少年保護手続
少年保護手続(しょうねんほごてつづき)とは、日本における刑事司法制度の一つであり、家庭裁判所が少年法第2章の規定に従って非行少年の性格の矯正及び環境の調整に関する措置を行う手続をいう。
少年保護手続は、おおむね、次の順序で進行する。すなわち、非行事実が家庭裁判所に送致・通告されると、家庭裁判所は、家庭裁判所調査官(以下「調査官」と略称する。)等による調査及び審判を経て、非行少年に対して保護的措置を施したり、保護処分に付したりして、再非行の抑止を図るのである。
目次
少年保護手続の特色
少年保護手続は、司法的機能と福祉的機能とをあわせ持つといわれる。
司法的機能
司法的機能(しほうてききのう)とは、非行のある少年、すなわち、法秩序を破壊し、あるいは破壊するおそれがある少年に対し、「法律の定める手続により」(憲法31条)、法秩序の回復・保全のために必要な措置をとるという機能である。換言すれば、少年保護手続は、一方で法秩序の回復・維持による社会防衛を目的とする刑事政策の一環という側面を持ちつつ、他方で少年の適正な手続を受ける権利(手続的権利)を保障するという側面も持つ。
威嚇抑止論(いわゆる厳罰化論)と適正手続論という2つの異なる立場から、司法的機能は、後述する福祉的機能を修正する原理として位置づけられる。すなわち、威嚇抑止論とは、少年保護手続の直接の目的が少年の教育・保護であるといっても、それを極端に強調すれば非行少年を甘やかすだけではないかという立場である。また、適正手続論とは、保護的措置が公権力による強制力を用いた(あるいは強制力を背景とした)働き掛けである以上は、特に非行事実を認定する際には少年に対する十分な告知(家庭裁判所の認定の説明)と聴聞(家庭裁判所の認定に対する少年の弁解の聴取)が必要であるし(従来からの適正手続論、最高裁昭和58(1983)年10月26日決定・刑集37巻8号1260頁(流山中央高等学校事件)参照)、逆に、少年の弁解を無批判に受け入れずに適切な認定資料に基づいて判断すべきでもある(最高裁平成17(2005)年3月30日決定・刑集59巻2号79頁参照)という立場である。
福祉的機能
福祉的機能(ふくしてききのう)とは、少年の健全な育成を期する(少年法1条)という機能である(国親思想)。すなわち、少年保護手続は、少年に教育・保護を加えてその将来の自力改善・更生を促すことを直接の目的としており、過去の非行に対する非難(責任非難)は、要保護性の一要素として位置づけられる(もっとも、責任非難の位置づけについては他にも様々な少数説がある。)。
この福祉的機能は、処遇選択に当たり非行事実の軽重よりも要保護性の大小を重視するという個別処遇主義(こべつしょぐうしゅぎ)、非行のある少年に対しては刑事処分以外の措置を優先するという保護優先主義(ほごゆうせんしゅぎ;同法20条参照)、厳格な手続的規整を置かずに家庭裁判所の能動的・裁量的手続運営を許容するという職権主義(しょっけんしゅぎ)、捜査機関に送致・不送致の裁量を与えない(非行事実は軽微でも、要保護性の大きい事案が存在し得るからである。)という全件送致主義(ぜんけんそうちしゅぎ)を支える理念ともなっている。こうした個別処遇主義、保護優先主義、職権主義、全件送致主義は、刑事処分における応報主義、当事者主義、起訴便宜主義(刑事訴訟法246条ただし書、248条)と対照をなす、少年保護手続の大きな特色である。
非行少年
詳細は、非行少年を参照
非行少年(ひこうしょうねん)とは、犯罪少年、触法少年及びぐ犯少年の総称であり、「審判に付すべき少年」(少年法3条見出し、6条1項など)ともいう。少年保護手続は、非行少年を主たる対象とする手続である。また、非行事実(ひこうじじつ)とは、犯罪少年の犯罪行為、触法少年の触法行為、ぐ犯少年のぐ犯事実の総称である。
家庭裁判所の新受人員でいえば、非行少年のほとんどを犯罪少年が占めており、ぐ犯少年がこれに続き、触法少年はまれである(司法統計に詳細な数値が掲載されている。)。これは、ぐ犯事由のある少年の大多数と触法少年のほとんどは、警察官・少年補導職員による補導や、児童相談所長による児童福祉法に基づく措置がなされるにとどまるからである。それだけに、ぐ犯少年として家庭裁判所に送致・通告される者は、補導等のいわば穏和な措置では非行性の深化を阻止することが困難とみられることが多いということになり、実際にも緊急の保護を要するとして観護措置がとられる比率が高い。また、触法少年として家庭裁判所に送致される少年は、例えば長崎幼児殺害事件(平成15(2003)年7月1日)の触法少年のように非行事実が重大な場合か、緊急の保護が不可欠な場合が多い。
非行事実の認定をめぐる諸問題は、後述する。
犯罪少年
犯罪少年(はんざいしょうねん)とは、罪を犯した少年(少年法3条1項1号)をいう。
刑法学において「罪」(犯罪)とは、構成要件(刑罰法令が規定する、ある行為を犯罪と評価するための条件)に該当し、違法かつ有責な行為をいう。そこで、犯罪少年と評価するためには、その少年の行為が構成要件に該当し、違法でなければならない。しかし、その少年がその行為について有責であることまで要するかは、裁判例や学説が分かれている。
他方、処罰阻却事由があったり、訴訟条件を欠いたりしても、犯罪少年と評価することができると解されている。
触法少年
触法少年(しょくほうしょうねん)とは、14歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年(少年法3条1項2号)をいう。触法少年と評価するための要件は、行為時の年齢を除けば犯罪少年と同一であるから、犯罪少年についての説明を参照されたい。
虞犯少年
虞犯少年(ぐはんしょうねん)とは、一定の不良行状(虞犯事由)があって、かつ、その性格又は環境に照らして、罪を犯し又は触法行為をする虞(おそれ)、すなわち虞犯性(ぐはんせい)がある少年(少年法3条1項3号)をいう。虞犯事由と虞犯性とをあわせて虞犯事実(ぐはんじじつ)という。
成人とは異なり、少年については、犯罪行為をしていなくても、保護的措置をとったり保護処分に付することが可能とされているわけであるが、これは、非行のある少年を早期に発見し、少年保護手続の枠組の中で更生を促し、それによって社会防衛を効果的に達成することを目的としている。しかし、後述するとおり、虞犯事由は評価的・価値的な表現を多く用いて定義されているため、その存否は、判断者の価値観や事実評価に大きく左右される危険をはらむ。このため、虞犯少年を非行少年から外し、不良行為少年(少年警察活動規則2条6号)として補導(同規則13条、8条2項)や児童福祉法に基づく措置をとるに止めるべきであるとの主張もある。
虞犯事由
虞犯事由(ぐはんじゆう)とは、次に掲げる事由をいう(少年法3条1項3号イ~ニ)。
- イ)保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
- 家庭内暴力を繰り返す少年などが、これに当たる。「性癖」のあることが要件とされているので、例えば散発的な保護者への反抗は、虞犯事由には当たらない。
- ロ)正当な理由がなく家庭に寄り付かない性癖のあること。
- 家出を繰り返す少年などが、これに当たる。「正当な理由がない」ことが要件とされているので、例えば遠方の大学に通うため下宿をすることは、虞犯事由には当たらない。
- ハ)犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入りすること。
- 多数の前科前歴を有する者と同棲する少年や、賭場で長期間アルバイトをする少年などが、これに当たる。
- ニ)自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。
- 覚せい剤の自己使用や援助交際などが、自己の徳性を害する行為に当たり、未検挙の万引を繰り返すことや学校内で教諭・生徒に対する暴力(校内暴力)を繰り返すことなどが、他人の徳性を害する行為に当たる。
虞犯性
虞犯事由があっても虞犯性がなければ、虞犯少年には当たらない(通説)。つまり、単に保護者に反抗するとか、家出をしたまま帰宅しないというだけで、犯罪行為をなすおそれを窺わせるような事情が見当たらない少年を、少年法に基づいて少年鑑別所や少年院に収容することはできない。なぜなら、少年保護手続は、躾を代行する制度ではないからである。
ある少年が犯罪行為や触法行為をなす可能性を否定できないという程度では、虞犯性があるとはいえない。虞犯性があるというためには、少年の性格又は環境に関する具体的事実から推し量って、犯罪行為や触法行為をなす可能性が相当高いといえる必要がある。
このほか、虞犯性をめぐっては、少年がなすおそれのある犯罪行為や触法行為をどこまで特定する必要があるか、虞犯性と虞犯事由や要保護性との関係といった問題が議論されている。また、虞犯事実と犯罪事実との関係についても議論されている。
係属
詳細は、少年保護事件の係属
事件の係属(けいぞく)とは、裁判所が訴訟法に従って当該事件を審理する権限を有し、かつその義務を負う状態になることをいう。また、少年保護事件(しょうねんほごじけん)とは、少年保護手続による審判の対象となる出来事(社会的事象)をいい、大ざっぱにいえば非行事実がこれに当たる。
家庭裁判所に少年保護事件が係属する場合は数多くあるが、家庭裁判所の新受人員でいえば検察官及び司法警察員による犯罪少年の送致が圧倒的多数を占めている。犯罪少年とその他の非行少年とに分けて説明する。
犯罪少年の係属
犯罪事実(犯罪少年)の捜査については、少年法で定めるものの外、一般の例による(同法40条、なお犯罪捜査規範202条参照)。主な相違点は、全件送致主義の採用と、身柄拘束の制限である。
送致
司法警察員又は検察官は、少年の被疑事件(ひぎじけん;その少年が犯した可能性がある犯罪)について捜査を遂げた結果、犯罪の嫌疑があると思料するときは、これを家庭裁判所に送致しなければならない(少年法41条、42条各本文、犯罪捜査規範210条)。つまり、捜査機関には微罪処分(刑事訴訟法246条ただし書、同規範198条)や起訴猶予(同法248条)に相応する裁量がない。これを全件送致主義(ぜんけんそうちしゅぎ)という。
検察官や司法警察員が事件を家庭裁判所に送致する場合において、書類、証拠物その他参考となる資料があるときは、あわせて送付しなければならない(少年審判規則8条2項;すなわち、伝聞法則の適用はない。)。つまり、家庭裁判所は、事件が送致された当初から、送致官署が収集した資料(一件記録;いっけんきろく)全てを自ら検討して少年の弁解や保護環境上の問題点を把握し、観護措置の必要性の有無や審理計画を見立てることができる。このように初期段階から資料が充実していることが、少年保護手続における家庭裁判所の能動的・裁量的手続運営(職権主義)を支える重要な基盤ともなっており、公判が当事者主義を基調とし、起訴状一本主義(同法256条6項)を採用していることと対照をなしている。
もっとも、一定の軽微事件については、司法警察員及び検察官は、送致書のみを家庭裁判所に送付して事件を送致することが許されており(犯罪捜査規範214条)、これを実務上、簡易送致(かんいそうち)という。簡易送致事件については、特段の調査を経ないで事案軽微による審判不開始の決定がなされる例が多い。
身柄拘束
少年の被疑事件において身柄拘束が必要なときは、検察官は、所属の官公署の所在地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所の裁判官に対して、勾留の請求に代え、観護の措置を請求することができる(少年法43条1項本文、2項、刑事訴訟規則299条本文。なお、犯罪捜査規範208条参照)。これを勾留に代わる観護措置(こうりゅうにかわるかんごそち)といい、少年保護事件が家庭裁判所に係属した後にとられることがある観護措置と区別する。勾留に代わる観護措置の効力は、その請求をした日から10日であり(同法44条3項)、勾留延長(刑事訴訟法208条)に対応する制度はない。
やむを得ない場合には、少年を勾留することができ(少年法43条3項、48条1項)、この場合には、少年鑑別所にこれを拘禁することができる(同法48条2項)。しかし、この「やむを得ない場合」を検察官や裁判官が安易に認め、さらに、勾留の場所を代用刑事施設とする例が多すぎるという批判が絶えない。
触法少年及びぐ犯少年の係属
触法少年の存在は被害者や保護者が警察官に相談することで、ぐ犯少年の存在は学校や保護者が警察官や児童相談所に相談にすることで、それぞれ認知されることが多い。触法少年及びぐ犯少年で14歳に満たない者については、都道府県知事又は児童相談所長から送致を受けた時に限り、これを審判に付すことができる(少年法3条2項)。これらの触法少年や年少ぐ犯少年については、通告を受け又は自ら認知した児童福祉機関が、児童福祉法に基づく措置をとるのか、家庭裁判所に送致するのかを判断する(児童福祉機関先議)。
警察官は、被疑者が触法少年であることが明らかとなった場合において、保護者の適切な監護がないときは、児童福祉機関(児童相談所又は福祉事務所)に通告する(犯罪捜査規範215条)。また、警察官は、ぐ犯少年を認知したときは、その年齢に応じて、児童福祉機関(14歳未満のぐ犯少年)、児童福祉機関若しくは家庭裁判所(14歳以上18歳未満のぐ犯少年)又は家庭裁判所(18歳以上のぐ犯少年)に送致・通告する(同法41条後段、同規範216条、210条1項)。
警察官は、触法少年やぐ犯少年を認知しても、強制捜査によって事案を調査することはできず、任意の事情聴取等によることしかできない。2007年1月現在、国会において、警察官の触法事件及びぐ犯事件についての調査権限を明文化するための少年法改正案が審議されている。
管轄
少年保護事件の管轄は、少年の行為地、住所、居所又は現在地による(少年法5条1項)。家庭裁判所は、保護の適正を期するため特に必要があると認めるときは、決定をもって、事件を他の管轄家庭裁判所に移送することができる(同条2項)。保護者の住所が管轄原因とされていないため、家出をしている少年に対する少年保護手続を保護者の住所から離れた地にある家庭裁判所が管轄せざるを得ないことも多い。実務上は、少年に保護者の住所への帰住意思があり、保護者に少年を受け入れる意思があるときは、保護者の住所が少年の住所(帰住先)であると解して、保護者の住所を管轄する家庭裁判所に事件を移送しているようである。
家庭裁判所は、事件がその管轄に属しないと認めるときは、決定をもって、これを管轄家庭裁判所に移送しなければならない(同条3項)。
保護者
保護者(ほごしゃ)とは、少年に対して法律上監護教育の義務ある者(親権者、未成年後見人など)及び少年を現に監護する者をいう(少年法2条2項)。このうち、前者の「少年に対して法律上監護教育の義務ある者」を法律上の保護者といい、後者の「少年を現に監護する者」を事実上の保護者という。
保護者には、付添人選任権(同法10条1項)、観護措置決定又はその更新決定に対する異議申立権(同法17条の2第1項本文)、審判出席権などを有し、少年の権利・利益を代弁すべく少年保護手続に主体的に関わるという側面(主体的地位)がある。また、保護者には、家庭裁判所の調査や保護的措置(同法25条の2)の対象となるという側面(客体的地位)もある。
付添人
少年及び保護者は、家庭裁判所の許可を受けて(弁護士を付添人に選任するには、許可を要しない。)、付添人を選任することができる(少年法10条1項)。保護者も、家庭裁判所の許可を受けて、付添人となることができる。後述の検察官関与決定があった場合において、少年に弁護士である付添人がないときは、家庭裁判所は、弁護士である付添人(国選付添人)を付さなければならない(同法22条の3第1項)。
弁護士が付添人として選任される例が多いが、身近に弁護士がいない少年・保護者や、弁護士に報酬を支払うだけの経済的余裕がない少年・保護者のために、各地で種々の組織が支援活動をしている。例えば、法律扶助協会は、少年・保護者に弁護士を付添人候補者として紹介したり、報酬を立替払いする事業を行っている。また、保護者が被害者であったり、保護者に監護意欲が欠如していたりなどの特殊な事案については、家庭裁判所からの職権による推薦依頼を受けて、弁護士を付添人候補者として推薦する場合もある。また、各地で、家庭裁判所所属の調停委員らを中心とする篤志家が、少年友の会と称する団体を組織しており、少年・保護者に付添人候補者として会員を紹介する事業を行っている。
付添人は、記録閲覧権(少年審判規則7条2項)、追送書類等に関する通知を受ける権利(同規則29条の5、最高裁平成10(1998)年4月21日決定・刑集52巻3号209頁)、観護措置決定又はその更新決定に対する異議申立権(同法17条の2第1項)、審判出席権(同規則28条4項)、意見陳述権(同規則29条の2後段)、証拠調べの申出権(同規則29条の3)、少年本人質問権(同規則29条の4)、抗告権(同法32条)などの権限を有し、少年の意見・正当な利益を代弁する役割を果たすという意味では、公判における弁護人に類似するようにもみえる。しかし、付添人の役割は単なる代弁者に尽きるのではなく、少年や保護者に対しても的確な指導や働きかけを行い、「少年に対し自己の非行について内省を促す」(同法22条1項)という審判の目的の実現に協力することも、その重要な役割であるとされている。この意味で、付添人は、家庭裁判所と対立関係ではなく、協働関係にあると表現されることが多い。
各地の弁護士会は、家庭裁判所に対して、少なくとも全ての身柄事件について、法律扶助協会に付添人の選任を依頼する運用を確立するよう要望しているが、このような要望の実現に消極的な家庭裁判所も多いようである。そこで、福岡県弁護士会が平成13(2001)年2月に全国に先駆けて当番付添人(とうばんつきそいにん;身柄事件について、少年の希望に基づき、有志の弁護士が無償で少年と接見し、相談に応ずること。少年は、法律扶助を利用して担当弁護士を付添人に選任することもできる。)制度を創設し、平成16(2004)年10月1日には東京三会(東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会)も当番付添人制度を共同で創設した。
被害者
被害者(ひがいしゃ)とは、非行事実により害を被った者(刑事訴訟法230条参照)をいう。少年保護手続においては、当事者はあくまでも非行少年であり、被害者は当事者ではないが、その保護を図るため、いくつかの権利が認められている。
記録の閲覧及び謄写
裁判所は、犯罪少年又は触法少年に係る保護事件について、審判開始の決定があった後、当該保護事件の被害者等又は被害者等から委託を受けた弁護士から、その保管する当該保護事件の記録(非行事実に係る部分に限る。)の閲覧又は謄写の申出があるときは、正当な理由があって相当な申出であると認めれば、その申出をした者にその記録の閲覧又は謄写をさせることができる(少年法5条の2第1項)。
もっとも、閲覧又は謄写をした者は、正当な理由がないのに閲覧又は謄写により知り得た少年の氏名その他少年の身上に関する事項を漏らしてはならず、かつ、閲覧又は謄写により知り得た事項をみだりに用いて、少年の健全な育成を妨げ、関係人の名誉若しくは生活の平穏を害し、又は調査若しくは審判に支障を生じさせる行為をしてはならない(同条3項)。
意見の聴取
家庭裁判所は、犯罪少年又は触法少年に係る保護事件の被害者等から、被害に関する心情その他の事件に関する意見の陳述の申出があるときは、自らこれを聴取し、又は調査官に命じてこれを聴取させるものとされている(少年法9条の2本文)。もっとも、事件の性質、調査又は審判の状況その他の事情を考慮して相当でないと認めるときは、意見の聴取をしなくてもよい(同条ただし書)。
聴取の結果は、処遇選択の際の考慮要素となるだけでなく、少年や保護者に対する保護的措置にも活用されることになる。
通知
家庭裁判所は、犯罪少年又は触法少年に係る保護事件を終局させる決定(後述の審判不開始の決定、不処分の決定、児童相談所長送致の決定、保護処分、検察官送致の決定をいう。)をした場合において、被害者等から申出があるときは、次の事項を通知するものとされている(少年法31条の2第1項柱書本文)。
- 少年及びその法定代理人の氏名及び住居
- 決定の年月日、主文及び理由の要旨
ただし、その通知をすることが少年の健全な育成を妨げるおそれがあり相当でないと認められるもの(少年の資質や家族関係、生育歴の詳細などが考えられる。)については、通知をしなくてもよい(同柱書ただし書)。
調査
調査の意義
家庭裁判所は、検察官、司法警察員、都道府県知事又は児童相談所長から家庭裁判所の審判に付すべき少年事件の送致を受けたときは、事件について調査しなければならない(少年法8条1項後段)。通告(同法6条)又は報告(同法7条)により、審判に付すべき少年があると思料するときも、同様である(同法8条1項前段)。
調査は、なるべく、少年、保護者又は関係人の行状、経歴、素質、環境等について、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的智識(特に少年鑑別所の心身鑑別の結果)を利用して、これを行うように努めなければならない(同法9条)。具体的には、家庭及び保護者の関係、境遇、経歴、教育の程度及び状況、不良化の経過、性向、事件の関係、心身の状況等審判及び処遇上必要な事項の調査を行い(少年審判規則11条1項)、家族及び関係人の経歴、教育の程度、性向及び遺伝関係等についても、できる限り、調査を行うものとされている(同条2項)。
一定の軽微事件(簡易送致事件や、過失も結果も軽微な業務上過失傷害保護事件など)を除けば、ほとんど全ての事件の調査は、調査官が家庭裁判所の命令(調査命令;同法8条2項)を受けて行っている。ただし、非行事実の存否や擬律判断(ある事実が、どのような法令の適用を受けるのかを判断することをいう。)といった法律上の問題点については、まず、家庭裁判所が自ら、あるいは家庭裁判所の命令を受けた裁判所書記官が調査を行う(後述のとおり、調査官も非行事実に関する調査をする。)。
家庭裁判所は、調査のため、警察官、保護観察官、保護司、児童福祉司又は児童委員に対して、必要な援助をさせることができる(援助依頼。同法16条1項)。実務上は、警察署長に対し、少年や保護者の所在の確認(呼出状の送達(同法11条1項、少年審判規則16条1項)などのため)を依頼したり、少年が捜査段階では述べなかったような弁解を調査や審判で述べ始めたような場合にその弁解の真否に関する証拠収集(補充捜査、最高裁平成2(1990)年10月24日決定・刑集44巻7号639頁)を依頼したりする例が多いようである。
また、家庭裁判所は、公務所、公私の団体、学校、病院その他に対して、必要な協力を求めることもできる(同法16条2項)。実務上は、保護観察継続中の少年について保護観察所に成績照会をしたり、少年の在籍校やかつての在籍校に学校照会書を送付して少年の登校状況、成績の概要、行動傾向、保護者の状況等の報告を求めたりする例が多いようである(なお、学校・警察連絡協定も参照)。
さらに、各家庭裁判所本庁と大規模支部には、医務室技官(裁判所法61条1項)が置かれており、これに少年の心身の状況を診断させる例もある。
社会調査と保護的措置
要保護性(ようほごせい)とは、大ざっぱにいえば、少年に再非行をもたらし得る要因の存否・大小をいう(厳密にいうと、これに保護可能性(ほごかのうせい;後述の保護的措置や保護処分による教育・保護の有効性)と保護相当性(ほごそうとうせい;児童福祉法に基づく措置や刑事処分など、保護的措置や保護処分以外の措置による教育・保護の妥当性)が加わる。)。調査官の調査(社会調査;しゃかいちょうさ)は、要保護性の有無・程度の判断資料を収集することを目的としている。もっとも、非行事実は要保護性の判断資料としても重要な意味を持つから、社会調査においても非行事実に関する調査は当然行われる。
調査官は、前述のような事項の調査を行うが、調査技法の中心となるのは、少年及び保護者に対する面接(調査面接)である。調査官は、調査面接に先立ち、少年照会書や保護者照会書を少年や保護者に送付し、非行事実に誤りがないか、過去及び現在の生活状況、被害者に対する弁償や慰謝の措置の有無・内容などについて記載を求めるのが通例である。また、少年の心理検査(東大式エゴグラム (TEG)、ロールシャッハテスト、バウムテスト、文章完成法テスト (SCT) など)を実施することもある。調査官は、少年や保護者から得られた情報や、学校照会書から得られた情報、場合によっては医務室技官の報告なども総合しつつ、調査面接を通じて、少年の生育歴や非行化の経緯、現在の生活状況などを調査し、少年の非行化の要因を探り出す。
調査官は、調査を通じて、単に聞き手に徹するのではなく、少年や保護者に対して、少年の非行化の要因を説明したり、訓戒、指導などの措置をとって、少年や保護者の自覚と非行化の要因の自発的除去を促すのが通例である(少年法25条の2後段参照)。例えば、両親が末弟にばかり目を掛けていると思い込み、両親の関心をひき、両親が自分にも愛情を持ってくれていることを実感したいがために、何度発覚しても万引を繰り返す少年がいたとする。このような場合、調査官は、例えば、少年と両親に日記の交換を指示し、少年に両親の愛情を理解させるよう試み、少年の心情の安定を図るわけである。保護的措置(ほごてきそち)とは、こうした少年の非行化の要因を軽減・除去するための措置をいう。
調査官は、調査の結果を書面で家庭裁判所に報告する(少年審判規則13条1項)。実務上、この書面を少年調査票と呼び、少年調査票には、意見(処遇意見)を付けなければならない(同条2項)。処遇意見においては、非行に対する制裁という観点よりも、むしろ再非行の抑止という観点が重視されており、要保護性が主要な考慮要素となっている。実務上、家庭裁判所は処遇意見どおりの判断をする例がほとんどであるといわれており、このような実態を「調査官裁判」として批判する見解もある要出典。
観護措置
観護措置の意義
観護措置(かんごそち)とは、少年の移動の自由を制限する旨の裁判、あるいはその裁判に基づいて少年の移動の自由を制限する(身柄を確保する)ことをいう。少年法は、これを「観護の措置」(17条各項)と呼ぶ。
家庭裁判所は、審判を行うため必要があるときは、決定をもって、観護措置をとることができる(同条1項)。「審判を行うため必要があるとき」とはいかなる場合かについては、明文の規定はないが、(1)勾留の理由があるとき、(2)少年が緊急の保護を要するとき又は(3)少年を収容して心身鑑別を行う必要があるときを指すというのが、家庭裁判所に定着した実務である。ここにいう「緊急の保護」とは、少年の移動の自由を制限して、少年に生命、身体、情操の損傷をもたらす要因(児童虐待や児童福祉犯罪の被害、自傷・自殺企図など)や非行化をもたらす環境的要因から遮断し、少年の安全を確保し、その非行化の進展を食い止めることをいうと考えればよい。
観護措置には、調査官の観護に付す場合(1号監護措置)と、少年鑑別所に送致する場合(2号観護措置)の2種類があるが、調査官の観護といっても、無断で住居を離れないよう少年に約束させるだけであり、実際に少年の身柄を確保する効果が乏しい。それゆえ、実務上は、観護措置といえば少年鑑別所に送致することを意味すると考えてよい(本稿でも、「観護措置」というときは、特に断らない限り少年鑑別所に送致することを指している。)。実務上、観護措置がとられた事件を身柄事件(みがらじけん)という。
観護措置の手続
観護措置は、事件が係属している間、いつでもとることができる。司法警察員や検察官から身柄付きで送致された事件について、受理時に観護措置をとる場合が多いが、その他にも、調査・審判の結果必要があると認めて観護措置をとる場合(これを実務上、身柄引上げ(みがらひきあげ)という。)も少なくない。
観護措置決定手続は、勾留質問とほぼ同様である。裁判官が勾留に代わる観護措置(少年法43条1項、17条1項1号、2号)をとった場合において、事件が家庭裁判所に送致されたときは、その措置は、観護措置とみなされる(同条6項、7項前段)。観護措置をとった旨は、速やかに保護者及び付添人のうち適当と認める者に通知しなければならない(少年審判規則22条。同条には「それぞれ」とあるが、1人に通知すれば足りると解されている)。
少年鑑別所に収容する期間は、(観護措置決定の日又は送致の日から起算して)2週間を超えることができないが、特に継続の必要があるときは、決定をもって、これを更新することができる(同法17条3項、4項本文、7項後段)。実務上は、少年鑑別所の鑑別に必要な期間(諸検査及び行動観察のために2週間程度、判定に1週間程度の、合計3週間程度)を確保するため、特に継続の必要があるとして、観護措置が更新されるのが通常である。死刑、懲役又は禁錮に当たる罪(以下「法定刑に禁錮以上の刑を含む罪」という。)を非行事実とする犯罪少年の事件について、その非行事実の認定に関し証人尋問、鑑定若しくは検証を行うことを決定したとき又はこれを行った場合において、その少年を収容しなければ審判に著しい支障が生じるおそれがあると認めるに足りる相当な理由があるときは、さらに2回を限度として(すなわち、合計8週間を限度として)、観護措置を更新することができる(同条4項ただし書)。
少年、その法定代理人又は付添人は、観護措置又はその更新決定に対して、少年保護事件の係属する家庭裁判所に異議の申立てをすることができる(同法17条の2第1項、17条1項2号、3項ただし書)。家庭裁判所は、異議の申立てについて、原決定に関与した裁判官を除く合議体で決定をする(同法17条の2第3項)。異議の申立ては、審判に付すべき事由(非行事実)がないことを理由としてすることはできない(同条2項)。これは、非行事実の認定については専ら本案(本体の少年保護事件)を審理する裁判体(審理を担当する裁判官又は合議体)の判断に委ねる趣旨であるが、少年の人権保障の観点からこの立法趣旨そのものを批判する見解も根強い(勾留に関する議論を参照)。
鑑別
少年鑑別所は、家庭裁判所の調査及び審判に資するため、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識に基づいて、少年の資質の鑑別を行う(少年院法16条、少年鑑別所処遇規則17条~23条)。鑑別の対象となる少年は、観護措置をとられた者に限られないが、実務上は、観護措置をとられた少年がほとんどである。
少年鑑別所は、身体検査、知能検査、心理検査などの検査を実施すること、作文や役割演技(ロールプレイ)、運動などの課題を与えたときの少年の反応、保護者らとの面会や職員・調査官との面接の状況、日常の起臥寝食等を観察すること(行動観察)などを中心として、少年の非行化の要因を探り出す。調査官の調査が社会内における少年の行動傾向を重視するのに対して、少年鑑別所の鑑別は社会から切り離した一個の人間としての少年の行動傾向を重視する点に違いがあるといえよう。
鑑別の結果は、鑑別結果通知書と呼ばれる書面にまとめられ、少年鑑別所内での判定会議を経た後、処遇意見を付して家庭裁判所に送付される(同規則22条参照)。
面会及び通信
観護措置をとられた少年に面会することができるのは、近親者、保護者、付添人その他必要と認められた者に限られる(少年鑑別所処遇規則38条)。付添人以外の者との面会に当たっては、職員が立ち会う(同規則39条)。
通信の発受は、所内の規律に反しない限り許される(同規則40条)。
審判
少年保護手続において審判(しんぱん)とは、家庭裁判所が自ら少年の陳述を聴き、非行事実及び要保護性に関する心証を得るとともに、その心証に基づき、少年に対して保護的措置をとったり、保護処分に付すか否か及びいかなる保護処分に付すかを告知するという一連の手続をいう。
審判開始の決定
家庭裁判所は、調査の結果、審判に付すことができず、又は審判に付するのが相当でないと認めるときは、審判を開始しない旨の決定(審判不開始の決定)をしなければならない(少年法19条1項)。こうした審判不開始の理由がない事件については、審判を開始する旨の決定(審判開始の決定)がなされる(同法21条)。
後述する18条決定は、法文上は審判を経ずにすることができるが、実務上は18条決定も審判を経てするのが通例である。そこで、18条決定が相当と認められる事件についても、審判開始の決定がなされることになる。
やはり後述する20条検送も、法文上は審判を経ずにすることができるが、実務上は、運転免許を保有する少年による大幅な最高速度違反(道路交通法118条1項1号、2項、22条1項)のように、悪質ではあるが非行事実も非行化の要因も単純な事案に限って、審判を経ずに検察官送致の決定がなされているようである。
審判に付すことができないとき
実務上は、「審判に付すことができないとき」には、審判条件不存在、非行なし、事実上審判不可能という3類型がある。
審判条件不存在
審判条件(しんぱんじょうけん)とは、審判の手続が適法であるための要件をいう。審判条件が存在しない場合としては、少年の死亡、少年が裁判権の免除を享有するとき(外交関係に関するウィーン条約37条1項、2項、31条1項前段等)、適法な送致・通告手続を欠くとき(司法警察員が法定刑に禁錮以上の刑を含む罪を非行事実とする犯罪少年の事件を家庭裁判所に直接送致したとき等)、一事不再理効(少年法46条1項、2項)に抵触するときなどが考えられる。
家庭裁判所は、事件がその管轄に属しないと認めるときは、決定をもって、これを管轄家庭裁判所に移送しなければならない(同法5条3項)。また、家庭裁判所は、調査の結果、本人が20歳以上であることが判明したときは、検察官送致の決定をしなければならない(同法19条2項;19条検送)。したがって、これらの場合には、審判不開始の決定はなされない。
非行なし
非行なしとは、少年に非行事実が認められない場合をいい、この場合には少年を審判に付すことができないから(少年法1条、3条1項参照)、審判不開始の決定をなすことになる。これを実務上、非行なしによる審判不開始という。非行事実の認定をめぐる諸問題については、後述する。
事実上審判不可能
事実上審判が不可能な場合としては、少年が所在不明のとき、審判能力を欠くときなどが考えられる。
少年が所在不明のときは、審判期日の呼出ができないから、審判不開始の決定をせざるを得ない。これを実務上、所在不明による審判不開始という。所在不明による審判不開始の決定には一事不再理効はないので(東京高裁昭和46(1971)年6月29日決定・家月24巻2号143頁)、所在が判明すれば、調査官の報告(少年法7条1項)により改めて立件して、少年保護手続を開始することになる(再起)。
審判能力(しんぱんのうりょく)とは、少年保護手続の意味を理解する能力をいい、審判能力を欠く少年については、所在不明のときに準じて審判不開始の決定がなされる。
審判に付するのが相当でないとき
審判に付するのが相当でないときとは、審判を開いて家庭裁判所自ら少年に対して保護的措置を加えるまでもない場合である。これには、実務上、以下のような場合があるとされている。
- 保護的措置による審判不開始
- 調査官による保護的措置によって少年の再非行を抑止できると考えられる場合である。実務上、審判不開始の理由の圧倒的多数を占める。
- 別件保護中による審判不開始
- 少年が既に保護処分の執行を受けているため、既存の保護処分の枠組内で指導を強化すれば少年の再非行を抑止できると考えられる場合である。
- 事案軽微による審判不開始
- 非行事実が軽微であるため、司法警察職員の取調べ段階における訓戒・説諭によって少年の再非行を抑止できると考えられる場合である。
審判期日
期日指定等
審判をするには、裁判長(単独事件の場合は、裁判官。以下同じ。)が、審判期日を定める(少年審判規則25条1項)。審判期日には、少年及び保護者を呼び出さなければならない(同条2項)。また、家庭裁判所は、審判期日を付添人に通知しなければならない(同規則28条5項)。
審判は、家庭裁判所又はその支部において行うのが原則であるが(裁判所法61条1項)、裁判所外においても行うことができる(同条2項、少年審判規則27条)。少年院在院者に対する収容継続申請事件の審判は、当該少年院内で行われるのが通例である。
列席者等
審判の席には、裁判官及び裁判所書記官が、列席する(同規則28条1項)。調査官は、裁判長の許可を得た場合を除き、審判の席に出席しなければならないが(同条2項)、実務上は、身柄事件や試験観察決定が予想される場合、試験観察中の場合を除けば、欠席の許可がなされる場合がほとんどのようである。
少年が審判期日に出頭しないときは、審判を行うことができない(同条3項)。付添人は、審判の席に出席することができる(同条4項)。
裁判長は、審判の席に、少年の親族、教員その他相当と認める者の在席を許すことができる(同規則29条)。ここにいう「相当」な者とは、少年の監護・指導に関与し、更生に協力する者をいうと解されている(したがって、検察官や被害者は同条による在席許可の対象ではないと解するのが多数説・実務である。)。実務上は、少年の在籍校の教諭や雇い主、祖父母・兄姉が多い。
家庭裁判所は、(1)故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪(殺人罪のほか、被害者の死亡を構成要件とする結果的加重犯も含むと解されている。)、(2)そのほか、法定刑の下限が2年以上の懲役又は禁錮である罪を非行事実とする犯罪少年の事件において、その非行事実を認定するために必要があると認めるときは、決定をもって、審判に検察官を関与させることができる(検察官関与決定;けんさつかんかんよけってい)。検察官は、検察官関与決定があった事件において、その非行事実の認定に資するために必要な限度で(すなわち、要保護性の認定には関与しない。)、審判の席に出席し、審判期日外における証拠調べの手続に立ち会うことができる(同規則30条の6第1項)。
被害者は、審判期日において意見陳述をする場合を除き、審判の席に出席する機会はないが、一定の範囲で被害者に出席権を認めることの妥当性が議論されている。
審判期日の進行
審判は非公開で行われ(少年法22条2項)、裁判長が指揮する(同条3項)。審判は、懇切を旨として、和やかに行うとともに、非行のある少年に対し自己の非行について内省を促すものとしなければならない(同法22条1項)とされているが、ここにいう「懇切」、「和やか」というのは、少年に迎合せよという意味ではない。むやみに難解な言葉を用いたり、高圧的な叱責に終始するのではなく、少年の知的能力や内省の深まりに応じて、理解しやすい言葉を用い、自発的な内省を引き出すように努力しなければならないという意味である。
裁判長は、第1回の審判期日の冒頭において、供述を強いられることはないことを分かりやすく説明した上、審判に付すべき事由(非行事実)の要旨を告げ、これについて陳述する機会を与えなければならない(少年審判規則29条の2前段)。この場合において、少年に付添人があるときは、当該付添人に対し、審判に付すべき事由について陳述する機会を与えなければならない(同条後段)。
少年、保護者及び付添人は、家庭裁判所に対し、証拠調べの申出をすることができ(同規則29条の3)、付添人は、審判の席において、裁判長に告げて、少年に発問することができる(同規則29条の4;少年本人質問)。検察官は、検察官関与決定があった事件について、証拠調べの申出、証人等の尋問及び少年本人質問をすることができる(同規則30条の7、30条の8)。これらの規定は、いわゆる流山中央高等学校事件に関する前掲最高裁決定の趣旨(補足意見中の証拠調べの方法に関する部分を参照)をふまえる一方で、いわゆる山形マット死事件(山形家裁平成5(1993)年8月23日決定、仙台高裁同年11月29日決定。なお、同事件については、同高裁平成16(2004)年5月28日判決も参照)の経緯もふまえて置かれたものである。
非行事実の認定
少年保護手続においても、犯罪事実や触法事実を認定するためには、合理的疑いを超える証明がなければならないと解されている。任意性に疑いのある自白(仙台家裁昭和41(1966)年2月8日決定・家月18巻11号97頁)や違法収集証拠(名古屋家裁昭和49(1974)年3月20日決定・家月26巻12号99頁)が証拠能力を有しないのは当然であるし、補強法則(憲法38条3項)も適用がある(大阪家裁昭和46(1971)年4月22日決定・家月24巻1号102頁)。
他方、非行事実の認定は、それが犯罪事実や触法事実であっても、公判とは異なり、自由な証明(刑事訴訟法296条~310条所定の手続に従わない証明)で足り(東京高裁昭和40(1965)年4月17日決定・家月17巻12号134頁)、伝聞法則の適用もない(大阪高裁昭和28(1953)年1月16日決定・家月5巻4号117頁、同高裁昭和40(1965)年9月30日決定・家月18巻7号85頁、仙台高裁昭和63(1988)年12月5日決定・家月41巻6号69頁)と解されている(送致の説明も参照)。また、犯罪事実や触法事実を認定できない場合であっても、関係証拠から十分心証を得られるときは、これをぐ犯性を裏付ける事実として認定することは妨げられない(東京高裁平成7(1995)年2月7日決定・家月47巻11号96頁)。
要保護性の審理等
非行事実を認定できるときは、要保護性を審理することになる。家庭裁判所は、必要があると認めるときは、保護者に対しても、少年の監護に関する責任を自覚させ、その非行を防止するため、審判において、自ら訓戒、指導その他の適当な措置をとることができる(少年法25条の2)。少年、保護者及び付添人は、審判の席において、裁判長の許可を得て、意見を述べることができる(少年審判規則30条)。
要保護性を基礎づける事実については、前述した証拠法則を厳格に適用する必要はないと解されている(広島高裁昭和59(1984)年12月27日決定・家月37巻8号102頁)。
家庭裁判所が保護処分の決定を言い渡す場合には、少年及び保護者に対し、保護処分の趣旨を懇切に説明し、これを十分に理解させるようにしなければならない(同規則35条1項)。
集団審判
交通関係事件(業務上過失致死傷、重過失致死傷(自転車運転中の著しい過失による人身傷害がその典型)、危険運転致死傷及び道路交通関係法規違反を非行事実とする少年保護事件)のうち、非行事実に争いがなく、かつ、比較的軽微なものについては、特定の日に集中して少年及び保護者を呼び出し、調査を行った上で、集団講習を受講させたり、集団審判を実施する運用も行われている。
試験観察
試験観察(しけんかんさつ)とは、保護処分の要否及び種類を決定するために、調査官が、相当期間、少年を観察することをいう(少年法25条1項)。少年を自宅に居住させて観察するものは、在宅試験観察と呼ばれる。
試験観察は、家庭裁判所の側からみれば、要保護性の調査を補充・修正する機会を与えるという機能を有するとともに、保護処分に付されるかもしれないという心理的強制を少年の自力更生の動機づけとして利用するという、プロベーションと同様の機能も有している。また、試験観察は、少年の側からみれば、調査官との交流を通して自らが抱える問題点に気づくきっかけともなる。この点に着目すれば、試験観察はケースワーク機能やカウンセリング機能を有するともいえよう。
家庭裁判所は、試験観察とあわせて、次に掲げる措置をとることができる(同条2項)。
- 遵守事項を定めてその履行を命ずること。
- 実務上、家庭裁判所は「試験観察の期間中は調査官の指示に従うこと。」といった抽象的な遵守事項を定めるにとどめ、担当調査官が少年と協議して具体的な約束事項を定める例が多いようである。これは、調査官と少年が協議することで、約束事項を「具体的且つ明確に」定めることができるし、「少年をして自発的にこれを遵守しようとする心構を持たせ」やすくなる(少年審判規則40条2項)からであろう。調査官が提案する約束事項として多いものには、少年は規則正しい生活をすること、少年及び保護者は家庭裁判所に定期的に出頭して生活状況を報告すること、といったものがある。
- 条件を付けて保護者に引き渡すこと。
- この場合には、保護者に対し、少年の保護監督について必要な条件を具体的に指示しなければならない(同条3項)。
- 適当な施設、団体又は個人に補導を委託すること。
- この補導委託は、少年を委託先に居住させて行われる場合(身柄付補導委託)と、少年を自宅に居住させて行われる場合(在宅補導委託)とがある。身柄付補導委託は、委託先である篤志家や社会福祉施設が少年の生活全般にわたって監督し、健全な生活習慣を身に付けさせることを主な目的としている。近年では、委託先となるべき施設等が漸減しており、各地の家庭裁判所は委託先の確保に頭が痛いようである。在宅補導委託は、少年に勤労やボランティア活動を体験させることによって自己の言動に対する責任感を養わせたり、少年と保護者に共同作業をさせることで親子関係の見直しを図らせたりすることなどを目的として行われる。また、少年を自動車学校等に補導委託し、交通法規を学習させる委託講習も行われている。
調査官は、試験観察の結果を書面で家庭裁判所に報告し、意見を付けなければならない(同条5項、13条1項、2項)。家庭裁判所は、試験観察を通じて保護処分の要否及び種類の見通しが立てば、審判不開始(同規則24条の4、同法19条1項)、不処分、保護処分などの終局決定をすることになる。
保護処分以外の終局決定
検察官送致の決定
検察官送致(けんさつかんそうち)の決定とは、事件を管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致する旨の決定をいう。検察官送致の決定は、年齢超過による検察官送致の決定(年超検送(ねんちょうけんそう);19条検送ともいう。)と少年法20条に基づく検察官送致の決定(20条検送;にじゅうじょうけんそう)とに大別される。
年超検送
家庭裁判所は、調査(少年法19条2項)又は審判(同法23条3項)の結果、本人が20歳以上であることが判明した場合は、検察官送致の決定をしなければならない。本人が非行時に20歳に満たなくても、審判時までに20歳以上であれば、年超検送をしなければならない。
本人が20歳以上であるかどうかは、多くの場合、戸籍等の生年月日の記載から明らかとなるが、日本以外の、戸籍制度が完備されていない国の出身者などでは、自称の生年月日に基づき非行少年として家庭裁判所に送致したところ、後に20歳以上であると判明することもまれに起こり得る。
20条検送
家庭裁判所は、法定刑に禁錮以上の刑を含む罪について、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、検察官送致の決定をしなければならない(少年法20条1項)。この「刑事処分を相当」とすべき場合には、保護不能の場合と保護不適の場合とがあるといわれている。
保護不能(ほごふのう)とは、保護的措置や保護処分による非行化の要因の軽減・除去が不可能な場合である。犯罪少年として何度も保護的措置や保護処分を受けたのに犯罪行為を繰り返すような少年などが、保護不能による20条検送の対象となろう。
保護不適(ほごふてき)とは、保護的措置や保護処分による非行化の要因の軽減・除去は可能であっても、犯罪事実が凶悪・重大であり、少年自身も成人間近であるといったように、少年に刑事責任を自覚させたり、一般予防(同種の犯罪行為を企てる他の少年に対する警告。言い過ぎではあるが、日常用語でいえば「見せしめ」に類似する。)を図る見地から、刑事処分を科すべきと考えられる場合である。
原則検送事件
家庭裁判所は、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件(原則検送事件;げんそくけんそうじけん)であって、その罪を犯したとき少年が16歳以上であったものについては、検察官送致の決定をしなければならない(少年法20条2項本文)。ただし、調査の結果、犯行の動機及び態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない(同項ただし書)。
同項の規定は、少年による重大犯罪が頻繁に報道され、保護優先主義に対する世論の批判が高まったのを受けて、平成12(2000)年の同法改正により設けられたものである。同改正の提案者によれば、同項ただし書は、望まない妊娠をした女子少年が、出産はしたものの、動揺の余り子を殺害した(産児殺、嬰児殺)とか、集団での暴行により被害者を死亡させた(傷害致死)少年が、参加の経緯が追随的で、実際にもわずかの暴行しか加えなかったといった事案に適用することが想定されている。
平成13(2001)年4月1日から平成18(2006)年3月31日までの運用状況(最高裁判所事務総局家庭局『平成12年改正少年法の運用の概況』)によれば、同項の罪を非行事実とする犯罪少年のうち約39%が保護処分に付されている。殺人の事案で保護処分に付されたもの(約43%)は、産児殺若しくは親族殺又は少年の精神状態に問題があるものが多く(大阪家裁平成16(2004)年3月18日決定(医療少年院送致)など。集計期間後の例として、奈良家裁平成18(2006)年10月26日決定(中等少年院送致)がある。)、傷害致死の事案で保護処分に付されたもの(約43%)は、共犯事案で参加の経緯が追随的なものが多い。他方、危険運転致死の事案で保護処分に付されたものは、全27人中2人のみである。
起訴強制
家庭裁判所が20条検送をしたときは、検察官は、公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑があると思料するときは、公訴を提起しなければならない(少年法45条5号本文;起訴強制)。年超検送と20条検送との最大の相違は、この起訴強制が働くか否かにある。ただし、以下のいずれかの事情から訴追を相当でないと思料するときは、検察官は、犯罪の嫌疑もぐ犯事由もないときを除き、事件を再度家庭裁判所に送致しなければならない(同号ただし書、42条)。
- 送致を受けた事件の一部について公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑がないこと(この解釈には争いがある)
- 犯罪の情状等に影響を及ぼすべき新たな事情を発見したこと
- 送致後の情況
検察官送致後の手続
検察官送致の決定がなされた少年には、成人とほぼ同様の公判や略式手続を経て(なお、少年法49条、50条などを参照)刑罰が科される。ただし、少年に対して長期3年以上の有期の懲役又は禁錮をもって処断すべきときは、その刑の範囲内において、長期と短期を定めてこれを言い渡し(同法52条1項本文;不定期刑)、短期は5年、長期は10年を越えることはできない(同法52条2項)。また、罪を犯したとき18歳未満であった者に対しては、死刑をもって処断すべきときは無期刑を科し(同法51条1項)、無期刑をもって処断すべきときは、無期刑を科すか、10年以上15年以下の範囲で定期の有期刑を科すかを裁判所が選択することができる(同条2項)。
懲役又は禁錮の言渡しを受けた少年に対しては、特に設けた監獄(少年刑務所)又は監獄内の特に分界を設けた場所において、その刑を執行する(同法56条1項)。ただし、16歳に満たない少年に対しては、少年が16歳に達するまでの間、少年院において、その刑を執行することができる(同条3項前段)。
児童相談所長送致等
家庭裁判所は、調査の結果、児童福祉法の規定による措置を相当と認めるときは、決定をもって、事件を権限を有する都道府県知事又は児童相談所長に送致しなければならない(少年法23条1項、18条1項)。これを実務上、児相送致(じそうそうち)、あるいは18条決定(じゅうはちじょうけってい)と呼んでいる。
18条決定には、強制的措置の許可(同法18条2項)を伴う場合と、これを伴わない場合(通常の18条決定)とがある。18条決定は、原則として18歳未満の少年を対象としており(児童福祉法4条柱書、31条2項参照)、実務上は中学校在学中の少年についてなされる例がほとんどである。また、18条決定は保護処分ではないから、強制的措置の許可を伴う場合であっても抗告はできないとされているが(最高裁昭和40(1965)年6月21日決定・刑集19巻4号448頁)、抗告を認める見解も根強い。
なお、児童福祉法には、少年法18条1項に基づき家庭裁判所から送致を受けた児童に対してとるべき措置について、児童相談所長のとるべき措置に関する規定はあるが(児童福祉法26条1項)、都道府県知事のとるべき措置に関する規定はないので、通常の18条決定による送致先は児童相談所長に限られることになる。
保護処分
以上の場合に当たらない少年については、非行事実の軽重と要保護性を総合考慮して、保護処分の決定がなされる(少年法24条1項)。保護処分には、保護観察所の保護観察に付すこと、児童自立支援施設又は児童養護施設に送致すること、少年院に送致することという類型があるが、処遇の詳細については各リンク先を参照されたい。
もっとも、家庭裁判所は、審判の結果、保護処分に付することができず、又は保護処分に付する必要がないという心証に達することがある。この場合には、保護処分に付さない旨の決定(不処分の決定)がなされる(同法23条2項)。不処分の決定がなされる具体的な場合については、審判不開始の決定がなされる場合と同様であるので、その説明を参照されたい。
没取
家庭裁判所は、犯罪少年及び触法少年について、都道府県知事若しくは児童相談所長送致、審判不開始の決定、年超検送の決定又は不処分若しくは保護処分の決定をする場合には、没取の決定をすることができる(少年法24条の2第1項)。
没取することができる物は没収と同様である。なお、没取は全て任意的である(没取するかしないかは家庭裁判所の裁量に委ねられている)ことと、保護処分をしない場合でも没取をすることができることとが、没収との大きな違いである。
処遇勧告
保護処分の決定をした家庭裁判所は、必要があると認めるときは、少年の処遇に関し、保護観察所、児童自立支援施設、児童養護施設又は少年院に勧告をすることができる(処遇勧告(しょぐうかんこく;少年審判規則38条2項)。
処遇勧告の中で実務上大きな意味を持つのが、少年院における収容教育課程の選択に関する処遇勧告と、保護観察所における保護観察の種別に関する処遇勧告である(詳細は保護処分の項で引用したリンク先の記事を参照されたい。)。保護処分の執行機関には家庭裁判所の処遇勧告に従う法令上の義務はないが、通達により、少年院及び保護観察所は、原則として上記の各処遇勧告に従うものとされている。このため、殊に少年院送致の決定に一般短期処遇や特修短期処遇の処遇勧告が付されるかどうかは、少年や保護者にとって重大な関心事となっており、これらの処遇勧告が付されなかったことを理由として抗告がなされる事例も多い(もっとも、裁判例の多くは、短期処遇の処遇勧告が付されなかったことは抗告の理由とはならないとしつつも、職権で短期処遇の処遇勧告を付すべきかどうかを審理している。)。
終局決定の実情
司法統計により、簡易送致事件と交通関係事件を除くいわゆる一般事件の終局人員構成比をみると、審判不開始が約50%、不処分が約20%、保護観察が20%強、少年院送致が7%前後、検察官送致が1%強などとなっている。他方、交通関係事件の終局人員構成比をみると、審判不開始が約30%、不処分が30%強、保護観察が約20%、検察官送致が10%強などとなっている。道路交通法違反保護事件での検察官送致は、少年保護事件における検察官送致件数全体の約90%を占めており、その多くは、罰金を見込んで行われるものである(罰金見込検送)。また、道路交通法違反保護事件においては、保護観察に付された少年の約80%は交通短期保護観察に付されている。
近年、少年院送致率の上昇が指摘されており、少年非行に対する厳しい世論をふまえて素行不良の少年に対する自覚を促すものという肯定的な評価がある一方で、家庭裁判所が保護的措置や社会内処遇の可能性の探求を怠り、安易に少年院送致を選択しているのではないかという批判も根強い。
抗告
保護処分の決定に対しては、少年、その法定代理人又は付添人から、2週間以内に、抗告をすることができる。ただし、決定に影響を及ぼす法令の違反、重大な事実の誤認又は処分の著しい不当を理由とするときに限る(少年法32条前段)。抗告をするには、申立書を原裁判所に差し出すのが原則である(少年審判規則43条1項)。抗告の申立書には、抗告の趣意(申立人が正当と考える決定の内容や、申立人の考えが正当である理由をいう。)を簡潔に明示しなければならない(同条2項)。
抗告裁判所(抗告の審理を担当する裁判体)は、抗告の趣意に含まれる事項に限り調査するが(同法32条の2第1項)、抗告の理由となる事由に関しては、職権で調査することもできる(同条2項)。抗告裁判所は、事実の取調べ(原裁判所が収集しなかった事実や証拠を自ら収集することをいう。)をすることもできる(同法32条の3)。抗告裁判所は、抗告の手続がその規定に違反したとき、又は抗告に理由がないときは、抗告を棄却する旨の決定をし(同法33条1項)、抗告に理由があるときは、原決定を取り消して、事件を原裁判所に差し戻し、又は他の家庭裁判所に移送する旨の決定をする(同条2項)。
抗告裁判所による原決定の取消率は、例年2%前後といわれている。事実の取調べがなされる例もほとんどない。これは、抗告裁判所が、家庭裁判所には調査官という少年保護に関する専門的知見を有する職員が配置されていること(調査官は、高等裁判所においては、少年保護事件に関する調査権限を有しない。裁判所法61条の2第2項)、調査・審判技法(ノウハウ)が蓄積されていること、調査・審判を通じて少年・保護者と直接接した上で心証を形成していることをふまえて、原裁判所の判断を尊重する傾向にあることに由来すると考えられるが、過度の原決定尊重傾向が抗告の救済制度としての実効性を著しく減殺しているとの批判もある。
記事等の掲載の禁止
家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容貌等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない(少年法61条)。同条に違反するかどうかは、その記事等により、本人と面識等のない不特定多数の一般人がその者を当該事件の本人であると推知することができるかどうかを基準にして判断すべきである(最高裁平成15(2003)年3月14日判決・民集57巻3号229頁)。
従前から、被害者や国民の知る権利を代行すると主張して、報道機関が本人の身上・経歴を取材・報道したり、ウェブ上の掲示板参加者がこれらの情報を投稿した事例が多発している。その背景には、同条違反それ自体を処罰する規定が存在しないことや、日本国外に設置したサーバ上にこれらの情報を存置すれば法的責任を免れ得るとの認識があるとも指摘されている。これに対して、法務省人権擁護局が行政指導を行うことがある。さらに進んで、人権擁護法に基づく規制の対象とすべきであるとの議論もある。また、日本の現行法制下でも、名誉毀損や侮辱として刑事上・民事上の責任を負うことがあり得る(刑法3条12号、法の適用に関する通則法19条参照)。
少年法改正案について
2007年4月19日、少年院への送致可能年齢をおおむね12歳以上とするなどした、政府提出少年法改正案に対する与党修正案が衆議院を通過した。
衆議院通過案の概要
- 触法少年に対する警察官による調査手続に関する規定を設けること。
- おおむね12歳以上(現行14歳以上)の少年に対して少年院送致を可能にすること
- 保護観察中の少年が遵守事項を遵守しない場合において、新たに少年院への送致等の保護処分事由を規定すること。
- 国選付添人制度を創設すること。
関連項目
参考文献
- 澤登俊雄著『少年法』(1999年、中央公論新社、ISBN 4-12-101492-8) - 少年法制をめぐる問題状況を概観。
- 田宮裕=廣瀬健二編『注釈少年法(改訂版)』(2001年、有斐閣、ISBN 4-641-04197-0) - 定評ある少年法の注釈書。
出典・脚注
外部リンク
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