野良猫

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野良猫(のらねこ、のら)とは、人間生活圏に生活するイエネコのうち、人間に直接的に養われていない・特定の個人が住む家屋をねぐらとしていない個体の総称である。近年ではホームレス猫という呼び方も存在している。

なお、戸外に出ることがあっても、管理者の存在する地域猫は、野良猫には含まれない。また、人間の生活圏より離れて山野へ移り、野生動物となったものは、野猫(のねこ、または片仮名でノネコと表記)と呼んで区別される。

概要

野良猫は、特定の誰かに養われていないネコ(イエネコ)である。

ネコがいつ日本に渡来したのかははっきりしないが、古代からネズミ除けとして農家等で飼われ、また珍しいネコが愛玩用として中国から輸入されることもあった。後者の場合は現代ののように繋いで飼われるのが一般的であった。しかし江戸幕府1602年、法令によってネコを繋いで飼育する行為を禁止した。これ以後、それまではごく限られた富裕層によって、ネズミ避けや愛玩動物として飼われていたネコたちが、自由に出歩くようになり、その過程で交雑繁殖が進んだと思われる。

こうして住居から戸外へ放たれ、自由に暮らすようになったネコたちのうち、その多くはなお人間の作り出した生活環境に依存した暮らしを送っており、生活圏を山野に移して、先祖でもあるヤマネコ類のように完全に野生化したものは、数としては比較的少ないと思われる。

ただし、後でふれるように、離島などでは、野生化したイエネコであるノネコが、特に希少種の生存を脅かすものとして、マングースノイヌとともに自然環境保護の上で問題となっている。

野良猫・ノネコにまつわる問題

遅くとも近世以降、人間の住居に出入り自由な形で飼育されてきたネコは、その性質から、飼い主の敷地以外の土地にもこだわりなく侵入する。そのために、特に都市住宅地域においては、トラブルを発生させる例がしばしばある。

とりわけ、地域の野良猫が増えすぎた場合は、以下の各項目に見るような、野良猫による繁殖期騒音糞尿による臭気や衛生面の被害、飼いネコや人への伝染病寄生虫の感染、生ゴミ荒らし等の食害、皮屑や抜け毛がアレルゲンとなるアレルギー性喘息や気管支炎の発症、爪とぎなどによる物損全般、ほか行政によるそれら被害への対応など諸々の問題も、野良猫の個体数に比例して増加することになる。こと餌づけをする人がいる場合などは、そこから地域住民間の対立を生むこともある。

餌づけにまつわる問題

野良猫といえども、生物種としては、各家庭で愛玩動物として飼われているネコたちと同じイエネコである。それだけに、野良猫を愛玩する人も少なくないが、なかには公園や集合住宅の敷地内、路上などの公共の場所で、野良猫に対して(自分の財力の範疇内ではあるが)ほぼ無制限の給餌を行う人々がある。

一部では“猫婆”や“猫オタク”等の蔑称で呼ばれることもあるこれらの人々は、周辺地域の野良猫を呼び集めることで、野良猫の個体密度を上げてしまう。それ以上に深刻なのは、もともとネズミなどの数を抑える捕食者として家畜化されたイエネコのもつ、食料さえあればよく増える旺盛な繁殖力のため結果的に、しばしば異常繁殖を引き起こすことである。このため、これらの人々の存在は、野良猫にまつわるさまざまな問題において無視することのできない要因ともなっており、みだりに餌付けを行わないよう、地方自治体が呼びかけるケースも見られる。

また食べ残しの餌がカラスネズミハエゴキブリ等の、特に衛生面に於いて問題とされやすい不快な生物を集めてしまうほか、残された餌(ゴミ)が腐敗して異臭がする・空き缶が放置されるといった、餌を与える者のモラル面の問題が顕著化する傾向も見られる。

このような給餌行為を受けているネコは、広義には彼ら給餌者の飼い猫(ペット)であると見なされるため、それらの野良猫の引き起こすさまざまな問題は、彼ら給餌者の「飼い主としての責任問題」と見なすことができる。日本に於いては過去に、これら給餌行為によって他の住民に迷惑をかけた人に対し、損害賠償を求める民事訴訟が行われたケースも散見され、野良猫餌付け行為と平行し、それを止めるよう求めた人に嫌がらせ(迷惑行為)を行った者を相手取り訴訟沙汰となった事例もある。(神戸地裁平成13年(ワ)第1958号)

鳴き声・騒音にまつわる問題

ネコは年に4回ほど、メスが発情期をむかえる。この発情したメスの発する臭いを嗅ぐことでオス発情するが、この際にオス同士のメス独占に関する争いは熾烈を極め、夜をおして威嚇行動の甲高い鳴き声や格闘に伴う騒音が続くのが通例である。

野良猫の場合、個体数が少ない場合は、それほど頻繁にこの発情に伴う騒音が聞かれるわけではないが、極端に個体数が多い場所では、連日連夜の鳴き声や騒音が発生し、付近住民の中には不眠を訴える者が出ることすらある。特に人間と生活圏を共にする野良猫の場合においては、あまりに度を越してこれらが続く場合に、睡眠不足とあいまって、次第に苛立ちや憎悪といった害意を引き起こすこともある。

これら害意の発露として、最も広く行われてきた方法が「水を浴びせる」であるが、まれに動物虐待につながる各種行為が行われる危険もある。特に冬は水を浴びせることはやめたほうが良い。こうなると、後述するように、虐待を受けた野良猫の状態によって、周辺住民の治安に対する不安も発生する。

糞にまつわる問題

柔らかい土を掘り返して用便し、終わった後は土をかけて隠すことを好むこの動物が、都市部においては、道路の舗装等によりの露出面積が減った関係上から、個人の敷地内にある花壇や、児童が遊ぶ砂場などに用便してしまい、衛生上の観点や心情的な問題から、隣人関係を悪化させる事例がある。

また児童の遊ぶ砂場では、野良猫によって媒介されるトキソプラズマなど寄生虫等の被害を防止するため、児童のいないときはビニールシートを被せたり、定期的に加熱消毒するなどの措置をとる所もあるが、それほど経費をかけられない関係から、児童公園から砂場そのものが消えてしまったり、なかにはクレゾール石鹸液等の化学薬品殺菌消毒しようとして、正しい用法を知らずに原液を撒いてしまい、知らずに遊んだ児童が化学火傷を負うなどの健康被害を生む事件まで発生している。またシートをかぶせることで本来太陽光線の紫外線による殺菌効果が機能しない、砂が乾燥せず逆に雑菌の繁殖を増徴しているとの主張もある。

またこれらの問題では「遊んだら手を洗おう」という約束事がまだ守れない幼児ほど、寄生虫などによって病気にかかりやすい点もあり、軋轢(あつれき)を深める原因となっている。

夜間になると、猫よけの音波が発せられる砂場(公園)もある。

動物虐待の被害者

ネコとしての習性により、これらさまざまな問題を引き起こすこともある野良猫だが、逆に人間社会の被害者となることも少なくない。性格異常者の中には、動物虐待を繰り返すことで、次第に良心麻痺したり、妄想に取りつかれて、行動をエスカレートさせる場合があることが知られているが、これら動物虐待で真っ先に狙われやすいのが、当人の飼っているペットと並んで、これら野良猫である。

特に野良猫は、人間社会に溶け込んでいるため、他の動物に比べて、人間に対する警戒心が薄く、なかには餌をもった人間に無条件になつく個体も少なくない。ネコの餌が誰にでも購入できるものである以上、ネコを捕まえて虐待する目的をもった者が、ネコの餌を購入して野良猫をおびき寄せて捕まえ、虐待するケースもある。

また、これらの事件では、しばしば有害玩具が用いられているが、これらを購入した者が、実際に使ってみる実験台として、比較的捕えやすい野良猫を選んでいるようだ。なお、これら有害玩具の販売に関する規制案も出されており、業界団体が自己規制を強めるなどの方策も採られているが、決定打とはなっていないようである。

これらは動物愛護管理法によって、懲役1年未満、または罰金100万円以下の刑が科せられる犯罪行為であり、逮捕者も多数出ている。それでもなお野良猫を虐待するものは後を絶たず、虐待した野良猫の死骸をわざわざ目につく場所に放置したり、瀕死の傷を負わせて放置する事件も起きている。

過去の連続殺人事件等においても、その予兆として動物虐待行為が起きている事例があるため、警察側が警戒を強めているが、中には「野良猫を虐待してみせる」ような事件も起きたりしている。2002年にはインターネット上で猫を虐待死させた様子を中継した男が逮捕される事件も起きている。

自然保護とノネコにまつわる問題

本来その地域にいなかったのに、飼い猫として持ち込まれた後に捨てられる等して野生化/半野生化したイエネコ、すなわちノネコが、地域の生態系を破壊してしまうことがある。

イエネコには、家畜化された動物に共通の、旺盛な繁殖力がある。また、イエネコには案外、ヤマネコ類に伍して山野で生きていく生存力があることも知られている。南西諸島には、西表島イリオモテヤマネコや、沖縄本島北部のヤンバルクイナケナガネズミ奄美大島アマミノクロウサギなどの貴重な固有種が数多く生存しているが、これらの土着生物に対して、野良猫(ノネコ)が大きな問題となっている。但し家猫は家畜化された動物であり、自然環境における適応率はそれほど高くないとされる説もある。

旺盛な繁殖力をもつノネコ(イエネコ)は、従来は比較的繁殖能力の低いイリオモテヤマネコから捕食されることで個体数のバランスがとれていたヤンバルクイナ等の小動物を捕食しながら繁殖し、それらの動物の個体数を激減させるに至っている。ヤンバルクイナ等希少種の生存圏は、ノネコのほかに人間がハブ退治のために持ち込んだマングースの捕食によっても脅かされているが、ノネコとの交雑によってイリオモテヤマネコが雑種化したり、FIV(いわゆるネコエイズ)等の病気をノネコから感染させられることが危惧されている。

これらの問題に対して、環境省では、ノネコやマングースを捕殺することで対処しようとしているが、ノネコに関しての自治体の対応は、ともすれば消極的である。また、ノネコの増加を抑え、イリオモテヤマネコとの交雑や感染を防ぐため、現在西表島で飼育されている飼いネコには、埋め込み式の電波タグを義務づけ、屋外に出さないよう呼び掛けている。しかし一方で、引き取り手のないノネコの多くが殺処分されること等から、新たな議論を招いている。

野良猫との共存

野良猫は人間社会に依存しており、またその存在は飼い主が飼育を放棄した結果であると一般に考えられている。なおペットの遺棄は動物虐待であり日本では動物愛護管理法に抵触する行為である。また特定の誰かに飼われていなくても、地域に一定の(故意、または無意識の)飼育者がいるケースも多い。特に野良猫に給餌する事は、野良とはいえ猫の飼育と何ら変る所が無いという考えは、近年になって、ペットの行為は飼い主が責任を負うという考えもあって、幾つもの社会現象を(一部では訴訟問題や住民運動なども)起こしている。

このため給餌者は、野良猫の行為に対する責任を、せめて糞尿問題に対してだけでも、負うべきだとする考えがある。しかし猫の糞尿は、匂い付けによる縄張りを主張する上でのマーキングする本能的行為の一端であり、人為的に規制することは難しい。とりうる方策としては、以下の方策が挙げられる。

  • 去勢手術により、オス猫の尿臭を軽減する(マーキング習性の抑制)
  • 駆虫を行い、特に匂いの強い下痢便の原因となるネコ回虫等の寄生虫を除去する
  • ワクチン接種を行い、強固な下痢の原因となりネコの大量死の最大の脅威となるネコパルボウイルスの予防を行う(疾病を改善する事で、汚物や死骸の散乱を防ぐ)

この他にも野良猫と共存する試みとして、明確な管理者を設ける・地域全体で一定量の猫を管理する地域猫と呼ばれる制度も派生している。特に地域猫活動では、周囲に不快感を催させないために、積極的に一定の個体数に留める努力がなされるものとされる。(詳細は地域猫を参照されたし)

野良猫と疾病・餌撒きの責任

一方、集中化しすぎた野良猫にはFIV・ネコ白血病・ネコ伝染性腹膜炎・ネコパルボウイルス感染症・ネコ伝染性鼻気管炎・疥癬症といった、猫自身の健康を害する・致命的な状況を招きかねない感染症が蔓延しやすい。一般的に飼い猫では寿命は十数年といわれているが、野良猫を調査したところでは平均4年程度で、特に密集地域では、上記感染症に伴い、さらに寿命は短いとされている。

こうした知識が普及するにつれ、餌を与えるといった野良猫の生活に干渉する行為は、これら野良猫の健康を害するという認識が普及している。このため給餌行為を避け、野良猫の集中化を回避することが、ひいては野良猫のためになるという考え方が広まりつつあるようすも伺える。

不妊去勢手術に伴う捕獲

野良猫の異常繁殖や、野良猫により発生する様々な問題において、より積極的とされる方策には、不妊去勢手術の実施がある。餌を与える行為を通じてネコを慣らしていって、ケージや洗濯ネットに収容し、動物病院に持ち込み、手術を依頼する。このような野良猫の不妊去勢手術の趣旨を理解し、低料金で応じてくれる動物病院も存在する。場合によっては捕獲のための鉄製のかごを設置するケースもある。

なおこの方法は不妊去勢のための趣旨が周囲に理解されない場合、不妊去勢のためではなく、三味線業者の毛皮取りと混同され、誤解した近隣住民等が、せっかく捕獲したネコを逃がしてしまうケースがある。また捕獲された猫を、長時間に渡って風雨や寒暑にさらすのは、動物愛護(保護と管理)という観点から見て望ましくないため、定期的な捕獲装置の監視が必要である。これらには生き物を扱っているという責任感と、ネコの習性への理解が欠かせない。

三味線製造業者に関しては、直接野良猫の捕獲を行うことは現在はほとんどない。このイメージには、都市伝説の域を出ないものの、俗に「猫取り」と呼ばれる猫捕獲専門業者の存在が噂されるなど三味線製造業者に対する偏見も加わっているとみられる。野良猫は交尾や喧嘩による損傷もあるため毛皮の質が悪く、材料として好まれないという事情もあり、こと近年の業者らはペットショップなどで売れ残った雌猫を主に用いているという話も出ている。ただ2001年9月に大阪で猫皮業者に1匹1000円で売ろうと目論んだ男性が野良猫2匹を捕まえて殺害、逮捕されたと言う事件も発生している。

野良猫の飼育推進

野良猫を保護して、各種予防注射やノミなど外部・内部寄生虫の駆除を行う等の健康管理を行った上で、責任をもって飼育できる人を募集してネコを引き渡し、室内で飼うようにしてもらい、「家を持たないネコ」から「家の中に住むネコ」にしていこうという里親運動を進めている動物愛護団体も多い。このような団体では、多くの場合、ネコに一通りのしつけを行い、団体によってはワクチン・不妊去勢手術を施してから引き渡すので、里親側にも好評であるという。

関連項目

外部リンク