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==概要== | ==概要== | ||
目録名は'''黄熟香'''(おうじゅくこう)である。長さ約153cm、重さ約11.6kgであり、外面は黒褐色、内面は黄褐色、内部はほとんど空洞になっている。産地は[[ベトナム]]から[[ラオス]]にかけての山岳部とされている。 | 目録名は'''黄熟香'''(おうじゅくこう)である。長さ約153cm、重さ約11.6kgであり、外面は黒褐色、内面は黄褐色、内部はほとんど空洞になっている。産地は[[ベトナム]]から[[ラオス]]にかけての山岳部とされている。 | ||
+ | ==蘭奢待の形成== | ||
樹木の幹に樹脂が付着した沈香の一種である。沈香は[[ジンチョウゲ科]]([[アキラリア科]])の植物の木の幹や根に樹脂が沈着したもので、樹脂が沈着するため比重が高くなり水に沈むようになることから「沈水香」、沈香と言われる。ジンチョウゲ科ジンコウ属の樹木の木部が傷つけられると、損傷部の保護のため内部から樹脂が分泌される。この樹脂が香りのもととなるが、それだけでは香ることがない。枯れた後に沼沢地の泥濘に埋没し、[[バクテリア]]による分解・変成作用を受けて芳香を発するようになる。 | 樹木の幹に樹脂が付着した沈香の一種である。沈香は[[ジンチョウゲ科]]([[アキラリア科]])の植物の木の幹や根に樹脂が沈着したもので、樹脂が沈着するため比重が高くなり水に沈むようになることから「沈水香」、沈香と言われる。ジンチョウゲ科ジンコウ属の樹木の木部が傷つけられると、損傷部の保護のため内部から樹脂が分泌される。この樹脂が香りのもととなるが、それだけでは香ることがない。枯れた後に沼沢地の泥濘に埋没し、[[バクテリア]]による分解・変成作用を受けて芳香を発するようになる。 | ||
==正倉院の香木== | ==正倉院の香木== | ||
正倉院には有名な香木は二種ある。黄熟香と[[全浅香]]である。「両種の御香」という。全浅香は当初から正倉院に収められていた。[[国家珍宝帳]]に「全浅香壱村 重大三十四斤」と書かれており、さらに全浅香に付箋があり、「全浅香壱村 重大三十三斤五両」と訂正されている<ref name=yoneda>米田該典(2000)「全浅香、黄熟香の科学調査」正倉院紀要 (22), pp.29-40 </ref>。蘭奢待は中世以降に付けられた通称である。 | 正倉院には有名な香木は二種ある。黄熟香と[[全浅香]]である。「両種の御香」という。全浅香は当初から正倉院に収められていた。[[国家珍宝帳]]に「全浅香壱村 重大三十四斤」と書かれており、さらに全浅香に付箋があり、「全浅香壱村 重大三十三斤五両」と訂正されている<ref name=yoneda>米田該典(2000)「全浅香、黄熟香の科学調査」正倉院紀要 (22), pp.29-40 </ref>。蘭奢待は中世以降に付けられた通称である。 | ||
− | + | ==入倉時期== | |
+ | 黄熟香は[[国家珍宝帳]]には記載がない。[[1193年]]([[建久]]四年)「東大寺勅封蔵開検目録」に始めて登場する。「朱塗唐櫃二十六合 一、合納黄熟香一切 長さ三尺許 口一尺許」と書かれている。ところが現存の黄熟香は五尺あるので、同一かは不明である<ref name=yoneda></ref>。和田軍一は黄熟香と全浅香とは区別がないとの説を提唱している。 | ||
==東大寺== | ==東大寺== | ||
蘭奢待には「東大寺」が隠れている。蘭には「東」、奢には「大」、待には「寺」が含まれる。 | 蘭奢待には「東大寺」が隠れている。蘭には「東」、奢には「大」、待には「寺」が含まれる。 | ||
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==欠損部== | ==欠損部== | ||
近年行われた調査によると、蘭奢待には38カ所切り取られた跡があり、実際には、50回程度切り取られていたものと考えられている。[[足利義政]]、[[織田信長]]、[[明治天皇]]が切り取った箇所には[[付箋]]が付いている。この切り取りは、時代時代の最高権力者レベルの人にのみ許されてきたとされている。切り取った道具としては、[[ノコギリ]]、[[刀]]などが使われ、叩き割られた跡もある。 | 近年行われた調査によると、蘭奢待には38カ所切り取られた跡があり、実際には、50回程度切り取られていたものと考えられている。[[足利義政]]、[[織田信長]]、[[明治天皇]]が切り取った箇所には[[付箋]]が付いている。この切り取りは、時代時代の最高権力者レベルの人にのみ許されてきたとされている。切り取った道具としては、[[ノコギリ]]、[[刀]]などが使われ、叩き割られた跡もある。 | ||
− | + | ==出陳年== | |
*1947年 第2回 | *1947年 第2回 | ||
− | * | + | *1982年 第34回 |
− | *1997年 | + | *1997年 第49回 |
− | *2011年 | + | *2011年 第63回 |
*2019年 正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―(東京国立博物館) | *2019年 正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―(東京国立博物館) | ||
2021年12月29日 (水) 20:34時点における最新版
蘭奢待(らんじゃたい,Fragrant Wood for Incence)は、東大寺正倉院に収蔵されている、香木である。「蘭麝待」とも書かれる。
概要[編集]
目録名は黄熟香(おうじゅくこう)である。長さ約153cm、重さ約11.6kgであり、外面は黒褐色、内面は黄褐色、内部はほとんど空洞になっている。産地はベトナムからラオスにかけての山岳部とされている。
蘭奢待の形成[編集]
樹木の幹に樹脂が付着した沈香の一種である。沈香はジンチョウゲ科(アキラリア科)の植物の木の幹や根に樹脂が沈着したもので、樹脂が沈着するため比重が高くなり水に沈むようになることから「沈水香」、沈香と言われる。ジンチョウゲ科ジンコウ属の樹木の木部が傷つけられると、損傷部の保護のため内部から樹脂が分泌される。この樹脂が香りのもととなるが、それだけでは香ることがない。枯れた後に沼沢地の泥濘に埋没し、バクテリアによる分解・変成作用を受けて芳香を発するようになる。
正倉院の香木[編集]
正倉院には有名な香木は二種ある。黄熟香と全浅香である。「両種の御香」という。全浅香は当初から正倉院に収められていた。国家珍宝帳に「全浅香壱村 重大三十四斤」と書かれており、さらに全浅香に付箋があり、「全浅香壱村 重大三十三斤五両」と訂正されている[1]。蘭奢待は中世以降に付けられた通称である。
入倉時期[編集]
黄熟香は国家珍宝帳には記載がない。1193年(建久四年)「東大寺勅封蔵開検目録」に始めて登場する。「朱塗唐櫃二十六合 一、合納黄熟香一切 長さ三尺許 口一尺許」と書かれている。ところが現存の黄熟香は五尺あるので、同一かは不明である[1]。和田軍一は黄熟香と全浅香とは区別がないとの説を提唱している。
東大寺[編集]
蘭奢待には「東大寺」が隠れている。蘭には「東」、奢には「大」、待には「寺」が含まれる。
欠損部[編集]
近年行われた調査によると、蘭奢待には38カ所切り取られた跡があり、実際には、50回程度切り取られていたものと考えられている。足利義政、織田信長、明治天皇が切り取った箇所には付箋が付いている。この切り取りは、時代時代の最高権力者レベルの人にのみ許されてきたとされている。切り取った道具としては、ノコギリ、刀などが使われ、叩き割られた跡もある。
出陳年[編集]
- 1947年 第2回
- 1982年 第34回
- 1997年 第49回
- 2011年 第63回
- 2019年 正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―(東京国立博物館)
管理[編集]
- 倉番 : 中倉 135
- 用途 : 薬物
- 寸法 : 長156.0 重11.6kg
- 材質・技法 : 散孔材の香木