楽譜
楽譜(がくふ)は、音楽を記録するために演奏記号や符号を使って記号化したものである。一般に、西洋音楽に発祥したものを指すが、世界の音楽において、様々な楽譜が存在している。また、この記号化の規則を記譜法といい、楽譜を譜面と呼んだり、単に譜と呼んだりもする。
ことばを記録する文字と役割が似ているが、文字が必ずしも朗読されることを目的として書かれるのでないとの対照的に、楽譜はほとんどの場合演奏されることによって目的が達成される所が大きく異なる。
文字に筆記者の意図を書き記したものと語られている内容を書き取ったものとがあるのと同様に、楽譜にも、筆記者(作曲家、編曲家など)の意図を書き記したものと、演奏を書き取ったものがあり、楽譜の作られ方に若干の相違が生じる。
また、音楽の記録のためには、音そのものを録音するという方法があり、この方法は音楽の微細な表情を記録するのに非常に有効である。しかし、録音が演奏の記録にすぎないのに対して、楽譜には音を使わずに読むことができるので演奏しながら読むことができる、演奏のためのさまざまなヒントを記すことができる、時間の流れを越えて視覚的に把握することができる、といった特徴があり、録音に取って代わられるものではない。
現在最も広く用いられている西洋音楽発祥の楽譜を五線譜といい、五線記譜法によっている。音高軸と時間軸とを持った点グラフの一種とみなされる五線には、音符や休符以外にも、音部記号や拍子、調号、臨時記号、また、文字を用いて示すものと、それ以外のマークやシンボルによる演奏記号、言葉による標語などがある。
楽譜の種類
- フルスコア(総譜・スコア)
- 管弦楽など合奏用の楽譜で、各パートのすべての音が記載されているもの。
- コンデンススコア(ミニスコア)
- 総譜を、見やすいようにコンパクトにまとめたもの。
- パート譜
- 管弦楽など合奏用の楽譜で、それぞれのパートを演奏するのに必要な楽譜だけが抜き出してある楽譜。総譜の対義語。
- ボーカルスコア
- 声楽の含まれるオーケストラのフルスコアから、オーケストラのパートをピアノに直したもの。声楽のためのパート譜として使ったり、声楽がピアノで練習するときに使う。
- ピアノ譜
- ト音記号、ヘ音記号の2段(大譜表という)からなる楽譜。総譜をコンパクトにまとめたり、鍵盤楽器用の曲を記したりするときに使われる。
- リード・シート(Cメロ譜)
- 原曲のメロディとコード・ネームとが書かれている単純な楽譜。ジャズなどのポピュラー音楽で、アドリブ演奏をされることを目的としている。
- 五線譜以外の楽譜
- タブラチュア
- 奏法譜と訳され、一般にはタブ譜と呼ぶ。現在ではギターの奏法(弦の押さえ方が記されている)を示すために多く使われる。
- 一線譜(一本線)
- 明確な音程を持たない打楽器の記譜に用いる。明確な音程がない打楽器は必ず一線譜で記譜されるというわけではなく、音部記号を持たない五線譜で記譜されることもある。
- 図形楽譜
- 時間と音程を表した空間の中に線や幾何学図形などの図形で音を表す楽譜。芸術性のある視覚効果を狙ったものや、固定した時間軸と音程軸で表した空間に長い四角の図形を使い音を表したものまで様々。この手法を用いる作曲家としてはジョン・ケージやスティーヴ・ライヒなどの前衛的音楽家が多い。MIDIなどの電子音楽では細かい演奏データを忠実に再現できるために、五線譜より精細な記法として図形楽譜的な視覚化を行って作曲・編曲されることがある。(ピアノロール)
日本
- 博士(声明)
- 文化譜(三味線)
- 弦名譜(箏)
- 尺八の楽譜
楽譜の歴史
中世
9世紀頃、ネウマ譜と呼ばれる楽譜が現れた。これはキリスト教ローマ典礼で用いられるグレゴリオ聖歌のためのもので、最初は左から右に曲線と直線のみで音の長さと高さを表していたが、次に基準となる音程の位置を水平の線1本で標記する様になり、更に、それが4本、5本となり現代の楽譜と同じ形式になった。ちなみに現代のカトリック教会で使用されるネウマ譜は音の高さを表す線が4本のものである。
近代
15世紀まで、楽譜は手で書かれており、大量の楽譜を綴じて保管していた。機械で印刷された楽譜が初めて出てきたのは1473年のことで、これはヨハン・グーテンベルクによる印刷技術の開発から20年後にあたる。1501年にオッタヴィアーノ・ペトルーシが96曲を印刷して収録した Harmonice musices odhecaton を発行した。ペトルーシの印刷技法による楽譜はきれいで読みやすかったが、楽譜が出来るまでに3度の印刷が必要となり、時間も手間もかかる作業だった。1520年頃のロンドンで、楽譜の印刷が1度の印刷でできるようになり、1528年にピエール・アテニャンはこの技術を広めた。
1575年にエリザベス1世がトーマス・タリスとウィリアム・バードに楽譜の独占印刷権を与えた。1596年にその期限が切れると、独占権はトーマス・モーリーに渡った。楽譜の線が5本に落ち着いたのは、17 世紀に入ってからで、それまで教会の聖歌隊は、音域が1オクターブなので4本。音域が広い鍵盤楽器は6本。ときには7~8本にもなっていたが、イタリアのオペラ界で音楽による楽譜の違いを統一し煩雑さを無くそうとする動きが出てからである。5本という数は人間が判別し、かつ、さまざまな音楽を表記するには最も適した数だった。オペラ先進国のイタリアから世界に5線譜が広まった。
19世紀には、音楽産業は楽譜印刷業界が担っていた。当時アメリカではティンパンアリーがその中心となっていた。20世紀に入ると蓄音機と録音した音楽に比重が移り、その動きを1920年代のラジオ放送開始が加速し、楽譜の出版は飽和を迎えた。そして次第に音楽産業は印刷業者からレコード業界へと移っていった。
現代
20世紀後半から21世紀にかけては、楽譜をコンピュータで読み書きできる形にする技術の開発が盛んに行われ、いくつものシステムが開発された。その意味で、音楽データのデジタル転送規格であるMIDIを利用した記録方式であるスタンダードMIDIファイル等も楽譜の系列に連なるものである。
主にクラッシック音楽を中心とした、著作権が切れてパブリックドメインとなった楽譜のライブラリをインターネット上に作る活動がある。
従来、出版用の楽譜の作成は専門の写譜屋が手作業で行っていたが、コンピューターの普及した現在はそのような作業を行う楽譜作成ソフトウェアもさまざまなものが発売され、専門の業者から個人まで、その利用者は多い。
楽語・標語
その昔西洋において、学術の世界ではラテン語が公用語として用いられてきたように、旧来の西洋音楽においては、楽譜上に記す言語はイタリア語が公用語と規定されてきた。しかしながら、西洋音楽がイタリア優勢ではなくなり、楽譜中はイタリア語で、題名だけはドイツ語であったり、歌詞だけは英語であったり、多言語が氾濫するようになっていった。
また、作曲家が自分の母国語で楽語をイタリア語に混在させることが多くなり、それがベートーヴェンに見られ、シューマンにおいてはもっと顕著になり、後の印象主義の時代には、作曲家が国柄をポリシーとして自負することも兼ねて母国語を楽語に使うことが普通のこととなり、古くからの一部の基本的な楽語はイタリア語のままに存続しているものの、現在は多言語が混在したスタイルが定着している。
日本の作曲家の場合には、フランス音楽の影響を受けた作曲家はフランス語傾倒で、ドイツ音楽の影響を受けた作曲家はドイツ語傾倒で、どの影響を受けたことも表明したくない作曲家や中立を表明したい作曲家は英語傾倒若しくはイタリア語で書き込むことが多い。どの場合も、イタリア語による基本的な楽語に各国語を混合させて書き込むが、作曲家が日本語を書き込むことは、国際的な楽譜読解の壁を避けるためにも敬遠され、基本的に教育目的の楽譜などに限られる。
パブリックドメインの楽譜
- Mutopiaプロジェクト
- プロジェクト・グーテンベルグ
- IMSLP --国際音楽楽譜ライブラリ計画
- Werner Icking Music Archive
- 新モーツァルト全集・デジタル版 --新モーツァルト全集の総譜すべてが網羅されており、PDFとして入手できる。
- SheetMusicFox
関連内部リンク
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