引きこもり

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引きこもり

引きこもり(ひきこもり)は、人がある程度狭い生活空間の中から社会に出ない事を言う。具体的には、自分の部屋でほとんどの時間を過ごし、学校会社には行かない状態、あるいはそのような人であるとされる。引き籠もりとも表記し、インターネットスラングではヒッキー・hikkyニートと表現される。

なお、本来「引きこもり」という言葉は、公職に就いていない、または官職を辞した状態の意味でしかない。例えば、吉川幸次郎「宋詩概説」(岩波文庫版P124、初出1962年)の「弾劾されて失脚し、遠く江蘇の蘇州に、別荘を買って『蹌浪亭』と名づけたのにひきこもり」、横山光輝三国志」希望コミックス版24巻(潮出版社1981年)「(諸葛亮の台詞で)これは隆中にひきこもっているころ聞いたのですが」といった用例がある。なお、この項目で述べる「引きこもり」の用法が生まれたのは平成年間以降である。


定義

  • “Apparent reluctance to participate in "normal" interpersonal contacts of day to day life and retreat into one's own comfort zone.”
(日々の普通の個人間のふれあいに参加することに全く気が進まず、安心できる場所に退避する状態)オーストラリア Association of Relatives And Friends of the Mentally Ill

状況

日本

NHK福祉ネットワークによると、2005年度の引きこもりは160万人以上。稀に外出する程度のケースまで含めると300万人以上存在する。全国引きこもりKHJ親の会の推計でも同様である。男女比は調査によって区々で、NHKのネットアンケートによると54:46、「社会的ひきこもり」に関する相談・援助状況実態調査報告によると男性が76.4%、引きこもりを多く担当する精神科医の斎藤環の診療データでは86%が男性である。(殆どの調査報告において男性は6~8割の割合で女性より多く存在する。)その内インターネットを利用しているのは10%程度で、「テレビゲームをしたり、部屋の中を歩き回ったり、ビール焼酎を飲んだり、中には何週間もの間ずっと何もしない者もいる」という例が挙げられている。

日本以外

BBC が、日本の引きこもりについての番組を放映した時に、多くのイギリスの視聴者から同様の経験を持つコメントが寄せられた。また、イタリアでも引きこもりが目立ってきており、同国の新聞が特集記事を組んでいる。

同様の現象は、韓国台湾香港アメリカ合衆国オーストラリアイギリスなど、多くの先進国で存在すると見られることから、グローバリゼーションによる競争激化が原因ではないかと見るむきもある。

概要

精神分析的アプローチ

他者や社会との関係をうまく築くことが出来ない状態については、児童精神分析家アンナ・フロイトが、親や自分の周囲の人間とうまく係われない、問題を抱えている子供達の研究をして、彼らがその問題を解決するためにとっている策略、工夫を防衛機制と名づけたが、その中に「引きこもり、逃避」も含まれている。ちなみに、これ以外の場合は、適応機制、不適応機制という。

ジュディス・L・ハーマン中井久夫訳 『心的外傷と回復』 みすず書房 1999年 ISBN 4622041138 (原著改訂版 Judith Lewis Herman, Trauma and Recovery ISBN 0863584306) 第二章 恐怖 「狭窄」 に引きこもりと心的外傷の関連を窺わせる記述あり。

原因

この現象は複数の原因が存在すると考えられる。

  1. 社会不安障害全般性不安障害うつ病強迫性障害パニック障害の陰性症状によるものなどの精神的な障害を抱えている。
  2. 過干渉等の家族関係のトラウマなどから自己肯定感を持つことを許されずに成長し、他者との繋がる事を不得手とし、自分が幸せになることや成長することに罪悪感を抱いてしまうような性質
  3. 現代日本の資本主義社会に嫌悪感、違和感などを持ち身動きがとれない状態
  4. 自分が目にしたくない現実、不快な人達、場所、集団を見ないで済ませる為に、部屋に閉じ篭る
  5. 建前(公の態度)と、本音(真実の自身)を合理化して、社会・ある状況から期待されるべき役割を見いだすことへの困難を持つ場合
  6. 虐待・性的暴力・ストーカーなどの被害の後遺症によるもの

傾向

精神医学的見解

発達障害広汎性発達障害(PDD)、神経発達障害(neurodevelopmental disorder )、社会不安障害(SAD)、全般性不安障害(GAD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)注意欠陥障害(ADD)学習障害(LD)との関連性が指摘される。


又、先天的な発達障害では無く、不良な生育環境から前記の障害と同様の状態に陥った(発達障害とアダルトチルドレンが示す症状は似通っている)、と見る向きもある。

生活習慣

引きこもりというとまったく外に出られないかというと、そうではない例も挙げられている。程度は人によって異なり、全く自宅から出られない人もいれば、買い物などのために出られる人もいる。とはいえ、学校や会社に通う事は困難な場合が多いとされる。また、昼夜が逆転して生活している人も多いと指摘されている。

インターネット等を通して人と関わりを持つ事は、引きこもる人にとって唯一の人との交流手段であり、人とつながりを保つ上でとても重要なものである一方、インターネット依存症に陥る危険性もはらんでいる。さらに、こうした生活をすることによって他人や社会との接触がますます苦手になっていくという悪循環に陥っていく可能性もある。

引きこもりの時期

主に少年期・思春期から、成人としての生活や責任感を期待される過渡期に存在する。これは日本社会の様な、先進資本主義社会の中で、どのような成人としての役割を見いだすか、あるいは成人に通過することへの意味をどこに見いだすか、という点を示している。

引きこもりは、必ずしも学齢期にある者が起こすとは限らず、いったん社会人として自立した者が起こすこともある。また、学齢期に引きこもりを起こした者が、立ち直るきっかけを見出せないまま中年期に達することもある。成人の引きこもりに対しては、亡き後が心配され、親の死を隠して年金を不正に受給するなどの事件も発生している。

なお、科学者哲学者芸術家が作業に没頭する過程で外界と隔絶した生活を送ることがある。これも一種の引きこもりである。数学者ペレルマンは研究所を退職し、引きこもり状態となった数年後にフィールズ賞受賞(ただし本人は受賞を辞退)対象となる研究成果を発表した。また、ワーカホリックを会社こもりと表現する場合もある。もしくは中島義道滝本竜彦など自身の引きこもり体験をアートや学術に転化させた例もある。

特徴

  • 厚生労働省/国立精神・神経センター精神保健研究所社会復帰部による 「ひきこもり」の概念
    • 「ひきこもり」は、単一の疾患や障害の概念ではない
    • 「ひきこもり」の実態は多彩である
    • 生物学的要因が強く関与している場合もある
    • 明確な疾患や障害の存在が考えられない場合もある
    • 「ひきこもり」の長期化はひとつの特徴である
    • 長期化は、以下のようないくつかの側面から理解することが出来る
      • 生物学的側面
      • 心理的側面
      • 社会的側面
    • 「ひきこもり」は精神保健福祉の対象である

※調査対象者は次の条件をすべて満たす80例(男66例女14例)。初診時の年齢が12歳から34歳(平均19.8歳)、調査時点で13歳から37歳(平均21.8歳)。

  • 統合失調症躁うつ病、器質性精神病などの基礎疾患がないこと
  • 初診時点で3ヶ月以上の無気力・ひきこもり状態があること
  • 1989年6月の時点で、本人との治療関係が6ヶ月以上続いていること
  • 少なくとも本人が5回以上来院していること(家族のみの相談も多いため)
  • 評価表を記入するための資料が十分に揃っていること

社会復帰への道のり

引きこもり状態からの脱却

一般論として、根本的解決には両親の協力に加え、ひきこもりが精神保健福祉の対象であることがガイドラインでも明記されているように、精神科の医師、精神保健福祉士(精神医学ソーシャルワーカー)やカウンセラー、さらには必要に応じて学校や職場の関係者などが連携し、支援していく必要がある。原因が複雑に絡み合っていることもあるため、カウンセリングにより、その原因を当事者自身の心の中で少しずつ整理し、原因となっていることを少しでも解決できる方法をカウンセラーの支援により導き出す方法は、解決法の一例である。対人恐怖症うつ病パニック発作などの精神疾患を併発している場合は、精神科医師の診断の元、適切な治療を並行して行うことも必要となる。外出恐怖症やPTSDなどの理由で、外出することができない、外出や登校・出社に必要な公共交通機関に乗車できない場合は、行動療法により補助者とともに段階的に改善を試みる方法もある。

脱却後の問題点

学生の場合、同級生との間との学力格差が再び引きこもる原因を作ってしまう場合がある。この場合、学校や家庭教師などに事情を理解してもらった上で、個別に学力を取り戻す努力が必要となる。しかし、高校や大学では特に単位不足、出席日数不足で留年や退学となってしまう場合もある。留年の場合、特に高校では、心のケアが重要となる。高校、大学共通していえるのは、学費面でのサポートが必要で、両親の理解も必要となる。また、大検受験サポート施設や、通信制高校などへの再進学も選択肢の1つとして検討される。大学中退の場合、自宅で単位を取得できる放送大学の活用も1つの手段である。一定の条件下で大学在学中の単位が認定される制度もある。

社会人の場合でも、履歴書に空白期間(引きこもっていた期間)があると、就職活動ではどうしても不利になってしまう。そのため、職業訓練や資格取得でその弱点をカバーできる具体的な能力があると有利である。

厚生労働省ではトライアル雇用制度という、採用者・雇用者ともに納得して就職できる制度を用意している。

周囲の無理解および偏見への対策

地域若者サポートステーションや、引きこもりを支援するNPO法人では、両親に対する講演会を開催し、その理解を求めているが、マスコミによる客観性を著しく欠いた報道、テレビのコメンテーターによる自己中心的発言が、当事者を深く傷つけ、引きこもりを悪化させている。状況に応じてマスメディアから遠ざけることも必要である。また、その匿名性から差別、無理解、偏見発言が多い2ちゃんねるなど、その情報の真偽を判断する能力が低い状態の引きこもり当事者からは、有害なインターネットサイトから遠ざけることも場合により必要になる。

引きこもりの長期化

引きこもりが長期化する要因の一つに、支援団体に関する情報不足もある。テレビでよく報道される支援団体は概ね宿泊型であり、生活のリズムを取り戻す為に規律ある生活を求めるものが多く、引きこもりの人にとっては「支援団体=規律ある生活を求めるもの」というイメージを抱きやすい。しかし、実際は宿泊型の支援団体は少数であり、居場所や就業体験の場として機能しているものが多い。従って引きこもりの人に対して正しい情報伝達が行われる事も、復帰への一助となる。また、引きこもりが長期化して、自分と同じような年齢の人は居ないのではないか、と不安がる人も居るが、30歳以上の引きこもりを対象にした、居場所なども僅かではあるが存在する(東京ではCOLORSなど)。

引きこもりに関する肯定的な見方

小柳晴雄のように、「引きこもりは、成長過程において、その必要に迫られて自然発生する行為。」との見方をする専門家もいる。小柳は、講演会では「子供が引きこもったら赤飯を炊け。」という言葉をよく使う。

また、芹沢俊介のように、引きこもり支援は善意の押し付けであり、長田百合子長田塾杉浦昌子アイ・メンタルスクール等のケースから、必要悪としての行為が増幅していくことが暴力にいたってしまいがちという批判を行うものもいる。

引きこもり脱却支援施設・施策

広義のNPOとして、例えば東京で活動をしているたんぽぽ広場COLORSKSTTネットのような引きこもりから脱却するための支援施設がフリースクールとして存在している。相手の家に行って交渉するというレンタルお姉さんレンタルお兄さん、引きこもり対象者を旅行に連れ出し引きこもりから脱却させる旅行療法という施策も行われている。

30年間引きこもりの支援をしてくれた実姉を刺殺。求刑上回る懲役20年(2012年7月)

2011年7月、自宅を訪ねてきた姉(当時46歳)を包丁で刺殺したとして殺人罪に問われた大阪市平野区の無職大東一広(42)の裁判員裁判の判決が2012年7月30日大阪地裁であった。

河原俊也裁判長は、大東が広汎性発達障害の一つである「アスペルガー症候群」だと認定。「社会内にこの障害に対応できる受け皿が用意されていない現状では、再犯の恐れが強く心配される」として求刑(懲役16年)を上回る懲役20年を言い渡した。

大東は同月の逮捕後、大阪地検の精神鑑定で、この障害があると診断された。地検は刑事責任能力に問題はないとして2011年11月に起訴。公判で大東は罪を認め、弁護側は、犯行には障害が影響したと主張。保護観察付きの執行猶予判決を求めた。

判決で河原裁判長は「約30年間、自宅に引きこもっていた被告の自立を促した姉に恨みを募らせた」などと動機を認定。障害の犯行への影響を認めたが、「量刑で大きく考慮することは相当でない」として量刑面の弁護側の主張を退けた。

量刑判断に社会秩序の維持の観点も重要として「殺人罪の有期懲役刑の上限で処すべきだ」と述べた。動機を姉への逆恨みとした上で「姉は身体的、金銭的に被告に尽くしてきたのに、理不尽に殺害された」と指摘。

「被告は十分に反省しておらず、社会復帰後に同様の犯行に及ぶことが心配される」として、求刑より長期間の矯正が必要と判断した。

「家があるから引きこもりが続くんだ!」ひきこもり(22)が自宅に放火(2012年)

自宅に放火し、全焼させたとして現住建造物等放火罪に問われた、金沢市泉本町1、無職、徳丸雄大(22)の裁判員裁判の初公判が2012年9月10日、金沢地裁(手崎政人裁判長)であり、被告は起訴内容を認めた。一方、検察、弁護側ともに犯行時の被告が心神耗弱状態であったとした。

冒頭陳述で検察側は、「引きこもり生活をしていた被告が『自宅があるから引きこもりが続く』として犯行に及び、動機に酌量の余地はない」と指摘。一方、弁護側は「自分の気持ちを制御できない状態だった」などと訴えた。

起訴状によると、2012年2月6日午前10時45分ごろ、自宅1階廊下に灯油をまき、さらに、ガスコンロで火をつけた新聞紙を置いて火をつけ、木造2階建て住宅約70平方メートルを全焼させた。

関連項目

外部リンク

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主な関連書籍・作品など

書籍

映像作品・ドキュメンタリー