位置天文学
位置天文学(いちてんもんがく、Astrometry)は天文学の一分野。恒星や他の天体の位置、距離、運動を扱う。位置天文学の成果の一部は宇宙の距離梯子を決めるのに役立っている。
位置天文学には天文学者が観測結果を記述する際の座標系を与えるという基本的な役割があるが、これとは別に、天体力学、恒星系力学、銀河天文学といった分野において根本的に重要な役割を果たしている。観測天文学においては、移動する恒星状天体を同定する際に位置天文学の手法が欠かせない。位置天文学はまた時刻を管理する際にも使われる。現在の協定世界時 (UTC) は、国際原子時 (TAI) を地球の自転に同期させることで得られているが、この地球の自転は位置天文学の手法を用いて精密に観測されている。
歴史[編集]
位置天文学の発展の歴史を概観すると以下のようになっている。
位置天文学は自然科学の最古の分野の一つである。位置天文学の歴史は古代ギリシアのヒッパルコスまで遡ることができる。彼は夜空に見える恒星を観測し、最初の星表を編纂した。またその過程で星の明るさを表す等級の仕組みを定めた。この等級は基本的な考え方を変えることなく現代でも使われている。
- 古代、時刻は日時計で測られていた。
- 天球上の角度を計測するためにアストロラーベが発明された(アラビア科学)。
- 位置天文学の問題を解くために球面幾何学が発展した(アル・バッターニー)。
- ティコ・ブラーエによる惑星運動の精密な観測結果がコペルニクスによって地動説が生み出される元となった。
- 六分儀の発明によって、天球上の角度の計測精度が飛躍的に向上した。
近代の位置天文学はベッセルによって創始された。彼は Fundamenta astronomiae という本を出版し、この中でブラッドリーが1750年から1762年までの間に観測した3222個の恒星の平均位置を与えた。
現代[編集]
セファイドを使って天体までの距離を測る手法が確立されたことによって、20世紀に入るとハッブルが系外銀河を発見した。ハッブルはさらに、より遠くの銀河までの距離をセファイドで測定し、これと銀河の赤方偏移の大きさとを比較することでハッブルの法則を見出し、宇宙膨張の観測的証拠を発見した。 1989年から1993年にかけて、欧州宇宙機関 (ESA) の ヒッパルコス衛星が初めて宇宙から恒星の精密な位置測定を行った。これによって約12万個の恒星について20-30ミリ秒角の精度でその位置が得られた。
現代では、地球近傍天体の追跡や太陽系外惑星の検出に位置天文学の手法が用いられている。例として、NASA の宇宙干渉計計画 (Space Interferometry Mission) では、位置天文学の手法を用いて恒星の周りを回る巨大ガス惑星や近傍の地球型惑星を検出する計画が進められている。
さらに天体物理学の分野でも、パルサーの移動速度を測定することによって超新星爆発の非対称性を調べたり、銀河内のダークマターの分布を決定するために位置天文学的手法が使われている。
観測から天体の軌道決定を行うには、たとえ2体であっても特殊な場合を除いて数値的にしか求まらないと考えられてきた。しかし2004年に弘前大学の浅田秀樹らにより2体の場合に厳密に軌道を決定する方法が発表された。