構造主義
構造主義(こうぞうしゅぎ)とは、数学、言語学、精神分析学、文芸批評、生物学、文化人類学などにおいて何らかの形で構造を重視する立場である。
一般的には、研究対象を構成要素に分解して、その要素間の関係を整理統合することでその対象を理解しようとする点に特徴がある。例えば、言語を研究する際、構造主義では特定の言語、例えば日本語だけに注目するのではなく、英語、フランス語など他言語との共通点を探り出していくメタ的なアプローチをとり、さらに、数学、社会学、心理学、人類学など他の対象との構造の共通性、非共通性などを論じる。
構造について
数学において、ブルバキというグループが公理主義的な数学の体系化を進めているが、その中心人物であるアンドレ・ヴェイユは言語学者エミール・バンヴェニストからの影響を認めている。ブルバキはしばしば「構造主義」と呼ばれるため、「構造」の起源を求めると循環論になってしまう恐れがある。しかし少なくとも文化人類学においては、婚姻体系の「構造」は数学の群論(group theory)と直接の関係がある。群論は代数学のひとつで、クロード・レヴィ=ストロースによるムルンギン族の婚姻体系の研究を聞いたアンドレ・ヴェイユが群論を活用して体系を解明した。
現代思想としての構造主義
言語、文学作品、神話などを対象として分析するにあたって、語や表現などが形作っている構造に注目することで対象についての重要な理解を得ようとするアプローチがなされている。構造を見出すことができる対象は商品や映像作品などを含み、言語作品に限らない。こうした象徴表現一般を扱う学問は記号論と呼ばれる。
言語学や記号論に起源を持つ構造主義にとっての構造とは、単に相互に関係をもつ要素からなる体系というだけではなく、レヴィ=ストロースの婚姻体系の研究にみられるように、顕在的な現象として何が可能であるかを規定する、必ずしも意識されているわけではない、潜在的な規定条件としての関係性を意味し、その構造を構成する項の間の交換可能性の事実から抽象される。
神話分析におけるユングのアーキタイバル・イメージ(元型)を手がかりとしたアプローチ(すなわち「グレートマザー」「シャドウ」など特定のイメージがそこにどのように用いられているかを解釈して行くことが重要な理解をもたらすとするアプローチ)や、文学作品や神話が担う社会的機能を分析することで理解しようとする機能主義的なアプローチなどとは大きく異なるアプローチである。
フェルディナン・ド・ソシュールの言語学や文芸批評におけるロマーン・ヤーコブソンらのロシア・フォルマリズム、プラハ学派、アレクサンドル・コジェーヴのヘーゲル理解などを祖とする。1960年代、人類学者のクロード・レヴィ=ストロースによって普及することになった。レヴィ=ストロースはサルトルとの論争(この論争により、事実上、サルトルと実存主義は葬られた)を展開したことなども手伝ってフランス語圏で影響力を増し、ロラン・バルト(文芸批評)、ジュリア・クリステヴァ(文芸批評、言語学)、ジャック・ラカン(精神分析)、ミシェル・フーコー(哲学)、ルイ・アルチュセール(マルクス主義理論社会学)など人文系の諸分野でその発想を受け継ぐ者が現れた。但し、この継承の過程で、静的な構造のみによって対象を説明することに対する批判から、構造の生成過程や変動の可能性に注目する視点が導入された。これは今日ポスト構造主義として知られる立場の成立につながった。
生物学における構造主義(構造主義生物学)
進化の過程に単なる突然変異の偶然性や自然選択の原理を見るだけではなく、それ以外にも突然変異の生起を一定の形で拘束している構造的要因が生物にはあると考え、それによって進化の重要な部分を理解できると考える立場を構造主義進化論と呼ぶ。
一般に生物の行動や形質を構造的要因に帰する生物学の一派を構造主義的生物学という。遺伝子学が代表的なものである。
開発経済学における構造主義
経済学、とりわけ開発経済学の分野において、構造主義は1940年代〜60年代の主流派であった。ここにおける構造主義とは、発展途上国の経済構造は先進国のそれとは異なるものであり、それゆえに経済格差が発生している、という考えである。南北問題などもこの経済構造の違いが原因で起こるとされた。こうした構造主義では、先進国と発展途上国で適用すべき経済理論を使い分けなければならないとされたが、1960年代以降に主流派となる新古典派経済学によってこの考え方は否定されることとなる。構造主義にかわって主流派となった新古典派経済学では、先進国と同様に発展途上国でも経済市場のメカニズムは同じように機能する、という考えにもとづく自由主義的アプローチであった。[1]
関連項目
参考文献
- ↑ 絵所秀紀『開発の政治経済学』日本評論社、1997年。
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