酒井法子薬物裁判
酒井法子薬物裁判とは、2009年8月 ノリピー夫婦が覚醒剤常用により逮捕されたことによる裁判である。
夫婦初公判までの経過
2009年8月3日 警視庁が覚醒剤所持の疑いで夫の高相祐一被告を現行犯逮捕。妻酒井法子被告の自宅マンションで覚醒剤を発見
4日 酒井被告と長男が失跡したとして、義母が警視庁に捜索願を提出
6日 警視庁が長男発見
7日 覚醒剤所持の疑いで酒井被告に逮捕状
8日 酒井被告出頭、警視庁が逮捕
21日 東京地検が覚醒剤使用と所持の罪で高相被告を起訴
23日 千葉県勝浦市の別荘での覚醒剤所持の疑いで高相被告を再逮捕
28日 東京地検が覚せい剤取締法違反(所持)罪で酒井被告を起訴
9月11日 東京地検が鹿児島県・奄美大島での覚醒剤使用の罪で酒井被告を、別荘での覚醒剤所持の罪で高相被告をそれぞれ追起訴
16日 高相被告保釈
17日 酒井被告保釈。記者会見で謝罪
21日 高相被告が東京地裁で初公判
11月9日 酒井被告は即日結審、懲役1年6月・執行猶予3年の有罪判決
高相祐一に対する検察側冒頭陳述・論告要旨
冒頭陳述要旨
- 高相祐一被告は20歳のころ、初めて覚醒剤を使用し、平成20年ころからは、2週間に1回くらいの割合で密売人から覚醒剤を購入・使用していた。高相被告は21年8月2日、覚醒剤を最終使用後、渋谷区内における職務質問で犯行が発覚した。さらに、高相被告は、千葉県勝浦市内にある建物の居室において、同年6月下旬ころ密売人から購入した覚醒剤を保管し、同年8月9日の捜索で発見された。
論告要旨
- 高相被告は密売人に積極的に働きかけ、その供述によるだけでもここ1年間は約2週間に1回の割合で繰り返し覚醒剤を購入・使用しており、覚醒剤に対する親和性、依存性が顕著で、使用の常習性も認められる。覚醒剤の所持量は合計0・914グラムであり、高相被告の1服の使用量0・003グラムで換算すると約300服分の使用量で、決して少なくない。覚醒剤に対する親和性、依存性が顕著であることに加え、入手ルートを有することから、再犯に及ぶおそれが高い。
覚醒剤は依存性が強く、その薬理効果により健康を害し、常用すると幻覚により殺人などの重大犯罪をも引き起こすものである。また、暴力団などの資金源になっている状況がある。社会に違法薬物が蔓延するのを防止するためにも、その使用、所持に対しては厳しい態度で臨むべきである。これらの事情に鑑(かんが)みれば、高相被告に有利な情状があることを考慮しても、真摯な反省を促し、再犯を防止するために、厳罰に処す必要がある。
2009年10月21日 高相被告 初公判
覚せい剤取締法違反の罪で起訴された女優の酒井法子被告(38)の夫で、同法違反罪(所持、使用)に問われた自称プロサーファー、高相(たかそう)祐一被告(41)の初公判が21日午前10時から、東京地裁(稗田雅洋=ひえだ・まさひろ=裁判官)で開かれた。
審理が行われるのは地裁4階にある425号法廷。傍聴席は42席だ。同法廷では今後、23日に麻薬取締法違反の罪で起訴された押尾学被告(31)の初公判、26日には高相被告の妻の酒井被告の初公判がそれぞれ予定されている。いずれの公判でも傍聴希望者が殺到するとみられており、この日は1557人が東京地裁を囲むように並び、“プラチナチケット”と化した傍聴券を求めた。
捜査関係者などによると、高相被告はこれまでの調べの中で、自らの覚醒剤の使用状況を詳しく述べてきたほか、酒井被告についても「4年ぐらい前に妻に覚醒剤を勧めた。妻はその後、使用していた」などとさまざまな供述を行っているという。法廷でも、高相被告の口から酒井被告の覚醒剤使用に関する供述は飛び出すのだろうか。
開廷3分前、高相被告がすっと入廷、正面向かって右手の長いすに腰を下ろした。チャコールグレーに白のストライプが入ったスーツ、白いワイシャツ、シルバーのネクタイを着用し、黒の革靴を履いている。保釈されたときには一部、茶色い髪の毛が見えたが、この日は真っ黒に染められている。後ろ髪は襟に届くぐらいの長さ。前髪は軽く左に流している。保釈時同様、下唇の下とあごには、短いひげを伸ばしていた。
午前9時59分、42席の傍聴席がすべて埋まった。傍聴人はかたずをのんで公判の開始を待っている。ここで正面に座った稗田裁判官が声を上げた。
裁判官「では始めます」 稗田裁判官に促されて、高相被告が証言台の前に立った。 裁判官「名前は?」
高相被告「高相祐一です」
生年月日や住所、本籍などを尋ねる稗田裁判官。高相被告は、稗田裁判官をじっと見つめながら、次々と問いに応えていく
裁判官「仕事は?」
高相被告「プロサーファーです」起訴状にあるとおり、「プロサーファー」と名乗った高相被告。次に検察官による起訴状の読み上げに入る
裁判官「では、起訴状を検察官は読み上げてください」それまで正面を向いていた高相被告が、左手の検察官に体を向けた
検察官「では、読み上げます」
《起訴状によると、高相被告は8月2日、東京都港区の青山公園で覚醒剤を吸引し、翌3日には渋谷区の路上に止めた車内で覚醒剤0・817グラムを所持、同月9日には千葉県勝浦市の別荘で覚醒剤0・097グラムを所持したとされる。捜査関係者などによると、高相被告は捜査段階から起訴事実を認めており、公判の争点は罪の重さとなる見込みだ。検察官による起訴状の読み上げが終わると、高相被告はまた稗田裁判官の方を向いた。黙秘権についての説明が始まると、はっきりした口調で「はい」「はい」と短く声を発していく。続いて罪状認否にうつる稗田裁判官。
裁判官「それでは尋ねます。8月21日付の起訴状には2つの事実が記されています。それぞれ伺います。8月2日に港区内の公衆便所で吸引したとありますが、違っていますか」
高相被告「はい」
裁判官「違っているということですか」
高相被告「トイレでは使用していません」
裁判官「トイレでは使用していないのですか」
高相被告「自宅のマンションで吸引しました」
はっきりした口調で、吸引自体は認めたものの、使用場所が違うと主張する高相被告。一瞬、法廷内がざわめく。
裁判官「では、8月3日に自動車内で所持していたことについては?」
高相被告「間違いありません」
その他の起訴事実については、いずれも「間違いありません」「(間違っているところは)ないです」と答えた高相被告。稗田裁判官に「ではそちらの席に戻ってください」と言われ、向かって右手の長いすに腰を下ろした。
裁判官「弁護人はいかがですか」
弁護人「被告と同様です」
裁判官「では冒頭陳述をお願いします」
長いすに浅めに座った高相被告。軽く握りしめた両手の指に彫られた青い入れ墨が目立つ。口を真一文字に結んで、検察官を見つめている。
検察官「では、読み上げます」
検察官は早口で冒頭陳述を読み上げ始めた。
検察官「被告は20歳のころ、初めて覚醒剤を使用し、平成20年ころからは2週間に1回くらいの割合で密売人から覚醒剤を購入し、使用していた」
その後、職務質問の際に犯行が発覚したこと、千葉県勝浦市にある別荘には今年6月下旬ごろに密売人から購入した覚醒剤を保管していたことなどを述べ、検察官による冒頭陳述は終了した。続いて証拠調べに入る。
検察官「1号証は、現行犯で逮捕されたときの手続書です。警ら中の警察官が、バックル上部にゴムで取り付けたものを見つけ、見せるように言ったところ拒否しました。その後、バックル上部についていたきんちゃく袋を見せ「じつはシャブが入っています」と答えたことから、中に入っていた白い結晶を調べたところ、覚醒剤反応が出たので、8月3日に逮捕しました」
次々に証拠を羅列していく検察官。裁判官「では、証拠物と写真を提示してください」
稗田裁判官に促された検察官が証言台の前に出てくる。長いすに座っていた高相被告も立ち上がった。検察官が手にしているのは、高相被告の関係先から押収された覚醒剤の現物だった。透明のポリ袋を掲げる検察官。中には微量の白い粉末が見える。
検察官「見覚えはありますか」
高相被告「はい」
検察官「これは?」
高相被告「はい」
ポリ袋に入れられたアルミ箔や白い粉末を次々に掲げる検察官。それに対し、高相被告は「はい」「はい」と声を出し、うなずきながら確認していく。
高相被告に対する被告人質問が始まった。稗田裁判官から「被告、座ってください」と促されると、素早く席に着き、前方の稗田裁判官を見据えた。男性弁護人が立ち上がり、質問に入る。
弁護人「これから、被告人のことを祐一君と呼んでいきます」
高相被告「はい」
弁護人「2通の起訴状があって、8月21日の所持はグラム数が多いですね。9月11日の追起訴については間違いありませんか」
高相被告「はい」
弁護人「8月21日の分はどこで入手しましたか」
高相被告「イラン人から入手しました」
弁護人「職務質問を受けたときのものも?」
高相被告「それは奄美大島で拾いました」
弁護人「すべて拾ったと?」
高相被告「あとはイラン人から買ったものも2袋ありました」
覚醒剤を奄美大島で拾ったことを強調した高相被告。しかし、弁護人は誰もが抱くであろう疑問点を質問する。
弁護人「普通、拾ったというのは第三者は信用しないけど、入手法を隠しているように聞こえますが」
高相被告「信じられないかもしれないが、拾ったのは本当です。野外音楽会場のダンス広場で拾いました」
座ったままではあるが、わずかに身を乗り出して、高相被告は拾ったことを繰り返し述べた。傍聴席では、首を軽く横に振り、信じられないというそぶりを見せる傍聴人もいた。
弁護人「いわゆるレイブパーティーですね。落ちていることはあるのですか」
高相被告「まれにありますね」
薬物パーティーとも揶揄されるレイブパーティー。高相被告の「まれに」という言葉には、何度か拾った経験があることをうかがわせた。その後も、弁護人から高相被告への質問が続いていく。
続いて、弁護側はなぜ高相被告が職務質問時に覚醒剤を持ち歩いていたのかについて問い質す。罪状認否で高相被告は、青山公園の公衆トイレで使ったと供述していたとする起訴事実を否認している。その点についても詳細に語るようだ。
弁護人「(警察官の)職務質問のとき、なぜ覚醒剤を持ち歩いていたのですか」
高相被告「自室に(覚醒剤を)持っていると、法子が僕に隠れて使うんじゃないかと思って」
弁護人「それだけの理由ですか?」
高相被告「はい。後は外に出て、後で合流して使おうかと思った」
弁護人「法子さんが1人で使ったら駄目なの?」
高相被告「はい。彼女は1回分の量とかよく知らないので危険だから…」
弁護人「法子さんは覚醒剤になれていないから危険だと?」
高相被告「はい。そうです」
高相被告は弁護人の質問に軽い感じで相づちを打ちつつ、答える際ははっきりとした口調で話していく。
弁護人「覚醒剤を隠そうとは思わなかったの?」
高相被告「1回、実家の植え込みに隠そうとしたけどやめました」
弁護人「この時(職務質問の日)は、自宅で覚醒剤を使ったのはいつですか」
高相被告「午後9時から9時半ぐらい」
弁護人「(その場に)法子さんは?」
高相被告「いないです」
弁護人「どこに行っていたんですか」
高相被告「子供の迎えに知人の所へ。その知人が誕生日なので遅くなると」
弁護人「(法子被告と)合流の約束は?」
高相被告「ないです」
続いて、職務質問と逮捕された状況について質問を始めた。高相被告は首だけを弁護人に向け、微動だにせず答えていく。
弁護人「8月3日の午前0時過ぎに逮捕されましたが、逮捕前に法子さんに電話しましたね」
高相被告「はい」
弁護人「なぜですか?」
高相被告「法子の母(継母)が弁護士と仲が良く、連絡を取ってもらおうと」
弁護人「法子さんはすぐに(職務質問を受ける高相被告のところに)来た。来るとは思わなかった?」
高相被告「はい」
法子被告が職務質問の場に来ることは想定外だったようだ。弁護人はここで高相被告のそばに寄り、自宅の見取り図を高相被告に見せる。見取り図を指さしながら答える高相被告。
弁護人「リビングの隣の祐一君の部屋で覚醒剤を使ったんですか」
高相被告「はい」
弁護人「供述調書や起訴状では、青山公園で覚醒剤を使ったとあるがなぜですか」
順調に質問に答えていた高相被告だったが、この質問に、言葉を選ぶように、言いよどみながら答える。
高相被告「はい。当初は…法子の…逮捕前だったので…隠そうと…自分で使うために出たと…」
弁護人「(供述した)当時は法子さんは失踪中。だから『法子さんが1人で使うと危ないから持って出た』と言えなかったんですか」
高相被告「はい」
弁護人「法子さんと後で合流して使おうと約束していましたか」
高相被告「してません」
弁護人「なぜ(うその使用場所に)青山公園を選んだんですか」
高相被告「以前、そこで使ったことがあるので」
弁護人「(うその)使用状況を説明できると?」
高相被告「はい」
弁護人「逮捕直後、榊枝(真一)弁護士がついているが、弁護士には『青山で使ったのはうそ』と言いましたか」
高相被告「はい」
弁護人「法子さんが覚醒剤を使っていたと(法子被告の弁護士で法子被告の母親の知人である)榊枝弁護士に言いましたか」
高相被告「はい」
弁護人「そしたら『それはまずい。青山公園で使ったことにして下さい』と」
高相被告「はい」
弁護人「本当のことを(裁判で)話そうと思った理由はなんですか」
高相被告「新しい弁護士に言ったところ、『正直に言った方がよい』と言われ…」
弁護人「法子さんが起訴されて隠す必要もなくなった?」
高相被告「はい」
続いて、千葉県勝浦市の別荘で見つかった覚醒剤についての質問に移った。
弁護人「次に追起訴状の、勝浦(の別荘)に覚醒剤を持っていた件ですが、誰から入手したのですか」
高相被告「イラン人です」
弁護人「その人の名前は」
高相被告「本名アンソニーです。偽名だったみたいっすね」
弁護人「(イラン人の)電話番号は押収された携帯電話に入っていますか」
高相被告「はい」
弁護人「警察は裏を取った?」
高相被告「はい」
弁護人「勝浦で見つかった覚醒剤は使うつもりだったんですか」
高相被告「いいえ」
弁護人「どうするつもりだったんですか」
高相被告「ぐしゃぐしゃだったので捨てるつもりだったんですが、自分はだらしない性格なのでそのままにしていました」
弁護人「検察官調書には、『また集めて使うつもりだった』とありますが」
高相被告「その件で再逮捕された後、1回だけ調べがあったのですが、2時間のうち勝浦の件について聞かれたのは10分だけで、後は法子の件を聞かれていました。僕は『捨てるつもりだった』と言ったが、調書には反映されませんでした」
「法子」とは、高相被告と同時期に覚せい剤取締法違反容疑で逮捕、起訴された妻の酒井法子被告(38)のことだ。高相被告は、別荘で覚醒剤を所持したとして、8月23日に再逮捕されている。高相被告はその後の取り調べでも、再び「捨てるつもりだった」と主張したという。
高相被告「『捨てるつもりだった』と言うと、(検察官から)『マスコミの餌食になるぞ。金がない奴は(少量の覚醒剤でも)なめるんだ。おまえもそう言え』と言われ、また(勾留期間が)延長されるのかと思い、認めました」
弁護人「それで、こういう内容の調書になったということですか」
高相被告「はい」
弁護人「銀紙に入ったものを集めて使うことは可能ですか」
高相被告「ないですね」
どうやら、高相被告は銀紙に包んだ状態で覚醒剤を所持していたようだ。続いて弁護人は、覚醒剤の使用歴について質問した。
弁護人「検察官の冒頭陳述によると、20年前に興味本位で始め、いったんやめたが去年の夏ごろから使い始めたということですが?」
高相被告「はい」
弁護人「入手先は、奄美大島で拾ったもの以外は、イラン人ですか」
高相被告「はい」
弁護人「イラン人はすべて同一人物ですか」
高相被告「えー、そうですね。1年前からは同じです。名前は知りません」
弁護人から「入手先を隠しているということはありませんか」と突っ込まれると、きっぱりと答えた。
高相被告「ないですね。僕は彼女がやっていることを知られたくなかったので、名前も知らないイラン人から買っていました」
弁護人「覚醒剤をやった理由は?」
高相被告「人間関係がうまくいかず、また、僕はずっとサーフィンをやっていたのですが、耳の軟骨が出てしまう病気になって手術を受けたため、1年近くサーフィンができませんでした。ストレスを解消したいなと思って麻布十番を歩いていたら、薬物の売買を目撃し、(自分から)話しかけました」
弁護人「人間関係というのはサーファー仲間のですか」
高相被告「はい」
弁護人「どういった吸い方をしていましたか」
高相被告「ガラスパイプに(覚醒剤を)載せ、下から火であぶってストローとかで吸引する」
弁護人「深く吸い込むとか、いろいろ吸い方があると思うんですが、祐一君の場合はどうですか?」
高相被告「僕は(肺に)深くためるというよりも、タバコでいったら吸ってすぐに吐き出すという感じです」
弁護人「使うとどんな気分になるんですか」
高相被告「時間の流れが速くなり、ストレスやなんかは忘れるというか…」
弁護人「感情が麻痺するということですか」
高相被告「はい」
弁護人「覚醒剤を使うと、今後どうなると思っていましたか」
高相被告「身体がおかしくなったり、精神状態がおかしくなると思っていました」
弁護側の被告人質問が終わり、続いて検察側の被告人質問に移った。検察官はまず高相被告が不自由だと話した左耳を気遣いつつ、すぐに高相被告の供述内容について問い始めた。
検察官「左耳は大丈夫ですか」
高相被告「はい」
検察官「青山公園で使用したとうそをついた理由は?」
高相被告「法子がどのくらい(覚醒剤の)量をやるか心配だったのと、後で合流して自分でやろうかなと」
検察官「使用場所についてうそをついた理由を聞いているんですが、答えとぴったりと合ってるとは思えないんですが?」
高相被告「法子と一緒に吸おうなんてとても言えなかったので」
高相被告の要領を得ない態度に、検察官は次第にいらだちを募らせていく。
検察官「何で嘘をついたのか分からないんですが?」
高相被告「はい。でも嘘を言ってしまいました」
検察官「『まず覚醒剤を奥さんが使っている(のが発覚する)というのはどうしても避けなければいけないと考え、最後にマンションで使ったことにするよりも奥さんとの関係が薄くなるとなと思って』とありますけど、それでいいの?」
高相被告はそのまま表情を崩さず、検察官の方をぼんやりと眺めている。
検察官「じゃあね、あなたは逮捕後に、警察官、検察官に『自宅でも使ってる。奥さんも使ってる』と話してますよね。奥さんとの関係を薄くするという理由はなくなっていると思うんですが。なぜ『青山公園』とうそをついたの?」
高相被告「その後は彼女(酒井法子被告)を守ろうとして…。弁護士さんと話したら『正直に話した方がいい』ということで話しました」
検察官「なぜ本当のことを言わなかったの?」
高相被告「毎日毎日(取り調べで事情を)聴かれて、いつだったか覚えていません。何日に聴かれたんですか」
同じ質問を繰り返す検察官に対し、高相被告は語気を強めて反発心をあらわにした。
検察官「日付だと8月の19日ですね」
その後も質問内容とかみ合わない高相被告の供述に業を煮やしたのか、稗田雅洋裁判官が検察官の質問に割って入った。
裁判官「あなたが『青山公園』って言ったそのころには、奥さんは捕まって、『覚醒剤やった』と認めていたから隠す必要なかったのでは? という(検察官の)質問です」
高相被告「自宅で使いましたよ」
ここで裁判官もいらだちを露わにする。声が一段と大きくなる。
裁判官「だから。起訴された事実について、自宅ではなく青山公園でと話してますでしょ? 本当のことを説明しなかったでしょ?」
高相被告「それを使用したっていう以前、『そこ(青山公園)で使った』と言ってしまいました」
検察官「先ほどから言ってる(うそをついた)理由は、法子さんが失踪(しっそう)している段階のことであって、捕まってるんだから、うそをつく理由はないのでは」
高相被告「そこまで考えてなかったですね」やや投げやりに答える高相被告。
検察官「取り調べで嘘をついてもいいと?」
高相被告「そこまで、今みたいに突っ込まれて(聴かれ)なかったんで」
検察官は再度同じ質問を繰り返すが、最後までかみ合うことはなかった。
高相被告「頭の中のが混乱していたと思います」
法廷内では要領の得ないやりとりが続いていた。高相被告は、検察官がなぜ同じ質問を繰り返すのかが分からないのか、当惑した表情を浮かべていた。
検察官「あなたはいつも“あぶり”という方法で覚醒剤を吸っていたんですよね?」
高相被告「はい」
検察官「今回は青山公園で吸っていたようですが、いつもはどこで吸っていたんですか」
高相被告「(南青山の)自宅のマンションです」
検察官「(青山公園で覚醒剤を吸引したとされる)8月2日の行動についてうかがいます。自宅から覚醒剤を持って出たと話していましたが、それは『奥さん(酒井法子被告)が使っちゃうから隠したい』という理由でいいんですか」
高相被告「はい」
検察官「今日(弁護側が)提出した供述調書には、『明確な理由はない』と書いてあるんですが…」
高相被告「あー、そうですね、ないですねー」
検察官「???」
明らかに矛盾した高相被告の受け答えに、検察官は不審な表情を浮かべる。高相被告は、少し体を傾けた姿勢のまま、表情を変えずに検察官の方を見ている。
検察官「隠すためなのか使うためなのか、どっちなんですか」
高相被告「あのー両方なんですけどー、ダブるんですけどー、まずは隠そうとした、って方が正しいですね」
検察官「隠そうとしたのは植え込みでしたね」
高相被告「はい、あ、でも隠すのはやっぱりやめて、(妻の酒井被告と)合流して吸おうと思いました」
検察官「あなたはこれまでに、ときどき実家にも隠していたんですよね?」
高相被告「はい」
検察官「お父さんには話していないのですか」
高相被告「はい」
検察官「今もですか」
高相被告「はい」
検察官「…これから面倒を見てもらう人ですよね。それは、問題があるんじゃないですか」
高相被告「そうっすね、問題あると思いますね」
検察官「…」
検察官の質問に、若者言葉で調子よく答えていく高相被告。検察官はあきれた表情を浮かべている。
検察官「質問を続けます。野外ライブ(レイブと呼ばれるダンスパーティー)で吸引パイプを拾ったと話していましたが、本当に落ちていたんですか」
高相被告「はい」
検察官「どのように落ちていたのですか」
高相被告「踊ってて、足になんか当たったので『なんだー?』って見たら吸引パイプでした」
検察官「覚醒剤や吸引パイプは、そんなに落ちているものなんですか」
高相被告「よくありますね」
検察官「ほかにも見たことはありますか」
高相被告「そうですねー、『トイレで落としちゃった』って話してるのを聞いたこともありますし」
検察官「そうではなく、『覚醒剤が落ちているのを見たことがありますか』と聞いているんですが?」
高相被告「ああ、覚醒剤じゃないですね」
検察官「え? あなたは『落ちている』と…」
高相被告「いや、覚醒剤じゃなくて…」
検察官「私の質問を聞いてから答えてください!」
質問の途中から答え始めてしまう高相被告の受け答えを、検察官は強い口調で制した。
高相被告「はい」
検察官「それで、落ちているのは見たことがあるんですか」
高相被告「はい、覚醒剤じゃなくてほかの薬なら見たことがあります。覚醒剤というか、ドラッグ全般なら、という意味です」
相変わらず、少し傾いた姿勢で話す高相被告。検察官の質問が続く。
検察官「ところで、あなたはライブで拾った覚醒剤を使ったのですか」
高相被告「はい」
検察官「誰のものか分からないのに、使ったのですか」
高相被告「はい」
検察官「本当は拾ったんじゃなく、別のルートから入手したものではないのですか」
高相被告「いいえ」検察官の鋭い質問に、淡々と答える高相被告。
検察官「ところで、あなたは1回やめて、また使ってしまったのはなぜですか」
高相被告「そうですねー、そこまで悪いことと思っていなかったし…」
検察官「今後、使いたくなったらどうしますか」
高相被告「今回、家族や子供、いろんな人に迷惑をかけてしまって、そっちの方が重かったので…。そうなったら、その人たちに相談します」
検察官「以前、夫婦でもやめようとしてやめられなかったことがありましたね。奥さんがやりたそうだったらどうするんですか」
高相被告「自分がやらなければ、妻には入手ルートがないので…」
検察官「やりたいと言ったら?」
高相被告「カウンセリングを紹介しますね」