タイムマシン
この項目では、架空の乗り物や装置について説明しています。その他の項目については「タイムマシン (曖昧さ回避)」をご覧ください。 |
タイムマシン (Time Machine) とは、時間を空間と同じように航行し未来や過去へ移動するための架空の乗り物や装置のことである。「時間機械」「航時機」などとも呼ばれる。
目次
タイムマシンの歴史と形態
タイムマシンは、タイムトラベルの道具として使われる。主にSFの分野での舞台設定や小道具として利用される乗り物である。
タイムマシンは、1895年にH・G・ウェルズが発表した『タイム・マシン』に登場したのが最初である。このウェルズのタイムマシンは、産業革命により様々な移動手段が開発された事や科学万能主義が契機となり、それを時間軸に拡張したものだと考えられる。 ウェルズのタイムマシンは単純に時間を移動する事だけを目的としたもので、空間を移動する機能はついていなかった。
タイムマシンを形態で分けると、以下のようなタイプがある。
- 乗り物としてのタイムマシン: 宇宙船や自動車のような形態のものなど類型が多いタイプ。移動機能、飛行機能が備えられている場合もある。
- 転送装置としてのタイムマシン: 地上に設置された大型の転送装置により、時間旅行者を特定の時空に転送したり回収を行うタイプ。(例)「タイムトンネル」、「タイムライン」の「3Dファックス」
- 通信手段としてのタイムマシン: 時空を超えて情報を伝達する機能のみのタイプ。SFでは意図して作られた装置であることよりも、偶然に過去や未来と接続してしまった電話や受像機である場合が多い。
タイムマシンの時間移動方法で分けると、以下のようなタイプがある。
- 時間を加速する/巻き戻すタイムマシン: タイムマシンを起動すると、時間旅行者からは未来に向かう場合は周囲の時間が加速して見え、過去に向かう場合は巻き戻されているように見えるタイプ。位置座標の移動は行わない。古典的なタイムマシンで、現代のSFでは理論的な不具合や表現手法の問題であまり用いられない。(例)ウェルズのタイムマシン
- 亜空間や四次元空間を経由するタイムマシン: 時間を超越する設定の亜空間や四次元空間を利用し、現在と未来・過去を接続して時間旅行を行うタイプ。現代のSFでは主流のタイプである。
亜空間や四次元空間を経由するタイムマシンの場合、目的地が水中や地中など地上である保障はないため事前の状況把握が重要となる。「タイムトンネル」では転送の際には、目的地の状況を過去文献等で確認するなどの事前準備を行っていた。タイムマシンが地球の重力に縛られている保障もないため、地球の自転や公転、銀河系レベルでの移動の影響なども、SF設定上の議論になることも多い。
タイムマシンの研究
タイムマシンや時間旅行は、現実の学問としても理論的な実現の可能性が研究されている。その特性的相違から、過去と未来への時間旅行の実現方法や研究はそれぞれが大きく異なる。
未来への時間旅行は現代へ帰還しない、すなわち相対的過去への時間旅行を伴わない片道旅行であるならば、運動している物体の時間の遅れを利用した相対性理論における観測系ごとの相対的時間進行差により理論的には実現が可能とされている。具体的には光速に近い速度で飛行するロケット内部では外部より時間の進みが極めて遅くなるため、内部では1時間の飛行も外部では数年に相当するようなウラシマ効果が発生するが、これを利用することで搭乗者にとっては見かけ上1時間で数年先の未来へ時間旅行が実現するものである。ブラックホール近傍の高重力下でも時間の遅れが発生するが、これを利用する方法でも同様の効果が得られる。これらに対する検証実験でも、微少ではあるが理論値どおりの効果が確認されている。
過去への時間旅行の可能性として、数学者クルト・ゲーデルは1949年に全宇宙がゆっくり回転しているなら、宇宙旅行によって過去への時間旅行を可能とするゲーデル解の見解を発表した。ただし我々の宇宙が回転している証拠は見つかっていない。テューレーン大学の数学者フラン・ティプラーは1974年に、超高密度の筒状の物質を超高速で回転させることで、過去と未来へ移動可能なティプラーの円筒(ティプラ-・マシン)のアイデアを発表した(後にジョン・グリビンという学者が「直径十km、長さ百km、質量太陽と同じの円筒」を2500回転/sで回転させればタイムマシンになると発表した)。ただしこの方式には円筒が作られるより前の過去へは移動出来ないという制限がある。またカリフォルニア工科大学のキップ・ソーンは1988年に、量子の泡から生まれるワームホールを広げて利用する時間旅行の概念を発表した。その他にもプリンストン大学の物理学者リチャード・ゴットによる2本の宇宙ひもを利用する方法、物理学者ヤキル・アハロノフによる巨大風船が及ぼす体積あたりの重力の増減を用いた方法がある。
これらの過去へ遡るアイデアは、基本的には相対性理論上の現象や制限を踏み越えない仮説の上に成立しているが、スティーヴン・ホーキング博士は因果関係に基づく時間順序保護説や、過去へ繋がる閉時曲線が構成されそうになった場合は重力場の量子効果が大きくなり、過去への経路ができるのを阻害するとの仮説を取り、「そもそも未来からの時間旅行者がいないのがタイムマシンが存在できない証拠」として、過去への時間旅行を否定する立場を取っている。ただし、タイムマシンが将来的に完成するかどうかに関しては「私は誰とも賭けをしないだろう」と、その可否に可能性を残す発言をしている。
過去への時間旅行については実現に対する可能性の是非以外にも、ワームホールや宇宙ひもなどを利用した場合にも、その作動原理からタイムマシン建造以前の過去へ遡れるかという機能的制約面についての議論も続いている。
日本では「タイムマシン」に関するとされる特許が現在10以上も登録されており、それらの詳細は特許庁の特許電子図書館などで読むことができる。
ワームホールを利用したタイムマシン
基本的な原理
カリフォルニア工科大学のキップ・ソーンは、時空の異なる2点を結ぶトンネルであるワームホールを利用するタイムマシンの仮説を発表している。この仮説の原理は、片方の穴を光速に近い速度で移動させると相対性理論により時間の進行が静止している穴よりも遅延する現象を利用するものである。(図1)
- 穴AとBはワームホールの出入り口で相互に接続されている。ワームホールは瞬時に通過できる。
- 0:00にAは静止した状態で、Bのみを光速に近い速度で移動させる。運動しているBの時間進行はAより遅れる。
- Aの地点で3:00の時、Bの内部は2:30である。
- Bを光速に近い速度で戻す。A地点で5:00の時、Bの内部は3:30である。
- Bはさらに光速で移動し、最終的にはA地点が6:00の時、Bの内部は4:00となった。
- 6:00にA地点から出発したロケット(X)が光速に近い速度でB地点へ向かい、1時間掛かけて到着した。
- Bからロケットはワームホールに入るが、Bの内部は5:00であり同じ時間のAと接続しているため、戻ってきたA地点の時刻は出発した時刻よりも前の5:00であり過去への時間旅行が成立する。
日本ではこの原理を利用したタイムマシンの特許とされるものが合計で5つも登録されている。これは特許庁の特許電子図書館などで確認可能。
ホーキングの否定説
ソーンの仮説に対しスティーブン・ホーキング博士は、このような仕組みを利用しても閉時曲線と量子効果により過去への経路が構成されるのを妨げるため、結果的に過去への時間旅行は不可能と否定する仮説を立てている。これは光を例にとり以下のように説明されている。
- Aから3:00に放たれた光(Y)がB地点に到着した時にBの内部が3:00となっている関係の場合、光をBからワームホールに入れてAに戻す。
- 光はA地点が3:00の時刻に戻ってくる。その光を再びB地点に向けて放つ。
- 1~2の経路は端がなく、光が止まることなく無限にこの経路を回りつづける。このため経路上にはエネルギーが際限なく蓄積される。
- この効果に伴い重力場の量子的ゆらぎが増大するが、それはこのような経路が構成されるのを阻害するようにはたらくため、実際にはこのような経路は作ることができない。
- ワームホールが利用できるのはこのような経路ができる以前の条件のみだが、この場合ロケット(Z)は出発時刻より後の時刻にしかA地点には戻ってこれない。
ホーキングの否定説に対し、ソーンは量子的ゆらぎは無視できる範囲と反論しているが結論は出ていない。ワームホールを利用するタイムマシンを否定する仮説には、時間の遅れが発生するのは移動する穴の周縁部だけで穴の内部には効果が及ばないとする説や、移動した時点で新しいワームホールができるために時間移動には利用できないとする説などもある。
またこれらの議論以前の問題として、ワームホールの穴は素粒子より小さいと考えられているため、これを通過できるように広げられるのか、それを安定した状態で維持できるのか、移動させるなど自由な制御ができるのかなど多くの難問を抱えていることはソーンも認めており、装置の実現性はかなり低いとする見解が多い。
宇宙ひもを利用したタイムマシン
リチャード・ゴットは宇宙の初期に作られた可能性のあるひも状のエネルギー体である宇宙ひもを2つ利用するタイムマシンの仮説を発表している。直線状に伸びた宇宙ひもの周囲は、その莫大な質量により空間が極端に歪みくさび状に切り取られたのと同じ効果が発生する。この空間を通過する場合、切り取られた分だけ空間が短くなっているために見かけ上光速を越えた運動が可能になるが、ゴットの仮説では、この性質に加えて宇宙ひもが運動している場合に起こる時間の遅延を利用している。(図2)
- 2つの宇宙ひも(X)、(Y)はそれぞれBC間、EF間の空間を切り取っているため、この空間を通過すると360゜以下で周回することが可能である。
- (X)と(Y)が静止している場合、BC間、EF間の通過時間は0なのでBとC、EとFはそれぞれ同時刻である。
- この仮説では(X)と(Y)がそれぞれAとD方向に運動していることを前提としているため、この空間を通過すると相対性理論により時間が遅延するが、通過時間は0であるため通過時刻が突入時刻の過去になる現象が起きる。
- 3:00にA地点を出発したロケットはBに4:00に到着する。移動する宇宙ひもで切り取られた空間を通過するため、Cでの時刻は1:00である。
- D地点を経由しEに3:00に到着する。移動する宇宙ひもで切り取られた空間を通過するため、Fでの時刻は0:00である。
- ロケットで周回しA地点へ戻ってくるが時刻は出発した時刻より前の1:00であり、過去への時間旅行が成立する。
但し、宇宙ひもがあるところに行って帰ってくるまでにウラシマ効果で相殺されてしまう可能性がある。また、宇宙ひも自体を近づけようとしてもその莫大な質量を移動させるだけのエネルギーをどうするかといった問題もある。
参考文献
- クリフォード・A・ピックオーバー(著)、青木薫(翻訳)『2063年、時空の旅』(講談社、2000年)ISBN 4062572907
- ポール・デイヴィス(著)、林一(翻訳)『タイムマシンをつくろう!』(草思社、2003年)ISBN 4794212232
- 金子隆一『新世紀未来科学』(八幡書店、2001年)ISBN 4893503952
- キップ・ソーン(著)、林一(翻訳)『ブラックホールと時空の歪み アインシュタインのとんでもない遺産』(白揚社、1997年)ISBN 4826900775
- ラリー・ニーヴン(著)、山高昭(翻訳)『タイム・トラベルの理論と実際』(ハヤカワ文庫『無常の月』収録)ISBN 4-15-010327-5
- 二間瀬敏史 『タイムマシン論――最先端物理学によるタイムトラベル入門』(秀和システム、2006年) ISBN 4798013528