ピアノの難曲

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2009年8月6日 (木) 05:21時点における79.233.170.184 (トーク)による版 (ベートーヴェン)

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概要

難易度には、表現や解釈の難易度も含まれ、本欄でピアノ曲とは、19世紀以降については、ピアノのためにのみ作曲された作品のことを指すが、それ以前の作品の場合は、チェンバロオルガンなど、元来別の鍵盤楽器ために作曲された作品のうち、そのままのかたちで、あるいは後世の編曲によって、現在は一般的にピアノ曲と認識されている作品も含める。あくまでもピアノ業界を唸らせた作品に限られている。

これらのように、ピアノ曲に「転用」された初期鍵盤楽器のための作品は、演奏技巧上の要求だけでなく、それらの楽器とピアノの構造や形状・性能の違いから、ピアノによる演奏が高度に難しくなる例がある。たとえばチェンバロ作品においては、当時の2段鍵盤式チェンバロを意識して作曲された作品の場合が特にそうである。

また、もともとピアノのために作曲された曲の場合では、譜面が視覚的に複雑なために、実際以上に難しく見える作品や、あるいはいっそう演奏に困難をともなう作品がある。戦後前衛の時代になってこの問題が一層表面化したが、これを松平頼暁は「新たなタイプのヴァーチュオシティー」と形容した。

なお演奏技術が格段に進んだ現在、以下の曲の中にはさほど技巧的には難しくないとされる作品も含まれている。

18世紀以前

J.S.バッハ (バロック音楽)

バッハの曲の難しさは、対位法の表現や両手ともに伴奏に徹することが少ないなどの、複雑さによるものが大きい。また、オルガンのために作られた曲は、足鍵盤で演奏する声部があるため、元の楽譜の通りに、忠実に演奏することは難しい。

オルガン用の曲

  • 一連のトリオ・ソナタ
    そのオルガニストも口をそろえて言うのが、声部が三声全部完全に独立しているので、バッハのどの前奏曲とフーガよりも難易度が高いといわれる。

ベートーヴェン

  • ピアノソナタ第23番『熱情』
    フィナーレ、終結近くの突然の和音連打とその後の加速。スピード感だけでは浅い演奏になってしまう難しさが付きまとうが、深みを与えようとする演出が切れ味を鈍らせるなど、方向性の比較的明確な曲の割には単純ではない。
  • ピアノソナタ第29番『ハンマークラヴィーア』
    すべての楽章の反復も含めて要求どおりに演奏すると、45分近くになんなんとする、力作にして大作デベートーヴェンの中でも最大の難曲。技術力・集中力・構成力といった技術的側面においてのみならず、まずは楽曲の理解が非常に困難とされる。作曲家または指揮者のごとき力量を要求され、一方では体力などの基礎的資質まで必要。非常に広い意味での演奏力が問われる作品。ルービンシュタイン曰く「ピアニストにとって壁のような存在」。この曲をケルンの若いピアニストが25分で弾いて話題を集めている。
  • ピアノソナタ第32番
    激しい1楽章と深い2楽章。この二つを完全なバランスで演奏する事だけでも至難。2楽章は、いわばベートヴェンの悟りの境地。この精神の深みを人為的表現とは無縁の自然体で表現可能なピアニストは、巨匠と言われる演奏者の中にも数少ない。どこまでも簡素な音の連なりゆえに、表現に心を砕けばたちまち流れを阻害し、流れに身を任せればたちまち浅くなってしまう。
  • ディアベリ変奏曲
    長大な作品の緊張感を持続し、またドラマティックな表現を可能にするためには並大抵ではない強い表現力が不可欠。

19世紀

シューマン

ショパン

  • 12の練習曲 Op.10
    • 第1番 ハ長調
      右手のアルペッジオの練習曲。手の小さい人には特に困難とされる。
    • 第2番 イ短調
      半音階の旋律を3,4,5指で弾く。運指的に困難であるため、手首の脱力を意識し、指だけではなく手の重さなどを利用して弾かないと、最後まで弾き切るのは困難であり、手にも負担をかけてしまう。
    • 第4番 嬰ハ短調
      両手とも大変急速、かつ半音、一音の細かい動きとオクターブを超える分散和音の動きが交互に現れることで切替に困難を来す。
    • 第7番 ハ長調
      右手の3度と6度の練習曲。余り知られていないが難しい。
  • 12の練習曲 Op.25
    • 第6番 嬰ト短調
      右手の3度の練習曲。曲集中、最も難しい曲の一つである。
    • 第8番 変ニ長調
      右手の6度の練習曲。
    • 第11番 イ短調 『木枯らし』
      左手のメロディと右手の広域のアルペジオからなる難曲。
  • 24の前奏曲 Op.28
    • 第1曲 ハ長調
      分散和音とメロディーの両立を求められる。
    • 第3曲
      独自の和声配置により、4と5の指の広がりと滑らかなレガートを要求される。3で代用できる所を敢て4で弾かせる所が、ショパンのピアノ書法の開花を予感させる。
    • 第8曲
      1番と同じだが、メロディーが主に1の指で要求される。
    • 第16曲
      右手の速いパッセージに、スクリャービンのような左手の激しい和音跳躍を要求される。
    • 第19曲
      2オクターブの幅広い分散和音を高速で演奏する。これも3番と同じくショパン独特のテクニック。
    • 第24曲
      終始左手が3の指を中心とした広い分散和音を要求される。右手に3度の急速下降の和音もある。
  • ピアノソナタ第2番
    • 第2楽章
      早いテンポでオクターブの和音を弾かないといけないので、手が小さい人には困難である。
  • バラード 第1番
    • イ長調の第2主題、コーダは非常に技術的水準が高い。
  • 第4番
    • クライマックスの両手アルペジオ~和音連打、パウゼを経てのコーダ(右手の3度の半音階スケール中心の高度な技術)。

1番・4番共に、テクニック、表現力、体力を大きく問われる。

  • スケルツォ 第1番
    テンポの速さについて行くことが非常に高度な技術を必要とされる。
  • スケルツォ 第4番
    技術面もさることながら、構成力が問われる。
  • ポロネーズ
    • 英雄ポロネーズ
      中間部・左手のオクターヴ連打は有名だが、その部分が反復される際に、弱音での演奏が要求される個所を含む。
    • 幻想ポロネーズ
      技巧的な面もさることながら、内声をどう扱い、いかにして曲の持つ深い憂愁を表現できるか演奏者の資質を問われる晩年の傑作。
  • 演奏会用アレグロ
    最初は非常にシンプルだが、徐々に激しさと共に強烈なオクターヴ連打とそれに絡む複雑なパッセージが現れ、最後まで難技巧を持続させる。聴衆に演奏技巧の華やかさと難しさを伝える構成で、ショパンには珍しい、敢てそれを意図して作られた作品。技巧的にはショパンの作品中最難曲とも言われるが、音楽的内容は希薄である。ピアノ協奏曲第3番として着想した材料を用いて、ピアノ独奏用に書き改められた作品。
  • 舟歌
    ショパンの傑作の一つであり、演奏には技術と共に旋律を歌わせるなどの表現力を要求される。ヴェネツィア特有のゴンドラの歌のリズムにのせて一種の寂寥感を漂わせるこの曲は、あらゆるテクニックが要求される難曲である。

リスト

  • パガニーニの主題による超絶技巧練習曲
    上のパガニーニによる大練習曲よりも前に作曲され、難易度はこちらの方が高いが演奏効果はパガニーニによる大練習曲の方が上なのであまり演奏されない。楽譜通り演奏するのは不可能とされる。第3曲「ラ・カンパネッラ」は、「大練習曲」にはない旋律が入っている。2オクターブの有り得ない和音などがある。さらに第4曲「アルペッジオ」の第2版は三重和音の高速アルペジオや両手で10度の連打などとてつもない課題を提示している。この作品は三度しか録音されていない。
  • ハンガリー狂詩曲
    • 第2番 嬰ハ短調
      後半、フリスカのラストの左手の大きな跳躍を伴った右手の急速な上昇階段(vivaceの速度で14+7連符を3オクターブ駆け上がる)。左手はフリスカに入ると延々跳躍が続くので、速さと正確さが問われる。前半、ラッサンの嬰ト、イ音の連打の直前の両手のパッセージも曲者。終盤は cadenza ad libitum(カデンツァは演奏者の自由とするの意)の指定であるが、マルカンドレ・アムランは主題を二重に、半音ずらして同時に濁り無く奏するというカデンツァを披露した。他者にはおいそれと真似できない離れ業と言える。
    • 第6番 変ニ長調
      16分音符の休みない連続オクターブでメロディを奏でるため、うまく脱力ができていないと疲れる上に綺麗に弾けない(特に最後は速度がPrestoまで上がるため、全体のバランスを考えて速度を設定しないといけない)。両手の大跳躍もある。
  • メフィスト・ワルツ 第1番
    オーケストラからの編曲。最初の和音が大きく、手の小さい人は、指が他の鍵盤を叩いてしまう。前半の両手グリッサンドや中盤の重音トリル、後半の右手の大きな跳躍など、至る所に様々な華やかな技巧が駆使されている曲。
  • ピアノソナタ ロ短調
    単一楽章のピアノソナタ。演奏時間が長く表情の大きな変化と小さな変化を絶えず繰り返し、それでいて確実にドラマは進んでいく。この徐々に聴き手を引き込む表現が非常に困難であり、多くは場面場面で聴かせるだけに終わりがちである。曲全体を理解し、演奏を常に抑制する強い精神も必要。
  • 半音階的大ギャロップ
    ショパンの練習曲10-2に似ているところがあり、3・4・5指の困難な運指で半音階のメロディーを駆け抜ける。リストがアンコールでよく弾いたといわれている。
  • バラード 第2番
    10度の和音や半音階等の技巧が怒涛のように現れ、劇的な演奏効果をもたらすが、リストの作品としては比較的弾きやすい部類の作品である。
  • ソナタ風幻想曲「ダンテを読んで」(巡礼の年 第2年より)
  • ノルマの回想
  • ドン・ジョバンニの回想
  • スペイン狂詩曲
  • 2つのピアノのための悲愴協奏曲ホ短調

ブラームス

ブラームスのピアノ曲は、技術的要求の割に演奏効果が薄く、しかも聴き手にとって晦渋な印象の楽曲が多い。これは、ブラームス自身がピアニストとしての高い技術を持ちながら、技巧を誇示するような音楽を嫌っていたからだと言われている。このため、ブラームスのピアノ曲は弾き手と聴き手の双方にとって難曲であることがしばしばである。このような意味の「難曲」は、20世紀前半までの(特にドイツ語圏の)作曲家に間々見られる。なお、独奏曲ではないが、2つのピアノ協奏曲は、ロマン派でもっとも難しい演奏技術を必要とする協奏曲として知られる。

ラフマニノフの第三協奏曲と同じくクラシックのピアニストにとっては最大の山場とされる難曲。

バラキレフ

  • イスラメイ
    単調なテーマの繰り返しだがオクターヴのグリッサンド等、独特な難技巧を要求される。コーダのオクターブ演奏は、ほとんどのピアニストがテンポを落とすことで有名。*トッカータ
  • ソナタ ロ短調 

チャイコフスキー

  • ソナタ ト長調 Op.37

ムソルグスキー

「サミュエル・ゴールデンベルクとシュミュイレ」の中間、「リモージュ」「キエフの大門」が特に描写力、構成力を求められる。

アルベニス

  • イベリア
    3段譜も部分的に使われるなど、華麗さとボリューム感を併せ持ち、リズム的にも複雑。近代スペイン音楽の重要な作品であるのみならず、ピアノ音楽の傑作のひとつと評価されている。

ドビュッシー

  • 「ピアノのために」 - 『3.トッカータ』
  • 映像 第1集」 - 『水の反映』
  • 映像 第2集」- 『金色の魚』
    トレモロ奏法は人によって個人差が出るために、冒頭のテンポ設定からして倍以上の遅さを選択するピアニストもいる。
  • 前奏曲集 第2巻」 - 『花火』
    前奏曲集第2巻の終曲で、演奏効果の高い曲。
  • 12の練習曲
    1.「5本のために」
    6.「8本の指のために」
    7.「半音階のために」の運指とレガート奏法の両立は困難。
    12.「和音のために」
  • 喜びの島
    ドビュッシーの作品の中でも特に華やかな一曲。大量のトリル、高速な指の5→1移動、左右の手の長い交差など。

グラナドス

スクリャービン

「左手のコサック」と呼ばれた彼の作品は、左手に2オクターブを超える難しい動きを要求される曲が多くある。また左右バラバラの様々な数の連符を織り込んだクロスリズムが複雑である。

ラフマニノフ

ゴドフスキー

  • 「こうもり」によるパラフレーズ
    ヨハン・シュトラウス2世による『こうもり』のピアノ独奏用編曲。ゴドフスキー自身、手が大きくなかったため、リストやラフマニノフのように10度や11度の同時打鍵を要求する曲はほとんどと言って良いほどない。しかしこの作品ではすべてオクターブ奏で四声部を同時に演奏し、ピアノの音域中6オクターブが一斉に鳴り響き、劇的な演奏効果を生む部分がある。読譜が非常に易しいのに比べ、演奏の実施が困難を極める曲の代表と言える。この作品をさらに超える難易度のパラフレーズに「芸術家の一生」がある。

20世紀

エリック・サティ

1分程度のフレーズを、ただ840回繰り返す曲。技術的な難曲ではなく、精神的、体力的に困難な異色の曲。実際の上演では18人以上のピアニストを募集し1人1時間ほどを弾き、切れないように次のピアニストに引き継いでもらう。ドイツなどで現代音楽のデモンストレーションや運営予算が充分でない場合に良く取り上げられる。時々趣向をかえて、チェレスタオルガン版で演奏される場合もある。

ラヴェル

  • 「洋上の小舟」 不規則な数の流れるようなアルペジオとトレモロを要求する。
    「道化師の朝の歌」 高速同音連打など独特であり、演奏効果の鮮やかな作品である。
  • 夜のガスパール
    第1曲の「オンディーヌ」も難曲だが、特に第3曲の「スカルボ」は技術的要求の高さと連続技の要求で有名。作曲者はヴラド・ペルルミュテールとの審議を経て、いくつかの難所を変更したことが死後明らかになった。

ストラヴィンスキー

  • ペトルーシュカからの3楽章
    有名なバレエ音楽からの抜粋・編曲。原曲がもともとピアノ協奏曲として発想されていたために、この曲も非常にピアニスティックに編み直されている。一部、左手の親指で内声を奏でつつ、小指-中指、薬指-人差し指で高速な重音トレモロを「記譜上では」要求されているとみなされる部分がある。手の構造を考えると、生理学上演奏不可能と評されるが、ほとんどのピアニストはうまく右手の助力を得てクリアしていることが多い。

バルトーク

彼が書いた多くのピアノ作品の特徴として、本人もリストの系譜に連なる名ピアニストであったことから技術的なパッセージも少なくない上に、打楽器的なリズム重視の書法や密集音による音塊を多用している点が上げられる。演奏にはテクニックに加えパワフルさが要求される。

  • 二つのエレジー op.8b
  • 三つの練習曲 op.18
  • ソナタ
  • 戸外にて

プロコフィエフ

メトネル

  • ピアノソナタ 第7番「夜の風」
    演奏に30分以上かかる大曲。複雑なポリフォニー構造を取っており、演奏者に高度の技巧を要求する。また表現的な面でも難しい作品とされている。これ以外のソナタも総じて難易度は高い。

ソラブジ

シフラ

  • 熊蜂の飛行
    ニコライ・リムスキー=コルサコフの原曲をピアノ独奏に編曲したもの。両手の1の指でメロディー、5の指でメロディーの1オクターブ上下を超高速マルテラートで処理しつつ、残りの指に伴奏が房状和音で埋め込まれている。いわゆる「真っ黒な譜面」の一つ。かなりの難曲である。音符の量にたいしてテクニックは単純なのでアマチュアのピアニストでも挑戦することがある。
  • 剣の舞
    アラム・ハチャトゥリアン作曲のバレエ音楽の編曲物。冒頭から、左手は細かく変わる上に広い跳躍が延々と続く。中間部では、左手のみで主旋律を奏でつつ伴奏という、高度な声部の弾き分け技術を要すと共に、その間右手はというと5~7連符の雨嵐で、両手のとてつもない跳躍とオクターブのグリッサンドが待ちかまえ、そして冒頭のメロディに戻る。まさに、シフラの名に恥じない編曲となっている。
  • トリッチ・トラッチ・ポルカ
    ヨハン・シュトラウス2世作曲のポルカをピアノ独奏に編曲したものである。曲の全体像は、簡単に言えば第一主題の変奏曲風である。この曲は、もともと速い曲であるにもかかわらず、冒頭から最後まで、とても弾くことが困難な速すぎるパッセージ、オクターブの連続、3度の連続、そして最後には明らかに指定されたテンポでは弾くことが難しい左手の跳躍といった多彩な超絶技巧が続いている。だが、多彩なのは超絶技巧ではなくでなく、冒頭は軽くどこか遊ぶような感じ、中間部は盛り上げたり転調したりして曲に変化を持たせる、そして最後は派手に終わるといった、曲の色合いも多彩である。この曲はシフラの編曲ものでは、上記の「熊蜂の飛行」、「剣の舞」に比べては、あまり知られていない方ではあるが、それに負けず劣らず、超絶技巧そして音楽性を持った一曲と言えよう。
  • ハンガリー舞曲 第5番バージョン2
    ヨハネス・ブラームス作曲の同曲をピアノ独奏に編曲したものの二作目である。最初は主旋律をオクターブで演奏しながら、内声の形で伴奏が埋め込まれている。それが演奏が進むにつれて音域が広がり、左手にシフラならではの凄まじい跳躍が現れる。初めて演奏を聞くと、独奏にしては音数が多すぎ、連弾にしてはプリモ-セゴンド間での音域の接近・手の交差・フレーズの引継ぎが頻発する上に息が合いすぎている印象を与え、聞き手を困惑させる。言い換えると、生演奏での演奏効果と聴衆に与える驚嘆は推して知るべしである。原曲はオーケストラによる演奏で知られるが、元はピアノ連弾用に書かれた。それよりも音数を増やしながら独奏という点が、シフラの技術の凄さを伝える一曲である。最大で128分音符を含むパッセージが含まれるが、これをシフラはなんの苦もなく弾ききっている。

クセナキス

  • エヴリアリ
    中間部に、右手はC-G-C♯-G♯からの急速な下降、左手はD-A-D♯-A♯からの急速な上昇がある。共に中間音を含む増12度であり、ラフマニノフを越える程の大きな手と柔軟な指を生まれ持っていない限り譜面に沿った演奏は不可能である。手が届いたとしても途中で両手の和音が交錯する箇所があるため、弾きわけるのは至難。完全に手の届かない和音の提示も存在する。ただし、作曲者は譜面通りの演奏ではなく、譜面として提示された音響世界を演奏者がどのように解釈し再構築するかを問うている。実際、高橋アキがクセナキス本人の前で演奏し絶賛された。難曲であるにもかかわらず、世界中の多くのピアニストによって挑戦される名曲でもある。

ブーレーズ

  • ピアノソナタ第1番,第2番,第3番
    いずれもセリー主義音楽の傑作として名高いが、完璧に演奏することは非常に難しい。特に2番は高低差のあるいくつもの音列が複雑に重なり合う箇所が多くリズムが極端に不規則なため演奏は至難である。全曲録音がいくつか存在する。また2番単独ではあるがマウリツィオ・ポリーニの名演が残されている。ちなみに3番は5楽章のうち2つの楽章しか出版されおらず、構想は公に知られているが曲の全貌は今のところ明かされていない。

マイケル・フィニスィー

  • イングリッシュ・カントリー・チューンズ
    桁違いに複雑な楽譜、桁違いに高度な技術を要求し、日本のテレビ局によって世界一難しいと報道されたピアノ曲。演奏の実施も難しいが、とりわけ同時進行するフレーズ間の複雑なポリリズム指定の読譜と理解は困難を窮める。例を挙げると、「ここからここまでは右手と左手のテンポは 8:5。右手の第 3 音を引き終わった直後に 6:7 とし、左手の第 6 音の後、この小節内は 9:14 で進行し、最終音は同時に打鍵する。」というような指示が毎小節に書かれているという代物である。ただ、演奏者を苦しめるためだけにこのような難解なポリリズムを指定している訳ではない。乱数表で得られた比率から生まれる新しい持続の形成のために、このような複雑な比率が用いられている。数人の全曲完奏者が生存する。

ジェルジ・リゲティ

  • 「練習曲14A 終わりのない柱」
    余りの演奏不可能さのために「プレイヤーピアノでも、生のピアニストでも、どちらでも良い」(for player piano, ad lib. live pianist)という異例の指示が出された超難曲。結局この作品を演奏する予定だったピエール=ロラン・エマールは演奏をリタイヤした。リゲティピアノ作品全集をリリースしたウッレーンですら、この作品の収録を行わなかったほどの作品だが、長さは80秒弱である。これだけの超難曲ですらジョン・オルフェ[1]と大井浩明は生演奏を行っている。録音では、イディル・ビレットがナクソスからリリースしている。

ニコライ・カプースチン

  • 「様々な音程による5つのエチュード」より第1曲「増1度」
    曲名が表すとおり、右手か左手の少なくとも一方(時には両方)が常に半音ずれた2音を同時に打鍵する。そのため譜面も異様だが、他の曲ではほとんど使わない運指を要求され、アレグロのテンポと相まって大変に難しい。マルカンドレ・アムランによる録音が存在する。