線形空間

提供: Yourpedia
2020年1月9日 (木) 00:38時点におけるRxyはクロスウィキLTA (トーク | 投稿記録)による版 (rxy森谷辰也)による大規模荒らしの差し戻し。)

(差分) ←前の版 | 最新版 (差分) | 次の版→ (差分)
移動: 案内検索

線形空間(せんけいくうかん、linear space)あるいはベクトル空間(ベクトルくうかん、vector space)とは、和とスカラー倍の定義された集合代数系)のことである。線型空間線状空間とも。これは「平面(あるいは空間)上のベクトルすべてを集めた集合」を一般化、抽象化したものであり、その類推により術語を流用して、一般のベクトル空間の元のことをベクトル(またはベクター)と呼称する。

線形空間は線形代数学の主要な対象であり、線形空間とそれに関する手法は数学のあらゆる分野で重要な道具として用いられる。ベクトル自体が元来は速度加速度のように方向を持つ物理量を表すために考案されたものであるので、物理学との関連が深い。量子力学では系のとりうる状態を線形空間で表す。

定義[編集]

Kと称される四則演算が自由にできる代数系とする。実数全体、複素数全体あるいは有理数全体のなす集合などはそれぞれそのような集合の例である。

K 上の線形空間 V とは、

  1. V には和あるいは加法と呼ばれる演算 "+" が定義されていて、この和についてアーベル群になる。つまり、
    1. V は和について閉じている。つまり v, wV の元ならば常に v + w は再び V の元になる。
    2. 和の結合法則が成り立つ。つまり V の三元 u, v, w に対して常に (u + v) + w = u + (v + w) が成り立つ。
    3. 和の交換法則が成り立つ。つまり V の二元 v, w に対して常に v + w = w + v が成り立つ。
    4. 零元が存在する。つまり、0 + v = vV の任意の元 v に対して成立する特別な元 0 がただ一つ存在する。
    5. マイナス元の存在。つまり、V の元 v に対して v + (−v) = 0 となるような特別な元 −v が、どんな v に対してもとれる。
  2. K の元 cV の元 v が与えられたとき、v のスカラー c 倍と呼ばれる乗法的演算 cvV が定義されている。つまり、
    1. スカラー乗法の合成はまたスカラー乗法である。つまり、vV の元、c, dK の元ならば常に、c(d''v) = (cd)v が成り立つ。
    2. 1KK の乗法に関する単位元とするとき、V のどんな元 v に対しても 1Kv = v が成り立つ。
    3. 和とスカラー倍について分配法則が成り立つ。つまり、K の元 cV の元 v, w が与えられたとき常に、c(v + w) = cv + cw が成り立つ。また、c, dK の元で vV の元であるとき常に (c + d)v = cv + dv が成り立つ。

なる条件を満足する三つ組 (V, +, K) によって定まる代数系のことである。V の元をベクトルK の元をスカラーと呼ぶ。ベクトル空間における和とスカラー倍を総称して線形演算と呼ぶ。

線形空間 (V, +, K) について、V をこの空間の台(台集合)とよび、紛れの無い場合には台集合を表す記号によて線形空間を表す。また、「 VK係数を持つ」、「KV係数体とする」あるいは「VK 上定義される」などとも言いまわす。また簡単に K-線形空間 V などとも呼ぶ。実数体上の線形空間を実線形空間といい、複素数体上の線形空間を複素線形空間という。

ベクトルとスカラーが異なるということを明示的に表すために、しばしばこれらを表す文字の種類を異にして記す。代表的な記法として、「ベクトルにボールド・イタリック体(太い斜体字)を用い、スカラーにはイタリック体(斜体字)を用いる」「ベクトルをラテンアルファベットで表し、スカラーはグリークアルファベット(ギリシャ文字)で表す」などの流儀がある(ただし、必ずしもこれらに限るものではなく、場合によってはまったく文字種の区別をしないこともある)。ここではベクトルをボールドイタリック、スカラーをイタリックにする流儀に合わせた。

基底の存在と次元[編集]

線形空間 V の部分集合で、互いに線形独立な要素からなる集合(線形独立系)を考える。ある自然数 n について、V 内の線形独立系がすべて高々 n 個の元からなっているならば V の次元は高々 n であるといい、このような自然数 n がとれるとき、V有限次元であるという。 線形空間 V が高々 n 次元であってなおかつ高々 n − 1 次元でないとき、V の次元を n と定める。また、任意の自然数 n について、線形空間 Vn 個の元からなる線形独立系が存在するとき、V無限次元である、あるいは V の次元は無限大であるという。線形空間 V の次元は dim V あるいは(体 K 上のベクトル空間としての次元であることを明示するために)dimK V とあらわす。

線形空間 V における、係数体 K 上の基底あるいは一意生成系とは、次の条件を満たすような V のベクトルの集合 S のことである。

  1. SVK生成する。
  2. V のベクトルの S の線形結合としての表示はただ一通りである。

一意生成系であるという条件は(体における除法可能性により)、SV の線形独立系のうち包含関係に関して極大なもの(極大線形独立系)であるという条件、あるいは SV の生成系のうち包含関係に関して極小なもの(極小生成系)であるという条件と同値である。線形空間が一つ与えられたとき、その基底の取り方は一つとは限らないが、基底の濃度は一定で、特に有限次元線形空間の基底の濃度は次元の値 dimK V と一致する。無限次元線形空間についてもその次元を基底の濃度のことであると定義して次元の大きさを区別することがある。基底が極大線形独立系であるという条件からは、ツォルンの補題(これは ZF のもと選択公理に同値)を用いることにより「全ての線形空間は基底をもつ」という事実が従い、またこれにより任意の線形空間に対して次元が定義可能であることがわかる。

部分空間と線形写像[編集]

複数の線形空間、あるいは線形空間全体の成す類を考えるとき、線形空間同士の関係は線形空間の構造(線型性)を司る線型演算に注目して記述される。K-線形空間 V から別の K-線形空間 V′ への写像 f: VV′ は

f(v + w) = f(v) + f(w) (v, WV)
f(cv) = cf(v) (cK, vV)

を満たすとき K-線形空間の構造を保つ、K-線形性を持つ、あるいは K-線形写像であるという。抽象代数学の観点からは K-準同型とも呼ぶ。

線形空間 V の部分集合 W は、WV における線形演算について閉じており、V における線形演算の W への制限によって W 自身が線形空間となるとき線形部分空間と呼ばれる。これはつまり、V に含まれる線形空間 W に対して 包含写像 WV が線形性を持つことを言っている。

線形空間 V の部分空間の族 {Wλ} の共通部分はまた部分空間になるが、和集合は部分空間にならない。和集合を含む最小の部分空間を {Wλ} で生成される部分空間あるいは和空間とよぶ。和空間は

<math>\sum_{\lambda} W_\lambda = \left\{\sum_\lambda x_\lambda \mid x_\lambda\in W_\lambda, x_\lambda=0\mbox{ except for some}\lambda \right\}</math>

と書くことができる。

様々な線形空間[編集]

数直線 R, 座標平面 R2, 座標空間 R3, ガウス平面 C などを含む数空間 Rn, Cn または一般に体 K の元の n-組の全体 Kn は成分ごとの演算でベクトル空間になる。これを数ベクトル空間と呼ぶ。数ベクトル空間 Kn に対して

<math>(1,0,\ldots,0), (0,1,0,\ldots,0),\ldots,(0,0,\ldots,0,1)</math>

のような形の数ベクトルの全体は一組の基底となる。これを数ベクトル空間 Kn が内在的に持っている基底という意味で標準基底という。したがってとくに数ベクトル空間 Knn 次元線形空間である。

零ベクトルのみからなるベクトル空間 V = {0V} は 0V + 0V = 0V, c0V = 0V (cVK) として任意の体 K 上の線形空間となる。これを自明なベクトル空間と呼ぶ。任意の線形空間は、その零ベクトルのみからなる自明なベクトル空間を部分空間として含む。自明なベクトル空間は空集合から生成されるとみなされ、次元は 0 であると定められる。

複素数全体の成す集合としての C は {1, i} を基底として実数体 R 上の 2 次元線形空間とみなせる。一般に体の拡大 L/K が与えられたとき、拡大体 L はその加法と部分体 K の元の(L における)積をスカラー乗法として K 上の線形空間になる。たとえば R は部分体として有理数体 Q を含むから、Q 上の線形空間である。RQ 上の基底はハメル基底と呼ばれ、非可算無限の濃度を持つ。

定まったサイズの行列の全体は行列の和と実数倍で線形空間となる。行列には行と列のサイズに関する条件によっては乗法が定義できるが、線形空間としての構造には積構造は無関係であり、行も列も要素の並びであるという以上の意味を持たない。つまり、体 K 上の n × m 行列の成す線形空間 Mat(n, m; K) は行列単位を標準基底とする数ベクトル空間 Kn×m と同一視される。

特定の性質を持つ関数を集めた関数空間は、関数の持つ値による演算の引き戻しが定める関数の和と定数倍に関して、しばしば線形空間として扱われる。区間 [a, b] ⊂ R 上の連続関数の全体 C[a, b] = C([a, b; R]), R 上の無限回微分可能な関数の全体 C(R) = C(R; R), 複素解析関数の全体 Cω(C) = Cω(C; C) など、空間 X 上の滑らかさの等級が Ck である K-値関数の空間 Ck(X; K) や区間 [a, b] ⊂ R 上の可積分関数の全体 L1[a, b] = L1([a, b; R]) あるいは超関数論における急減少関数の空間やソボレフ空間のようなものが典型的である。また、線形写像の作る関数空間は後述のように行列の作る線形空間と見なされる。あるいは(高々)可算集合上の関数空間はとくに数列空間を構成する。(無限)実数列の全体 RN, R, 収束する複素数列の全体。項数 nK-値数列空間は数空間 Kn であり、体 K-係数の一変数多項式の全体 K[x], あるいはn次以下の一変数多項式の全体などは係数列を考えることによって数列空間と同型な線形空間となる。

  • k階斉次線型常微分方程式
<math>\frac{d^kf}{dx}+a_{k-1}(x)\frac{d^{k-1}f}{dx}+ \cdots +a_1(x)\frac{df}{dx}+a_0(x)f=0</math>

の解全体は、関数の和と実数倍に関して線形空間をなす。

基底変換と行列[編集]

VW をどちらも基底の定められた有限次元の線形空間とする。基底をそれぞれ <e1, ..., en>, <f1, ..., fm> とする。このとき、V から W への線形写像 T は、

<math>\begin{cases}
 T(\mathbf{e}_1) =& a_{11}\mathbf{f}_1 + \cdots + a_{m1}\mathbf{f}_m\\
  & \vdots \\
  T(\mathbf{e}_n) =& a_{1n}\mathbf{f}_1 + \cdots + a_{mn}\mathbf{f}_m \end{cases}

</math> とするとき、任意の V のベクトル v = c1e1 + … + cnen に対してその値が

<math>T(\mathbf{v})=\mathbf{f}_1\sum_{i=1}^n a_{1i}c_i + \cdots + \mathbf{f}_m\sum_{i=1}^n a_{mi}c_i = \sum_{j=1}^m \left( \mathbf{f}_j \sum_{i=1}^n a_{ji}c_i \right)</math>

のように決まる。v を列ベクトル (c1, ..., cn) と同一視し、f(v) を fi の成分を第 i 成分とする行ベクトルと同一視すれば、このことは (m, n) 行列 (aij) に対して v を右から掛けていることに他ならない。

線形写像を合成することが、行列の積に対応していることも分かる。このようにして、基底を与えることで、線形写像を行列として取り扱うことが出来る。

線形空間の構成法[編集]

既存の線形空間族をつかって新たに線形空間を構成する方法がいくつかある。これらの構成は、逆に与えられた線形空間をより単純な線形空間へ分解するという視点も与える。とくに、線形空間を表現空間とする、代数系の線型表現論ではいくつもの線形空間が様々な構成と分解の系列として現れる。

直和空間
与えられた線形空間族の構成的な直和空間とは、制限直積に成分ごとの和・スカラー倍を入れたものである。線形空間族の直和空間は、唯一つの成分を除く全ての成分が各線形空間の零ベクトルであるような元を考えることにより、族の各ベクトル空間を部分空間として含むものと見なせる。このとき、部分空間族の和として書けるもののなかでどの二つの空間も共通部分が零ベクトル以外に無いものが直和になっている。
商空間・直交補空間
部分線形空間による剰余類への分解によって得られる線形空間。線形空間の加群としての自由性から、商空間は実際には基底ベクトルをいくつか零ベクトルと取り替えてできるような部分空間として得られる。内積を持つ線形空間では、直交性によってこのような商空間を構成することができて、直交補空間と呼ばれる。有限次元の線形空間では商空間と直交補空間は双対的な関係にある。
関数空間・双対空間
S を集合とし、V を線形空間とするとき、S から V への写像全体は線形空間になる。その特殊な例として、K-線形空間 V から K-線形空間 W への線形写像全体も K-線形空間になる。この線形空間を HomK(V,W) と表す。K が明らかであるときは単に Hom(V,W) と書くこともある。W=K のとき、HomK(V,K) は双対線形空間と呼ばれる。
テンソル積空間
テンソル積は自然に線形構造が遺伝する。線形空間のテンソル積を線形空間の直積と呼ぶ場合もあるが、台集合は直積ではないし、圏論的な意味での直積でもないという意味で紛らわしい。
係数の取替え
K-線形空間 V に、体の準同型 f: LK を与えて、L の元 λ の V の元 v への作用を λv := f(λ)v として入れるならば, VL-線形空間と見ることができる。特別の場合として体の拡大 L/K があれば K-線形空間の L への係数拡大や L-線形空間の K への係数制限が考えられるが、係数拡大はテンソル積によって記述することもできる。

付加的な構造をもつ線形空間[編集]

RC は通常の絶対値が定める標準的な距離によって位相が定まり、位相体となる。一般に位相体上の線形空間に対して位相が定められているとき、位相線形空間の概念を考えることができる。ノルムをもつ線形空間はノルム線型空間と呼ばれる位相線形空間の例である。内積の定義されている線形空間は、代数的に定義される内積から定まる二次形式を位相的な計量としてもつノルム空間であり、計量線形空間と呼ばれる。基底に含まれるどの二つのベクトルの内積も 0 であるとき、その基底を直交基底という。さらに全ての基底ベクトルのノルムが 1 であれば、その基底の組を正規直交基底という。ノルム空間や内積空間に完備性を仮定することにより、バナッハ空間ヒルベルト空間の概念が導入される。

一般化[編集]

体上の線形空間の概念は、係数として適当なを考えることにより上の加群に一般化される。非可換な環を係数とする場合には、スカラー乗法も左右が区別されて右加群・左加群あるいは両側加群が考えられる。特に、非可換な(多元)体を係数にとるとき、スカラー乗法の左右を区別して左線形空間、右線形空間の概念が定義される。

一つの線形空間の張り合わせによってできる幾何学的な対象の一つにアフィン空間がある。原点を固定して座標を入れれば線形空間が現れる。ユークリッド空間はこのような空間の一種である。同様にベクトル束は多様体などの位相空間の各点に線形空間を対応付けて得られる、線形空間の添字付けられたである。

関連項目[編集]

Wikipedia-logo.svg このページはウィキペディア日本語版のコンテンツ・ベクトル空間を利用して作成されています。変更履歴はこちらです。