虚偽報道

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2008年1月5日 (土) 14:20時点におけるキラークイーン (トーク | 投稿記録)による版 (関連項目)

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虚偽報道(きょぎほうどう)は、マスコミ等において故意に事実と異なる情報報道すること。虚報、捏造報道とも。

従来、誤報の文脈で語られることが多かったが、誤報が過失によるものであるのに対し、虚偽報道ないし虚報は故意に行われるものである。

新聞における虚偽報道

新聞における虚偽報道の事例をいくつか挙げる。新聞などの活字系メディアは、いわゆる「筆先三寸」(「舌先三寸」の洒落)で虚偽報道が可能なので、テレビの出演者を巻き込んでの大掛かりな「やらせ」を伴う虚偽報道に対し、比較的単純である。ここでは代表的な虚偽報道事件をあげるが、これらに限らず多くの新聞社で過去に虚偽報道事件が発生している。各社での事件は各社の「疑義が持たれた報道、スキャンダル」の項目を参考にすること。

伊藤律会見報道事件

昭和25年1950年9月27日付け朝日新聞夕刊に、当時レッドパージにより地下に潜伏中だった日本共産党幹部伊藤律宝塚市の山林で会見したとする記事が載った。書いたのは神戸支局の中堅記者。

「無精ひげをはやし、ほおはつかれて落ち込んででいて眼光だけは鋭く光っている。これという特徴はないが幾分四角の顔つきは確かに伊藤律だ」(後藤文康『誤報』より引用)などと具体的な描写があった。

掲載前に大阪本社通信部のデスクから真偽を疑う声が出たが、編集局長は現場の声に押されて掲載を決める。東京本社ではさらに共産党担当記者から伊藤がインタビューに応じる必然性がないなどの声が出たが、「大阪がそこまでがんばるなら」という声に押されて報道に踏み切った。

当時伊藤を追っていた法務府特別審査局の聴取に対し、取材記者の供述に矛盾が出、ついにこの記事が完全な虚偽であったことを自白した。朝日新聞は3日後社告で謝罪し、縮刷版には掲載しなかった(現在もこのページのみ白紙で「お断り」告知になっている)。担当記者は退社、神戸支局長は依願退社、大阪本社編集局長は解任となった。

「ジミーの世界」事件

1980年9月28日アメリカワシントン・ポスト紙はジャネット・クック(Janet Cooke)記者(詳細英語版参照)の署名の入ったジミーの世界という長文の記事を報じた。それはワシントン市に住む8歳のヘロイン常習患者について描くもので、彼の母はヘロイン常習者がたむろする食堂を経営し、その愛人は麻薬の密売人。ジミーの腕には注射のあとが残っているなど、生々しい2256語にのぼるルポルタージュであった。当時ヘロインはワシントンの深刻な問題になっており、関心が高まっていた。

記事は市民に衝撃を与え、大きな反響があった。ワシントンの警察もジミーを保護するために大捜索を行った。しかし、そのような少年は見つからなかった。市長や警察はワシントンポストの記事に対する疑念を抱くようになっていた。

この記事で、ポスト紙は1981年ピューリッツァー賞を受賞した。

しかし、やがてAP通信がクック記者の経歴を報道すると、その中に多くの嘘があることが明らかになった。不審を抱いたポスト紙編集幹部はクックを追及し、彼女は功名心にかられてすべて嘘の記事を書いたことを認めた。「ジミー」は架空の少年だった。クック記者は「人に漏らせば自分の生命に危険が及ぶ」という理由で、当事者の身元も情報源も自社の編集責任者にすら明らかにしていなかった。ワシントン・ポスト紙はピューリッツァー賞を辞退し、同紙におかれているオンブズマン(外部の大学教授がその任にあった)による調査を実施した。調査結果は5面にわたって紙上に詳細に公表された。調査結果は捏造の経過と社内の問題点について明らかにし、次のような点を指摘している。

  • 幹部が疑いを持ちながらも、厳しい追及を怠った。
  • 記者を信頼する仕事の仕方が限度を超えた。上司は取材源を確かめて聞くことさえしていない。
  • 特ダネを期待する過度の功名心の弊害が社内に強かった。

などである。一度は地に落ちたワシントン・ポストの評判は、この調査とその公表によって挽回されたという。

珊瑚落書き報道事件

1989年4月20日朝日新聞夕刊に、「沖縄県西表島のサンゴに『K・Y』の落書きがされている」という記事が載った。

この記事には「八〇年代の日本人の記念碑になるに違いない。百年単位で育ってきたものを、瞬時に傷付けて恥じない、精神の貧しさの、すさんだ心の。にしても、いったいK・Yってだれだ。」という記述もあり、落書きを行った者を強く批判していた。

しかしその後、これを不審に思った地元の沖縄県竹富町ダイビング組合が「サンゴに書かれた落書きは、取材者によるものではないか」との指摘を行った。これに対して朝日新聞は当初、「撮影効果をあげるため、うっすらと残っていた部分をストロボの柄でこすった」としていたが、その後の継続的な調査を経て「当該カメラマンが無傷の状態であったサンゴに文字を刻み付けた」との判断を発表し、虚偽報道であったことを認め、謝罪した。担当記者は退社もしくは停職処分となった。

この時期の新聞は急速に台頭してきたテレビニュースとの競争にさらされ、写真報道に力が入れられていた。この虚偽報道の特殊性は写真にからむ捏造であり、新聞の虚偽報道としてはやや複雑な様相を呈している。

テレビの虚偽報道

コメントやテロップによる虚偽報道

テレビにおける虚偽報道はいわゆるやらせと密接な関係を持つことが多い。映像・音声を伴う(カメラ、マイク、場合によっては照明などを必要とする)テレビにおいては新聞、雑誌のような活字メディアより複雑で手の込んだ手段、いわゆるやらせ(出演者による演技)を伴う場合が多く、状況が複雑である。『NHKスペシャル』「奥ヒマラヤ禁断の王国・ムスタン」の事例を元に、テレビにおける虚偽報道について考えてみたい。

まず新聞や雑誌などと同様な単純な虚偽報道として「虚偽コメント」「虚偽テロップ」がある。これはいわゆる「やらせ」にはあたらない。例えば取材中、少年僧が雨乞いの祈りをするのだが、わずかな量の雨が降ったにもかかわらず、「少年僧の願いもむなしく、雨は一滴も降らなかった」とコメント(ナレーションでの解説)を付けている。これは明らかに虚偽報道であり、視聴者に対する背信である。また映像に虚偽情報をテロップで表示するケースの存在も考えられる。

これとは別に、NHKの「ムスタン調査報告書」では問題が無いとされていたが、番組であたかも「ムスタン」が独立王国であるかのようにコメントされていたが、実際は「ネパール王国」の一部であったという件がある。これも虚偽コメントという見方もありうるであろう。

いわゆる「やらせ」による虚偽報道

元テレビ朝日ディレクターのばばこういちは「やらせ」を分類し、「単純再現」「悪質再現」「捏造」を挙げている。ばばは「単純再現」は許され、「悪質再現」は許されないとのスタンスを取っているが、実はその線引きは難しい。日常繰り返される事実を、当事者によって、誇張や歪曲することなく、合法的に再現するのが「単純再現」ということができるだろう。それでも、単純再現が虚偽報道に当たるか当たらないかは意見の分かれるところであろう。また、「単純再現」と「悪質再現」の線引きは極めて難しい。

「ムスタン」では高山病にかかったスタッフが回復後にディレクターの指示で高山病の演技をしたが、ディレクターはスタッフにもっと大げさに苦しむ演技を要求したという。これは「単純再現」と見る見方もあるかもしれないが、事実を出来るだけ正確に再現しようとする意識に欠けており、その意味で「悪質再現」の範疇に入ると見ることも出来る。

また、故意に流砂現象を引き起こしたとされる件もあったが、これは厳密に言うとやらせを伴わない再現行為であり、許されるかどうか微妙なところである。

「捏造」を伴うやらせが虚偽報道であることは論を待たない。「ムスタン」で言えば小学校の理科の授業として山羊の解剖を行なったケースがそれである。この小学校では日常的にそのようなことは行なわれておらず、再現行為には当たらず、「捏造」であることが明らかになっている。

映像・音声の編集による虚偽報道

テレビでは映像をそのまま放送するわけではない。撮影してきた映像の中から必要な部分だけ切り取り、他の多くの映像とつないで編集する。例えばインタビューの場合、前提条件の部分をカットし、結論の部分だけ放送するなども行なわれ、発言者の真意が歪曲され、時には反対の意味で報道されることがある。これもテレビなど、映像、音声を伴う虚偽報道の特性である。

また、インタビューでなくても、関係のない映像を編集してつなぐことにより視聴者に一定の意味を伝えることができる(モンタージュ)ので、非言語的な虚偽報道も可能である。

その他のメディアにおける虚偽報道

ドキュメンタリー映画ビデオにおいてもテレビと同様に映像と音声の問題を抱えている。例えば初期のドキュメンタリー映画の名作とされるフラハティー監督の『アラン』はアイルランドのアラン島に生きる人々の過酷な生活を記録したものだが、撮影時より50年前も前の島の生活の再現が入っているという。これを悪質再現と捉える向きもある。テレビのやらせの原点はドキュメンタリー映画にあると主張する者もいる。

ベルリンオリンピックの記録映画や市川崑監督の『東京オリンピック』にも再現映像があるという。芸術的な映像を追求するために事実性を犠牲にしたわけである(今野勉『テレビの嘘を見破る』を参照)。

ラジオで虚偽報道が表面化することは必ずしも多くはないが、音声を扱っていることから、単純な虚偽コメントだけでなく、出演者を巻き込んで演技させるいわゆる「やらせ」による虚偽報道が行なわれている可能性を指摘する者もいる。音声は映像よりはるかに加工しやすく、また擬音を用いることもできる。映像の拘束を受けずに細かい編集も簡単なので、編集による虚偽報道も容易である。

組織ぐるみの虚偽報道・国家レベルの虚偽報道

伊藤律会見報道、「ジミーの世界」報道、珊瑚落書き報道などはいずれも組織内の個人が功名心などに駆られて行なった虚偽報道であり、組織全体からすれば一種の誤報と見られなくもない。

現在の北朝鮮のメディアや、イラク戦争におけるアメリカの対外発表、またかつての日本の大本営発表のように、国家レベルで虚偽報道や事実の隠蔽がなされる例もある。

参考文献

関連項目

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