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2013年7月9日 (火) 20:19時点における版

忘れられる権利(わすれられるけんり、the rights to be forgotten)とは、インターネットにおけるプライバシーの保護のあり方として登場した新しい権利である。この権利が語られる際は、「知る権利」や「報道の自由」といった既存の権利との両立が議論となる。

概要

2012年1月、欧州連合は個人情報保護に関する従来の方針に代わる「一般データ保護規則案」を提案した。この中の第17条に「忘れられる権利」が明文化され、個人データ管理者はデータ元の個人の請求があった場合に当該データの削除が義務づけられることとなった。

この新法案が整備された背景には、EUの個人情報保護に対する強い危機意識がある。2011年11月にはフランスの女性がGoogleに対し「過去の写真の消去」を請求して勝訴するという、忘れられる権利が社会的に認められる判例も出てきている。

一方でこの権利に対し、Googleは「報道の自由に対する検閲である」と主張するなど、異なる権利との両立が課題となっている。法案を整備したEUのレディング副議長も「忘れられる権利」に関する条文の運用には慎重さが求められるとしており、議論は始まったばかりといえる。

なお、日本ではまずプライバシー保護法制に主導的な対応を行う組織も曖昧な状況であることから、国際水準に合致したプライバシー保護法制や強力な政府組織体制の整備が喫緊の課題であるとの声が上がっている。

ネットにあふれる個人情報「忘れられる権利」はなぜ必要か?

インターネットに情報が集約されてきた現在、個人のプライバシーにかかわるような情報が、ちょっと検索するだけでずらずらと出てくる。なかには、必ずしも本人が公開してほしくない情報も含まれているだろう。そういったプライバシー情報がネットで公開されていたとき、掲載サイトの管理者に削除を要求できる権利、それが「忘れられる権利」である。

今はまだ「人権」として広く認められているとまでは言えないが、インターネット上のアンケート投票サイト「ゼゼヒヒ」では、実に83%もの人が「忘れられる権利が必要」と回答している(6月20日現在)。ヨーロッパなどでも同種の議論は活発化している。誰しも「忘れてほしい話」の一つや二つはあるということだろう。

だが「ネットは広大」である。サイト管理者の責任や、権利の及ぶ範囲などを定め、権利の実効性を確保するためには、まだ様々なハードルがあるように思われる。「インターネットに強い弁護士」に聞いてみた。

現状では、「誰に連絡すれば消してもらえるのか」さえ、なかなかわからない

「『忘れられる権利』は、インターネット時代の新しい権利のアイデアであり、EUで提案されました。プライバシー権に近いとも捉えられますが、人の名誉権や、刑事手続の対象となった者が『更生する利益』なども含んでおり、憲法上は『幸福追求権』『人格権』の1つと考えられます」

なぜいま、それが問題なのか。

「インターネットは『決して忘れてくれない』。つまり、ずっと情報が残ってしまうからです。個人の名前で検索すれば、その人に関するいろいろな情報が表示されます。たしかに、中には重要な話(公益性の高い話)もあるでしょうが、井戸端会議や単なる噂話レベルのものも、個人名検索でどんどん出てきます。

『忘れてほしいのに、忘れてもらえない』のは、つらいことだと、みなさん異口同音に話します。ネットの情報が気になって眠れない人や、心の病気・体調不良を訴える人が『どうすれば削除してもらえるのか』と、相談にやってきます」

忘れられる権利を使うためには、誰に対して、どういう要求をすればいいのか。

「要求の内容は、個人の情報をネットから削してもらうことです。そのための方法は、裁判所の『削除仮処分』や、テレコムサービス協会(テレサ協)の『送信防止措置依頼書』を使った削除請求です。ただ、誰に対して、というところが問題です。インターネットの情報発信者の多くは匿名だからです」

その場合、どうする?

「情報発信者が分からない場合は、ブログや掲示板の管理会社、サーバー管理会社に削除依頼を送ることになりますが、場合によってはそれらの会社さえ不明というケースもあります。また、外国企業の管理しているサイトであれば、ハードルはさらに高くなるため、問題は深刻です。現行法では、サイトに連絡先を表示する義務はありません。いったい誰にどうやって削除請求を送ればよいのか。これが分かるだけでもずいぶん見通しが違います。このあたりの法整備が急務と感じます」

インターネット時代に合った判断が求められている

どんな場合なら「消してくれ」と要求できるのか。

「これは、一方で表現の自由があり、他方で忘れられる(表現されたくない)権利があるとき、どちらを優位させるかという問題です。はたして削除してよいのか、削除請求された人が迷うケースもあるはずです。一般的な『プライバシー侵害』の裁判では、いまでも『宴のあと』事件判決が示した以下の3要件が使われている印象です。

(1)私生活上の事実、または、それらしく受け取められるおそれのある事実

(2)その人の立場なら公開されたくないだろう、と一般人が思うような事実

(3)まだ、一般に知られていない事実

これらの全てに当てはまれば『プライバシー侵害』となりますが、インターネットの情報では、この(3)が大きな争点となります」

その理由は?

「インターネットに書いてある情報は、すでに『一般に知られていない事実』とは言えないのではないか、ということです。『インターネットに出ていた情報のコピペであり、(3)には当てはまらず、プライバシー侵害にならない』と、そういう主張をされることも珍しくありません。

しかし、ネットのどこかにその情報があったというだけでは、実際にどのくらいの人がその情報に接していたかはわかりませんし、『みんなが知っている』とまで断言するのは疑問です。高裁レベルの判決では、(3)に当てはまるという判断も、当てはまらないという判断も両方でています」

インターネット時代にふさわしい新基準はある?

「“ここに行き着くだろう”と考えているのは、和歌山カレー事件の被疑者・被告人の法廷内での様子を隠し撮りなどした事件の民事裁判で、最高裁が示した基準です。それは、(不法行為法上)違法かどうかは、さまざまな事情を総合考慮し、『人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超える』かどうかで判断するという基準です。要するに、諸事情から考えて、我慢すべき限度を超えているかどうかがポイントです。これを『忘れられる権利』に当てはめると、一方で心身の不調を訴え平穏な生活を脅かされている人がいること、他方で情報の持つ公益性・社会的重要性があることなど、諸事情を考慮したうえで、それが我慢すべき限度を超えていれば、情報を削除してよいということになります」

「結局のところこの分野では、判例も法整備も、インターネット時代に追いついていないというのが実情です」と指摘。「この夏からのネット選挙運動解禁は、ネット時代の表現問題を検討する良い機会ですので、ぜひ立法、行政、司法で取り組んでほしいと思います」と、期待を込めていた。

ネット上での「忘れられる権利」の法制化が急がれている

2013年1月、欧州委員会がインターネット上における個人情報保護のために、「忘れられる権利」という新しい概念を盛り込んだ法案をまとめたことが話題になった。

これは簡単に言えば、ユーザーがネット事業者に対して、自分のプライバシーに関する情報の削除を要求できる権利のことだ。

たとえば、酔った勢いでアップした自分の「ハメを外しすぎた写真」を別の人物がダウンロードし、別のサーバーに再アップロードした場合、本人には削除する術がない。そこで「忘れられる権利」 を行使することで、そのサーバーを管理しているネット事業者に直接削除を要求できるようにしようというわけだ。

「人間は失敗をする生き物である以上、誰だって今更知られたくない過去のひとつやふたつはあるものです。友人は昔話を忘れてくれますが、コンピュータは絶対に忘れません。現実的な問題として、過去のプライバシーがネット上に残り続けていることで苦しんでいる人、社会的にネガティブな影響を受けている人は多数存在しています。現在の法律はこうした状況に対応しきれておらず、出るべくして出た法案だと言えますね」

と語るのは、名誉毀損やプライバシー侵害などの問題に詳しい弁護士の落合洋司氏だ。

「とはいえ、実際に運用するにあたっては削除の正当性が求められるはず。どんなケースでも個人のプライバシーが最優先されるわけではなく、たとえば何らかの事件性があったり、報道目的で掲載されている情報など、削除しない方が公共の利益にかなうと判断されるような事例もありえます。その線引きをどうするかが問われるでしょうね」

関連項目

参考文献

  • 「グーグルの個人情報指針を考える(上)」日本経済新聞、2012-04-11 朝刊、p. 27。

外部リンク