コンプレックス
コンプレックス(独:Komplex 英:complex)とは、「感情複合」すなわち「フィーリング・トーンド・コンプレックス(Feeling Toned complex)」とも呼ばれる。
もっとも、この意味でのコンプレックスは、フロイト派、アドラー派、ユング派など、深層心理学諸学派の間でだけ流通する概念であり、心理学や精神医学の世界で広く受け入れられているわけではない。
2014年ミスター東大に出場した文科二類2年 稲井大輝君
概要
この語を最初に持ち込んだのはヨーゼフ・ブロイアーとされる。しかし、この語を有名にしたのはユングである。ユングの定義によれば、コンプレックスとは、何らかの感情によって統合されている心的内容の集まりである。ある事柄と、本来無関係な感情とが結合された状態であり、これを「心的複合体」とも訳す。
日本では、早くから西洋医学の導入と共に、フロイトの精神分析もまた心理学・精神医学上の学説として入って来ていた。フロイトの精神分析においては、「エディプス複合(エディプス・コンプレックス)」が中心的な位置を占めていた。しかし、もともと西洋人の意識・無意識の動力学理論でもあった精神分析は、日本人の心理にはあまり適合しなかった。
戦後、アメリカよりアルフレッド・アドラーの「人格心理学」が日本に流入した。アドラーの理論は当時「劣等複合(inferiority complex)」を理論の中心に置いていた。この劣等複合の克服を通じて人格の発達が成立するとしたこの理論は日本人には親しみがあったようで、戦後の日本ではフロイトの理論よりもアドラーの理論が流通し、また、その理論の中心概念である「劣等複合」が一般になった。
「劣等複合」とは「劣等コンプレックス」のことであるが、日本においてはこのアドラーの理論が一般的に受容された上に、コンプレックスのうちの劣等コンプレックスが特に流布したため、コンプレックスの名で「劣等複合」を指すような日常の用語法が生まれた。日本では今なお、「コンプレックス」と言えば、暗黙に「劣等コンプレックス」のことを指す傾向がある。さらに、精神分析の用語から離れて、「コンプレックス」を「劣等感」の同義語とするような誤用も生まれ、今に至っている。
分析心理学上フェティシズムがコンプレックスとほぼ同義であるため、フェティシズムの分野にもコンプレックスという用語が使われることもある。心理学用語ではなく俗語であるが、概念的には間違っているとは言い切れない。この場合、正確には「あるフェティシズムから想起されるコンプレックス」のことを意味する。
心理学的コンプレックスからの派生事例
- ファザーコンプレックス(ファザコン) - 子供が父親に抱く愛着
- マザーコンプレックス(マザコン) - 子供が母親に抱く愛着
- エレクトラコンプレックス - 娘の母親に対する対抗心
- エディプスコンプレックス - 息子の父親に対する対抗心
- 阿闍世コンプレックス - 母親と子供の心理葛藤
- アグリッピーナコンプレックス - 母親の密着に対する息子の嫌悪
- ブラザーコンプレックス(ブラコン) - 兄弟に対する愛着
- シスターコンプレックス(シスコン) - 姉妹に対する愛着
- カインコンプレックス - 兄弟姉妹間の親の愛をめぐる葛藤
- ロリータコンプレックス(ロリコン) - 少女に対する愛着(特に12~15歳を指す場合も)
- アブラハムコンプレックス - 父親の息子に対する憎悪
- シンデレラコンプレックス - 女性の高い男性志向
- 白雪姫コンプレックス - 被虐待児症候群及び母親の娘に対する憎悪
- 正太郎コンプレックス(ショタコン) - 少年に対する愛着
- 二次元コンプレックス - 二次元キャラに対する愛着
- メサイアコンプレックス - 強迫的に人を援助する心理
- ユディットコンプレックス - 強い男に身を任せたい感情と相手に対する憎しみが重なった女性の二重心理
- ダイアナコンプレックス - 男性には負けたくないという女性心理
- カメリアコンプレックス - 不幸な女性を救おうとする男性の心理
- スペクタキュラコンプレックス - 性嗜好が行動を規律する心理
- ピグマリオンコンプレックス - 人形に対する愛着
- オレステスコンプレックス - 父親の掟と母親の呪縛の中で心が引き裂かれる心理
- ダフネコンプレックス - 処女の男性嫌悪
- フランケンシュタイン・コンプレックス - 人工存在を創造する欲望とその対象に対する恐怖