アクリフーズ冷凍食品テロ事件
アクリフーズ冷凍食品テロ事件とは、アクリフーズ群馬工場で働いていた契約社員の阿部利樹(49)が、冷凍食品に農薬の「マラチオン」を混入させた事件である。
目次
事件概要
2013年11月13日から12月29日までに、アクリフーズ群馬工場で製造された冷凍食品を購入した客から「異臭がする」などの苦情が全国各地から20件寄せられた。
調査した結果、高濃度の有機リン系の農薬・マラチオン(殺虫剤の一種)が返品された商品から検出された。12月29日、アクリフーズは群馬工場の生産・出荷を停止し、市場に出回った全ての生産商品計88品目(イオンのトップバリュ、生協ブランドなどのPBも含め)を自主回収すると発表した。アクリフーズは「マラチオンに急性症状は無く体重20キロで一度に60個を食べないと健康には影響ない」と説明。
12月30日、食品衛生法により群馬県館林保健福祉事務所は群馬工場への立ち入り検査を実施。「通常の製造工程上で汚染された可能性は低い」と発表し、群馬県警察は意図的に混入された可能性があるとして捜査を開始した。
12月31日未明、アクリフーズ親会社のマルハニチロHDは記者会見し「(商品を)8分の1個食べただけで吐き気などの症状がおきる可能性がある」(体重20キロ)と説明し、前述した健康影響の説明は前日に厚生労働省から指摘を受け、誤っていたとして撤回した。
2014年1月、アクリフーズは群馬工場に勤務する全従業員への聞き取り調査を実施。群馬県警察は同月25日、アクリフーズ群馬工場で働いていた契約社員の阿部利樹(49)が農薬の混入に関わっていたとみて、偽計業務妨害容疑で逮捕する方針を固めた。
また、同日の記者会見でマルハニチロホールディングス社長及び同社担当常務並びにアクリフーズ社長が2014年3月31日をもって引責辞任することになった。
「フード・テロ」農薬混入4回も…容疑者逮捕、突然の失踪が決め手
待遇への不満が「フード・テロ」につながったのか。アクリフーズ群馬工場(群馬県大泉町)の冷凍食品に農薬「マラチオン」を入れたとして2014年1月25日に逮捕された阿部利樹(49)。捜査網が狭まる中、突然の失踪が逮捕の決め手に。厳しい管理下の密室で大胆にも4回にわたり農薬を混入していた。
「不審な男がいる」
きっかけは1本の110番通報だった。冷凍食品にマラチオンが混入されたアクリフーズ群馬工場から東南へ30キロ余りにある埼玉県幸手市内の駐車場近くからかけられていた。24日午後8時ごろ、通報を受け、埼玉県警の捜査員が自転車に乗ってうろついていた男に声をかけた。すぐに阿部容疑者と判明する。軽装で、着替えなど約10日間の“逃亡”に必要となりそうな所持品はなく、「自転車で群馬に帰る」「頭が痛い」などと話した。今月14日から行方不明となっていた。
阿部は昨年10月3~7日、4回にわたり「みなさまのお墨付きミックスピザ」「チーズがのびーるグラタンコロ!」「チーズがのびーるチキンナゲット」「とろーりコーンクリームコロッケ」にマラチオンを混入したとされ、県警の鑑定で1ppm未満~430ppmの濃度で検出された。
2交代制で勤務
事件は昨年12月29日に表面化。当初から内部犯行説がささやかれてはいたが、県警はどうやって阿部にたどりついたのか。
県警は、まず製造から包装までのどの段階で混入されたのかを捜査。マラチオンは工場1、2階のピザやフライ、コロッケの製造ラインで検出されていた。工場では従業員約300人が2交代制で勤務。別々の部屋で仕切られた各ラインは常時複数人で担当し、1人になる機会はなかった。
複数の従業員は「作業着にはポケットがなく、私物を持ち込むのも難しい」と証言する。ただ、ある男性従業員は「袖口などにポリ袋を忍ばせることはできたかもしれない」と明かす。
食品加工後は全ての商品の包装は仕切りのない包装室で行われていた。コロッケの一つは、アクリ社調査で外側の衣部分からマラチオンが2万6000ppmの高濃度で検出されたのに対し、内側は4000ppmだったため、加工後から、包装直前に混入された疑いが強まった。
問題は一貫してピザのラインで生地を生成する「クラスト班」だった阿部が、どうやって担当外の部署で混入できたかだ。
点と点つながる
県警幹部は「阿部が包装室に入れないことはないが、勤務としては入らない」と話す。混入方法は不明なままだが犯行時間帯は特定できた。マラチオンが検出された商品は別々に製造されていたが、2時間単位の製造時間帯が判明した。この全てに立ち会っていた従業員は数十人で、阿部も含まれていた。
だが立件するには混入したことを示す明確な証拠が必要だ。混入と容疑者という「点」を「線」で結ぶことが不可欠になる。「包囲網」が狭まる中、阿部容疑者が県警の聴取を受けた後、突如、行方をくらましていたことが判明。所持品からもマラチオンが検出された。点と点がつながった。
「やってらんねえよ」・・・2年前に給与体系変更で不満か
阿部利樹が勤務するアクリフーズ社は、約2年前から契約社員に、仕事の能力により賃金に差をつける新たな給与体系を導入した。
会社側は「従業員にも丁寧に説明した」とするが、契約社員の間に不満が出ていたとの指摘もある。
アクリ社が賃金体系を変更したのは2012年4月。年功型から、業績が評価されるようになった。会社は「給与は周辺地域の同種産業と比較して、平均的な水準」としているが、従業員の一人は「家族手当などもカットされた。会社に不満を持っている人もいる」と証言する。
阿部は2005年入社で契約社員の中では古株。半年ごとの更新は正社員に比べ不安定な雇用形態だが、会社は「仕事ができ、新入社員の面倒もみている」と判断し、更新時期の3月以降も雇い続けるつもりだった。
だが、昨年は賃金体系の変更で業績が評価されずボーナスは減額。従業員仲間に「やってらんねえよ」と不満をもらした。賃金水準は3段階に分かれ、阿部は真ん中。ここ2年は上がらず、正社員登用の可能性があり役職手当もつく「職場リーダー」や「班長」になっていなかった。
職場で「話し好きの面白い人」「真面目に仕事をしていた」と評される阿部。昨年7月に同僚と雑談した際、自身のボーナスの額がこの同僚の半額以下と知り、憤った様子だったという。
群馬県警によると、阿部は容疑を否認。県警は待遇面も含め、事件の動機につながる点がないか捜査している。
農薬混入容疑者、好待遇求めた転職失敗 上司に直訴も =
阿部利樹が好待遇を求めて転職を試みたが失敗していたことが、捜査関係者への取材でわかった。上司に待遇改善を直訴していたことも判明。群馬県警は蓄積した待遇への不満が事件の動機になった可能性があるとみて調べる。
県警の説明では、阿部は調べに対して、1月26日も容疑を否認している。
捜査関係者によると、阿部容疑者はごく親しい男性の同僚が待遇の良い仕事に転職したのを見て、自らも同じ仕事に就こうと試みた。アクリ社群馬工場の複数の同僚従業員が県警の事情聴取に対して、「阿部が頻繁に待遇に不満を訴えていた」と話したという。
趣味のバイク改造重ね…店長「裕福な人かと」
阿部利樹はバイクが趣味で、埼玉県や群馬県のバイク店や部品専門店に頻繁に通っていた。農薬を混入したとされる昨年10月以降も姿を見せていた。
埼玉県内のバイク店には約3年前から通っていた。男性店長(40)によると、70万~80万円の青いビッグスクーターを購入し、その後も複数回、15万円程度で改造を重ねたという。支払いは現金で一括払いだったため、店長は「裕福な人かと思っていたので、契約社員と聞き驚いた」。最後の来店は昨年12月半ばで、変わった様子はなかったという。
群馬県太田市内のバイク部品専門店の男性店長(38)によると、阿部は人気漫画「ワンピース」が好きで、キャラクターのコートを着て金髪のカツラをかぶっていたため目立つ存在だった。年末年始にも顔を出したという。
同僚、逮捕に絶句「ローテが変わったのかと…」
1月25日、同工場の契約社員阿部利樹が偽計業務妨害容疑で群馬県警に逮捕され、両社のトップが引責辞任に追い込まれる展開となった。
14日の出勤を最後に姿を消していた阿部。8年以上もピザ製造ラインで働いてきたベテラン従業員の逮捕に、同僚たちは言葉を失った。
県警によると、阿部は、毎年3月と9月の半年ごとに契約を更新する契約社員で、一貫してピザ製造ラインで生地を加工する「クラスト班」で働いていた。クラスト班は、通常4人程度で勤務し、ピザ製造工程のうち、ピザ生地を作って焼き上げる工程を受け持っている。
群馬工場で働く女性は、阿部が逮捕されたと聞き、「まさか、あの人が逮捕されるとは」と絶句した。この女性は、阿部とは別の工程を担当しているが、食堂や喫煙室などで顔を合わせた際には、阿部からあいさつしてくるなど人当たりはよく、同僚たちとの関係は良好との印象だったという。
年が明けてからは、回収した商品を処分する作業などが行われていたが、女性は阿部とは顔を合わせなかったといい、「ローテーションが変わったのかと思っていた」と振り返った。女性は「ハンカチ、ちり紙さえ持ち込みできないのに、どうやって薬物を持ち運んだのか」と話した。
マルハ業績下方修正
マルハニチロホールディングス(HD)は25日、農薬混入事件の影響で2014年3月期の連結営業利益予想を従来の150億円から115億円に2割強下方修正することを発表した。事件によりアクリフーズへの発注は激減。
生産を中止した群馬工場(群馬県大泉町)に加え、夕張工場(北海道夕張市)も大幅な減産を余儀なくされた。マルハ社の久代(くしろ)敏男社長は東京都内の本社で記者会見し、「大きな損失を生じさせてしまい、大変残念だ。不祥事を起こした責任は痛感している」と述べた。
アクリフーズ群馬工場は操業を停止。同社のもう一つの国内製造拠点である夕張工場も生産が半減し、地元経済に暗い影を落としている。