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'''工場'''(こうじょう、こうば)とは、[[製造業]]で、実際の製品を[[生産]](製造)したり、既成製品の[[機械]]関係の[[点検]]、[[整備]]、保守等の[[メンテナンス]]を行う[[施設]]をいう。企業の呼称では「製作所」「事業所」「事業場」などと呼ばれることがある。[[軍需品]]のそれは[[工廠]]と呼ばれる。
  
 
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2020年1月14日 (火) 15:00時点における最新版

工場(こうじょう、こうば)とは、製造業で、実際の製品を生産(製造)したり、既成製品の機械関係の点検整備、保守等のメンテナンスを行う施設をいう。企業の呼称では「製作所」「事業所」「事業場」などと呼ばれることがある。軍需品のそれは工廠と呼ばれる。

小規模から中規模の工場(町工場)は、内陸地域に設置されることも多いが、石油鉄鋼などの大規模な工場は、原料や製造した製品の搬出入の便を図るために、海岸沿いの臨海部に設置されることが多い。石油コンビナート製鉄所などはそれ自体が非常に規模が大きく、また関連工場も多くは近隣に設けられ、一大工業地区を形成する。

工場は多くの労働者を必要とすることから、従業員が多く工場付近に住む。それらの人たちを対象とした店舗も工場の周辺に集まる。工場を中心として形成される生活圏を、「企業城下町」と呼ぶこともある。

意味としては、工場(こうじょう)は大規模な所、工場(こうば)は小規模な所を示すことが一般的である。

給料が一般の企業よりやや高めに設定されている傾向があり、大卒が入社する企業の初任給と高卒が工場に入社する場合ではほぼ同じ場合もある。

歴史[編集]

小規模な工房なら古くからあったが、初めて近代的な工場が出来たのは1770年頃のイギリスである。 1769年にイギリスのリチャード・アークライト(Richard Arkwright)が水力を使った紡績機を発明した。この紡績機は非常に高速で強い糸を紡ぐことが出来たが、利用するには水車のある場所に設置しなければならなかった。

リチャードは1770年頃、靴下製造業者であったサミュエル・ニード、ジェディダイア・ストラットらと組んで、ダービーシャー州のクロムフォードに、何台もの紡績機を集め、全ての紡績機の動力となる水車を備えた紡績工場を作った。これが近代的な工場の出発点とされ、産業革命の要因の1つともなった。

ある工場作業者の1日[編集]

朝6時起床[編集]

今日もまた目覚めてしまった・・・と絶望する
真っ先にパソコンを起動。ぶーんという音を聞きながらタバコに火をつける(ラッキーストライク)。
会社行きたくねぇなぁ、と心から思う。

ネットをチェック。主にニュースサイトを眺めて、何か会社での会話のネタになるようなものは無いかと探すが、会社で話す相手がそもそも居ないんだけどな、と己の無駄な努力を嘲笑う。死にたくなる。死のうかな、と思うが、怖いので死ねない。

朝6時半[編集]

シャワーを浴びる。
全体的に薄汚れたユニットバスを見るたびに、掃除しようぜ俺、と決意を固めるが、どうせ掃除なんか絶対にしないとわかってる。

あつあつのシャワーを浴びながら今日一日もやっぱり嫌な事ばかりなんだろうな憂鬱になる。
水流を頭から浴びながらこれまでの人生とこれからの人生について考える。

朝食。
パッケージにスヌーピーが描かれたシリアルを食べる。チョコ味。
サラダボウルたっぷりに盛り、牛乳をドバドバとかける。
それを食べながら再びネットを興じる。
出勤まであと1時間なんだと考えると死にたくなる。

朝7時[編集]

オナニー
エロ画像サイトに辿り着き、何気なしに眺めているとムラムラしてくる。
すわ朝から自慰行為か、と我ながら自分のアホさ加減に嫌気がさす。
しかし気づけば左手は股間に伸びている。無意識の行動である。
パソコンをやっている最中にはよくあることだ。

嗚呼、朝からオ○ニーをしてしまうとエネルギーやらやる気やらが失われて憂鬱で倦怠な一日がますます酷いものになると分かっているというのに・・・。

だが憂鬱だからこそ、目先の快楽には抵抗できぬ。
私はティッシュに手を伸ばすと、30分かけてネタを吟味し、じっくりと自慰に耽った。
そして死にたくなった。

朝7時半[編集]

朝の起きてから会社に行くまでの僅かな時間を、出勤の準備のドタバタ以外にも使えるというのは、とても素敵な事だ。
その貴重な時間をくだらない自慰に使うとは・・・
なんて馬鹿なことを・・・と凹む。

時計を見る。
もうこんな時間だ!アパートを出なくちゃいけない8時までほんの僅かだ!と焦る。

ヘッドホンを装着してキングクリムゾンを聴く。もちろん不朽の名作「RED」だ。
あのギターの音色が今の自分にじっくりとハマる。聴いてて楽しくなる。焦りも無くなるってもんだ。
このままこうしてキングクリムゾンを聴きながら一日を過ごせたらどんなに素晴らしいだろう?
時間は刻一刻と地獄へと迫る。私は現実からの逃避を試みることをやめぬ。

7時55分[編集]

家を出るまであと5分。私は考える。
会社に行くべきか、行かざるべきか・・・。 もちろん心と身体と魂はこう叫んでいる。
「もう死のうぜ!!」と。

もう限界なのだ。
私は会社勤めには全く向いていないのだ。というか普通の人々のように生きることができないのだ。
他人が当たり前のように出来て当然のことが、私には死ぬほど困難なのだ。
とてつもない無能なのである。私が会社に行っても、ただ迷惑なだけだ。むしろ私が居ない方が皆の為なのだ。
それは分かっている。じゃあどうする?
私は携帯を見る。起きてから初めてそれを手に持つ。私はこれが大嫌いだ。

嗚呼、いっそ携帯電話をへし折って、壁に叩きつけて、私を知るあらゆる人間との連絡と関係を断ち切ってしまえれば、それはどんな解放を私に齎すのだろうか?

こいつが鳴るとき、私は憂鬱になる。
どんなに楽しい気分であっても、着信のメロディーが響けばすぐさまシベリアの永久凍土ぐらいにテンションが下がる。
休日の新聞の勧誘のノックみたいに。何故ならばこの携帯が鳴るときは、決まって無機質な仕事の連絡だからだ。
それ以外の用件で鳴ることはない。私には友達も恋人もいないのである。ますます嫌になる。

そんなことをうだうだと考えている間にも携帯の画面に表示された時計は進むのだ。
会社、行きたくないなぁ。布団、あったかいだろうなぁ。

7時59分[編集]

私はまだ悩んでいる。
精神的にボロボロになるサビ残だらけのSEより、肉体的にキツイが残業代キッチリ出る工場勤務のがマシだろ
まあ適正によるか

8時[編集]

私は臆病者である。会社に行くことにした・・・。ずる休みしたら、面倒なことになりそうだしね。

荷物を軽くチェックする。洗った作業着、書類、筆記用具などが入った鞄を改める。
パソコンを消す。灰皿の燃えカスを調べる。戸締りと火の元の確認。あ、歯磨き忘れてた。30秒で済ませる。
玄関で靴を履き、扉を開ける。眩しい朝の太陽の光が私を襲う。嗚呼・・・このまま闇の怪物のように消えてしまえれば!

鍵を閉める。愛用の自転車にまたがる。ようやく出発である。

8時5分[編集]

ここでいつもの悪癖が顔を出す。
あれ・・・?ちゃんと玄関の鍵、閉めたよな・・・。
自転車を漕ぐスピードを緩める。徐々に遅くなっていき、ついには止まる。鍵、閉めたよな?
頭の後ろのほうにモヤモヤがあり、胸のあたりにザワザワがある。

記憶を振り返ってみる。確かに私は鍵を閉めた。でも、本当に?
自分の記憶、あってる?信用、できる?
ちょっと考えて、結局急いで戻ることにする。
会社に行きたくないが為に俺の無意識が生み出した錯覚めいた衝動ではないかという疑いは、あまりにも虚しいので無視する。

朝8時10分[編集]

鍵は閉まってました。よかったです。

改めて出発。自転車を漕ぎながら、思う。
あのトラック・・・私を轢き殺してくれねぇかなぁ、と。あの車・・・ハンドルをいきなりこっちに切って突っ込んでこないかなぁ。
あのオッサン・・・いきなり包丁を振り回して私を刺殺してくれねぇかなぁ。
あの学生・・・すれ違いざまにその肩に担いだ竹刀で私の心臓を突いてくれねぇかなぁ(死ねるのかな)

隕石は降ってこないだろうか?私の頭に。できれば会社に。あるいは社長の自宅に。
大災害よ来てくれ!ピンポイントで会社を滅ぼしてくれ!社員たちの家でもいいよ!

もちろん何事も起こらずに、平和に、私の自転車は道を進んでいくのだ・・・。
嗚呼、死にたい。

8時20分[編集]

コンビニに寄る。ちょっと立ち読みしちゃう。朝の出勤途中の立ち読みの楽しさは異常である。
新作の菓子パンをチェックする。趣味なのである。各種コンビニの菓子パンを食べるのが・・・。

新発売のドーナツをリポビタンDと一緒に買う。ドーナツはまぁまぁだった。気が向けばまた買うレベルの味。
リポビタンDは相変わらず美味いのかどうか分からない。
効果あるの?体力回復するの?という疑問は常に付きまとうが、何となく飲んでしまう。効果を実感できたことは皆無だが。

朝のコンビニには色んな人間がいる。楽しそうな人たちも結構見かける。
同僚たちと笑いながら、カゴに食料を詰め込んでいく。朝食だろうか、昼食だろうか。
どちらにしたって、彼らは楽しく食事をするだろう。
仕事もきっと、楽しいに違いない。ああいう顔で一日を始めることができたらな、とつくづく思う。

朝8時30分[編集]

【ようこそ地獄へ】という感じで会社が聳え立っているから死にたくなる。頭の中でロバート・フリップのあのギターが響く。
まだほとんど誰も来ていないらしく、駐車場はガラガラだ。
あいつら始業の9時直前になるまで、本当にギリギリにならないとやってこないのだ。
しかし何故か俺だけは30分前に来いと社長に厳命されている。理由は男で、若いからだ。意味分からん。死にたい。

駐輪場に自転車を止める。ちょっと歩いて会社の出入り口に行く。
併設されてる工場は沈黙している。真夜中の墓地のように。そう、ここは墓場なのだ。

家庭に倦んだ、歪んだオバサンパート同士が派閥を作り縄張りを争い、陰口の大嵐を巻き起こし、その隅っこで外国人の出稼ぎ労働者がほそぼそと働く、ここは人生の終着地点。俺はここで働く、無能なカスだ。

朝8時35分[編集]

建物の二階にある事務所と呼ぶにはあまりにもしょぼい、書類なんかが積み上げられた机の前で、不愉快なタイムカードをあの不愉快な機械に突っ込んだ。
ガガガガッとあの不愉快な音を立てて、トーストのようにタイムカードが不愉快に出てくる。
この不愉快な機械にまつわる全てが不愉快でしょうがない。このくそったれな機械を叩き壊す姿を妄想するのが、私の秘かな楽しみである。いずれ実現したい。

一階に下り、自分のロッカーに荷物を詰め込んで、作業着に着替える。いきなり西洋の甲冑をフル装備で身にまとったかのように身体が重くなった。
心はそれ以上にヘヴィだった。呼吸をするのも困難だ。

再び二階にあがり、狭い室内の全体を見渡す。ちゃちなベルトコンベアー、その横に等間隔に設えられたたくさんの作業机、机の上には目に優しくないライト(物凄く眩しいのだ)やら指サックやらやりかけの仕事なんかが載っている。

朝8時55分[編集]

この会社は携帯電話などの部品の外観を検査したり、こまごまとしたパーツを組み立てたりするのが主な仕事である。
ある大手の下請けの下請け、つまり孫請け、つまりそこら辺にたくさんある零細工場だ。所在地は東北の某所。

従業員は殆どがパート。オバサンどもで構成されている、女の世界。社長も女性だ。
つまり人間関係が死ぬほど鬱陶しい・・・。ここに入って数年経つが、未だに私はおどおどびくびくしている。

従業員の出入りは非常に激しい。新しく入っては、すぐに辞めていく。
仕事のかったるさもあるが、オバサンどものアレな争いが心を蝕むのだろう。
いい年した大人が仕事中に泣きだして、そのまま他の従業員と喧嘩を始めたりするから困る。
仕事しろよお前ら。

私が昨日やりかけのまま放置した仕事をうんざりしながらやっていると、オバサンどもが続々と現れ始めた。
適当に挨拶を交わしていく。嫌な気分は募る。

朝9時[編集]

始業。社長がやってきて、無駄な元気の良さを発揮して大声で挨拶を始める。
頭にがんがん響く。耳の穴からドリルを突っ込まれている気分になる。

お言葉は実に有難いが、15分も延々としゃべるのはよしてほしい。

「今日は納期がちょっときつめです。スピードをこころがけてください」

畜生、ツッコミ待ちか?

社長が退散する。現場の統括リーダー的な人が指示を出す。
社長の古い友人で、この人が居なくなったらこの会社は終わりだろうね、と陰で皮肉を込めて言われている。

私にも指示が出される。「梱包をお願いね」
嫌っすねぇ~とはもちろん言えないので、はい!分かりました!と若者らしい返事をする。

「朝から元気いいねぇ」とオバサンの誰かが何故かニヤッと笑いながら言う。
畜生、嫌な気持ちは止まらない。ロマンティックのようにな。

朝9時~10時30分[編集]

黙々と仕事に励む。作業場の目立つ位置に設置されたラジカセから音楽が流れている。
信じられないことに演歌である。こぶしをきかせまくってるのが腹立たしい。

私の仕事はコンベアの一番後ろに立ってラインの上を流れてくる、パートのオバサンどもが検査した製品を、もう一度軽く検査した後、専用のトレーに置いて、さらにそれを数が溜ったら段ボールに詰め込む作業である。
これが結構忙しい。

まずオバサンどもの検査の見落としが無いかどうかをチェックしなくちゃいけない。
ロットアウト級のバカでかい不具合が見つかったら死ぬほど面倒な事になるからだ。

ロットアウトとは、納品した製品を取引先の品質管理部門がチェックし、「こいつはアカンですな」というレベルの不具合の見落としがあったら、製品が丸ごと帰ってくるという最低の事態だ。

当然、その分の報酬は払われない。その為、ロットアウト品の検査となると、会社としてはタダ働きになるのだ。
しかも優先順位も高いので総員でまずそれにとりかからなければならない。
結果、他の仕事もストップする。良い事なんて一つもない。
なので社長はロットアウトだけは絶対に出すな!と口をすっぱくして言いまくる。

だが私としての一番の問題は、従業員同士の罪の押し付け合いである。
「あんたの検査がへぼかったせいで、ロットアウトになったんじゃないの?」という剣呑極まりない雰囲気が作業場に満ちるのだ。

これが辛い。視線の端々に疑惑と侮蔑なんかの負の感情が込められており、口にされる言葉には露骨な皮肉が迸ってる。
普段から気に入らないあいつに全部押し付けちゃおっか?みたいな気配も濃厚だ。多数で一人を責める事すらある。

何が恐ろしいって、私は作業の工程の一番最後、最終チェックを担っているのだ。
つまり何かミスがあった場合、私は非常に責められやすい立場にいるのだ・・・。
この梱包という作業、実は誰もやりたがらない、貧乏クジなのである。嫌な気持ちは止まらない。

朝10時30分[編集]

検査をしたり、トレーにいれたり、保護シートをかけたり、段ボールに詰めたり、ラべルを書いて段ボールに貼ったり、ロットごとの製品の数合わせをしたり、数が合わなくて作業場の中を駆け回ったり、段ボールを二階から荷物置き場に運んだり、たまにかけられるオバサンどもの声にイラっとしたり・・・

そんなことを無心に繰り返してるうちに念願の休憩時間である。

作業場の雰囲気が一気に弛緩する。仮初めの和やかさが溢れる。
陰では舌鋒鋭く罵り合ってる作業員も、この時ばかりは友達同士のように談笑したりする。

備え付けの長テーブルの上にお茶とお菓子が並べられる。芳香が鼻をつく。長テーブルの周りではお喋りの花が咲く・・・。

私ですか?私は作業を続けてますよ?
ちょっとラインを流れてきた製品の数が多すぎたもので、ちょっと間に合わない感じなんですよね。ええ。

「あれ?○○くん、なにしてるの?」
「はい。ちょっと間に合わなそうなんで・・・」
「働き者だね~」

どっと笑いが作業場内に溢れる。頑張ってね、という涙が出るほど暖かい言葉が無造作に飛んでくる。
畜生。嫌な気持ちはどこまでも続く。

朝12時~12時45分[編集]

記憶が不鮮明。ザ・ルーチンワークの効能である。
毎日似たような事を続けていると仕事をより効率的なものするべく、身体が適応化という素晴らしい能力を発揮してくれる。
おかげで苦しい苦しい仕事の時間が短縮されたように感じられる。感じられるだけだが。

単にボーっと惰性で仕事をしてただけともいえるが。
研修期間のあの慣れない仕事を必死に学ぼうとする時の、焦りと集中力が無くなって、調子に乗ってるともいえるが。
こういう「もう余裕だね」という時期に酷い失敗をするというのが私というクズなのだが、果たして。

・ともかくお昼である。
作業員たちは一日の内で二番目のスピードを出して一旦自宅に戻ったり、昼食を準備をしたりする。
人が一日で最もスピードを出すのはいつか?言うまでもない、仕事が終わった直後である。

・もちろん私の昼食を一人である。会社の敷地の裏の方が定位置だ。
会社でとってる弁当をこっそりと運び、こっそりと食べる。それから本を読む。短編集が良い。
20ページから30ページぐらいの短編を一つ、昼休みをかけて読む。

会社にいるとき、この時間帯だけ実に安らかだ・・・。短編の出来がイマイチだとガッカリするが。
この日はジャック・フィニィは「ゲイルズバーグの春を愛す」を読む。大当たりだったので嬉しくなる。

昼12時45分[編集]

長テーブルの周りでは何人かの作業員が「笑っていいとも!」を観ながらの優雅なランチの真っ最中である。
私は黙々と仕事を始めた。何故か?

社長の厳命
「君は昼休み45分で切り上げてね」
「え・・・」
「最近は忙しいし、時間が無いからさ。君だけは先に始めててほしいんだよね」
「は、はぁ・・・」
「それに若いんだし。正社員だからね」

嗚呼・・・嗚呼・・・嗚呼・・・。

私は一応正社員である。別名、何でも屋。あるいは奴隷。

午後1時~3時[編集]

まるで示し合わせたかのように、続々と作業員たちが、13時目指して集結し始める。そして午後のお仕事が始まる。

ルーチンワーク、と言いたいところだが、腹に食べ物を詰め込んだ直後のこの時間帯の辛さはいつまでも慣れない。眠い。

ただでさえ単純作業なものだから、目がしょぼしょぼしてくる、気を抜くとふっと意識が飛びそうになる。頭ががくがくと揺れそうになる。

今日は梱包という立ちながらの作業だからまだいいが、椅子に座りっぱなしの検査の仕事は本気でヤバい。
案の定、作業員の一人がお舟を漕いでいらっしゃるのが見えた。

他人のミスを指摘するのはとても気分がいいので、後ろからそっと近づいて、ドヤ顔で「大丈夫ですか?」とでも声をかけて、恥をかかせてや りたいなぁ、などと最低の発想が浮かぶが、何もしない。そんな余裕もない。
ラインの上を流れてくる製品を処理していくので精一杯だ。眠る暇なんかどこにもない。
次々とやってくる問題に追われているうちにいつの間にか時間を流れている。

後には疲れた心と身体だけが残る。これは人生の縮図だ。
このラインの最後尾で私の人生は終わっていくのだろうか?
気づけば3時。おやつの時間だ。今回の休み時間は私も休める。

午後3時[編集]

一階に下りて、社長の旦那さんがやってる溶接関係の作業場に行く。会社内で喫煙していいのは外かここだけだ。
丁度、旦那さんも溶接の一区切りがついたらしく、一緒に煙草を吸う。
他の煙草を吸うオバサンやってきて、煙草に火を点けている。

人とのコミュニケーションがすこぶる不得手な私にとって、煙草というのは貴重なコミュニケーションの道具だ。
お喋りをしながらも、煙を肺に入れてるときは、同委の上での沈黙が許されるからだ。言葉を考える時間を得られる。
煙草を吸う、というのが共通の趣味みたいな感じもあって、ほんのちょっぴり距離が心地よく感じられたりもする。
コーヒーも飲む。私は甘ったるいボスのカフェオレが大好きだ。   草を吸うオバサンは他のオバサンと比べて年が若いので、圧倒的に最年少の私とはよく話す。
主に仕事の話だが、たまにプライベートな事も語る。一緒に仕事をする機会も多い。
何気ない時間だが、こういう時間があると仕事を頑張ろうという気になる。

そして問題が発生する。ロットアウトである。

午後3時15分[編集]

先週のあるロットが納品先の品質管理にひっかかったらしい。
ご丁寧にも、その問題の不良品が速達で送られてきていたらしく、実物を見せてもらう。

携帯電話のボタンキーの部分カバー、その側面に、1センチぐらいのイトクズがあった。「あ、これはダメだわ」と誰もが一目でアウト分かる、そういう不良品だ。

このカバーの外観の検査というのは、ライトで照らしながら、製品を2~4台ほどをまとめて持ち、表面の塗装に異物が紛れ込んでいないか、印刷の欠陥が無いかどうか、傷がついていないかどうか、全体が歪んでいないかどうか、などを調べるのである。
調べて、OKならラインに流して梱包して出荷、ダメならNGで不良品として別にまとめて、取引先にもっていったり処分したりする。
不良品でも少ないながらもお金が貰える場合もある。

イトクズというのは、そのまんま糸の屑で、製造過程の塗装の段階でまぎれこむものだ。
不良品の種類としてはかなりポピュラーなもので結構見つけやすい。
それは非常に目立つということなので、見逃しは厳禁だ。誤魔化しはきかない。
もちろん作業場内には嵐が吹き荒れた。飛ばされた惨めな葉っぱは私である。

3時30分[編集]

作業員達の最大の関心事は何よりも「誰がこの不良品を見逃したか?」だ。
つまり「どうか自分ではありませんように」であり、「自分でなければ誰でもいい」だ。

「なぜ不良品が出たか?」「見逃されたか?」「これからどうするか?」が話し合われることはない。

3時の休憩の和やかな時間はどこか宇宙の彼方へと消えたようで、誰もが不安と疑念の視線で、互いを牽制し合っている。
まずそのロットを検査したのは誰と誰と誰であったかが俎上に上る。普段は
「あれ?そんなこと言ったっけ?覚えてないなぁ」が口癖の人間でも、この時ばかりは抜群の記憶力を発揮するから不思議だ。

以前、その類の記録は神経質なまでにつけられていた時期があった。
誰がどのロットのどの箱のどのトレイのどの製品を担当したかまでを、書類に書き残して、後で問題が起こった場合に備えたのである。

これはすぐに破綻した。時間と速度が何よりも重要な仕事なのに、いちいちペンを握ってなんかいられないし、ただ作業員たちに緊張と不安と疑念の種の与えただけだった。
作業効率は目に見えて落ちた。誰も戦犯になんてなりたくない。だからじっくりと製品の一つ一つを入念に検査し始めたのだ。

なので今回のロットアウトの犯人は誰だったのか?の問題はすぐにうやむやになった。
「自分が不良品を見逃したかもしれない・・・」とはいえるが、「自分だけは絶対に不良品を見逃さなかった!」とはいえない。
そういう仕事だし、周りの目もある。

というわけで嵐に吹き飛ばされる葉っぱ、哀れな生贄の子羊の役をやらされることになったのは私である。

私はそのロットアウトには関係ない。その仕事の時は別の作業をしていたからだ。
でも私が選ばれた。何故か?
もちろん若くて、正社員で、そして多分、男だからである。

取引先が言うには、「スケジュールの関係上、このロットアウトの製品は早くラインに流してしまいたいので、今すぐにでも再検査してほしい。全部を検査する必要はない、今日は今日必要な分だけ検査すればそれでいい」とのこと。

そして続けてこう言った。「わざわざそちらまで製品を運ばなくてもいい。そちらの検査員を一人か二人、寄越して、こちらで作業をすればいい」と。

THE 出向である。間違いなく残業コース。楽しい定時帰りが潰える、絶望の瞬間である。

午後4時[編集]

出向するのは私と、私と一緒に煙草を吸ったあのオバサンという事になった。
他のパートのオバサン達はどうやら悠々と17時30分にはあがれるらしい。

何たって年収が120万円(だっけ?)を超えると、被扶養者としてのある特典が受けられなくなるらしいですからね。

オバサン達は社長が「忙しいから残業してくんない?」と持ちかけると「すみません、年収の上限が超えてしまいますので」と巧みに残業や休日出勤を避けるのである。
そしてその分の労働が、私みたいな正社員やもっと働きたいと思ってる他のパートに降りかかるのだ。さすがに繁忙期になると残業もするようにはなるが。

・というわけで私は「それでは行ってきます・・・」と荷物をまとめて作業場を後にした。
背中には「ごめんねー」「頑張ってね」「お疲れ様ー」という暖か過ぎて涙が毀れる台詞が多数、投げつけられた。
使い終わった紙コップのように・・・。

私は自転車で取引先に指定された工場に向かうことになった。市内である。
目指すは国内大手のP。ぶっちゃけパナソニックである。

午後4時20分[編集]

途中でコンビニによる。菓子パンを買う。どうせだからと朝のドーナツをまた買った。
ストロベリーソースが濃厚なフレンチクルーラーである。
一緒にから揚げとリポDも買い、せっせとコンビニの駐車場で腹ごしらえをする。
工場内の食堂は閉まってるし、喫煙所での食事を禁止だからだ。

このような出向はたびたびある。時には一か月以上、出向先で作業をする事もある。理由は簡単だ。儲かるのである。

今回のようなロットアウトの処理で出向する他にも、別の商社などから検査を依頼されることもあるのだ。
これは何よりも作業員一人に振られる時給がべらぼうに高いのである。2、3人を適当に送り込んで、一か月も働かせれば結構な額になる。
そしてその仕事が縁で、新しい取引が生まれたりもするのだ。

味をしめた社長はこの手の出向の依頼は喜んで受ける。送られるのは大体、私みたいに独身ものである。
家庭なんて面倒なものもない彼らは、自由にこき使えるからだ・・・。

夕暮れ[編集]

どんどん辺りは暗くなっていく。切なくて寂しい、生きている意味を誰かに訊ねたくなる時間だ。
コンビニにはやっぱりどっかの会社の人間がいて、他の同僚となんか楽しげに笑い合っている。
私がゴミを捨てて、再び自転車に漕ぎ出すのだ。

午後4時半[編集]

市のやや外れ、たくさんの工場が犇めき合う工業地帯の入り口辺りに、そのパナソニックの工場はある。

とにかくでかい。これに比べたらうちの工場なんて物置にもならんというレベル。

守衛所で名前を書き、自転車を置き、工場の裏手、トラックなどが出入りする場所へと徒歩で移動する。
駐車場で煙草のオバサンと合流する。この人も若いし、独り身なので、結構こき使われている。

敷地が広いので移動するだけでも結構疲れるから困る。
でもその疲労もパナソニックの中を歩いていると思うと何だか誇らしく思えなくもない。
ここに出向するのは好きなのだ。
なんていうか、自分も、大手の人間と一緒に働いているという、そんな仄かな実感があるから・・・。
私はどうしようもない小市民なのだ。

ようやく到着。いくつものトラックがトン単位で荷物を掃出し、フォークリフトが活躍し、伝票を手にした人々が駆け回る、工場の要所の一つである。隅っこに出入り口があるので、そこから入る。

広大な空間に無数の箱、大きな箱、小さな箱、色とりどりの箱・・・。
あの一つ一つに日本の色んな場所で作られたこまごまとした部品が詰め込まれているのかと思うと、一体どれだけの人数が関わっているのかと思うと、ちょっと感銘を受けないでもない。

午後5時[編集]

品質管理の部門はすぐ近くにある。もう顔馴染みとなった感のある担当者が出迎える。
すぐに場所を変えることになった。いつもはこの品質管理の詰所みたいなところで検査をするのだが・・・。(検査をする為のスペースは十分にあるのだ)

いくつものドアを開けては閉めて、通路を渡り、エレベーターに乗って下りて、ようやく着いたのはラインのど真ん中である。
そのベルトコンベアはとにかくデカくて長い。端から端までが見えない、というのは過言だが、うちの会社のベルトコンベアがただの昆布巻みたいに見えてくる。大手っすなぁ、と私は素直に感動してしまう。

そして作業開始。携帯電話のカバーはもう単なるカバーではなくて、精密部品を組み込まれたロボットみたいなカバーに変身していた。

どうやら組み立ての工程のまさに大事な時期に不具合が発見されたようである。
それを手袋をはめた手で一つ一つ取り上げて、ライトで表面を照らし、不具合が無いか検査していく。
たまに冷や汗が流れそうな微妙な不具合(OKかNGかの境界線のすぐ上にあって、判断がかなり難しい)があったりもしたが、 作業は順調に進んでいく。

午後7時[編集]

この広い空間は今、とても薄暗い。
多くの電灯が落とされている。もう時間が時間なので殆どの作業員はこの場から去っている。
私と煙草のオバサンは、こっそりと小声で会話しながら作業をしている。

こういう仕事中の無駄話は何でこんなにも楽しいのだろうか?
話題はもっぱら、会社の人間がどうのこうのという、誰とでも共通して話せて誰とでも盛り上がれる、あの危険で便利な愚痴のようなあれ。
全く褒められた内容ではないが、その分楽しい。
結局私も、陰口を叩き合うパートのオバサンと何も変わらないのである。

しかし煙草のオバサンも午後7時で帰ってしまった。何か用事があるらしい。社長も7時までで良いと言ったらしい。

一応これ急ぎの案件なんじゃないの?と思ったが、後は一人で黙々と作業を続ける。
たまに担当者がやってきて、様子を訊ねてから、検査済みの製品を持っていく。
どうやら別の棟では夜勤組によるラインが絶賛稼働中で、そこへリアルタイムでもっていくようだ。

ふと不安になって、「あの、自分一人しかいないんですが・・・」担当者「ああ、大丈夫大丈夫。一人でもやれる量だよ」と戻ってしまった。嫌な気持ちはないが、何だか心細い感じである。

午後8時30分[編集]

一人の作業は心細いが、なんて気楽なんでしょう。これだから出向は好きだ。

残業地獄に時折ハマって自分がアパートと会社を往復するだけの機械になる可能性もあるとはいえ(自分の住処がただの寝るだけの場所となるのは何だかキツイ)、 あの会社の狭苦しさと人間関係から逃れられるというのは実に心休まる。
特にこうして夜中、一人で黙々と仕事をしていると、多忙で孤独なサラリーマン的な雰囲気を気取れたりもする。
我ながらアホすぎる。だんだん楽しくなってきた。

私は午前中の仕事が一番つらい。頭は寝ぼけてるし、疲れてる感じがするしで、憂鬱だ。
昼食後も眠くてきつく、午後4時あたりも「早く帰りたいな、まだ終わらないかな」と時計をちらちらと熱烈に、女の子を見るように見つめてしまうのが常だ。

残業が決まると一気にどん底になる。帰ったら何をして過ごそうか、と考えていたプランは全て白紙になる。
その白紙にあらゆる呪いの言葉をかきつける。

午後6時ぐらいになると「まぁこれも人生さ」と諦める。午後7時になるとテンションがあがってくる。
残業している自分に寄ってくる、とでもいうのか。午後9時を超えるともう心がウキウキしてくるのだ。
なんでもできそうな気がする。何時間でも働いてやるって感じ。徹夜?オッケー!
今の私はそうなりつつあった。

午後9時[編集]

昼間読んだ本の内容を思い返したり、以前プレイしたゲームの好きなシーンを担当者がやってきて驚いて言った。

「休憩してないの?」
「してませんが」
「いいよいいよ。ゆっくり20分ぐらい休んできて」

先に言ってくれませんか?とか、ご許可を無くして勝手に休憩はとれませんよとか、そもそも火急の案件じゃないのですか?
とか言いたいことは結構あったが、素直に従った。言いたいことを全て飲みこむ術を身に着けてこそ、一人前の社会人である。多分。

たまに目や表情に出てしまって、相手の眉を顰めさせてしまうが・・・。というかしょっちゅうだが・・・、目は口以上に雄弁って本当ですね。

休憩所の明かりも薄暗かった。雰囲気がもっと暗かった。
別のラインの人たちが大勢、コーヒーや煙草を手に、椅子に座ってじっと沈黙してる。

こういうのは何処もあまり変わりない。特徴的なのは目だ。
みなさん・・・なんというか・・・天井の電灯ほども輝いていらっしゃらないといいますか・・・。

たまに誰かと誰かがぼそぼそと喋る。すぐにまた沈黙する。
コーヒーを啜る音と煙草の煙を吐き出すと音だけが定期的に響く。
自販機でボスで買い、私も開いてた席に座る。
煙草に火を点ける。途端にどっと深い疲労がやってくる。なんていうか、重い、ここは。自分の身体も。

午後9時15分[編集]

誰かが席を立つ。それを切っ掛けに灰皿に煙草を押し付けられる、あるは投げ込まれる。

缶や紙コップをゴミ箱に投げるあの軽い音、立ち上がる際の椅子が床にこすれる音、それらがひと時だけ休憩所に溢れるが、すぐに人々同様、どこかへ行ってしまう。僅か2,3ん分の出来事。その間に口を開くものはいない。

私はあっという間に休憩所で一人ぼっちになった。コーヒーを一気に飲み、煙草を捨てた。席を立った。
前に誰かが言っていた。「労働者ってゾンビみたいだ」。
黙ってくれ。死んでるのかもしれないけど、実は生きてるんだ。

元の場所に戻った。作業を再開した。頭はここ何年かで昔のような働きを失ってしまったようだ。記憶力も理解力も昔のようには働かない。

何よりも時間の感覚が曖昧になっている。一週間は一日のようにすぎ、一か月は瞬きのように終わってる。気づけば季節が変わってる。

月曜日から金曜日まで耐えて耐えて、週末になったらああしよう、こうしよう、絶対に時間を無駄にしないと心に固く固く、強く強く誓って も、いつだって週末はパソコンの前で頭を抱えているうちに終わってしまってる。

何かしなくちゃいけない、と猛烈な焦燥感が、動け動けと身体をせっついても、しかし、自分は何をすればいいんだ?何ができるんだ?と自問自答しているうちに太陽は沈んでいる。

真夜中、ただしょうもないインターネットかゲームか自慰で時間を潰し、明け方に眠る。そして昼間に目覚めて、あまりの時間の浪費に愕然とする。ただただ死にたくなる。

とか考えているうちに作業が終わった。

午後22時[編集]

そンな事を繰り返しているうちに一年が過ぎて、その一年が積み重なっていつの間にか年をとって、もう何もやり直せないんだなぁ、若さを失うってそういう事なのかなぁなどと考えていると死にたくなった。

なので担当者の言葉を危うく聞き漏らすところだった。

担当者「明日もお願いしてるから」

「はい?」

担当者「さっき(うちの社名)さんに電話して、そういうことになったから。大丈夫だよね?」

「はい」

担当者「それじゃよろしく。お疲れ様でした」

「お疲れ様でした。失礼します」

意外と早く終わったのにはそういう裏があったのか・・・。

駐輪場まで歩く。晴れていたので、星とか月がとても綺麗です。守衛所でノートをたぐって自分の名前を探す。敷地を出た時間を記入。

守衛さん「お疲れ様でした」「どうもです。お疲れ様です」

パナソニックを出る。真夜中にみると、そのデカい建物はどっかのお城のように思えるほど迫力がある。

社長に電話をかける
。 「お疲れ様です。終わりました」
「そう。お疲れ様」
「直帰していいですか?」(この直帰という言葉は大好き)
「あ、ちょっと戻ってきてくれる?」
「はい?」
「ちょっとやってもらいたい作業があるんだけど、大丈夫?」
私は天を見上げた。あの星はどれだけ地球から離れてるんだろうか?
「分かりました。戻ります」
「お願いね~」

私は自転車に乗った。

夜22時20分[編集]

自転車に乗ってる最中、私がよくやるのは小説や漫画の好きなシーンを思い返したり、ゲームの批評をしたりすることだ。
でも記憶力が衰えまくってるので、昨日読んだ本の内容も穴ぼこだらけだ。キャラの名前をすぐ忘れるし、展開が前後したりしてる。

よく理解できないようになったし・・・。年々自分がバカになってるのを感じる・・・。
もともとバカだけどさ・・・。人生の唯一の救いであるフィクションを楽しめなくなったらどうすればいいんだ?
と、かなりの不安を感じる今日この頃です。

会社のすぐ隣は社長の家である。そこの窓から明かりが漏れている。ご家族も勢揃いなんでしょうね。

私はその家の玄関に立ち、チャイムを押す。すぐにガチャガチャと鍵を開けて、社長が顔を出す。

作業というのは、エクセルに数字を打ち込んだり、取引先への書類を書いたりといった、簡単なものでほっとする。

パソコンは社長宅の中にあるので借りてさっさと済ませる。社長宅の今では社長の家族さん達がテレビを見ていた。
仲良さそうでいいですね。さぁ今度こそ終わりだ・・・。

社長「それじゃお疲れ様。お休みなさい」 「はい。おやすみなさい。失礼します」

夜22時40分[編集]

明日は直接、パナソニックの方へ向かっていいということになった。朗報である。
あそこの社員食堂はとても美味しいのだ。かきあげ丼が絶品で、食堂が最上階にあるから景色もいいのだ。
給食を楽しみに学校に通う小学生のようで悲しくなるが、明日の仕事が少し楽しみになってきた。

当然、真っ暗なので電気をつけて、工場に入る。
作業場で朝と同じように不愉快なタイムカードを不愉快な機械突っ込んで、不愉快なガガガガガという音がなっている不愉快な僅かな間を待ち、トーストのように不愉快に飛び出してきた不愉快なタイムカードを、不愉快なタイムカード入れに収めて、そして俺の今日の仕事は終わった。

タイムカードのただ一つの美点があるとすれば、それは刻まれた数字だろう。
22時とか23時とかの数字が刻まれてると、働いてるなぁとい う気がしないでもないが、でもそれはタイムカードの野郎に踊らされてるだけなのでは?と思い返し、タイムカードがやっぱりまた憎くなる。

作業場の戸締りと電気を確認して、荷物をロッカーから引っ張り出して、そして私は会社を出た。

夜22時50分[編集]

解放感。その一語に尽きる。これからは私の時間だ。

会社に居る間はあんなにも疲れてて、憂鬱で、やる気も出ないのに、会社から出た途端に体調が復活し、テンションもあがるのはどういう事なんだろう。

きっと身体も心の仕事が無意識レベルで嫌いなんだろう。
るんるん気分で自転車を疾走させる、朝と違ってペダルの軽さは半端ない。空気を踏んでいるようだ。
道中が楽しくてしょうがない。このまま夜の空に飛び立てそうだ!と、そんな気持ちは長くは続かない。

後悔の時間が始まる。ふと今日の出来事、自分の行動が脳裏に蘇る。
殆どが失敗の記憶である。そう、私は無能なので、たくさんのミスをする。
その一つ一つが頭の中で再上映されて、私を苛むのだ。
あの時のあの発言はまずかったよなぁとか、計算ミスってたなぁとか、不良品を見落としてたなぁとか。
嫌なことに、特に人間関係の失敗が強く思い出される。うわああああ!!ってなる。

自分が一番の役立たずのくせに心の中で偉そうな態度とってんじゃねぇよ!!
そこは謙虚にいけよ自分! この受け答えはまずくないか・・・?
怒らせてないか?心証悪いんじゃないか?などと、取り返しのつかないミスを想って、私は悶絶する。
自転車を漕ぎながら。

午後23時[編集]

本日三度目のコンビニ。お世話になってます。
夕飯を買う。たまに自炊もするが、今日はもう料理なんかしたくないので、菓子パンで済ませる。
あとファミチキ。雪印のコーヒー牛乳もつけて。不健康だが、食べたいものを食べるのだ。
どうせ長生きなんてしたくないし・・・。煙草吸ってる時点で健康に気を使うとかアホみたいだし・・・、

本屋に寄りたかったが、どこも閉まってるので断念。あの小説、もう出てたっけ、と気になる。本は自分で本屋に行って買うのが楽しい。

ようやく帰宅。「おかえりなさい」と言ってくれる相手は居ない。真っ暗でがらんとした、この瞬間はいつもたまらなく怖い。

午後23時30分[編集]

まずは真っ先にパソコンをつける。食料をテーブルにぶちまけて、服を脱ぎ棄てて、さぁシャワーだ。
あつあつのお湯を頭からかぶると、なんだか疲れがとれていくような気がする。
頭の中に詰まったものが、じわっと霧状に解けていくような・・・。

ユニットバスから出た後、下着姿でパソコンの前に陣取る。私の時間である。
ニュースサイトで夕飯を美味しくしてくれそうなニュースを探すが、どこにも無い。がっかりする。
どうやら今日は世界は平和だったようだ。

食事をしながらネット。ゲームをやる時間も本を読む時間もないので今夜はネットだけと決める。
思いつくままにサイトを彷徨う。出版社の刊行予定などを調べる。

たまに先ほどと同じように、過去の失敗やら恥ずかしい経験を思い出し、奇声をあげる。 強い心が欲しいと、心から思う。

午前2時[編集]

自慰も済ませたので、そろそろ寝るべきか、寝ないべきか懊悩する。

寝てしまったら、明日がやってくる。いやもう明日なんだが。朝がやってくる。あっという間に。
情け容赦のない、艱難辛苦の一日が始まる。始まってしまうのだ。
だから寝たくない。この夜がずっと続けばいいと思う。夜が続けば、明日も朝もやってこない。
仕事の時間はやってこない。一日の中自由になれるこのわずかな時間が、永遠に近く引き伸ばされればいいのに・・・。

でも寝なければヤバい。寝坊するかもしれ無いし、すると遅刻することになる。
遅刻は社会人んとって最悪の失敗の一つであると私は信じている。

それはまずい。ただでさえ微妙な私の評価がさらに悪くなる。結果、ますます会社での居心地は悪くなる。
私はクズなのだ。だから早く寝なければならぬ。寝て、朝に備えよ。もう2時だぜ。
起きられるのか?最近は、眠りが浅く、すぐに目覚めてしまうとはいっても、厳しいんじゃないか?
俺は悩む。時間はいつだって私を待っていてはくれない。

午後2時15分[編集]

決断が遅いのが私の最大の欠点かもしれない。
ぐだぐだと言葉以外の何でもないただの言葉をこねくり回して、悩んで、あるいは悩んでいるフリをして時間を稼いで現実から逃避して、そして決断するというチャンスそのものを逃してしまい、後には何も決断できなかったそのままのくだらない自分だけが取り残される。

布団を敷いた。眠るか眠らないかで悩む必要はない。眠るしかないのだ。

朝になれば、私は会社に行くだろう。行くしかないのだ。それ以外に選べるものは何もないのだ。
電気を消すと、真っ暗。車が走る音なんかがたまに聞こえてくる。
私を目をつぶる。そして妄想を開始する。寝る前のこの妄想の時間だけは、他のどんなささやかな楽しみとは別の楽しさがある。

妄想するのは。たいてい「もしあの時ああしていれば・・・」とか「過去に戻れたら・・・・」などの実にしょうもない、子供じみたあれやそれである。

ここではないどこかへ行きたい。自分ではない誰かになりたい。 は自分が死ぬ姿を妄想する。
自殺を成功させている自分。恐怖も苦痛も乗り越えて、本物の解放を手にいれた自分。

友達や家族を手に入れた自分を妄想する。
俺は自分で居場所を作って、見つけて、大切と思える人達のために精一仕事している。

そのうちに段々と睡魔がやってくる。眠っている間だけは幸せだ。悪夢を見たっていい。
目覚めた後の現実以上の悪夢などないのだ。そして眠りに落ちる直前、こう思う。

「どうかもう二度と、目覚めませんように・・・」

私の一日は終わる。そしてまた目覚めて、一日が始まるのでした。

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