ニート
ニート(NEET)とは「Not in Education, Employment or Training」の略で、英国政府が労働政策上の人口の分類として定義した言葉。
目次
語源
1999年にイギリスの内閣府社会的排除防止局(Social Exclusion Unit)が作成した調査報告書BRIDGING THE GAP: NEW OPPORTUNITIES FOR 16-18 YEAR OLDS NOT IN EDUCATION, EMPLOYMENT OR TRAININGに由来する言葉であり、ブレア政権で用いられた政策スローガンの一つ。そのため英国におけるニートの定義は、当該報告書に準じた「16~18歳の教育機関に所属せず、雇用されておらず、職業訓練に参加していない者」とされている。但し、ニートという語は英国を始めとする諸外国では殆ど使用されておらず、類似した分類も普及していない。むしろ近年、欧米では「ニート」について「日本における若年無業者問題を指す語」として認知されつつある(プレカリアートも参照)。
日本における誤用
日本においては、玄田有史が2004年に出した著書の中で「ニート=労働者・失業者・主婦・学生のいずれにも該当しないその他の人口のうち15〜34歳までの若年者」と意味を捏造され[1]、、以後、マスメディア等を通じて「教育を受けず、労働をおこなわず、職業訓練もしていない人」という誤った意味が一般的に信じられるようになった。
現状
上記の通り非常に誤用の多い言葉である。
そもそもニートとは「○○をしていない」という「状態」を現しているにすぎない言葉であったが、その語義はマスメディアによって歪曲化され、現在では「○○をする意欲が無い」という意味で使われることが一般的となっている。
職業観
性別\職業 | 製造・生産 | 建設・労務 | 運輸・通信 | 営業・販売 | サービス業 | 専門・技術 | 管理的職業 | 事務的職業 | その他の職 | こだわらず |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
男性 | 12.2 | 7.4 | 4.7 | 4.7 | 16.9 | 36.1 | 1.2 | 8.8 | 11.7 | 102.8 |
女性 | 10.4 | 1.2 | 0.4 | 8.3 | 39.8 | 35.2 | 0.1 | 30.1 | 7.6 | 85.0 |
合計 | 22.6 | 8.6 | 5.1 | 13.0 | 56.7 | 71.3 | 1.3 | 38.9 | 19.3 | 187.8 |
資料出所:青少年の就労に関する研究調査 資料・希望する仕事の種類別構成比(内閣府)
ニート増加の原因を、若年層における職業観や就労観の低下に求める意見は多く、講じられる対策もそれを前提としたものが多い、しかし2002年現在の統計によると、ニート(非求職型)の約半数は具体的な職業に就くことを希望しており、44.2%は職業にこだわらず就労したいと回答している。
男女比
内閣府の調査(2002年)によると、ニートの男女比率は男性が48.4%(41万人)、女性が51.6%(43.7万人)とほぼ半々となっており、過去10年間の調査と比較しても大きな変化は見られない。(出典:就業構造基本調査・男女別推定人口)
家庭環境
年 | 非求職型 | 非希望型 | ||
---|---|---|---|---|
300万円未満 | 1000万円以上 | 300万円未満 | 1000万円以上 | |
1992 | 29.1% | 15.3% | 21.6% | 21.5% |
1997 | 27.0% | 17.7% | 28.1% | 22.9% |
2002 | 31.8% | 12.9% | 37.6% | 14.4% |
資料出所:内閣府 青少年の就労に関する研究調査 世帯年収(内閣府)
ニートは裕福な家庭に属していることが多いという意見がある。世帯の年収をみると、1997年までは所得1,000万円以上の世帯の中では、非希望型の世帯の割合が高かった。これが2002年になると状況が変わり、非希望型の割合は低くなった。
- 「その意味では,家庭が裕福であるために,無理に就職を望む必要がなかったことから非希望型を選択した個人も多かったということは,97年までは少なからず事実であった」
- 「非希望型において1,000万円以上の経済的に裕福な世帯が抜きん出て多いという特徴は,2002年の時点では,すでに消失している」
年収300万円未満の世帯をみると、1992年時点では非求職型が多かったが、2002年には非求職型の31.8%、非希望型の37.6%と非希望型が急増した。非希望型は全体の割合と比べても2倍以上の値となっている。このため、非希望型において中身が変化していることが指摘されている。
なおニート本人の年収は100万円未満が約57%で半数以上を占め、100~300万円は約31%、それ以上は約2.5%である。また親との同居率は、非求職型が83%、非希望型は73%となっている。
増加の要因
就職氷河期
ニートが増加したとされる1990年代後半から2000年にかけて、バブル崩壊とそれにともなうリストラによる失業者の増加、さらに団塊ジュニアや女性の社会進出など、人材の供給が過剰となる要因が重なり、若者の就職は非常に困難な状況にあった。またこの頃から年功序列制度が崩壊し、代わって成果主義を導入する企業が増えたことから労働環境が悪化し、新入社員の離職率が高まったと言われている。こうした状況は2003年頃まで続き、ニート増加の一因になったと言われている(就職氷河期も参照)。
なお、2004年頃からは企業の採用行動が活発化し、現在では求人難が叫ばれるようになっている。しかし多くの企業は新卒や実務経験者などで人材を確保する意向のため、履歴書に空白期間のあるニートの就職は極めて困難な状況にある。
参考
年 | 1993 | 1994 | 1995 | 1996 | 1997 | 1998 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
総数 | 40 | 42 | 45 | 40 | 42 | 46 | 48 | 44 | 49 | 64 | 64 | 64 | 64 | 62 |
注:定義変更に伴い、2001年以前と2002年以降の値は接続しない
資料出所:人口減少下における雇用・労働政策の課題(厚生労働省)
厚生労働省の統計によると、ニート人口は2002年に前年の49万人から64万人へと急増している。これは、ニートの定義「非労働力人口のうち、就業、就学、または職業訓練を受けていない15歳から35歳までの未婚者」に「不登校」や「家事を行わない者」が付加されたためで、2002年とそれ以前の数値は接続しない。
問題点
ニートの増加が過去の就職氷河期と関係の深いことは前述の通りだが、この2つの問題はマスコミの偏向報道によって切り離され、単に個人の資質や能力の問題として議論される傾向にある、そのため講じられる対策も教育的な手法に重点が置かれ、的外れな対策に多額の公費が投入される事態となっている。また雇用主も、履歴書に空白期間のある者をニートと看做すようになり、「ニート=怠け者」といった先入観から不採用としたり、差別的な待遇をおこなう事例が増えつつある。(社会的排除も参照)
偏見と差別
若年層における無業者の増加は、海外では「労働経済問題」または「若年失業者問題」として議論されることが一般的である。しかし日本では「失業率の悪化」という観点が見落とされ、若者の意識の変容(職業観や就労観の低下)に原因を求めたために、家事手伝いや過年度生といった従来は受容されていた無業者に対しても批判的な目が向けられるようになった、また一部のテレビ局で精神疾患や発達障害の者に対する差別を助長する放送をおこない問題となった。要出典
利権
ニート支援に関連する諸々の対策は利権の温床となりつつあり、各省庁や地方自治体では自立支援を名目とした予算の争奪戦が展開されている。例えば厚生労働省が推進する若者自立塾は、初年度(平成17年)の予算が約9.8億円であったが、大幅な定員割れを起こしているにもかかわらず、翌年の予算は倍増され、その配分も極めて不明瞭な状態にある(ニート利権も参照)。
誤解
ニートは「働く意欲が無い者」あるいは「ひきこもり」などと混同されている場合が多い、しかし前述の定義に該当する者であれば、理由の如何に関わらずニートに分類される、したがって進学・留学準備、資格取得準備、家業手伝い、療養、結婚準備、介護・育児、芸能芸術プロ準備、などの状態にあっても定義上はニートに分類される。趣味・娯楽、特に何もしていない場合も同様である。(出典:青少年の就労に関する研究調査 各タイプの現在の状況)
対策
内閣官房
内閣官房(再チャレンジ担当室)は、ニートやフリーターに対する公務員採用枠の確保や、再チャレンジに協力的な企業に対する表彰制度、また税制面での優遇措置などを検討している。
厚生労働省
厚生労働省の対策として筆頭に挙げられるのが若者自立塾である。この施設は3~6ヶ月の期間、合宿形式での集団生活を行い、職場体験やワークショップを行うもの。費用は一部自己負担(10-40万円)となる。厚生労働省の目標は、卒業生の7割が、半年後までに就業することとしている(ちなみに、2006年3月1日時点の卒業生に占める就業者(アルバイトを含む)の割合は、約48%)。
一定の効果はあるとする一方で、若者自立塾を運営するNPO法人からは「まだまだ試行錯誤の段階であり、期間延長等の更なる改善をすべき」と意見があがっている。
文部科学省
文部科学省はニート増加の原因が、若者の職業観・就労観の低下にあるとの判断から、キャリア教育に重点を置き、生徒が学校を離れ1日〜5日の期間、地元のスーパーや保育所などで就労体験をする職場体験や、総合的な学習の時間を利用した予防授業などの対策を推進している。
海外の状況
欧米においても「教育機関に所属せず、雇用されておらず、職業訓練に参加していない者」は存在するが、「ニート」或いは類する語での分類・定義付けはされておらず、その概念も普及していない。その原因の一つは「ニート」という分類が1999年当時社会問題となっていた「社会参加困難者」(被社会的排除者)の一部に過ぎないものであることが挙げられる。欧米における「社会参加困難者」は人種・宗教・言語による差別・格差問題の色が濃く、日本での若年無業者問題と同列に扱うことは困難である。英国の「ニート」の定義付けは将来的な「社会参加困難者」を予測する分析としての意義はあったが、総合的な「社会的排除対策」が行われる中で「ニート」という分類自体は重要視されなかった。
「韓国の青年雇用」経済協力開発機構(OECD)報告書(2007年)
OECD は、韓国の青年(15-29歳)の6人に1人が「ニート」で、割合はOECD加盟国の平均を大きく上回っていると指摘。[1]
- 就業率(2006年)
- 韓国:27.2%
- OECD加盟国平均:43.0%
- ニート占有率
- 15-24歳
- 韓国:11.7%
- OECD加盟国平均:12.0%
- 15-29歳
- 韓国:17%
- OECD加盟国平均:12.0%
- 15-24歳
OECDは韓国にニートが多い理由について、「兵役で就職が遅れ、大学卒業後にも就職しない若者が多いため」と報告。
関連書籍
- 『ニート』玄田有史 他 幻冬舎 ISBN 434440825X
- 『「ニート」って言うな!』本田由紀 他 光文社 ISBN 4334033377
- 『不安定を生きる若者たち』乾彰夫 他 大月書店 ISBN 4272350242
公人の発言
※肩書はいずれも発言時。
- 「経済が低迷し、若者を社会に送り出せなかった時期がある」(谷垣禎一財務相)2006.4.26
- 「その気になれば、いくらでも仕事はあるはずなのに働こうとしない」(小泉純一郎総理)
- 「一度自衛隊にでも入って、サマワみたいなところに行ってみてはどうか」(武部勤自民党幹事長)
- 「ニートなんて格好いいように聞こえるけど、みっともない。無気力・無能力な人間のことです。」「今、ニートなんて、ふざけたやつがほとんどだよ」「フリーターとかニートとか、何か気のきいた外国語使っているけどね、私にいわせりゃ穀つぶしだ、こんなものは。」(石原慎太郎東京都知事)
- 「ニートとは就職活動もしない、また就職してから生かせる勉強もしないという無気力、無関心状態に陥ってしまった若者のことの総称で、生きる気力もないのに親が毎日御飯を出している。そういうことを社会問題にして認め出している風潮自体が、ニートを増長させている。」(池田佳隆 日本青年会議所会頭)2006.6.7
- 「若者に農業に就かせる「徴農」を実施すれば、ニート問題は解決する」(稲田朋美衆議院議員)2006.8.29
関連項目
脚注
- ↑ なお『労働者・失業者~若年者』の部分は厚生労働省の2004年労働白書の中にあった単語だが、これはニートとは全く関係ない。
外部リンク