機関直結式冷房装置
機関直結式冷房装置(きかんちょっけつしきれいぼうそうち)とは、鉄道車両やバスなどで、走行用機関の出力軸を動力源として利用する冷房装置の一種である。直結クーラー、直結エアコンとも呼ばれている。
概要[編集]
走行用機関の出力により、冷房装置の圧縮機を直接駆動するもので、圧縮機はVベルトなどを介して補器軸などの機関の出力軸と機械的に結合されている。サブエンジン式と違う所は、駆動機関が冷房と走行に兼用されるか、冷房専用であるかの違いである。走行機関を動力とするため、装置の重量がサブエンジン式に比べて軽くて済むが、圧縮機の駆動により搭載車両の走行性能が落ちる場合が多く、場合によっては20PSほどのパワーダウンを生じる場合がある。また車高が高くなる難点もあるが、冷房装置が比較的コンパクトにまとまるため、搭載スペースが厳しい自動車に普及した。バス用のものを元に鉄道車両用のものも開発され、気動車に搭載されている。
鉄道車両[編集]
国鉄時代は気動車の冷房装置は電車や客車と同様ディーゼル発電機で冷房用電源を確保し、複数の車両に給電するシステムを採用していた。この方式は必ず発電機を持った車両(電源車)を編成に組み込む必要があることから、1両で運行することができず、かといって1両で運行できる車両に冷房用電源エンジンも搭載すると重装備になることで、当時多用されていたDMH17系エンジンではただでさえ非力なうえに走行性能が落ちるため、ローカル線の冷房化が遅れていた。
この反省から国鉄末期に製造された気動車では製造コスト抑制のためバス用部品も導入する施策が採られ、キハ32形・キハ54形(四国仕様車)・キハ185系では走行用エンジンにDMF13HSを採用して出力に余裕が生じたことで、「機械式冷房」と称して機関直結式のバス用エアコン(デンソー製AU26系)が採用されることになった。これにより1両でも冷房化できるようになったことで編成組成の自由度が高まり、第三セクター鉄道向けの軽快気動車にも採用された。JR化後は特急形を含めた新型気動車の多くで機関直結式冷房が採用されており、キハ40系を中心とした国鉄型気動車の冷房化改造にあたっては使用条件によってサブエンジン冷房と並行して機関直結式冷房を採用し、併せてエンジンの載せ替えを行うことがある。また同様の冷房装置は少数ながらJR西日本に在籍しているキハ47とかキハ52などといった国鉄型の冷房化改造でも採用されていたが、後者はN40延命改造の殆どが採用した現在でもN40延命改造を行ってもサブエンジン冷房で運行されている車両もある。
バス[編集]
路線バス車両の冷房装置としては標準的なもので、昨今のバリアフリー化の兼ね合いもあってサブエンジン式は冷房化が始まった頃の試験的なものにとどまっている。[1]
高速バス・観光バスでは客室の快適性と走行性能・空調性能を重視[2]して、床下に設置した小型エンジン[3]で圧縮機を動かすサブエンジン方式が主流だが、ホイールベース部分にある床下荷物室の容積を増やす手段として機関直結式冷房装置を採用することがあり、主に空港リムジンバスや貸切バスの7m・9m車で見られる。 [4] また最近では環境保護や省燃費対策として駐車場でのエンジンストップにエアコン用サブエンジンも含まれるようになったことでサブエンジン式エアコンの優位性がやや低下、1990年代に入ってからは走行用エンジンの高出力化やエアコンユニットの性能アップで直結式エアコンが見直されるようになり、また海外の観光・高速バスでは直結式エアコンが主流となっていることから、2代目日野・セレガ/いすゞ・ガーラでは直結式エアコンを標準で採用することになった。[5] 降雪地では道路に散布された融氷剤(主に塩化カルシウム)の飛沫が床下のエアコンユニットに付着して故障することがあるため、対策として直結式を採用する事例が広島電鉄と一畑バスの陰陽連絡高速バスで見られる。
なお保冷車や冷凍車の冷凍・冷蔵装置もバス用エアコン同様にサブエンジン式と機関直結式が設定されており、車種や使用条件によって選択されている。
- 観光バス・高速バスにおけるエアコン駆動方式の比較と特質
機関直結式 | サブエンジン式 | 直結式エアコン採用時のポイント | |
---|---|---|---|
騒音・振動 | 静か | うるさい | サブエンジン廃止による |
整備費用 | 安い | 高い | |
燃料消費量 | 少ない | 多い | サブエンジン消費分が不要になるため相対的に省燃費 ※ただし道路状況とそれに対するエンジンの性能(特性)による |
荷物室の 容積 |
多い | 少ない | エアコン室(サブエンジン)部分を荷物室に利用できる |
送風の 立ち上がり |
早い | 僅かに遅い | エアコン本体と客室の距離が近い |
車高 | 取り付け位置と形状による | そのまま | エアコン本体を屋根に載せる場合は20cm程度高くなる ※状況によっては支障となる場合がある(ターミナルやガードの車高制限など) |
車両重量 | 僅かに重い | 軽い | 重量増加は200kg程度のため影響は微少であると推定 ※前後重量バランスは設置位置による |
動力性能 | 僅かに低下する | そのまま | 走行用エンジンで駆動するため 屋根上設置の場合は重心が上がるため安定性やハンドリングにも影響 |
冷却能力の 安定性 |
走行状況による | 一定 | 走行用エンジンで駆動するため。 渋滞などで低回転状態が続くと冷却能力が落ちる |
注記[編集]
- ↑ 東急バスの場合、直結式で冷房化改造を施工したが、対象車両は最高出力200PS以上という条件があった。その一方、早期に路線車の冷房化を行った事業者(主に夏期の暑さが厳しい西日本地区)の中には、比較的遅くまでサブエンジン式冷房車の新規投入を続けていたところがある。一例として、四国の伊予鉄道や土佐電気鉄道では1982年までサブエンジン式冷房車を増備していた。
- ↑ 直結式冷房車はエアコン使用時にエンジンの性能がやや落ちるため、高出力が求められる高速バスには向かなかった。一例として、かつて中央高速バスに運用された「ワンロマ」と呼ばれる一般路線・高速バス兼用車は直結式冷房車であったため、中央自動車道の上り勾配が続く区間(特に八王子~大月間)では駆動力確保のためエアコンを止めて走行したことがよくあった。また国鉄バスでも当初は高速バス車両の試作車には直結式エアコンが搭載されたが、実際に高速バスに使ってみると走行性能低下はもとより市街地では交通渋滞に影響されてエンジンを回すことができず、くわえてバッテリー上がりを頻発していたこともあり、その反省から日本国内の観光・高速バスではサブエンジン式エアコンが標準的な存在となってしまった。1990年代以降は観光・高速バス車両のエンジン出力が廉価グレードでも300PS以上に向上し、圧縮機の容量アップや可変容量化などの改良がなされたこともあって以上のような制約は解消されている。
- ↑ デンソーのバス用エアコンに組み合わされる豊田自動織機2DZディーゼルエンジンの場合、直列4気筒で排気量2000cc、最高出力32kW。
- ↑ 荷物室の容積は日野セレガRハイデッカー車(KL-RU4FSEA)の場合、サブエンジン式:5.7立方メートルに対し直結式:8.4立方メートル。なおセレガRスーパーハイデッカー車(GD/GJ:KL-RU1FSEA)は床が高い分サブエンジン式で7.6立方メートル。
- ↑ 新型セレガの場合、セレガR(サブエンジン式エアコン車)に比べて燃料消費量-40%、整備費用-90%といわれている。