福祉

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福祉(ふくし)とは、「しあわせ」や「ゆたかさ」を意味する言葉で、広義で「公共の福祉」などと使われる。

  1. 狭義で生活保護などの社会保障を指す。
  2. 社会福祉は、未成年者高齢者障害者で生活上なんらかの支援や介助を必要とする人、経済的困窮者・ホームレスなどに対し、生活の質を維持・向上させるためのサービスを社会的に提供すること、あるいはそのための制度や設備を整備することを指す。
  3. 社会福祉制度とは、社会福祉に関する制度。
  4. 社会福祉政策とは、政府による、社会福祉サービスの運営や提供に関するプログラム。

福祉[編集]

言葉の成立[編集]

「福」と「祉」は、「しあわせ」や「ゆたかさ」を意味する漢字で、「福祉」(welfare, well-being)は広義では「幸福、安寧」や「良く生きること」などを指す。 元々は日本国憲法作成時における、GHQ案の英語原稿翻訳を行う際Social Welfare(社会福祉)の「welfare」に対応する語が存在しないために充てられた言葉である。「社会福祉」が成立するまでは「社会政策」「社会事業」などの用語が使われていた。

社会福祉[編集]

社会保障のなかの社会福祉[編集]

社会福祉とは社会保障の一分野として構成されている。社会保障(しゃかいほしょう、social security)とは、本来は個人的リスクである、老齢・病気・失業・障害などの生活上の問題について、貧困の予防や生活の安定などのため、社会的に所得移転を行い所得や医療を保障、社会サービスを給付すること、またはその制度を指す。体系としては日本国憲法第25条に記された「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(生存権)」等が根拠である。日本の社会保障制度は社会保障制度審議会(現:経済財政諮問会議・社会保障審議会)の分類によれば、社会保険公的扶助社会福祉公衆衛生及び医療老人保健の5本の柱から成っているとされ、広義ではこれらに恩給と戦争犠牲者援護を加えている。

社会保障は「目的」と「制度」を分別して説明されることが多く、目的は多くの国で共通するが、制度の中身や仕組みは国によって相当異なり、経済的な保障のみを指す国が多い。このため近年、ILOやEUなどでは、Social Security(社会保障)という言葉に代わって、Social Protection(社会保護あるいは社会的保護と訳される)という言葉を用いて、制度概念の統一化を図っている。

社会福祉の歴史[編集]

日本の社会福祉の歴史は、聖徳太子が建立し現在もその名が残る「悲田院」などの救済施設まで溯ることができるが、当時は貧民救済の性格が強く、福祉という言葉は使われていなかった。その後仏教的な思想などを背景として、僧侶による救済や共同体での相互扶助が行われてきた。一方、ヨーロッパ大陸ではキリスト教の影響により古くから慈善事業が行われてきた。

国連は、1981年を国際障害者年とすることを決議した(1980年1月30日)。テーマは「完全参加と平等」とされた。障害に対する考え方を「助けるもの」から「自立を支援するもの」への大転換を目指すものであった。1983年から1992年を国連障害者の10年とし、その行動計画を充実させ、さらにアジア・太平洋各国は1993年から2002年までをアジア太平洋地域障害者の10年としてその定着を進めた。このなかで、福祉の理念の一つとしてノーマライゼーションという言葉が強調され始めた。その後、インテグレーション(統合)という言葉が新しい理念として強調され始める。

社会福祉の供給主体[編集]

社会福祉の供給主体は「家族」「政府」「市場」があり、3つに大きく分けることができる。しかし、「家族福祉」という言葉があるように、福祉の供給の大部分を担っているのは「家族」である。家族や親族・近隣の相互扶助で機能を果たせなくなった部分を、制度や機構として政府などが担うようになってきた。

政府以外の担い手として、コミュニティ企業活動のうち収益活動以外の活動、生活協同組合労組社会福祉法人医療法人宗教団体NPO、その他の公益法人ボランティアなど多様な主体があるが、捉え方や位置づけは、国によって異なる。

  • アメリカを始めとするアングロサクソン諸国では、それらは市場の一員とみなされる。公共部門が嫌悪され、民間が賛美される風潮がある上に、財源が寄附金で賄われているということも大きい。
  • 北欧諸国では、それらは福祉国家の代理であるとみなされる。高福祉政策に肯定的な雰囲気とともに、財源が国家財政に依存していることもある。
  • 大陸ヨーロッパ諸国では、4番目のカテゴリーとして市民社会の一員であるとされる。
  • 日本では、家族とまとめて「共助・互助」カテゴリーを構成する。

社会福祉政策[編集]

社会福祉政策の歴史[編集]

日本では、一般的には、福祉六法やそれに派生、関連した政策を指すが、広義には狭義の社会福祉に加え、社会保障と公衆衛生の政策を含む(=公共の福祉)。 近代国家としての社会福祉政策は明治時代の「恤救規則」を皮切りに大正時代から昭和初期にその発展が見られるが、当時は、貧民や弱者に対しては慈善的・救貧的・恩賜的要素が強く、その他の国民に対しては富国強兵政策としての要素が強かった。国家の責務として、本格的に始まったのは終戦後で、まずは敗戦処理として始まった。まず復員軍人や遺族の経済問題に対処するため生活保護法が作られ、続いて戦争孤児のため児童福祉法が制定、児童養護施設が次々と民間でつくられた。次に傷痍軍人などを救済するため1950年身体障害者福祉法が施行されるなど、社会福祉政策として確立していくようになる。以上の3つの法律を「福祉三法」と呼ぶ。

その後1960年代に現在の知的障害者福祉法老人福祉法、現在の母子及び寡婦福祉法が制定された。これらを併せて「福祉六法」と呼ぶ。

本格的な少子高齢社会を背景に1997年に児童福祉法が改正、2000年には、高齢者向けの保健・福祉サービスを統合した介護保険法が施行され、児童福祉や高齢者福祉サービスを皮切りに社会福祉政策はこれまでの措置制度から契約中心の制度へと大きく転換し、2006年には障害者自立支援法が施行されることとなったが、一連の改革を「社会福祉基礎構造改革」と呼んでいる。

日本の社会福祉政策[編集]

日本では、まず、日本国憲法第25条第2項(生存権)を保障する政策として取り組まれている。同条では「国は、すべての生活部面について社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と規定されており、社会福祉は、慈善や相互扶助のみではなく、国の責任で向上・増進させるべきとの規定がなされている。

  • 福祉六法
生活保護法
児童福祉法
母子及び寡婦福祉法
身体障害者福祉法
知的障害者福祉法
老人福祉法
  • その他の社会福祉法
社会福祉法
介護保険法
障害者自立支援法

社会福祉政策の課題[編集]

社会福祉分野においては、政策を行うにあたっての財源の確保が大きな課題である。「小さな政府」を指向する先進諸国では、税収が増えないなかでの人口の高齢化による義務的経費の増加により、今まで必要なサービスを受けられていた人間が、逆に十分なサービスを選択したり受けられなくなるという「対象の空洞化」「逆選択」の問題が深刻化している。

社会福祉分野における資格と人材[編集]

社会福祉士介護福祉士精神保健福祉士保育士などの国家資格があるが、これらは一部を除き業務独占ではなく名称独占のため、職務の棲み分けが明確でなく、施設によっては国家資格を職名として使用しないところもある。また、介護保険法制定以降、高齢者福祉では介護支援専門員や介護福祉士、2級以上のホームヘルパーのニーズが高まっており、介護人材の不足は、外国人労働者の受け入れの議論に発展している。

日本では超高齢化を反映し、高齢者福祉施設は施設数が多いため求人数も多いが、児童・障害施設は保育所を除くと施設数が少ないため求人数は少ない。特に高齢者福祉分野は民間企業が参入しやすいため、介護職や看護職の労働者派遣業が確立されたが、児童・障害分野は行政機関社会福祉法人主体のものが多い。また、児童養護施設児童相談所などでは配置人員の不足が指摘されている。 また、社会福祉(主に介護職)は専門職であるにもかかわらず、他業種に比べ転職率が高いが、以下のような理由が考えられる。

  • 入所型施設では変則勤務や夜勤、宿直が多い。また年末年始ゴールデンウィークお盆休みなどでも施設に残る利用者が存在する為、休暇も交替でとる。下記のような様々な問題がある割に待遇が良くない。
  • 雇用面では、常勤雇用が少なく、パートアルバイトが多いことが挙げられる。これは、労働集約型であり補助金や介護報酬などに依存しているという特性上、人件費抑制やサービスを向上すべく最低基準以上の人員を雇うために非常勤比率を高めざるを得ないからである。また、女性が多い職場のため、出産育児休業などによる代替雇用が多く、正規雇用に繋がらない場合がある。
  • 利用者との関係によるストレスで精神的に疲労してしまう。例えば高齢者施設では認知症、知的障害者施設では自閉症、精神障害者施設では精神障害を持つ利用者がいるが、それらの障害は、特有の行動や認知の傾向があるため、利用者と日々関係を作っていくのが困難であり、利用者によっては暴力行為や不調、自傷他害、持病の発作など、突発的なこともあり、それにも対応していくことが要求される。
  • 個々の職員による支援方針の違いが、職場での意見の相違となり緊張感をもたらす。これは職員の大半が福祉職という同質的集団になりやすい傾向を持つ為に、お互いに馴れ合いになりやすく、明らかな人権侵害と思われる行為を指摘しにくい、ある意味閉鎖的な緊張感も存在する為と考えられる。またベテランなど古くからいる職員ほど利用者のことをよく知っている為に、従来のやり方が正しいという空気が生まれ、新人などが問題意識を持っていても指摘しにくい土壌もある。これらの原因で、誤った支援方針に意義を唱えることが難しいとの指摘もある。
  • 利用者だけでなく、その家族や病院行政機関学校など各種関係機関との連絡調整に忙殺される。特に入所施設では、利用者と家族との関係、利用者の金銭管理に時間を割くことが多い。

日本においては1990年代に入ってから福祉や介護へのニーズが高まり、福祉系大学の新規開学や学部の新設も始まった。福祉の資格取得者が増え社会的ニーズが高まっているが、雇用や労働条件は決して高いものとは言えない。また、有資格者が増える一方ですべての有資格者の力量が十分といえるものではなく、資格取得養成課程の見直しが検討されている。

学校教育への展開[編集]

義務教育であるかないかを問わず多くの学校では福祉教育が実施されているが、2003年(平成15年)度より、高等学校の専門教科として「福祉」が設置されている。

日本における福祉の組織[編集]

社会保障の柱のひとつである福祉を担当する組織には以下のようなものをあげられる。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

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