音節

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音節(おんせつ)またはシラブルsyllable)は、連続する言語音を区切る分節単位の一種である。典型的には、1個の母音を中心に、その母音単独で、あるいはその母音の前後に1個または複数個の子音を伴って構成する音声(群)で、音声の聞こえの一種のまとまりを言う。

なお、日本語の場合、音節とは区切り方が必ずしも一致しない「モーラ」という分節単位も重要な意味をもつ。

音節の構成

基本

音節は、典型的には、

  1. 母音(V)
  2. 子音+母音(CV)
  3. 母音+子音(VC)
  4. 子音+母音+子音(CVC)

のような「母音を中心としたまとまり」である。この中心となる母音を音節主音(おんせつしゅおん、syllabic)または音節核(おんせつかく、nucleus)と呼ぶ。子音は母音の前後にそれぞれ複数個存在してもよいが、母音は二重母音半母音を伴う多重母音、あるいは長母音ではあり得ても、1音節内に音節主音となる母音が複数個存在することはあり得ない。

上記の例のうち、1と2のように母音で終わる音節を開音節open syllable)、3と4のように子音で終わる音節を閉音節closed syllable)という。なお、閉音節の末尾にある子音は末尾子音coda)と呼ばれる。

言語によっては、長母音ないし二重母音を伴う音節や閉音節がその他の音節よりも時間的にやや長く発音されることがあり、この場合には長い音節を重音節heavy syllable)、短い音節を軽音節light syllable)と呼ぶ。この区別はアクセントの規則などで重要になることもある(英語ラテン語や一部のロマンス語アラビア語、日本語など)。日本語では、重音節が2つのモーラとして扱われる。

言語によっては、複数の子音が連続することがあり、例えば、CCCVCやVCCという音節も成り立つ。この現象は、子音結合あるいは子音群consonant cluster)などと呼ばれる。

音節主音的子音

言語によっては、母音の代わりに、「聞こえ度」の相対的に高い子音を音節主音にし、それ単独で、またはその前後に1個以上のより聞こえ度の低い子音を伴って音節を構成する場合がある。例えば、英単語 needle [niːdl̩] では語末の [] を音節主音とし、[dl̩] でひとつの音節が構成されているがモーラ数は単一である(legal [liːgl]等も2音節であるが、1モーラである)。英語では [l] のほか、[m]、[n]、[r] が音節主音になり得る[1]。このような音節主音として用いられる子音を音節主音的な子音または成節子音という。

スラヴ諸語などでは /r/ や /l/ のほか、/ŋ/ や /v/ も音節主音的子音として用いられる。そのため、綴り字の上では母音の数が子音に比べて極端に少ないか、または母音をまったく含まない単語も多く存在し、クロアチア語の早口言葉 “na vrh brda vrba mrda” や、チェコ語における母音字が皆無の “Strč prst skrz krk” のような文が生まれる。

中国語のおもに南方の方言では // や /ŋ̍/ が単語を成す例がある(例: 広東語: /ŋ̍/ (イェール式表記: ng5) 「五」)。 中古期の日本語で「馬」「梅」を「むま」「むめ」などと書いた例があるのは [m̩ma] [m̩me] などと発音したものであるとされる。

国際音声記号(IPA)では、子音の下に「 ̩」(または上に「 ̍」)を書き加えることでその子音が音節主音であることを示す。

声調言語

中国語ベトナム語ハウサ語など、音節声調を持つ言語においては、母音と子音の組み合わせ以外に、さらに声調が加わって一つの音節を構成する。 例えば、現代中国語(北京語)の「光」という漢字の発音の例では、ピンインで guāng と表記されるが、音節は次のような構成となっている。

音節
声母 韻母 声調
韻頭 韻腹 韻尾
介音 主母音 尾音
g u a ng 1(陰平声)

音節声調には、音節内で高低が変化する声調を持つ曲線声調と、音節内での高低変化はなく、相対的な高低が定まる段位声調の2種がある。

日本語の音節

日本語では、閉音節は「」(鼻母音で発音される「ん」を除く)および「」で終わる音節だけで、あとは開音節である。また、「ん?」、「んだ」、「ん万円」などのように「ん」が語頭にある場合は「ん」だけで1つの音節を構成し、この場合、「ん」は鼻母音に発音されない限り、即ち子音である限り「音節主音的」な子音である。

また、日本語では語末などで無声化して聞こえない母音が現れることも多い(例えば「です」が「des」、「ました」が「mashta」[2]のように聞こえるなど)が、モーラ数に変化はない(「des」は2モーラ、「mashta」は3モーラ)。日本語を外国語として習った者が「ました」と言う時、日本人の耳に違和感が生じることがあるのは、日本人が無意識に「mashta」とするところをきちんと「mashita」と発音しているためである[3]

日本語の中には近畿方言のように声調言語としての特徴があり、声調を加えて音節を考えるべきものもある。

綴り字と発音

言語によっては、綴り字(スペリング)と発音の相関関係が必ずしも一定でなく、見かけ上の音節数が実際のそれと異なる場合があるため、単に文字を数えるだけで正確な音節数がわかるとは限らない。しかし、ある程度の法則性は存在する。

英語における無音の「e」

黙字のeも参照。
英語では一般的に、無音の「e」が閉音節の末尾に付く場合、当該音節の核となる母音は長母音か二重母音、そうでない場合は短母音として発音される。例えば、「mad」と「made」では前者が短母音、後者が二重母音で、「bit」対「bite」、「mod」対「mode」なども同様である。長母音の例としては、「pet」に対する「Pete」、「cut」に対する「cute」などがある。

これらの例は、綴り字上はCVCV(2音節)に見えるが、実際の発音ではCVC(1音節)である。なお、このように無音の「e」を末尾に伴う閉音節における二重母音・長母音は、アルファベットの文字そのものの名称と発音が同じになる(例えば「a」は/eɪ/、「i」は/aɪ/)。

脚注

  1. これらの音は音素レベルでは、[əl], [əm], [ən] のように解析されることが多い。 cf. 英語版ウィクショナリー Appendix:English_pronunciation (Consonants 節の脚注) を参照。詳細についてはこのブログ記事などが参考になる。
  2. この場合の「sh」は、英語などの「sh」とは発音が微妙に異なる。
  3. 特に、後ろから2番目の音節(penult)に最強アクセントが来る傾向が強い言語(英語、スペイン語イタリア語など)を母語とする者は、「mashita」の「shi」をさらに強調してしまうことがある。