プール
この項目では、水泳などを行う施設・空間について説明しています。その他の用法については「プール (曖昧さ回避)」をご覧ください。 |
プール(英:swimming pool)は、水泳の競技(競泳、水球、アーティスティックスイミング、飛び込み)やその練習または泳法や潜水の技術の習得、さらに水中ウォーキングのような水泳以外の運動[1] あるいはレクリエーションのために、人為的に水を溜め込んである空間または施設。
プールは、主に学校、各種の体育施設・保養施設、民間のスイミングクラブ・フィットネスクラブ、レジャー施設、高級ホテルや一部の豪華客船に備えられている。
英語のpoolは単に「水たまり」を指し、水泳用のプールはswimming poolと呼ぶ。日本語におけるプールの数え方は「面」を使う。なお、空気を入れて膨らませる子供1人~数人分の遊具は「ビニールプール」と呼ばれる。また清流を一時的に堰き止めた水遊び場を「天然プール」と称している地域もある[2]。
== 形態 ==プールの利用形態には、遊泳、教育、水泳(競泳、水球、アーティスティックスイミング、飛び込み)、潜水などがある[3]。競技用のものは国際水泳連盟によって種目別に細かく規格が定められており、オリンピックなどの国際大会で使用するプールはこの規格を達成していなければならない[4][5]。
目次
遊泳
プールの水深は一般遊泳では1.2m程度、児童遊泳では0.6~0.8m程度が目安とされている[3]。
教育
教育目的の場合、プールの水深は小学校では0.8~1.2m程度、中学校では0.9~1.4m程度、高校や大学では1.2~1.7m程度が目安とされている[3]。
水泳#教育を参照
競泳
競泳用のプールでは、短水路と呼ばれる長さ25メートルのものと、長水路と呼ばれる長さ50メートルのものが定められており、競泳のタイムは水路によって別々に扱われる。これは、ターンの際に壁面を蹴ることにより加速が行われるため、特に長距離の種目ではターンの回数が多くなる短水路の方が、長水路に比べタイムが短くなる傾向があるためである[6][7]。長水路のプールは幅25メートル、水深2メートル以上のものも多く、長水路のプールを横方向に使って短水路の競技を行うこともある。
正確な長さについては、東京辰巳国際水泳場などの主要な国際水泳大会などが行われるような日本水泳連盟の公認プールは、長水路50.02m・短水路25.01mに設計されている。これはタイムを測定するために厚さ1cmのタッチ板を長水路ではプールの両端に1枚ずつ、短水路ではスタートサイドに1枚設置するためである。また、スタート台にはリアクションタイム(=号砲が鳴ってから足が離れるまでの時間)を測定するための装置が付いており、台へかかる圧力によりそのタイムを測定する。これらの装置は組み合わせてリレーのフライング判定にも使用される。なお、スタートの場合は号砲が鳴る前にスタート動作に入ったらフライングと判定される(日本水泳連盟競泳競技規則第4条2項)ため、リアクションタイムはスタートの反応を知るための参考にしかならない。リレーの引継ぎはリアクションタイムがマイナス0.03秒以上早いと自動的に失格となる。
水温についても国際規格で、摂氏25℃から28℃までの範囲内に収まるよう調節しなければならないとされるが、2010年の改正以前は26℃を一つの目安とし±1℃を許容範囲としていた。この範囲を逸脱した状態での記録は公認されない。
水球
水球競技では、水深2m以上のプールに、男子は縦30m×横20m、女子は縦25m×横17mのコートをフィールドロープで区画して作り、コートの両ゴールライン中央にはゴールが浮かべられるため、ゴールのスペースも含めた競技面積以上のプールが必要となる。一般には50m競泳プールが使用されるが、宮城県仙南総合プールは35m×25mの水球公認プールで、国内唯一の屋内温水水球専用プールとして知られる[8]。
アーティスティックスイミング
アーティスティックスイミング用のプールでは、定められた面積について3メートル以上の水深を持つことが必要となる。フィギュアとルーティンによって要求される面積は異なる。競泳用プールと共用するために、東京辰巳国際水泳場などではプールの底が可動式になっており、水深を競技によって変えることができる。
飛び込み
飛込競技用のプールは、水深は5メートル以上が必要であり、高飛び込み用の 10m、7.5m、5mの高さの台と、板飛び込み用の 3m と 1m の高さの台が設置される。各飛び込み台の端はプールの上空に張り出した形状になっている。
潜水
潜水用のプールの水深は1.5m程度(初心者は1.35m程度)が目安とされている[3]。潜水用のプールには5.5mという深さを持つプールもある[3]。
歴史
オリンピック
初期のオリンピックにおいて水泳競技は河川や海で実施されていた[9]。近代オリンピック第1回のアテネオリンピック(1896年)の水泳競技はゼア湾で[9]、第2回のパリオリンピック(1900年)の水泳競技はセーヌ川の河畔で[9]、第3回のセントルイスオリンピック(1904年)の水泳競技は人工湖で開催された[9]。
オリンピックの水泳競技で初めてプールが使用されたのは、1908年のロンドンオリンピックで、陸上競技場のフィールド部分に全長100mのプールが設けられた[9]。しかし、初期のオリンピックプールにはコースロープがなく、1920年のアントワープオリンピックで進路妨害の問題が発生したことから、1924年のパリオリンピックで初めてコースロープが設置された[9]。
なお、2008年の北京オリンピックからプール外での水泳競技であるオープンウォータースイミングが正式採用されている[9]。
日本
日本では、会津藩校の日新館に設けられた水練場あるいは水練水馬池が、最古のプールとされている。当時の藩校の中では、日新館と長州藩校の明倫館の2校を除いて施設が設けられていなかったとも言われている。また日本最古の温水プールは1917年に東京YMCAに開設された。
設備
プールの構造
プールの構造にはRC製、アルミ製、ステンレス製、FRP製などがあるが、FRP製を除いて規格を満たせば水泳競技の公認プールとすることができる[3]。
プールの排水口は、その膨大な水量を素早く排出するため、銭湯などのそれと比べて非常に大きな物が取り付けられている。通常は金網などで安全対策が行われるが、死亡・負傷事故も起きている。金網や柵が外れて全身が吸い込まれたり、それらがあったり排水口が小さく作られていたりしていても足だけ嵌り込まれたり、身体の一部が強い水流で排水口に密着してしまったりすることが原因である[10]。こうした危険に対処するため、学校用FRP製プールで国内シェアトップのヤマハ発動機では、排水口を複数設置して(1つあたりの)流水圧の低減を図る、排水口部分の構造をL字型にしてその上から金網を張る、といった措置を取っている。同社製のプールでは2016年時点で一度も事故は発生していないという[11]。
プールの付帯設備
- プールフロア
- 利用者の身長に合わせてプールの一定の区画の水深を浅くする必要がある場合には、プールフロア(プールの水深を調節するためのプラスチック製の台)が設置される。
- 可動床
- プールの床面を昇降させ利用目的に適した水深に変えることができるシステム。主として公共プール、学校プールに、約300箇所建設された。屋外プールに設置されたケースもあるが、多くは通年使用の屋内プールに設置されている。
管理
プールには屋外に設置され夏だけ使用されるプールと、屋内に設けられていて室温や水温が調節・管理された通年使用可能なタイプがあり、またそのうち通常より水温が高めにした温水プールもある。防火用水や非常用水の水源として利用される場合は、使用時期以外にも貯水・管理されているが、水質管理までは行われていない施設が大半である。
水質
通常のプールは不特定多数の人間が利用するため、衛生上、水質管理が必要となる。一般的には殺菌・消毒のためにプールと付帯施設の足洗い場・腰洗い槽に塩素系消毒剤が加えられている。消毒剤は次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、塩素化イソシアヌール酸のいずれかであり、遊離残留塩素は0.4ppm~1.0ppmを保持しなくてはならない。水道水基準(0.1ppm~1.0ppm)に比較してわずかに高めだが、有機物(人体や汚れ)と接したり太陽光の紫外線を浴びたりすることなどによって残留塩素濃度が低下するため、定期的な濃度維持が必要である。加える方法はプール・足洗い場・腰洗い槽に消毒剤を直接投入する方法と塩素供給機器に消毒剤を入れて水に溶かす方法がある[12]。
日本では厚生労働省が「遊泳用プールの衛生基準について」(平成19年5月28日健衛発第0528003号)を定めている[13][14]。この基準では、水素イオン濃度・濁度・過マンガン酸カリウム消費量・遊離残留塩素・大腸菌、一般細菌、総トリハロメタンの7項目について衛生基準が示されており、また循環ろ過方式等の浄化設備を備えることも必要とされる[13][14]。
また、いわゆる1条校のプールにあっては文部科学省が「学校環境衛生基準」を定めている[15]。なお、学校における水泳プールは学校保健法(昭和33年法律第56号)に基づく衛生管理が実施されているため「遊泳用プールの衛生基準について」(平成19年5月28日健衛発第0528003号)の適用対象外となっている[13]。
プールはプール熱などの感染症の媒介となりやすいため、病気に罹患している場合や回復した直後などはプールへの入場が禁止されている。
目が赤くなる原因がプール内の尿と塩素の化合物が原因であることがわかった。[16]
アメリカ合衆国では、感染源がプールや温浴施設等と判明している集団感染のうち、58%はクリプトスポリジウム症であったことが報告されている。アメリカ疾病対策センターの専門家は、消毒剤に対する耐性を持つ菌等の存在を踏まえてプールの水を飲まないことを勧めている[17]。
安全性
大量の水を湛えた施設であるため、前述の排水口近くでなくても溺れたり、飛び込み時に頭などを打ったり[18] する事故が度々発生している。このため学校の水泳授業や部活動では教員らが安全に注意を払うほか、ライフガードや監視員を配置しているプールもある。また未就学児童や小学校低学年では声も物音も立てずに沈んで溺れる事もあるため注意が必要である。
- 事故・判例
- 平成8年9月5日に起きた大阪教育大学附属高等学校池田校舎における水泳事故について(※PDF)国立大学法人大阪教育大学
- 早稲田小学校事件・広島地判平成9(1997)年3月31日 判タ958号
- ふじみ野市大井プール事故に関する報告書 ―検証と対策―(※PDF)ふじみ野市 平成21年8月
- 平成19(わ)779 業務上過失致死 さいたま地方裁判所 平成20年5月27日
- 平成21年(ワ)第610号 損害賠償請求事件 大分地方裁判所 平成23年3月30日
- 平成26 第2399号損害賠償請求事件 横浜地方裁判所 平成29年4月13日
- 京都市認可保育所「せいしん幼児園」に対する調査報告書(※PDF)京都市 平成26年10月20日
- 水泳指導の安全管理について 京都市立養徳小学校プール事故調査報告書 (※PDF)京都市教育委員会 2015年7月6日
- 教育・保育施設等におけるプール活動・水遊びに関する実態調査(経過報告)(※PDF)消費者安全調査委員会 平成30年4月24日
- 市内中学校で発生したプール事故に係る和解について 多治見市 2018年4月1日
- 平成24年(ネ)第316号 損害賠償請求控訴事件 名古屋高等裁判所 平成24年10月4日
- 認定あけぼのこども園プール事故検証委員会報告書 (※PDF) 平成29年3月 認定あけぼのこども園プール事故検証委員会 那須塩原市
- 湯梨浜町立羽合小学校プ-ル事故調査報告書(※PDF)平成29年6月27日 湯梨浜町立羽合小学校児童事故調査委員会 湯梨浜町
- 『The Promise: A Tragic Accident, a Paralyzed Bride, and the Power of Love, Loyalty, and Friendship[19]』 Rachelle Friedman (著) 2014年5月6日出版 ※結婚式前夜の宴会で、友人が定番の余興で新婦を邸宅のプールに突き落としたところ[20]、新婦がプール底に激突して半身不随となり、車椅子生活となった日々を綴った手記。
- 2017年8月24日午後3時半、私立認可保育所「めだか保育園」(さいたま市)において、職員がプール用具の片付けの最中(約3分)目を離していた所、女児園児(当時4歳)がうつ伏せで浮いているのを発見、翌日に死亡した[21]。埼玉県警は業務上過失致死容疑で園長と保育士の2人を書類送検。
- その他
- 水泳等の事故防止について(通知)スポーツ庁次長 髙橋 道和 平成29年4月28日
- 感染症
6月から夏季にかけて広まる咽頭結膜熱(「プール熱」と通称される)、皮膚接触で感染する水疱性膿痂疹(とびひ)、伝染性軟属腫(水いぼ)、クリプトスポリジウム症。</ref>等がプール利用時に感染する可能性がある。専門医による診療と治療、遊泳を控える事で感染を防ぐ事が可能。
リゾート施設のプール
流水プール等
一般向けのプールは様々なものがあり、レジャー施設用のプールの中には、流水プール、子供用の水深の浅いプール等があり、附帯設備として滑り台(ウォータースライダー)などが併設されるものもある。
ナイトプール
屋外のプールは昼間だけ使用されることが多いが、近年、ホテルやテーマパークでは、リゾート地のような非日常感を楽しんでもらうため夜も営業する「ナイトプール」も見られる。
インフィニティプール
インフィニティプールは、近年、異国情緒あふれるリゾート、高級ホテル等宿泊施設の集客目的で作られることが多くなった。「インフィニティ」は「無限」を意味し、どこまでも限りないさまを現した表現で、水盤や外縁を水で覆い、あたかも外縁が存在しないかのように見えるよう設計されたプールで、外縁が海などのより大規模な水や空と混じり合い境目がわからないように見えるよう設計される。近年は日本でも少しずつ取り入れられるようになってきた。プールのほか、露天風呂に応用したケースもあり「インフィニティ風呂」などと呼称される。
脚注・出典
- ↑ プールは泳がずとも運動に 水中歩行で無理なく鍛える『日本経済新聞』朝刊別刷りNIKKEIプラス1(2018年7月15日)2018年8月5日閲覧。
- ↑ 多度峡天然プール 三重県観光連盟(2018年8月5日閲覧)。
- ↑ 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 建築思潮研究所 (1993) 建築思潮研究所 [ 建築設計資料 (41) 体育館・武道場・屋内プール ] 建築資料研究社 1993 17
- ↑ 国際水泳連盟 (FINA) による規格
- ↑ ベースボール・マガジン社による解説
- ↑ 短水路世界記録 (FINA)
- ↑ 長水路世界記録 (FINA)
- ↑ 非公開施設としては秀明栄光高校の屋内温水水球専用プールや秀明大学の屋内女子水球専用プールも存在する。
- ↑ 9.0 9.1 9.2 9.3 9.4 9.5 9.6 瀧澤次朗『知れば100倍楽しめる!オリンピックの秘密』彩図社、2008年、108-109頁
- ↑ プール監視員の道/吸水口・排水口の事故事例の一覧(2018年8月5日閲覧)。
- ↑ 「YAMAHA」のプールが、学校でどんどん増えていったワケ (4/7)
- ↑ 南海クリヤー・クリヤー 南海化学
- ↑ 13.0 13.1 13.2 () 遊泳用プールの衛生基準 厚生労働省 [ arch. ] 2013-04-14
- ↑ 14.0 14.1 () 衛研ニュース 第4号 川崎市衛生研究所 [ arch. ] 2013-05-14
- ↑ () [改訂版]学校環境衛生管理マニュアル 「学校環境衛生基準」の理論と実践 文部科学省 [ arch. ] 2013-04-14
- ↑ http://nspf.org/en/NewsNew/15-05-19/Healthy_Pools_Red_Eye.aspx
- ↑ (2018-05-17) プールの水に寄生虫や病原菌、集団感染の原因に CNN 2018-05-17 [ arch. ] 2018-05-19
- ↑ 「飛び込みで後遺症 中学プール事故で和解へ/岐阜・多治見」 産経WEST(2018年2月20日)2018年8月5日閲覧。
- ↑ The Promise: A Tragic Accident, a Paralyzed Bride, and the Power of Love, Loyalty, and Friendship - Amazon.co.jp
- ↑ 日本で言うところのハレの場における胴上げのような余興。
- ↑ プール4歳死亡、保育園長ら書類送検へ 監視に過失疑い 『朝日新聞』2018年8月27日