは発見されているが、歩幅がわからない物である)。もう一つに、現代動物から見て走るのにはあまりに大きい体躯を持ちながら、足の速い恐竜の特徴(脚の形態は、ダチョウに似たオルニトミモサウルス類に酷似している)を併せ持っていることが挙げられる。そのため、下は時速18kmから上は時速70kmまで、実に様々な説がある。
注記
- ↑ 猶、正式な古典ラテン語式に呼んだ場合、ギリシャ語借用語のyはギリシャ語式に発音される
関連項目
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