寝取られ
寝取られとは、国語辞典的な定義では動詞「寝取る」の受動形の名詞化された言葉である。性問題用語としては、自分の好きな異性が他の者と性的関係になる状況・そのような状況に性的興奮を覚える嗜好・そういう嗜好の人に向けたフィクションなどの創造物のジャンル名、などを指す。ゲーム業界などでは、NTRなどと呼ぶ場合がある。
概要
用語の歴史
マゾヒズムの一種としての、「自分の恋人や妻が他の男と性的関係になることを悦ぶ性癖」は、谷崎潤一郎の『鍵』やマゾッホの『毛皮を着たヴィーナス』などで描かれてよく知られていたが、そのような性癖を表す用語でよく知られたものはあまり無かった。天野哲夫が紹介した『三者関係』『トリオリズム』という言葉は存在した) インターネットなどでは、アダルトゲームやアダルトビデオのジャンル名としてこの語が頻繁に使われるようになっている。紙媒体では、本橋信宏が新書「人妻はなぜそそるのか?」で、この性的嗜好を「寝取られの世界と人妻たちのこれから」という章を割いて紹介した。ネット上ではその種のサイトで賑わっていることや、「自分は寝取られ好きなのに寝取る役割を依頼される河合俊一似の男」や「妻に性感マッサージを受けさせるのを覗き見した男」の事例が紹介された。
日本語に外来語として定着している「寝取られ男」を表す語に、フランス語の「コキュ」 (cocue) がある。仏文学者で明治大学国際日本学部教授の鹿島茂のいくつかの性に関する著作によると、フランスはコキュ文化の国とされ、寝取られ男を描いた文学や演劇などが多く存在する。鹿島茂の『空気げんこつ』によると、フランス語には「寝取られ男」を表す言葉が下記のように3種類あるという。
- コキュ - 浮気されていることを知らない。
- コルナール - 浮気されて、激怒している。
- コルネット - 浮気されていることを知っていても、泰然自若としている。
英語では cuckold が寝取られ男を表す語であり、寝取られマゾ的傾向そのものやそういう嗜好のポルノグラフィを表す場合もある。また、妻の不貞を容認している男を、wittol と呼ぶ。
鹿島の新書『SとM』によると、カンダウリズム的な嗜好の3P愛好者にとっては、寝取る側の男を「ギリシャ人(グリーク)」と呼ぶらしい。マゾッホの『毛皮のヴィーナス』で、ギリシャ人が妻ワンダを寝取るから、である。
「マゾ」の語源で有名な小説家のレーオポルト・フォン・ザッハー=マゾッホは、自分の妻に故意に姦通を行わせて性的快楽と興奮を得ていた。
男性に特有か?
この性癖は男性に特有のものであると、鹿島の『オールアバウトセックス』の女性たちとの対談や、亀井早苗の『男と女』などには書かれている。
しかし、ケイト・ブランシェット主演の『エリザベス:ゴールデン・エイジ』の続編には、女王になって禁欲を強いられたエリザベスが、愛する男と他の女をダンスさせて、嫉妬と興奮の入り混じった恍惚とした表情でそれを眺めるシーンがある。富島健夫のいくつかの官能小説にも、彼氏を他の女に抱かせて嫉妬を抱くことにマゾ的な快感を得る女が何回か登場する。
寝取られ的な小説、映画、漫画、ゲームなど
- 谷崎潤一郎のいくつかの作品(天野哲夫は、『饒太郎』や戯曲『腕角力』などをトリオリズムの作品として挙げた)
- 月光の囁き:喜国雅彦の漫画、および、塩田明彦監督による映画化作品。谷崎にも「月の囁き」というシナリオ作品があるが内容的にはこの嗜好とはあまり関係がない。
- つかこうへいの『寝盗られ宗介』
- 富島健夫のスワッピングや浮気を題材にしたもの
- エマニエル夫人:夫が妻に浮気を勧めるところが、いかにもフランスのコキュ文化的であって、鹿島も言及したことがあった。いわく「浮気を勧める夫の出てくる映画をみて、日本の女性たちは感動した」
- 他に鹿島が挙げたのは、小説『失われた時を求めて』(プルースト)や『ユリシーズ』(ジョイス)
- 団鬼六『不貞の季節』:映画化もされた
関連書籍
- 鹿島茂 - 『オール・アバウト・セックス』『空気げんこつ』『SとM』など幾つかの書物で、寝取られ(コキュ)について語っている。
- 男と女 セックスをめぐる五つの心理 - 亀山早苗の著書。ノンフィクション。 「嫉妬」という章で、この嗜好が紹介されている。
- なぜ人妻はそそるのか? (メディアファクトリー新書) 本橋信宏・著 紙媒体として、ネットではよく使われていた「寝取られ」「寝取られマゾ」「NTR」などのタームを用いて、この性癖を説明した草分け的書物。最終章がその趣旨にあてられている。