単位元
数学、とくに代数学において、二項演算 * を持つ集合 M について、M の * に関する単位元(たんいげん, identity element)とは、M のすべての元 a に対して
- <math> a * e = e * a = a </math>
を満たすような元 e のことである。単位元を表すのにアルファベットの e が良く用いられるが、数字の 1 を流用して、M の単位元が 1M あるいは単に 1 と記されることも多い。
関連諸概念
- 右単位元・左単位元
- 単位元の定義をさらに分けて、a * e =a を満たす e を右単位元といい、e *a = a を満たす e を左単位元ということもある。単位元は左単位元かつ右単位元である。演算が可換なときには左右の区別はない。
- 単位元の添加
- 二項演算 * を持つかってな集合 M が与えられたとき、M に新たな元 1 を付け加えた集合 M1 := M ∪ {1} を考える。このとき、
- 任意の a ∈ M1 に対して a * 1 = 1 * a = a
- と定めて、M の演算 * を M1 上に延長することにより、元 1 を M1 の * に関する単位元とすることができる。この M1 を M の 1-添加という。
- もし、M がもともと * に関する単位元 e を持っていたとしても、e は M1 上ではもはや * に関する単位元ではない。実際、新しく加えた 1 の定義より 1 * e = e * 1 = e となるから e が M1 における * に関する単位元の定義を満たすためには e = 1 とならなければならない。しかしこれは M に無い新たな元を 1 として加えたことに矛盾する。
性質
単位元は対象となる代数系、すなわち集合 M と演算 * の組に対して、高々 1 個しかない。つまり、存在すれば一意に定まるのである。事実、e1 と e2 がともに単位元であるならば、
- <math>e_1 = e_1 * e_2 = e_2</math>
が成立する。ここで、最初の等号は e2 が、後の等号は e1 が、それぞれ単位元であることを用いている。これにより e1 = e2 となり、異なる単位元は二つ以上存在しないことがわかる。
同じひとつの集合でも、演算が二つ以上定義されている場合には、それぞれの演算に対する単位元が異なることもあり得る。
例
- 自然数全体のなす集合 N、整数全体のなす集合 Z、実数全体のなす集合 R などにおいて、加法の単位元は 0 である。一般に加法(可換な演算)の単位元を零元といい、0 で表すことが多い。
- N, Z, R において、乗法の単位元は 1 である。
- 同じ型の行列全体のなす集合について、加法の単位元は零行列である。
- 同じ型の正方行列全体のなす集合で、乗法の単位元は単位行列である。
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