闇サイト殺人事件
闇サイト殺人事件(やみさいとさつじんじけん)とは、2007年(平成19年)8月24日に愛知県名古屋市内で発生した強盗殺人事件。闇サイトが犯行グループ結成に利用されたことが注目された。愛知女性拉致殺害事件ともよばれる。
概要
2007年8月24日午後10時頃、名古屋市千種区の路上を歩いていた31歳の女性を、男3人は道を尋ねる振りをして、強盗目的で拉致した[1][2]。犯行グループ3人は日常生活で面識はなく、知り合って犯行を行うきっかけとなったのが携帯電話サイト「闇の職業安定所」という犯罪者を募集する闇サイトである。「犯罪の素人」によるにわかつくりの犯罪実行グループであった。
この闇サイトで無職の川岸健治(40歳)が投稿し、朝日新聞の新聞拡張員だった神田司(36歳)[3]と無職の堀慶末(32歳)の2人の男が参加し犯行を決め、女性を殺害して現金を奪うことにし、8月24日に決行。被害者の女性は偶然見かけただけという通り魔的犯行であった[4]。
8月24日午後10時頃、名古屋市千種区で帰宅途中の路上を歩く女性を車に連れ込んで、手錠をかけて拉致。約6万円とキャッシュカードを奪う[1]。さらに包丁で被害者を脅して、キャッシュカードの暗証番号を聞き出し、8月25日午前0時頃、愛西市佐屋町の駐車場で被害者を殺害する[2]。被害者の女性は「殺さないで下さい」[5]「話を聞いて」[6]と何度も命ごいをしたが聞き入れられず、容疑者は犯行が露見するのを恐れるだけの理由から、何の落ち度もなくかつ怨恨を受けたわけでもない被害者の顔に粘着テープを巻きつけた上にポリ袋をかぶせ、ハンマーで頭をめった打ちにし、遺体を岐阜県瑞浪市の山中に埋めて逃走した[2]。女性の死因は窒息死とみられている[7]。
この男ら3人以外に1人も一連の犯行に参加しようとしていたが、一緒に犯行前日に名古屋市内の事務所に窃盗目的で侵入したものの、途中で怖くなり逃げ出し犯行直前の時間に警察に自首した[8]。女性を殺害した翌日の8月25日午後1時になり、被疑者のうちAが愛知県警に犯行をほのめかす電話をし、逮捕に至った。警察に事件に関与したことを話した理由は「死刑になりたくなかったから」とのことだった[9]。
なお、当該事件を報道で「犯罪の温床」と大きく取り上げられた闇サイト「闇の職業安定所」は8月27日に閉鎖された。また被害者の女性は趣味のブログを公開しており、そこには被害者に対し哀悼のコメントが殺到した。
被害者の母親がマスコミ宛に「もう少しで自宅につけたのに」「犯人を絶対に許せない」という趣旨の手記を寄せた。のちに母親は容疑者らを極刑にするために陳情書の署名を集めるホームページを設立、2007年10月1日に10万人、2008年12月18日に目標の30万人を超える署名を集めた[10]。海外に住む日本人や外国人の署名もあったという。なお、被害者の母親は被疑者3人全員の極刑を求めている。
公判
容疑者3名を、強盗殺人罪、営利目的略取罪、逮捕監禁罪、死体遺棄罪、うち1名に強盗強姦未遂罪を加えて起訴。2008年9月25日に名古屋地裁で公判が開始した。公判のなかで被疑者3名がお互いに罪をなすりつけ合い(特に川岸と神田の間でそれが顕著だった)、反省の態度を見せなかった。また、神田が知人に対して手紙を出し自身の意見を述べるブログを掲載した。そのなかには遺族の感情を逆なでするような内容があった。そのため、被害者女性の遺族は死刑を求める運動を続けている。
2009年1月20日検察は被告人3名に死刑を求刑。2009年3月18日午前10時開廷の判決公判では、主文を後回しにするかたちで同日正午過ぎに強盗殺人罪の主犯格の被告人神田と堀の2名に死刑、強盗強姦未遂罪の主犯である川岸には無期懲役の地裁判決が言い渡された[11][12]。なお、無期懲役が言い渡された理由として判決によれば「死刑になりたくなかったから」と捜査機関へ出頭したことを「自首」と認定、罪一等軽減したというものであった[13]。
無期懲役の地裁判決が言い渡された川岸は判決後に「被害者は運が悪かっただけ。今でも悪いことは、ばれなきゃいいという気持ちは変わらない。生かしてもらえてよかった。ありがたい」とコメントをした。なお、死刑判決が下った神田は即日控訴、堀は判決から6日後に控訴した[14]。また、名古屋地検も川岸の無期懲役は不服だとして3月27日に控訴した[15]。
神田は同年4月13日に控訴を取り下げ、死刑が確定した。
備考
- 1人の人間を殺害して2名が死刑判決が下された例として福岡病院長殺人事件など多数存在する。また同じ名古屋地裁が担当した事件ではドラム缶女性焼殺事件では4名に死刑が求刑(後に2名が確定し死刑執行)されたほか、マニラ保険金殺人事件では3名に死刑が確定している。過去には警官殺害事件で被害者1人に加害者3人に死刑が確定した事例もある。そのため、加害者に情状酌量すべき事情もなく、犯行態度も悪逆かつ反省もせず更生の可能性が見出せない場合には、被害者の数よりもこれらの事情が優先する。そのため犠牲者よりも多くの者に死刑が確定する事件は取り立てて珍しいものではない。
- 戦前の事件では大正時代に戸主の父親を殺害したとして一家4人に死刑が言い渡された横越村事件がある。ただしこの事件は冤罪が指摘されていたが、控訴審では尊属殺人として息子1人に死刑が言い渡され、処刑された。この事件では事実認定に誤りがあったにせよ、判例で重罰になるとされていた尊属殺人を重視した結果一家全員を処刑するもやむなしという判断をしたといえる。
脚注・出典
- ↑ 1.0 1.1 (2008年9月25日) 闇サイト殺人被告起訴事実認める 名古屋地裁で初公判 共同通信 [ arch. ] 2009年3月18日
- ↑ 2.0 2.1 2.2 (2008年9月25日) 名古屋の闇サイト拉致殺害初公判 3被告が起訴事実認める 産経新聞 [ arch. ] 2009年3月18日
- ↑ (2007年8月26日) 男3人を死体遺棄容疑で逮捕 名古屋の女性拉致殺害事件 朝日新聞 [ arch. ] 2009年3月18日
- ↑ (2007年8月26日) 極悪!朝日新聞拡張員らを逮捕 スポニチ [ arch. ] 2009年3月18日
- ↑ (2007年8月27日) 「殺さないで…」命ごいの声離れず自首 川岸容疑者 産経新聞 [ arch. ] 2009年3月18日
- ↑ (2008年11月6日) 闇サイト殺人公判 殺害過程詳細に証言--被告人質問 毎日新聞 [ arch. ] 2009年3月18日
- ↑ (2009年3月18日) 闇サイト殺人 2人死刑 女性拉致監禁 自首の1人は無期 東京新聞 [ arch. ] 2009年3月18日
- ↑ (2007年8月28日) 「第4の男」直前に出頭=闇サイト通じ知り合う-女性拉致「知らなかった」・愛知 時事通信 [ arch. ] 2009年3月19日
- ↑ (2007年8月26日) <愛知女性殺害>遺体は31歳派遣会社員 男3人逮捕 毎日新聞 [ arch. ] 2009年3月18日
- ↑ 遺族による極刑陳情書への署名を募るサイト 2009年3月18日閲覧
- ↑ (2009年3月18日) 闇サイト殺人:名古屋地裁で判決公判 主文は後、理由朗読 毎日新聞 [ arch. ] 2009年3月18日
- ↑ (2009年3月18日) 闇サイト事件で2人に死刑 1人は無期、名古屋地裁 共同通信 [ arch. ] 2009年3月18日
- ↑ 極刑でもおかしくない罪状であっても自首が認定され無期懲役が言い渡された事件に夕張保険金事件の実行犯など多数いる
- ↑ (2009年3月18日) 名古屋闇サイト拉致・殺害事件 無期懲役判決の川岸健治被告に反省の態度見られず FNNニュース [ arch. ] 2009年3月20日
- ↑ (2009年3月27日) 闇サイト事件で地検が控訴、無期判決に不服 読売新聞 [ arch. ] 2009年4月1日
外部リンク
- Yahoo!ニュース - 闇サイト問題
- 遺族による極刑陳情書への署名を募るサイト