細名高司
細名高司(ほそなたかし)とは、脱税指南専門の元国税OB税理士である。
概要
消費税増税も間近に迫る中、まっとうな納税者をあざ笑うかのような脱税事件が発覚した。平成25年3月5日、大阪地検特捜部は、架空の融資で赤字が出たとして法人所得を隠し、脱税した疑いで、大阪国税局元職員の税理士、細名高司(60)=兵庫県西宮市二見町=ら3人を逮捕した。
細名は「税務調査の内部情報が取れる」という“殺し文句”で顧客を獲得しては、貸金業者よろしくサイドビジネスに精を出していた。しかも脱税事件では、手口の指南役と目されている。
架空仕入れに休業法人悪用…
過去約10年で3件。この数字は、脱税を指南したとして大阪国税局OBが摘発された事件数だ。片手に余るとはいえ、決して少ないとは言えないだろう。
法人税約1億5300万円を脱税したとして平成14年、大阪国税局が法人税法違反罪でビデオテープの輸入卸売と製造卸売の会社2社を告発した事件があった。
この事件では、業者の顧問税理士で同局OBの税理士も告発対象となったが、今回の事件と同様、脱税方法の指南役とされた。
手口は、架空の仕入れを計上するなどで2社計約4億4500万円の所得を隠していた。この税理士は当時、「依頼されて脱税するための方法を考え、不正に加担していた」と話していた。
2年後の平成16年。今度は別の大阪国税局OBが、自動車部品販売会社の約9100万円の脱税に関与したとして、法人税法違反の罪で大阪地検に告発された。こちらの手口は、休業法人を利用し、ソフト開発費などの名目でこの法人の口座に支払い、後でバックするというもので、2年間で約3億700万円の法人所得を不正に隠蔽した。
この税理士は事件で有罪判決を受けたが、2年後の平成18年2月、テレホンクラブ運営会社のグループ会社5社が約8600万円を脱税した法人税法違反事件で、東京地検特捜部に逮捕されてしまった。
懲戒免職
そして平成25年3月、新たな大阪国税局OBによる「脱税指南事件」が発覚した。細名だ。
逮捕容疑は、記帳代行業の中村晋也(41)=兵庫県伊丹市=と会社役員の小川大典(だいすけ)(46)=大阪市西区=の両容疑者と共謀。大阪府東大阪市の不動産会社「大阪産業」の税務申告に際して架空の損失を計上する手口で、平成23年10月までの1年間で同社の法人所得約1億円を隠して法人税約3100万円を免れた。
税金を不正に免れるのは、おおざっぱに言うと経費や損失を実態以上に大きく仮装するか、利益を不当に圧縮して小さく見せかけるか、に大別される。人件費の水増しなどが前者で、外国為替証拠金取引(FX)によるもうけを除外したりするのが後者だ。
今回の事件は前者のパターンといえ、細名が指南役、中村は申告手続きに関与しており、小川は大阪産業の架空の融資先役を担った、というのが捜査当局の見立てだ。特捜部はほかに、同社の実質的経営者である男性取締役(60)についても任意で調べる。
関係者によると、細名は昭和50年に大阪国税局に採用。法人部門の税務調査などを主に担当し、平成8年に神戸税務署へ異動したが、平成10年、自身が申告漏れを指摘した税務調査先の会社に対し、税理士をしていた弟を紹介。これが国家公務員法違反(信用失墜行為)にあたるとして、懲戒免職となっていた。
その後、細名は顧客を多数抱える“敏腕税理士”となったのだが、才覚が発揮されたのは、また別の分野だった。
金庫に数億円
「マルサの話は取られへんけど、料調(リョウチョウ)の話なら取れる」
細名を知る男性は、こう話すのを聞いたことがある。マルサとは、映画でおなじみになった国税当局の査察部のこと。強制調査権を持って脱税を摘発し、刑事事件として告発することでも知られている。一方の料調。聞き慣れない言葉かもしれないが、課税部の「資料調査課」を差す。強制調査権はないものの、国税の中でも困難な事案や悪質な所得隠しの調査を担当しており、調査される側からするとマルサに負けず劣らず恐ろしい存在といえる。
この料調の情報を得ることができると吹聴していたとされる細名。
知人によると、「脱税者のリストを元に記載先に連絡し、顧問税理士にしないかと持ちかけた」と話しており、「情報はおれの宝」と得意げだったという。
そうして顧問先に勧誘すると、次には「隠している金を預かる」と低金利で借り受ける。この金を資金繰りに窮している別の顧問先に貸し付けていたといい、「(細名の)税理士事務所の机の引き出しに1千万円。金庫には数億円が常に入っていた」と証言する人も。
細名から借金した経験のある自営業者は、借金の条件として顧問契約を締結し、返済に加えて月1万~1万5千円の顧問料を支払っていたという。
「一戸建ての自宅は貸付金の利息で購入した」とも話していた細名。「おれは絶対にパクられへん」とうそぶいていたといい、2012年末には大阪・ミナミの繁華街で豪遊する姿も見かけられた。
またもや摘発された大阪国税局OB。あるOB税理士は
「脱税の相談にすら乗るわけがないのに、脱税の指南とは。同じOBとしてこんな人間がいたのは残念。OB税理士は、たとえ先輩と後輩の間柄でも、疑念を持たれないように現役職員との付き合いを絶つようにしているのが普通。懲戒免職になった時点で現役との関係は切れているはずで、内部情報が取れたなんて考えられない」と話している。
国税調査官贈収賄。起訴のOB脱税指南。顧問先を一斉調査(2013年11月)
大阪国税局の調査官の贈収賄事件に絡み、贈賄罪で起訴された国税局OB税理士の顧問先について、大阪国税局が一斉調査に乗り出した。顧問先とされる約1000の法人・個人が点検対象とみられ、過去にない大規模な税務調査になる見通しだ。一連の事件で、OB税理士が顧問先に幅広く脱税指南した疑いが浮上しており、国税局は脱税などの不正がないか徹底的に調べる方針。
OBは細名高司(61)=税理士廃業。顧問先のホストクラブ運営会社の脱税のため、西税務署元上席国税調査官の平良(たいら)辰夫(43)=収賄などの罪で起訴、懲戒免職=に調査の日程を教えてもらい、見返りに現金約120万円を渡したとして贈賄などの罪で起訴された。
大阪地検特捜部による一連の捜査で、細名が脱税を指南したとされる顧問先は15を超えることが分かった。贈収賄事件の構図では、ホストクラブ運営会社の調査を担当した平良が脱税工作に協力していた。細名側に他の税務職員から内部情報が漏れていた可能性も浮上した。
税理士法人ナイスアシスト(大阪市)=10月31日付で解散=を実質経営した細名は「税金を少なくしてやる」との触れ込みで顧客を勧誘した。顧客には脱税が多い業種の飲食店、風俗店も多く、年商は億単位に上った。
このため、国税局は、顧問先の多くが細名から巧妙な脱税指南を受けていた可能性があり、申告内容などを精査し、脱税や申告漏れを洗い出す必要があると判断した。
ナイスアシストや細名と関係があった税理士の顧問先を担当する税務署に、過去の申告や調査結果の詳細な点検を指示した。不審点があれば順次、調査に入る方針で、既に一部の法人・個人の調査に乗り出した。
国税局はこれまでも、税理士らによる脱税指南事件が起きた場合に関係法人などを調査してきたが、今回は顧客数の多さや脱税指南の悪質性から、異例の大規模なものになる。贈収賄事件で税務行政への信頼が揺らいだこともあり、国税局は徹底的な調査によって信頼回復を目指す。
細名は1998年に国税局を懲戒免職になり、2002年に税理士登録した。特捜部が今年3月、顧問先に脱税を指南した法人税法違反容疑で逮捕し、一連の本格捜査が始まった。