舗装
舗装(ほそう、元の用字は鋪装)とは、道路の耐久力を増すために、その表面を石、煉瓦、コンクリート、アスファルト、砂利などで敷き固めることである。
目次
概説
舗装の役割・機能というのは次のようなものである。
- 路面が雨天時に泥寧化すること(泥になってしまうこと)や、乾燥時に砂塵が舞うことを防止する。
- 路面を平坦にし、また適切な摩擦抵抗をもたせることによって、人が歩く時、また車両で走行する時の快適性や安全性を向上させる。
舗装は設計に際して、交通荷重と自然環境の作用に対する耐久性確保に配慮する必要がある。舗装の基礎部分である路床は、その上層の加重および交通荷重に耐えられなければならない。舗装全体は、表層からの交通荷重を分散させられるように適切な構造でなければならない。その場所ごとの状況・条件、沿道環境、経済性などを考慮しながら舗装の構造を決定する必要がある。
歴史
古くて大規模で特筆に値するものとしては、古代エジプトのピラミッドの石を運ぶ道における舗装が挙げられよう。巨大な石を運ぶためにしっかりとした舗装がされた。BC2600年頃と推定されているが、ギザの大ピラミッドの建造では、平均数トンの重さの石が2百万個以上運ばれたので特に丈夫な舗装が行われた。
BC1600年頃とされるクレタ島の道では、基礎部分にモルタル(石膏と火山灰土を混合したもの)やセメントを敷き、その上に玄武岩の板石や砕石を敷き並べた。(道の両脇には排水溝も備えていた)
紀元前5世紀ころのバビロンの「王の道」では、アスファルトが用いられた。
ローマ帝国によって建設されたローマ街道では主要な街道はすべて石で舗装された[1] (「敷石舗装[1]」、「石畳」)。驚くことにローマ街道の舗装の全構成厚は1.0~1.5mほどもある[1](現代の先進国の幹線道路などの舗装と同程度の厚さで作っていたのである)。最上層は、接合面がぴったり合うように切った 一辺70cm程度の大石をすきまなく敷き詰めている[1]。ローマ帝国の土木技術は当時、圧倒的に優れていて、石の加工技術にも秀でていた。
フランス国王フィリップ2世(1165-1223)は、パリの道路を全面、石で舗装するよう指示したものの、砂岩の薄い板の舗装を選択したため壊れやすく、また費用も市民まかせにしたため工事もほとんど進まなかった。パリで本格的に石畳の道が広まったのは15世紀頃で、固い舗石を敷き並べるものであった。
ヨーロッパ各国では、石畳やレンガ舗装が普及した。
18世紀にTresagut トレサゲ(1716年 ~1796年) が、路床面と路面を上に凸状に反らせる舗装を提案した(「トレサゲ工法」)。路床に水が浸入すると支持力が低下するので、それを防ごうと、排水を路肩に流すことに配慮したものであった。(が、この工法には問題があった。路床を上方に反らすために手を加え、意図とは逆に、かえって路床を傷めてしまうのである。)
スコットランド生れのThomas Telford トーマス・テルフォード(1757年~1834年)によって、トレサゲ工法の欠点を解消する方法が考案された。路床は平面のままとし、頑丈な基礎によって荷重に耐えさせるという考えで、新しい断面が考案されたのである(「テルフォード工法」)。彼がカレドニア運河・多数の橋梁・道路・港湾 等々の建設にたずさわる中で1802年ころに考案されたものとされる。テルフォードによる道路舗装の開発・改良は、4輪馬車による道路交通の輸送量増加に大いに貢献した。
ほぼ同時代だが、John Loudon McAdam ジョン・ラウダン・マカダム[注 1](1756年~1835年) が、舗装の普及のために、より安価で耐久性のある構造・工法を提案した(「マカダム工法」)。
種類
敷石舗装(石畳)
古代のものではローマ街道でおこなわれた敷石舗装がよく知られている。
パリで石畳の道が広まったのは15世紀頃で、固い舗石を敷き並べるものであった。ルイ13世の時代でパリ全体のおよそ半分が石畳になっていた。
手間がかかるが、その分、人の息遣いを感じさせ、情緒がある美しい景観を作りだす。歴史的な観光都市などでは石畳は観光資源となり、観光客を引き寄せる。石畳が多いヨーロッパの都市でも車道部分はアスファルトに置き換わったところが多いが、人が直接歩き体感する歩道のほうは味気ないアスファルトにしたりせず、原則的に石畳にしている。細めの街路は石畳にしているところが多い。また石畳の良さが再認識されるにつれ、一旦アスファルトにした車道も、あらためて石畳にすることも行われている。
レンガ舗装
レンガ舗装とは、煉瓦ブロックを用いた舗装である。歩道・民家・公共施設の敷地などに用いられている。
アスファルト舗装
アスファルト混合物(アスファルト合材、アスファルトコンクリート)を用いた舗装で、車道・歩道の両方に用いる。
アスファルト混合物の主成分はアスファルトではなく、アスファルトは数%使われているにすぎない。約90%が砂利などの骨材である。約10%が骨材の間を埋める充填材で、アスファルトと、石灰粉などのフィラーの混合物である。
長所として、敷設が比較的容易で舗装作業開始から交通開放までの時間も短く、また乗り心地も良好で騒音・振動も小さいため現在の日本では主流となっている[注 2]。
短所として、耐摩擦性に劣り、使用状況にもよるが概ね5–10年毎に舗装補修が必要になる[2]。特に、アスファルトは40℃程度を超えると流動性が高まるため、耐久性が落ちる。さらに、可燃物であることと、300℃程度以上で揮発性を持つことから、自動車火災などで引火することがある。
原油を主原料とするアスファルトはコストも安く、1平方メートルあたりの舗装単価は2006年時点で7000円程度であった。しかし、近年では原油価格の高騰に伴い上昇傾向にあり、2012年時点で9000円台になっている[2]。
一部の道路では排水性舗装として、特殊なアスファルト合材を使用する。基本的にアスファルト合材の色である黒色の舗装となるが、近年様々な色のアスファルト舗装が可能となっている。
舗装構成
アスファルト舗装は、一般的に上から表層、基層、上層路盤、下層路盤の4層からなり(但し一部寒冷地においては、下層路盤の下に凍上抑制層の5層となる)、その下を路床と呼ぶ。表層から下層路盤までが舗装にあたる。大型車の交通量が少ない路線では表層と路盤のみで構成される道路が多い。
- 表層
- 道路の表面(最上層)のことで、一層が5cm程度のアスファルト混合物の層である。その層の役割は交通荷重を分散して下層に伝達するとともに、交通荷重による流動、摩耗、ひびわれに抵抗し、平坦ですべりにくく、快適な走行が可能な路面を確保する。雨水が下部に浸透するのを防ぐ。
- 基層
- 表層の一つ下層に敷設される5cm程度のアスファルト混合物の層。表層に加わる交通荷重を路盤に均一に伝達する。重車両の交通量に応じて省略される。
- 路盤(上層路盤・下層路盤)
- 路盤は、上層から伝達された交通荷重をさらに分散させ路床に伝達する。
- 上層路盤
- 基層(または表層)の下層に敷設される層を指す。以下の手法がとられることが多い。
- 下層路盤
- 上層路盤の下の層。
- 厳冬期における路床の凍結融解によって表層にまで影響があると憂慮される地域では、過去観測による最低気温により、凍上抑制層を含む路盤の厚みが機械的に選定される場合がある。(凍上抑制層は凍上が生じにくい層であればいいことから、下層路盤とは別に層を設け砂又は80mm級の骨材を使用することもある。)
- 路床
- 舗装の直下にあたる約1mの部分。路床は舗装と一体になって交通荷重を支持し、路床の下部にある路体に対して交通荷重をほぼ一定に分散させる。盛土区間では良質土により十分に締め固められた層が構築され、切土区間の多くでは現地盤がそのまま用いられる。軟弱地盤では、一定の厚さの地盤を良質土で置き換えたり、セメントや石灰等による安定処理工法が施される。
補修
アスファルト舗装は硬度・耐性は土・砂の地面に比べると大幅に高いものの、継続して力をかけ続けられると小さい力にも脆く、容易に変形する特徴を持っている。舗装素材の劣化、高荷重による過度の交通、舗装構造の不備、路床や路盤の経年変化による支持力低下、軟弱地盤地など様々な要因により、以下のような現象が発生する。
- 轍(わだち)掘れ
- 車両が通過する特定の部分に起こる線状の窪み。
- 路床や路盤の経年変化による支持力低下や夏季高温時の高過重負荷によるものや、積雪地での車の滑り止めによる摩耗、表層基層の一体化による荷重分散不足
- 罅(ひび)割れ
- 荷重がかかる部分に起こる亀甲状の割れ目。舗装打継目も割れやすい。
- 環境負荷(夏季冬季の温度差)による表層素材の劣化、舗装素材の不良、敷設に時間がかかり過ぎた為や敷設時散水等による急速冷却で起こる温度斑による素材の劣化
- 舗装表面の平坦性低下
- 舗装表面に起こるたわみや曲線部や坂道、路肩に生ずるこぶ状のより。
- 路床や路盤の経年変化による支持力低下、軟弱地盤の沈降、夏季高温時での高過重負荷、表層基層の一体化による荷重分散不足
- ポットホール
- 罅(ひび)割れ部や排水不良により劣化の進行した舗装表面に生ずる穴。寒冷地においても発生しやすく、時には基礎部分を含めて完全にアスファルトが欠損し穴を広げる事もある。
- 段差
- 構造物周辺などの地盤沈下や地震等で起こる舗装表面に起こる垂直方向のずれ。
補修には表層・基層の一部を軽く削り取り施工し直す「切削オーバーレイ舗装」、表層(二層打ちなら基層含む)をはがし、上層路盤もしくは、下層路盤までを整えてから施工する「打換え」、窪みを修正するためそのままアスファルトを被せる「オーバーレイ舗装」などがあり、交通量や予算、耐用年数等を考慮して計画を立てる。また、排水不良箇所などにできやすいポットホールなどは、通過する自動車に与える影響が大きいことから迅速な補修が求められる。
一方、コンクリート舗装の場合は切削オーバーレイの手法をとることが困難であり、舗装版をまるごと打ちかえる手法が一般的である。しかし、コンクリート舗装の打設には時間がかかることから、コンクリート舗装の表面に新たなアスファルト舗装を施すことも少なくない。
施工
アスファルト舗装を施工する場合、少数精鋭としても、フィニッシャーマン(フィニッシャー運転)、アジャスターマン(フィニッシャーのアジャスター調整)、レイキマン 2人(フィニッシャーの施工した端の処理や最終的な合材の調整)、スコップマン2人(レイキマンの処理した合材の処理や大まかな合材調整)、ローラーマン 2人(プレートや振動ローラやコンバインドローラやタイヤローラでの転圧)が必要であり、8人から10人のチーム編成となる。チームの息が合っていればいるほど施工は速やかに進む。実に舗装の出来は、チーム連携の良し悪しに左右される。
アスファルト合材の温度は150℃近辺であるので、真夏の舗装作業は過酷で、熱中症対策は十分に取る必要がある。また、アスファルトフィニッシャーにてアスファルト合材を舗設する場合、時折マンホールやハンドホール(止水栓など)に合材が被さってしまい、それに気づかずに転圧し、開放時にはマンホール類がすっぽりと隠れてしまったという例がある。ゆえに、アスファルト合材の舗設前におけるマンホール類の位置確認は不可欠である。
コンクリート舗装
主にセメントコンクリートを用いた舗装で、歩車道を問わずに施工される。たわみによるひび割れ防止のため鉄筋を配する事が多く、施工期間が長くなり養生などに手間が掛かるなど敷設(打設)の難しさはあるものの、アスファルト舗装に比べてたわみに強く耐摩耗性に優れており、場合によっては50–60年も舗装し直さなくて済む例もある[2]。このため、高速道路、臨港地帯のような重車両が頻繁に通行する場所、トンネル内、急傾斜の坂道などといった舗装補修を頻繁に行う事が困難な場所に多く用いられる。また、狭隘・急峻な道路でアスファルト合材の持ち込みが困難な場所に簡易的に施される事例も少なくない。
以前はアスファルトに比べ舗装コストで割高感があったが、前述の通り近年はアスファルトの舗装単価が上昇傾向にあり、これに維持費等を総合的に勘案すると、コンクリートの方が安く済む場合もある[2]。このため国土交通省は2011年9月の概算要求で、今後の道路整備においてコンクリート舗装を積極的に活用して財政支出を抑える方針を示している[注 3]。
コンクリート舗装は道路の継ぎ目が多いため、振動や騒音など乗り心地についてもアスファルトに比べやや劣っていたが、近年の技術改良により、継ぎ目の少ないコンクリート舗装も出始めている[2]。
セメントコンクリートの色である白色に仕上がる事が多い。最近では水溜り対策として、砕石や砂を混入し、透過度を上げている例もある[2]。
マカダム舗装(マカダム道路)
スコットランドの技術者ジョン・ロウドン・マカダム(John Loudon McAdam, 1756年9月21日 – 1836年11月26日)が考案したことからこの名がある。マカダム式舗装、砕石舗装とも呼ばれる。
砕石を敷き詰めローラーで圧し固めて施工する。砕石は天然の砂利と異なり表面が荒く、圧し固めるだけでガッチリと噛み合うのでこれをもって耐久性となる。仕上がりが美しく、馬の足がかりが良いため自動車がまだそれほど普及していなかった戦前・戦中までよく用いられていた。
ほかにローラーに水をかけながら転圧する水締めマカダムや、自動車普及により問題となった塵埃対策に、目つぶし材としてタールやアスファルトなどを利用したタール・マカダム、アスファルト乳剤マカダム(アスファルトと異なり常温施工が可能)などがある。
インターロッキングブロック舗装
コンクリート二次製品のインターロッキングブロックによる舗装。 歩道用、車道用がある。
ブロック相互を噛み合わせることにより段差の発生を防ぐユニバーサルデザイン対応のものもある。
半たわみ性(半剛性)舗装
空隙の多い開粒度アスファルト混合物による舗装を行った後、その空隙に特殊なセメントミルクを浸透させたもの。アスファルト舗装とコンクリート舗装の両者の長所を活用した舗装である。
使用箇所はコンクリート舗装とほぼ同様で、バス停や交差点流入部・トンネルの舗装補修などにおいて利用される。
その他の舗装
- タイル舗装
- 歩道、マンションの通路、階段などに用いる。タイルそのものに厚みがないため、そのほとんどが車道には適しない。
- 張石舗装
- 天然石を加工し、平板状にしたものを路面に並べる。歩車道を問わないが、走行性があまりよくないため現在では車道に用いられるケースは少ない。
- 土系舗装
- 天然の土や砂と、それらの粒子を結合する結合剤との混合物により構成される舗装。
- 木質舗装
- 木材やウッドチップなどによる舗装。遊歩道などの歩道に用いられる。
各国の実情
現代の舗装道路は、モータリゼーションに対応したものである。かつて道路は歩行者あるいは軽車両が通行するだけの機能があれば十分とされており、故に路面の耐久性はさほど重視されてはいなかった。しかし、世界的なモータリゼーションの拡大に伴い、凹凸の激しい未舗装道路は、自動車通行に向かないこともあって、道路の機能として車両の走行性をより重要視する傾向に向かっていることから、道路における未舗装道路の割合は世界的に減少傾向に向かっている。
一方で、開発途上国でも、幹線道路は舗装されている場合が多い。ただし、修繕が充分でなく、凹凸が激しいことから通行中のパンクなどは後を絶たない。また、最貧国では、今なお国内に舗装道路がない場合もある。ラオスを例に取れば、国内の主要国道は一切舗装されておらず、ただタイからベトナムに抜ける幹線道路が、ラオス国内を掠めるときに、舗装が見られる程度のようである。
戦前の日本も1931年には東京市が舗装率55%超えを記念して道路祭を開くなど徐々に舗装が進められていた[3][4]。1960年代までは、日本でも未舗装道路が一般的であり、国道であっても未舗装が普通の状態であったが、1970年代前半から、急速に舗装が普及した。当時の輸入車 (日本)が日本で故障が多かったのは、当時は日本の舗装率が低く車体に悪影響を及ぼしている事が一因であるとの説もあった。現在でも、農耕用車両以外の利用がほとんど見られない道路(田畑のあぜ道や林道など)では未舗装である道路も多い。
一方では、近年になってアメリカ合衆国の複数の州では経済状態の悪化による税収不足から、損傷した舗装道路を再舗装せず砂利道に戻すことが行なわれており、ミシガン州では州内20以上の郡において過去3年で約50マイルが未舗装道路へと戻っている[5]。これは1マイルあたりの再舗装には10万ドル以上を要するのに対して、砂利道に戻すのには約1万ドルしかかからないためだという。
- 日本での法規
国や県、市町村などの公共機関が発注する公共工事の場合は、工事を進める上で使用する材料の基準試験、品質管理や出来型管理の基準がそれぞれ定められており、施工業者はこれに従い工事を進めていく必要がある。
関連項目
脚注
出典
注釈
その他参考文献
- 舗装設計施工指針 日本道路協会
- 舗装施工便覧 日本道路協会